半導体製造装置用シール材 FLUORITZ®-TR

半導体製造装置用シール材
研究開発部 シール開発グループ
岡崎 雅則

1. はじめに

 半導体市場は、高速、大容量、ユビキタス化への変革が進みつつある中で、従来の主流であったパソコンから携帯端末を含むデジタルネット家電へ軸足を移行してきている。処理速度の高速化に対応するためシステムLSIの高機能化に加えて、更に低消費電力化も求められている。これらに対応する ため、半導体製造装置においては新しいプロセス技術、デバイス構造による装置開発が進んでおり、パーティクルや金属不純物についてもこれまで以上に厳しくなっている。1)そのため、半導体製造装置用シール材に要求される性能は、これまで以上に多様化し、更に高性能化が求められている。
 半導体製造装置に使用されるシール材は、従来よりふっ素ゴム(FKM)やパーフロロエラストマー(FFKM)が主に使用されており、耐プラズマ性、純粋性、真空シール性、耐 熱性、メンテナンス性、動的用途での動作安定性、コストパフォーマンスなどが求められる。特に耐プラズマ性が要求される部位では、パーフロロエラストマーが主に使用されているが、シール材に充填材、或いは金属成分が多量に含まれている場合には、それらがチャンバー系内に飛散し、パーティクル汚染を引き起こす可能性が考えられる。
 当社では、技術革新の進む新しい半導体製造装置に対応できるシール材として、当社独自の配合設計技術を駆使し、耐プラズマ性、非粘着性、純粋性、耐熱性に優れた無充填系パーフロロエラストマーFLUORITZ®-TRを開発したので、その製品について紹介する。

2. FLUORITZ®-TRの特長

 FLUORITZ®-TRは従来のパーフロロエラストマーと比較して、耐プラズマ性(耐ラジカル性、耐クラック性)、非粘着性を大幅に向上させた製品である。また、充填材を一切使用していないため、純粋性に優れている。
 以下に、FLUORITZ®-TRの各特性を紹介する。
2-1)耐プラズマ性(耐ラジカル性、耐クラック性)
 プラズマ中には、ラジカルなどの活性種が存在し、シール材構成成分の化学結合を切断することにより劣化を促進し、シール材のエッチングが起こる。また、シール材に応力がかかった状態でプラズマにさらされると、シール材にクラックが発生する可能性が高くなり、クラックがシール面にまで達するとリークにつながる。FLUORITZ®-TRの耐ラジカル性の評価した結果をFig.1に示した。FLUORITZ®-TRは従来の パーフロロエラストマーと比較しても重量減少率が少ない。また、シール材を伸長して応力をかけた状
態でプラズマを照射してクラック発生時間を評価した結果をFig.2に示し、クラック発生状況をFig.3に示した。FLUORITZ®-TRはクラックの発生時間が遅く、他の材料に比べ、耐クラック性に優れている。 FLUORITZ®-TRは耐ラジカル性、耐クラック性の両特性に優れた材料である。

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2-2)非粘着性
 一般的に、エラストマーシール材は金属などの相手材に固着しやすく、シール材の交換に時間を要したり、ゲートバルブなどの動作遅れ、シール材の脱落などの問題が生じる可能性がある。そのため、シール材には固着力が低いことが求められる。固着力測定方法概要をFig.4に示し、FLUORITZ®-TRの固着力測定結果をFig.5に示した。FLUORITZ®-TRは、従来のパーフロロエラストマーと比較して、非常に低い固着力を示しており、フランジへの固着、脱落に起因するトラブルを低減できると考えられる。
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2-3)含有金属成分
 半導体プロセスにおける不具合現象と金属成分不純物との関係においてTable.1のような関係が調べられている。2)シール材はプラズマ環境で使用されるため、シール材に金属成分を含有した充填材を使用している場合、エッチングにより金属成分が飛散し、Table.1に示したような不具合を起こす要因となる。Fig.6にFLUORITZ®-TRの含有金属測定結果を示した。FLUORITZ®-TRは、充填材を一切使用していないため、従来のパーフロロエラストマーと比較して非常に少ない含有金属量であり、純粋性に優れた材料である。

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2-4)耐熱性
 シール材の耐熱性の目安の一つとして圧縮永久歪率の値がよく用いられる。一般的に圧縮永久歪率が80%に達するとシール限界と言われている。3)Fig.7にFLUORITZ®-TRの260℃における圧縮永久歪率測定結果を示した。FLUORITZ®-TRは従来のパーフロロエラストマーと比較して優れた圧縮永久歪特性を有しており、長寿命化が期待できる。

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2-5)基本特性
 Table.2にFLUORITZ®-TRの基本特性を示した。従来のパーフロロエラストマーは硬さ、或いは100%モジュラスが大きいため、あり溝への装着性が非常に困難な場合があり、また、フランジの締め付けにも大きな荷重が必要になる場合もあった。FLUORITZ®-TRは従来のパーフロロエラストマーと比較すると、硬さ、100%モジュラスがやや低めに設計されているため、比較的容易にあり溝へ装着でき、また、フランジの締め付けも容易になると考えられる。

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3.FLUORITZ®-TRの用途

 FLUORITZ®-TRは半導体製造装置用シール材として、特に以下の用途への適用が考えられる。

①プラズマ環境においてシール材のエッチングの程度が大きな部位
②プラズマ環境においてシール材のクラックの発生が問題となる部位
③相手材の各種金属とシール材の固着が問題となる部位
④ゲートバルブなどの動的なシール部位
⑤パーティクルの発生が問題となっている部位

4.おわりに

 半導体製造装置のプロセス環境は、デザインルールの微細化、配線の多層化、三次元構造化により、使用ガスの変更、使用環境の高温化、更なるクリーン化が進行していくと予想される。シール材においてもこれらのプロセス環境に順応した特性を有することが必要不可欠であり、今後も顧客ニーズに基づいたより高機能、高性能なシール材を設計、開発していきたいと考える。そのためには、ユーザー各位からの情報が重要であり、ご協力をお願いする次第である。
 なお、本文中のデータは、ある一定環境における基礎評価試験に基づいた測定値の一例である。そのため、実際の使用に際しては、その使用環境で評価を実施し、適性を十分に確認した上で使用していただきたい。

5. 参考文献

1) 服部 毅 クリーンテクノロジー Vol.20 №4 p1(2010)
2) 関口 博之 工業材料 49 3 (2001)
3) S.H.Morrell Rubber J. 152-5 49 (1970)

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