複合化による差別的機能の両立

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1. はじめに

 JISで規定されているOリングなどのエラストマーシールは、気体や液体の漏洩防止を目的としてあらゆる産業分野で広く使用されており、機器性能に大きな影響を及ぼす役割を担っている。特に近年では機器性能の向上に対する要求水準が高くなっており、シールの性能向上が必須とされてきている。
 しかしながら、一般的に使用されているエラストマーシールは、例えばNBRなどの単一材料で構成されており、材料特性の向上だけではシールの性能向上に限界が生じる場合もある。
 そこで、エラストマー単一材料では、実現することが困難であった機能を、エラストマーと各種材料の複合化により実現することを目指した。
 本報では、この複合化により差別的な機能を両立させたシールの一例を紹介するとともに、エラストマー単一材料では困難とされてきた機能の両立を実現するために用いた「複合化技術」と「形状設計技術」について紹介する。
1-1) 半導体製造装置向け複合製品【名称:VICTRA®-ER】
 ⑴ 真空シール性
 ⑵ 耐ラジカル性
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1-2)回転機器向け複合製品【名称:LFR SEAL®
 ⑴ シール性
 ⑵ 低摺動性
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2. 差別的機能の両立を実現する複合化技術

2-1) 半導体製造装置向け複合製品【名称:VICTRA®-ER】
 半導体製造装置向け複合製品であるVICTRA®-ERの材料選定結果をTable1に示す。
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2-1-1)真空シール性
 真空シール性の要求に対してはFKMを選定した。
 FKMとFFKMの120℃環境における真空シール時のリーク量をFigure1に示す。真空シール性はFKMの方がFFKMよりも優れていることが判る。
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2-1-2)耐ラジカル性
 耐ラジカル性の要求に対してはPTFEを選定した。各種材料のラジカル環境下における重量減少率を評価した結果をFigure2に示す。PTFEの重量減少率が、FFKMの1/10 以下、FKMの1/40 以下であることから、耐プラズマ性に最も優れていることが判る。
 PTFEは、炭素:Cとフッ素:Fからなる化合物であるが、C-F結合は非常に強い結合エネルギーであることが知られている。そのため化学的に安定した材料であり、活性ガスであるラジカルに暴露されてもエッチングダメージを受け難い性質を持っている。
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2-2)回転機器向け複合製品【名称:LFR SEAL®
 回転機器向け複合製品であるLFR SEAL®の材料選定結果をTable2に示す。
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2-2-1)シール性
 NBRなどのエラストマーはシール性に優れるが、摩擦係数が高いため低摺動性に劣る。またPTFEはクリープによる接触面圧の低下が起こるためにシール性が劣る。
 このためシール性を維持したまま低摺動性の機能を得るためにNBRとPTFEの複合を選定した。
2-2-2)低摺動性
 低摺動性の要求に対してはPTFEを選定した。
 各種材料の摩擦・側圧係数をTable3に示す。低摺動性は摩擦・側圧係数の低いPTFEが最も優れていることが判る。
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3. 各種材料の複合化を実現する形状設計技術

 複合製品は個々の要求機能に対して優位性を持つ材料を複合化技術により、機能の両立が困難とされてきた要求機能に対しても優れた機能を持たせるものとした。しかし、各種材料の複合化だけでは、材料由来の劣性を補うことが出来ないことから、独自の形状設計技術により両立を図った。
3-1) 半導体製造装置向け複合製品【名称:VICTRA®-ER】
 VICTRA®-ERの断面設計コンセプトをFigure3に示す。
 真空シール性の要求に対してFKMを選定したが、ラジカルに暴露されるシールの内側はエッチングダメージを受ける。そこで、耐ラジカル性の高いPTFEをシールの内側に配置し、FKMをラジカルより保護することで、真空シール性と耐ラジカル性の機能を両立させている。
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 ただし、PTFEはFKMと異なり耐クリープ性に劣り、永久変形を起こし易い。そこで、FKMの圧縮反力を利用してPTFEの変形を押し戻す機能を形状設計により付加した。このことによりPTFEは確実にシール面に接触するため、ラジカルの浸入を阻止してFKMがエッチングダメージを受けないようにしている。
 なお、VICTRA®-ERではFKMとPTFEを一体成型により加硫結合させることで、装着溝への着脱性を向上している。
3-2)回転機器向け複合製品【名称:LFR SEAL®
 LFR SEAL®の断面設計コンセプトをFigure4に示す。
 シール性と低摺動性の要求を両立するためにNBRとPTFEの複合を選定したが、NBRに比べてPTFEは高強度であることから、NBRの圧縮反力がPTFEに阻害されるため接触面圧の最適設定が難しい。そこで、最適な接触面圧を得るため、PTFEは必要最小限の厚さとなるように形状設計している。PTFEの厚さによるNBRの圧縮反力伝達イメージをFigure5に示す。
 なお、LFR SEAL®もVICTRA®-ERと同様に、NBRとPTFEを一体成型により加硫結合させていることから、装着溝への着脱は簡単に実施することが可能である。
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 また、従来のエラストマーシールでは、高圧用途で使用する場合、受圧時にシールが軸とハウジングの隙間へはみ出すことによる破損が発生するため、この防止策として樹脂製のバックアップリングを併用していたが、LFR SEA®ではこのバックアップリング機能(Figure6)もシール自体に付与する形状設計をしている。
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4. 複合製品の性能確認

4-1) 半導体製造装置向け複合製品【名称:VICTRA®-ER】
 半導体製造装置向け複合製品であるVICTRA®-ERの要求機能(①真空シール性、②耐ラジカル性)について、性能評価結果を次項に示す。
4-1-1)真空シール性
 真空シール性はFKM 単一製品と同等の性能を目標として、評価試験を実施した。各種材料の120℃環境における真空時のリーク量をFigure7 に示す。
 VICTRA®-ERのリーク量は、FKMのリーク量とほぼ同等であり、目標とする真空シール性能が発揮されていることが判る。
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4-1-2)耐プラズマ性
 PTFEの耐ラジカル性については前述の通り(2-1-2項)だが、VICTRA®-ERとしての耐ラジカル性はPTFEが相手面と接触することでFKMにラジカルを到達させないことが重要な要素となる。PTFEと相手面を接触させるためには接触面圧を確保する必要があるが、PTFEの面圧はFKMの圧縮反力により得ているため、圧縮量が不十分であると相手面への接触面圧が低下し、ラジカル浸入のリスクが高まる。そこで、VICTRA®-ER現品において様々な圧縮量でのラジカル暴露評価を実施し、圧縮量と重量減少の関係について評価試験を行った。その結果をFigure8 に示す。
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 圧縮量が0.0mmの場合には重量減少が見られるが、圧縮量が0.1mm 以上から重量減少は極端に少なくなる。この結果から圧縮量0.1mm 以上を設計要件とすることでVICTRA®-ERの耐ラジカル性能が確保されることが判る。
4-2)回転機器向け複合製品【名称:LFR SEAL®
 回転機器向け複合製品であるLFR SEAL®の要求機能(①シール性、②低摺動性)についての性能評価結果を次項に示す。
4-2-1)シール性
 シール性は走行距離1000km時における作動油のリーク量を耐久試験により評価した。耐久試験のリーク量をTable4に示す。
 LFR SEAL®のリーク量は、JIS B 8354:1992「複動油圧シリンダ」に規定される最もリーク量の少ないA 種よりも/10 以下の優れたシール性能であることが判る。
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4-2-2)低摺動性
 摺動抵抗は従来のエラストマー単一製品と比較して大幅な低減を目標として形状設計を実施した。各種形状におけるFEA検証結果をTable5に示す。LFR SEAL®の接触力はOリングやXリングよりも30%以上の低減が出来ており、更に摩擦・側圧係数の差を加味すると低摺動となることが判る。
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5. おわりに

 本報の「複合化技術」と「形状設計技術」の活用により、従来のエラストマー単一材料では実現出来なかった様々な機能の複合化が可能となる。また、一例として紹介したVICTRA®-ERやLFR SEAL®においては、今まで実現することが困難とされてきた機能を両立することが出来た。
 今後もあらゆる産業分野で求められる様々な機能についても「複合化技術」と「形状設計技術」において差別的機能の両立が実現可能であると考える。

6. 参考文献

1)中川 一平,バルカー技術誌,No.22,2-6(2012)
2)南 暢,永野 晃広,バルカー技術誌,No.21,11-14(2011)
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