炭素繊維強化ふっ素樹脂複合材料の開発

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研究開発部 メンブレン開発グループ
野口 勝通

1. はじめに

 半導体関連産業や化学、製薬プラント関連などにおいては、近年の技術進歩の中、特に耐熱、耐薬品性をはじめとした各種特性が求められる部材や部品などの特殊な用途に関し、従来多く用いられてきたポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE)、ペルフルオロアルコキシふっ素樹脂(以下PFA)を代表とするふっ素樹脂材料の各種耐熱性樹脂の強度不足、熱膨張対策他、一部の特性で大きな問題が生じてきている。
 これらの問題に対し、従来は形状の変更、厚肉化、金属などの補強材の導入などで対応してきたものの、高コスト、重量増、薬液への溶出などの様々な使用上の問題を生じ、広く普及していない。
 そこで、ふっ素樹脂の特徴である耐薬品性、高耐熱特性を維持しつつ高強度化、低線膨張率化を実現すべく、炭素繊維複合強化ふっ素樹脂(以下CFC)を開発したのでここに 紹介する。尚、このCFCは、この材料が有する以下に述べる様々な特徴から、上述以外の分野でも、例えば高温シール材、摺動材、緩衝材などへの展開の可能性が考えられる。

2. 構成、特徴

2-1)構成
 マトリックス母材としては、PTFE材料からの置き換えが可能な耐薬品性、高耐熱特性を有し、更には炭素繊維とのなじみが良好なPFAを選択した。また、ここで用いる炭素繊維は、機械強度、クリーン度に優れたPAN系炭素繊維とした。最終成型体の構造は、10mm程度の炭素繊維が、2次元非配向に配置され、それが積層されたものが、PFA中に存在している、との状態と表現できる。参考までに、成型体の平面部の写真をFig.1に示す。なお、用いる炭素繊維は、組成物中約5~30重量%を占める。
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2-2)成型方法
 10mm程度に裁断されたPFAと炭素繊維を水中で分散攪拌した後、それらを堆積させ、任意量積層したものを所望の金型中で加熱圧縮する手法を用いた。
2-3)成型体の特徴
 ここで得られたCFC成型体の主な物理特性をTable1、Fig.3~Fig.5に示す。

①耐薬品性
 CFC成型体は、その材料特性から、ほぼ全ての薬品に対して優れた耐薬品性を発揮する。
②耐熱性
 熱変形温度が260℃と、PTFEやPFAと比較し高い耐熱性を有する。
③機械強度
 PTFE、PFAに対して、約4倍の機械強度を有する。
④線膨張
 PTFE、PFAに対して、線膨張率は約1/5である。
⑤帯電防止
 カーボンファイバーの導電性に由来する、帯電防止効果を有する。
⑥その他
 PFA材料由来の耐候性、低摩擦率、撥水性を有する。
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2-4)本開発CFC成型品のポイント
 本開発品は、前述のとおり、既存のふっ素樹脂に比べても、勝るとも劣らぬ各種特性を有する。またFig.6に示すように、充填材入りふっ素樹脂材入り製品と比較しても、例えば引張強度で圧倒的な優位性を持つことがわかる。これは、従来の充填材入りふっ素樹脂が短い炭素繊維を混ぜていたためと考える。
 従来の充填材入りふっ素樹脂の中でも、特に成分構成として近いものは、「充填材入りPFA」になるが、この特性との違いは、まさしく炭素繊維の長さが関わっていると考えることができる。
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 そこで、炭素繊維長さと引張強度の関係を見たグラフをFig.7に示す。このグラフから、5mm以上の炭素繊維を使用することで、引張強度で代表される機械強度の向上が可能になることがわかる。ただ、すべてのふっ素樹脂材料で効果が発現するわけではなく、現在のところPTFEと炭素繊維との組み合わせでは、強度の向上傾向は発現できていない。これは、おそらく炭素繊維と樹脂との密着性などが、起因しているものと考えられるが、詳細については現在解明中である。
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 一方、炭素繊維は、一般にPAN系と、ピッチ系が知られており、CFCに関しては、どちらでも成型可能であるが、機械強度や本開発目的となるクリーン度の観点から、PAN系のほうが適していると考えられることから、現在はPAN系を中心に開発を進めている。しかし、今後の製法の新たな開発や、用途によっては、コスト的に優位性のあるピッチ系のCFCも十分可能性はあると考える。
 今回用いている長い繊維による特性改善効果としては、機械強度以外に、クリープ特性や熱膨張係数の低減などがある。Fig.8に圧縮クリープの一例を示す。この結果からわかるように、一般的な充填材入りPTFE(2TO、25%GF入りPTFE)が、含有率60%としても大きな変形が避けられないのに対し、CFCは3%程度と安定している。このような、高温域で変形の少ない材料は、いままでになく、長い繊維が均一分散することの効果と考えられる。
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3. 使用用途

3-1)半導体関連産業や化学、製薬プラント関連用途
 現在の各種PTFE加工品の代替品として、更なる機械強度向上、薄肉化による軽量化、帯電防止効果の付与などが期待できる。

3-2)その他一般産業機器部品や部材関連
 耐熱シール材、耐熱強度部品、摺動部材、耐熱トレイ、耐薬液容器、その他精密加工部品など。

4. おわりに

 今回、紹介したCFCは、PTFE、PFAなどのふっ素樹脂が有する特性を必要とする耐熱、耐薬品性が求められる使用環境で、より機械的特性を必要とする用途には、最適な材料である。
 今後は、各種任意形状での成型を可能にすることによって、ユーザーニーズにマッチした製品を適切に提供できるように更なる技術展開を行なっていく予定である。

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