ダイレクトメタノール燃料電池に対応したCO2透過膜の開発

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日本バルカー工業株式会社
研究部  油谷 康

1.はじめに

 だれでも、どこでも、いつでも情報にアクセスできる「ユビキタス時代」の実現に向けて、モバイル機器は進化を続けている。一方、バッテリーの発電寿命は数時間程度であり、更なる長寿命化が求められている。ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)は、長時間使用が可能となりうる新規エネルギー供給システムであり、充電不要のシステムとして注目されている。DMFCはプロトン交換燃料電池の一つで、メタノール水溶液が燃料となる。一般に、プロトン交換燃料電池は外部供給される燃料と酸素から発電する特徴があり、リチウムイオン電池などのように内部貯蔵されたエネルギーを利用する方式とは異なる。それゆえ、燃料と酸素が供給され続ける限りエネルギーを生み出すことが出来る点で、従来方式に対する優位性がある。
 図1にDMFCの概念図を示す。アノードでは触媒層(電極膜)によりメタノールが酸化され、CO2が発生する。アノードの反応にはメタノールの他に水が必要で、その水溶液濃度はエネルギー効率と関連する。アノードの反応により生じたプロトン(H+)は高分子電解質膜を通過し、カソードの酸素と反応する。この一連の反応により電子がカソードからアノードに移動し、外部にエネルギーが供給される。全体の反応は以下の通りである1)~3)
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 反応副産物であるCO2はアノードにおける反応効率の低下を招く。従って、長時間安定した発電を行うためには、燃料であるメタノール水溶液中からCO2を選択的に系外へ排出するシステムが必要となる。透過膜を用いたシステムでは、CO2透過量(排出量)を増加するために、排出部位の薄膜化または孔径のコントロールが必要となる一方、加圧などによるメタノール水溶液漏洩の問題が生じる。
 ふっ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸すると多孔質化されたePTFE(expanded PTFE)が得られ、延伸率や焼成条件等により孔径の調整ができる4)。燃料電池では、ガス透過膜やガス拡散電極への使用が検討されており5)、6)、酸化還元雰囲気における耐性にも優れていることから、長期の使用において最も信頼性のある膜として期待されている。一般にePTFEは補強のために積層体で使用されるが、積層過程において孔径が変化する。また、他基材との接着にはPTFEの融点以上での加熱による融着を必要とする7)、8)
 本報では、支持体を用いた簡便な方法でePTFEの孔径制御を行い、融点未満の加熱でePTFE同士を接着させた積層膜を作製した。また、そのCO2透過量(排出量)、メタノール耐圧性(漏洩無し)、およびこれら性能の耐久性について検討したので報告する。

2.CO2透過膜の作製方法

2-1)デザインコンセプト
 多孔質フィルムは、ePTFEを使用した。島状に分布するノードと延伸方向に配向したフィブリルからなる微細多孔構造を有している(図2)。また、膜変形を防ぐため補強材としてガラス不織布を用いた。ePTFEとガラス不織布を合わせた膜厚は約400~500μmである
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2-2)作製方法(特許出願中)
 未焼成ePTFEフィルムを、不織布の片面に複数枚積層し、ePTFEフィルムの融点未満の温度で種々時間加熱して作製した。周辺部のみ接着させてガラス不織布と積層膜を一体化した多孔質シートを作製した。同様にして、編組により作成したガラススリーブ(Φ3mm)にePTFEを積層接着させた多孔質チューブを作製した(図3)。
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3.実験

3-1)孔径測定
 バブルポイント法による孔径測定を行った(Perm-Porometer, Porous Materials, Inc.製)。試液はGalwick(15.9dyn/cm)を用いた。

3-2)ガス透過特性評価
 図4にモジュール構成と単セルの断面模式図を示す。室温、一定加圧条件下での透過CO2ガス流量を測定した。多孔質チューブについては、チューブに外圧をかけて内部に透過したガス流量を測定した。

3-3)メタノール耐圧性評価
 3-2と同様にして評価した。室温下で行い、種々濃度のメタノール水溶液をCO2ガスにて加圧し、フィルム背面へメタノールが染み出した圧力を耐圧限界とした。

3-4)耐久性
 20、60および80wt%メタノール水溶液に80℃下で1ヶ月間浸漬した。引き上げ、乾燥後の透過ガス特性、メタノール耐圧性を3-2)と同様に評価した。
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4.結果と考察

4-1)孔径測定
 単層膜と積層膜について孔径を測定したところ、平均孔径は単層膜0.32μm、積層膜0.18μmで、積層により孔径は小さくなる(図5)。積層により孔径分布がブロードになるものの、全体の孔径分布割合のうち、最小径の占める割合が最も多くなった。

4-2)ガス透過特性
 図6にePTFEの積層膜厚が90μmの多孔質シートとチューブのガス透過特性を測定した結果を示す。両者の透過特性に大きな違いは無く、圧力に比例して透過ガス量は多くなった。チューブ形状とすることで、シート形状に比べガス透過に方向依存が無いモジュール構成が可能となりうる。
 また、積層膜厚が厚くなるにつれて透過ガス量は小さくなる傾向を示した。30kPaにおける透過ガス量は、ePTFE積層膜厚、30μm、90μm、150μmの場合、それぞれ、0.04、0.02、0.01(mL/sec・cm2)である。多孔膜の積層によりガス透過特性をコントロールできる。
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4-3)メタノール耐圧性
 図7に、ePTFE積層膜厚90μmの多孔質シートにおけるメタノール耐圧性の測定結果を示す。メタノール濃度が濃くなるに従い耐圧限界値が低下する傾向を示した。また、膜厚が薄くなると耐圧限界値は低くなった。
 メタノール濃度と耐圧限界値の関係は、概ね液体の表面張力と関連付けられる。メタノール水溶液の表面張力はメタノール濃度上昇と共に小さくなる。水の表面張力は73dyn/cm、メタノール10wt%溶液で59dyn/cm、90wt%で25dyn/cmとなる。PTFEの臨界表面張力は18dyn/cmであり、メタノール水溶液の表面張力>PTFEの臨界表面張力となる9)。一般に、表面張力が小さい方が
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濡れ易いことから、メタノール濃度が増加すると濡れ性が良くなり、メタノール耐圧が低下したと考えられる。

4-4)耐久性
 図8にePTFE積層膜厚90μmの多孔質シートの耐久性を評価した結果を示す(透過ガス測定)。種々濃度のメタノール浸漬後も透過量に大きな違いは見られなかった。また、耐メタノール圧も浸漬前後で差はなく、これらのことから、メタノール耐久性に優れていることが確認された。
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5.まとめ

 基膜材料としてePTFEを用いたCO2透過膜(メタノール/CO2分離膜)を開発した。
 シート状、チューブ状ともに作製が可能であり、孔径の制御と支持体膜の積層により、ガス透過とメタノール耐圧をバランスよく発揮できることを確認した。また、その耐久性も、80℃下で1ヶ月間浸漬条件にて性能劣化が無いことも確認できた。

6.おわりに

 DMFCの主たる用途展開先はノートパソコンなどのバッテリーであり、将来、モバイル分野に広く適応されると予想される。今回開発のCO2透過膜は、燃料電池の関連部材として大気の清浄化やダスト除去用途にも適応可能であり、可能性を検証していく。

7.参考文献

1)解説燃料電池システム、James Larminie、AndrewDicks共著、槌屋治紀 訳、オーム社(2004)
2)燃料電池入門講座、本間琢也、電波新聞社(2005)
3)特開2005-235519号公報
4)特表平11-511707号公報
5)特開2004-063200号公報
6)特開2005-235519号公報
7)特開平09-123302号公報
8)特開2005-329405号公報
9)化学便覧基礎編 改訂2版、日本化学会、丸善株式会社(1975)

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