Al2O3不働態処理溶接ベローズ

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日本バルカー工業株式会社
先端産業開発部   吉田  勉

1.はじめに

 近年、マイクロ波励起による低電子温度高密度プラズマを用いたラジカル反応ベースのプロセスにより、500℃以下の温度で良質なシリコン表面の直接酸化膜,窒化膜を形成する技術が報告されている1)2)3)。しかし、ラジカルは反応性が非常に強いため、プロセスチャンバ内材料がこれらラジカルと反応して腐食や汚染の問題を引き起こす。現在でもチャンバ内部材からウェーハへの金属汚染などが問題になっているが、これらを無くすためにはチャンバ内で使用される部材を耐プラズマ性に優れた材料や表面処理にしなければいけない。
 プロセスチャンバ内で使用される部材の1つにウェハステージの昇降用等に用いられる溶接ベローズがある。一般的な溶接ベローズにはオーステナイト系ステンレス鋼のSUS304LやSUS316L等が用いられるが、各種ラジカルや腐食性ガスに対して十分な耐性があるとはいえない。また、耐腐食性や耐熱性に優れる材料としてNi合金系材料があるが、Ni表面では室温に近い比較的低い温度でSiH4やPH3といった水素化物系特殊ガスが解離すると報告されている4)。そのため、金属表面に対する様々な不働態処理技術が開発されている4)5)6)
 腐食性の強いハロゲン系ガスに対して耐腐食性が良好な表面処理として、Crの含有量を26%程度まで増やしたフェライト系ステンレス鋼の表面にCr2O3不働態膜を形成する技術が開発されている5)。しかしCr2O3不働態膜は耐プラズマ性に乏しいことや、近年使われ始めているオゾン原料に対して全く耐性を示さないという問題がある。Cr2O3は、OラジカルやO3に曝されるとCrが3価クロムから6価クロムに酸化されるためCr2O3がCrO3に変換する。CrO3は比較的高い蒸気圧で蒸発してしまうため、反応性の高いOラジカルやO3に対しては耐性を示さない。また、耐プラズマ材料としてAl合金であるAl-3.5Mg-0.12Zr合金にAlF3-MgF2フッ化不働態膜を形成する技術が開発されているが6)、Al合金としての強度的な問題があるため溶接ベローズとして使用するのは難しい。
 一方、耐腐食性、耐プラズマ性に優れた表面処理として、オーステナイト系ステンレス鋼の表面にAl2O3 不働態膜を形成する技術が開発されている4)。Al2O3は 生成エンタルピーが負に大きく熱力学的に安定で、また種々のラジカルに対して安定である。本開発テーマでは、プロセスチャンバ内で使用される溶接ベローズからウェーハへの金属汚染,半導体製造装置システム内へのプロセスガスの解離による反応副生成物の堆積を防止するため、表面保護膜として耐プラズマ性に優れたAl2O3不働態膜を形成した溶接ベローズを東北大学大見研究室と共同で開発した。

2.製造方法

2.1 材料
 今回の試作に用いたAlを含有したオーステナイト系ステンレス鋼(住友金属工業㈱製HR31)の金属成分比を表1、機械的性質を表2に示す。SUS316Lなどの従来のオーステナイト系ステンレス鋼では、不純物としてAlが含まれると溶接不良等の不具合が生じるため、極限までAlの含有量が低減されている。一方、今回用いたHR31鋼はAlが3.0%添加されており、そのAlを選択的に酸化することによって表面にAl2O3の不働態膜を形成する。
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2.2 電解研磨
 通常の溶接ベローズ製造工程は、圧延材料のシャーリング(切断)→ プレス(ベローズコア成形)→ ベローズ内径溶接 → ベローズ外径溶接 → フランジ溶接という流れになる。しかし、今回用いたAl含有オーステナイト系ステンレス鋼は、圧延後の材料表層にAlやFeなどの酸化層が形成されているため、溶接時にオキサイドテールクラックと呼ばれるような表面の酸化層に起因する溶接不良が発生する。このため、プレス前の圧延材料から電解研磨により酸化層を除去 し、その後溶接工程に入るようにした。
 電解研磨前後での最表面から深さ方向にプロファイルしたXPS分析結果を図1-1、1-2に示す。横軸に深さ方向距離、縦軸に元素組成比を表すが、深さ100〜150nmぐらいまで形成されていた酸化層が電解研磨によって除去されていることがわかる。
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2.3 Al2O3不働態処理
 酸化物の標準生成自由エネルギー変化を温度に対してプロットしたグラフを図2に示す。この図は1944年にEllinghamによって導入されたエリンガムダイアグラムと呼ばれるもので7)、図中の各線は1atmの圧力下で酸素1molが純元素と反応して酸化物を生成するときの酸素ポテンシャルあるいは標準自由エネルギー変化を表しており、その線が下の方にあるほどその酸化物は安定で還元はより難しくなる。
 800℃でのAl2O3の水素還元反応について考えると、PH2/PH2Oの水素水分混合比に対してはH点とA点を結ぶ直線(PO2の酸素分圧に対してはO点とA点を結ぶ直線)はPH2/PH2O=8×1012(PO2=1×10−39Pa)と交差する。これは、Al2O3 + 2H2 = Al + 2H2Oの反応において、Al2O3およびAlがそれぞれPH2/PH2O=8×1012なる混合比のガスと平衡するこ
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とを示している。よって、この値より小さい混合比のガスの中ではAl2O3が生成する方向へ反応が進み、逆にこれより大きい場合はAl2O3が還元されてAlになる方向に反応が進む。Cr2O3についても同様に考えると、H点とB点を結ぶ直線はPH2/PH2O=4×104と交差するため、PH2/PH2Oの混合比を4×104〜8×1012になるように制御することで、Alは酸化される方向へ、またCr、Fe、Ni等の酸化物は還元される方向へ反応が進むことになる。
 Al含有オーステナイト系ステンレス鋼を用いて製作した溶接ベローズにおいて、上記で示したようなAlが酸化され、Cr、Fe、Niが還元される条件で熱処理を行うことによって、溶接ベローズの表面層に100%のAl2O3不働態膜を50〜100nm程度形成する。その際の処理条件を表3に示すが、この処理については東北大学大見研究室で保有する熱処理炉にて行った。
 表3の条件にて電解研磨したAl含有オーステナイト系ステンレス鋼の薄板(板厚0.12mm)にAl2O3不働態膜を形成した場合のXPS分析結果を図3-1に示す。これより、最表面から深さ80nm程度まで100%のAl2O3不働態膜が形成されていることがわかる。また、溶接ベローズと同様の条件にて溶接した溶接部にAl2O3不働態膜を形成した場合のXPS分析結果を図3-2に示す。図3-1の電解研磨面と比べると膜厚は薄くなっているものの、50nm程度までは100%のAl2O3不働態膜が形成されていることがわかる。
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3.試験結果

3.1 オゾン水浸漬試験
 O3に対する耐性を評価するために、電解研磨したAl含有オーステナイト系ステンレス鋼の薄板(板厚0.12mm)にAl2O3不働態膜を形成した後、10ppmO3超純水(50cc/min)に入れて5日間の浸漬試験を行った。その試験後サンプルのXPS分析結果を図4-1に示す。また、Al2O3不働態膜を形成した溶接部についての同様の試験結果も図4-2に示す。これより、電解研磨面、溶接部のどちらにおいても、初期表面である図3-1、図3-2と比較して大きな差異は見られないため、O3に対して十分な耐性がある安定した皮膜であると考えられる。
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 また、Al2O3不働態膜初期表面とO3水浸漬試験後表面の電解研磨面、溶接部それぞれのSEM画像を図5-1、図5-2に示す。これより、電解研磨面と溶接部のどちらにおいても、初期表面と浸漬試験後表面を比較して大きな差異は確認されないため、XPS分析結果と同様にO3に対して安定した皮膜であるということがわかる。
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3.2 溶接ベローズ耐久評価試験
 Al2O3不働態膜を形成した溶接ベローズの耐久性を確認するため、1000万回の伸縮耐久試験を実施した。その際に使用したAl2O3不働態処理溶接ベローズの写真を図6に示す。また、耐久評価の試験条件を表4に示す。
 その結果、1000万回作動後においてもHeリーク検査での規定リーク量である1×10-9Pa・m3/s以下であったため、1000万回の伸縮作動をさせても溶接破断等の問題もなく使用できることが確認できた。これは、表2のAl含有オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質で示したように、通常のSUS316Lのヤング率が193GPaであるのに対して、今回使用したAl含有オーステナイト系ステンレス鋼は175GPaである。よって、同じ変位量を与えても溶接部にかかる応力はAl含有オーステナイト系ステンレス鋼の方が小さくなるため、機械的な耐久性においても今回開発したAl2O3不働態処理溶接ベローズが優れているということがわかる。
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4.まとめ

 半導体製造装置等のプロセスチャンバ内で使用される溶接ベローズからの金属汚染などの問題を一掃するため、耐腐食性、耐プラズマ性に優れたAl2O3不働態膜を形成した溶接ベローズを開発した。
 その結果、溶接部も含めて50〜100nmの厚みでFeやCrを全く含まない100%のAl2O3不働態膜を形成した溶接ベローズを開発することができた。Al2O3不働態膜は耐腐食性や耐プラズマ性に優れており、またO3のような極めて酸化力の強いものに対しても非常に安定である。さらに、溶接ベローズとしての機械的な寿命においてもSUS316L等を用いた従来のものより優れていると考えられるため、耐腐食性、耐プラズマ性向上による長寿命化と同時に機械的な寿命の向上も実現することができると考える。これにより、プラズマプロセスにおける溶接ベローズからウェーハへの金属汚染は一掃され、さらに腐食や溶接破断等による寿命に対しての交換頻度の低減が可能になったと考える。

5.おわりに

 本製品は東北大学大見研究室と共同で開発したものであるが、開発を進めるにあたり多大なるご指導をいただきました大見忠弘教授を始めとする大学関係者の皆様に感謝いたします。また、本製品を製作するにあたり全面的にご協力いただきましたバルカーセイキ㈱の皆様に感謝いたします。
 今後も社会の発展および半導体・FPD・太陽電池産業の発展のために、社会に貢献できる有用な製品を開発していきたいと考える所存であります。

6.参考文献

1)M. Hirayama, T. Ohmi, T. Yamamoto, M. Ando and N. Goto, “8.3 GHz Microwave Plasma Excitation using a Radical Line Slot Antenna,”AVS 43rd National Symposium, Philadelphia, pp.134, October 1996.
2)Masaki Hirayama, Katsuyuki Sekine, Yuji Saito,and Tadahiro Ohmi, “Low-Temperature Growth of High-Integrity Silicon Oxide Films by Oxygen Radical Generated in High-Density Krypton Plasma,” Technical Digest, International Electron Devices Meeting,pp. 249-252,Washington, D.C., December 1999.
3)Yuji Saito, Katsuyuki Sekine, Masaki Hirayama and Tadahiro Ohmi, “Low-Temperature Formation of Silicon Nitride Film by Direct Nitridation Employing High-Density and Low-Energy Ion Bombardment,” Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.38 Part 1, No.4B, pp.2329-2332, April 1999.
4)北野真史, 東北大学博士論文, 2002
5)Yasuyuki Shirai, Masaki Narazaki and Tadahiro Ohmi, “Cr2O3 Passivated Gas Tubing System for Specialty Gases,” IEICE Trans. Electron., Vol.E79-C, No.3,pp.385-391, March 1996.
6)Matagoro Maeno, Kazuo Chiba and Tadahiro Ohmi, “Fluorine-Passivation Technology of Metal Surface for Self-Cleaning(Passivation of Ni-P Film on Al Alloy),” Proceeding, 14th Symposium on ULSI Ultra Clean Technology, Advanced Semiconductor Manufacturing System, Omiya,pp.143-164,October 1991.
7)H.J.T.Ellingham, “Reducibility of Oxides and Slphides”,J. Soc. Chem. Ind. Trans. ,63,pp.125-133(1944)

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