機能膜(PTFE入り活性炭シート)の性能の優位性について

p2-1
日本バルカー工業株式会社 機能樹脂事業統括部
樹脂製品開発部  程   飛
プロダクトグループ  秋山大二郎
樹脂製品開発部  吉澤 昌一

1.はじめに

 現在、活性炭は水道施設、自動車、プラント、電子部品など多くの用途に使用実績を有している。これらに用いられるものは、原料として石油、プラスチック、木材等々に由来する様々の物がある上、加工方法も水蒸気処理、アルカリ処理等があるなど、それぞれに特徴を有した多種多様な物がある。活性炭の形状は、主には、粒状品、粉砕品、粉末品等となり供給される。その中、10数年前ごろから活性炭をシート状にしたものが多く出回るようになってきた。これらは、日用雑貨品、自動車、プラント、電子部品などへの新たな応用を目的に、不織布に活性炭を噴霧したり、ゴムやプラスチックと混合した活性炭シートとして生産、供給されている。
 しかし、これらシート状の製法は、活性炭の能力を著しく阻害する弱点を有している。例えば、熱可塑性のプラスチックやゴムをバインダーとして作製した場合、活性炭の重要な機能である細孔構造をふさいでしまうという欠点があり、結果的に、吸収物質絶対量の低下や吸収応答性(吸収するスピード)の阻害を招き、所望の要求特性を満たすことができない。そのため、必要以上の活性炭の含有量が不可避となり、それに伴った成形性の悪化から製品形状に大きな制約が余儀なくされていた。
 そのような中、弊社においては、PTFEをバインダーに選ぶことにより、多孔質である活性炭本来の性能を維持し、吸収力能の低下を招くことなく外観性や柔軟性に優れた活性炭シートの工業化に成功した1)2)ので、 その概要を以下に紹介する。

2.活性炭シートに求められる性能

 活性炭シートが用いられる大きな理由は、①粉が出にくいため取扱性が良い ②柔軟性に富むシートであれば様々な形状に対応可能 ③薄肉大面積化が可能④多層化などの他製品との一体化加工が可能 等が挙げられ、活性炭単体よりも機能的に優れた面に由来するところが大きい。そのために、本来の活性炭に求められる吸着性能のみならず、シート厚や面積に対する成形自由度、シートの物理強度や柔軟性、原料に用いる活性炭粉の脱落性、外観性などが大きな要求項目となる。
 そこで、これらの特性を満たしそうな数種のバインダーを選んで活性炭との混合シートを作製し、前期要求項目に対してどのような差異が出るかについて基礎試験を行い比較することにした。

3.試作した活性炭シートとの比較試験および結果

 活性炭シートは、原料となる活性炭粉に合成樹脂等をバインダーとして混合し、シート化される。そこで、以下に示すようなバインダーを用いて活性炭シートを試作し、それぞれの特徴を比較し考察を試みることにした。

3-1)試験および評価方法
 平均粒径約20μm、BET比表面積約1500m2/gの代表的な活性炭にポリエチレン樹脂(以下PE)、ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(以下NBR)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下PTFE)のバインダーにてシート化を行い、ホルムアルデヒド(ホルムアルデヒド水溶液)、1-プロパンチオール(以下メルカプタン)の2種類のガス成分に対する吸着特性の他、シート化可能な活性炭最大含有率、成形可能な最薄膜厚、物理特性の代表として引張強度、シートの柔軟性と粉落性、そして外観について各々比較を行った。
 i)シートの作製
・PTFE:活性炭含有量77.5wt%、シート厚0.3mmになるよう、圧延用ロールを用いシート化した。
・PE:かろうじてシート化が可能となる活性炭含有量50wt%にて、シート厚3.0mmの試作品をキャスティング法によって得た。
・ラテックス:かろうじてシート化が可能となる活性炭含有量50wt%にて、シート厚5.0mmの試作品をキャスティング法によって得た。
・NBR:かろうじてシート化が可能となる活性炭含有量84wt%にて、シート厚1.3mmの試作品をキャスティング法によって得た。
 ii)吸着試験方法
 150℃にて初期乾燥を施した各シートサンプルのおおよそ1gを短冊状に切断し、サンプル瓶に投入後Fig.1に示すようなデシケータ中にて所定の時間放置し、その重量変化から単位活性炭量における吸着重量比として吸着性能を評価した。なお、リファレンスとして活性炭単体についても、初期乾燥後シャーレに薄く敷いた状態で同様の測定を行った。
 iii)引張試験方法(JIS K7113)
p3-1
 シートの引張強度をみるため、JIS K7113に準じ、1号ダンベル、速度Eにて測定を行った。
3-2)試験結果-吸着性
 Fig.2~3にそれぞれのガス成分に対する吸着曲線を示す。Fig.2は、ホルマリンに対する吸着特性の結果を示しており、活性炭単体までにはおよばないものの、PTFEを用いたシートが最も吸着特性に優れていることが
p3-2
わかる。また、Fig.3はメルカプタンに対する吸着特性の結果を示しているが、PTFEを用いたシートが他のバインダーと大きな差をつけ、活性炭単体の吸着特性に極めて近い特性を有していることがわかる。
3-3)試験結果-その他の特性
 次に、吸着特性以外の各種特性、特徴をTable1に示す。この表からPTFE以外のバインダーでは、活性炭の高含有率化、薄肉化が難しく、またシート状にしても堅くて脆いために、結果的に様々なニーズに対する自由度が極めて小さくなることがわかる。なお、表中におけるシートの引張強度試験において「不可」となっている部分について
p4-1
は、シートの強度が極めて弱いためにダンベル状への形状加工ができなかったことを表している。
 更には、PTFEを用いたシートについては、粉落性(シートを手で触った時に粉が付くか否かの評価)において、ほとんど粉が付かないとの優れた結果が得られているのに対し、他のバインダーのシートにおいては、全てで手への付着が認められた。外観においてもPTFEを用いたシートが最も緻密、平滑で優れる結果となっている。

4.PTFEを用いた活性炭シートの優位性と考察

4-1)PTFEは他のバインダーより吸着特性に優れる
 活性炭シートにおける吸着性能については、まず活性炭表面の細孔構造の残存率が大きな影響を受けることから、各シートの表面を電子顕微鏡にて観察した。Fig.4にPE、Fig.5にラテックス、Fig.6にNBR、Fig.7にPTFEを用いたシートのSEM像(2000倍)をそれぞれ示す。PTFE以外のバインダー系においては、活性炭表面を平面的に覆う様子、または活性炭の粒子間の間隙を塞ぐような樹脂粒が観察されるのに対し、PTFEにおいては、樹脂の繊維化(フィブリル化)3)による繊維状ネットワーク構造が観察できる。
 このように、PTFEをバインダーに用いることで、他の有機高分子系では発現できない ①活性炭表面の細孔構造の維持性能 ②活性炭粒子間の間隙維持性能 が発現できたことが、活性炭単体に次ぐ優れた吸着性能を示す大きな要因になっていると考えている。
p4-2
4-2)ホルマリンとメルカプタンに対する吸着特性の相違
 Fig.2のホルマリンに対する吸着特性とFig.3のメルカプタンに対するそれを比較すると、吸着速度や吸着量のレベルが大きく異なっていることに気づく。活性炭単体においても同 様の傾向が見られることから、これらの原因として、①ガス極性と活性炭との吸着相性4) ②ホルマリンは水溶液を使用しているため、分圧が低い上、水蒸気との競合吸着が生じている5)の2点について考察している。メルカプタンの場合、極性の低い有機ガスであることから活性炭への吸着速度が速く、結果的に吸着量も大きくなったと考えている。

4-3)シートの成形性と各種物性
 Table1にもあるように、PTFE以外のバインダー系については、いずれも活性炭の高含有率化に伴いシート状への成形が難しくなり、同時に堅脆さも増すため実用に耐えられるものが得られない。それに対して、PTFEをバインダーに用いると活性炭の95wt%までの高含有率化が可能であり、膜厚も0.15mmまできれいに連続成形することができる。シートの引張強度も、シート厚によって変わるものの、ほとんどのニーズに対する値を満たしており、実用上問題ないものが量産レベルで既に可能となっている。特に粉落ちのないシートの作製が可能であることから、他のバインダー系のみならず、活性炭単体に対しても取扱性の点で大きな優位性が得られている。これらの特徴が発現するのも、Fig.7に示すPTFEの繊維化(フィブリル化)が大きく起因していると考えている。

4-4)その他期待される優位性
 PTFEをはじめとするふっ素樹脂の多くは、一般的に耐熱性、耐薬品性に優れることが大きな特徴となっている6)。よって、活性炭とPTFEのみとからなるシートも、同様の特性が期待できるため、化学薬品や有機溶剤中での使用が不可避となる電極膜関係用途や、また高温部での使用が予想される排出ガス浄化関係等への応用が期待できる。
 また、吸着ガスの脱離処理を行いながら繰り返し使用される用途においても、高温での脱ガス処理が可能となるため、その優位性が期待できる。

5.まとめ

 今まで述べてきたPTFEをバインダーに用いたときの活性炭シートの特徴をまとめると、
 ①吸着効率が良いため、少量のシートで目的の吸着量を実現できる。
 ②柔軟性に富むため、使用時の形状自由度が高い
 ③粉汚れがないため、軽量化、薄型化が可能になる。
 ④電極用母材としても応用が可能である。
 ⑤耐熱性、耐薬品性に優れるPTFEを用いているため、相応の効果が期待できる
の5点にまとめられる。
 これらの特徴を生かし、今後クリーンな環境を維持する必要のある精密電子・電器部品用途、排出ガス等の浄化用途や、電気二重層キャパシタ用電極膜用途7)等の分野への応用展開が期待できる。

6.おわりに

 弊社では、PTFEをバインダーとする活性炭シートの量産化にFig.8に示すようなロール圧延方式で成功し、Fig.9のような形態で既に販売しております。ご用命は、下記の担当者までご連絡いただければ幸いです。
p5-1
●バルカーハイパフォーマンスポリマーズ㈱ 販売部 北島(TEL.(042)798-6780 E-mail:t-kitajima@valqua.co.jp)
●日本バルカー工業㈱ 機能樹脂事業統括部 秋山(TEL.(042)798-6781 E-mail:d-akiyama@valqua.co.jp)

ページの先頭へ戻る
ページの先頭へ戻る