半導体製造装置における複合シールの開発

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研究開発部 シール開発グループ
中川 一平

1. はじめに

 半導体製造装置に使用されるシール材には、真空シール性・耐ラジカル性・低発塵性・耐熱性・メンテナンス性などの性能が求められているが、シール材の要求性能はますます高 くなってきている。
 一般にシールの材質はふっ素ゴム(FKM)やパーフロロエラストマー(FFKM)が使用されており、シール材の各種性能改善は、材料性能の改善によって検討することが主流であった。
 しかし、耐ラジカル性の高いパーフロロエラストマーでも短寿命となる環境や、パーフロロエラストマーはふっ素ゴムと比べガス透過性が劣ることなどから、材料性能の改善では十分な性能が得られなくなってきている。
 そこで、耐ラジカル性を飛躍的に向上させる手法として複合シールの開発を検討した。これは、耐ラジカル性に優れたふっ素樹脂(PTFE)に注目し、真空シール性が高いふっ素ゴムと組み合わせることにより、耐ラジカル性と真空シール性を両立させたシール材である。

2. 基本特性

2-1)耐ラジカル性
 ラジカル環境下における重量減少率を評価した結果をfig.1に示す。
 パーフロロエラストマーの重量減少率は、ふっ素ゴムと比べ1/4以下となり、耐ラジカル性が良いことがわかる。
 一方、ふっ素樹脂であるPTFEはパーフロロエラストマーと比べても1/10以下の重量減少率であり、耐ラジカル性が非常に良いことがわかる。
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 そこで、耐ラジカル性の優れたPTFEをラジカル暴露面に配置することにより、ラジカルによる重量減少が極めて少ない複合シールが設計可能と予測する。
 ふっ素ゴム・パーフロロエラストマー・PTFEの構造式をFig.2に示す。
 PTFEは、炭素:Cとふっ素:Fからなる化合物であるが、C-F 結合は非常に強い結合エネルギーであると知られている。そのため、化学的に安定した材料であり、活性ガスであるラジカルに暴露されてもエッチングダメージを非常に受けにくい。
 ふっ素ゴムやパーフロロエラストマーは、炭素:C、ふっ素:F以外にも酸素:Oや水素:H及び架橋部を含んだ化合物である。C-O 結合やC-H 結合は、C-F 結合と比べると結合エネルギーが小さい。このため、ラジカルに暴露されると結合エネルギーの小さい結合が切れ、エッチングダメージが進む。
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2-2)真空シール性
 ふっ素ゴムとパーフロロエラストマーの真空シール時のリーク量をFig.3に示す。評価温度は120℃とした。グラフから真空シール性はパーフロロエラストマーよりもふっ素ゴムの方が優れていることがわかる。
 また、耐ラジカル性に優れているPTFEは、真空シールが出来ない。樹脂であるPTFEは、ゴムに比べ硬く、シール面への密着が困難なためである。
 そこで、PTFEの外側にふっ素ゴムを配置することにより、PTFEにはない真空シール性を付与した複合シールが設計可能と予測する。
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3. 断面設計コンセプト

3-1)断面設計コンセプト
 前項の特性が発揮する様に各種材料を配置し、形状設計を実施した断面設計コンセプトをFig.4に示す。
 通常のシール材ではラジカルに暴露されるシール内側がエッチングダメージを受ける。そこで耐ラジカル性の高いPTFEをシール内側に配置した。しかしPTFEは真空シール性が非常に低いため、外側にふっ素ゴムを配置し真空シール性を確保した。
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 また、PTFEはふっ素ゴムと異なり、形状復元力が小さく、熱劣化による永久変形を起こしやすい。そこでふっ素ゴムの反発力を利用してPTFEの変形を押し戻す機能を形状設計により付加した。このことによりPTFEは確実にシール面に接するため、ラジカルの浸入を阻止しふっ素ゴムがエッチングダメージを受けないようにしている。
 このように、単体材料が持つ短所をもう一方の材料の長所と組み合わせることによって打ち消し、形状設計によってその性能を最大限に発揮するようにしている。
3-2)複合化方法
 ふっ素ゴムとPTFEを複合化する方法として、嵌め合いタイプと接着タイプが考えられる。その断面イメージ図をFig.5に示す。
 嵌め合いタイプは、ふっ素ゴムとPTFEのそれぞれを単体で作成した後に嵌め合せればよいため、設計が容易であり、生産コストも比較的安価であ
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る。ただし、溝に装着後にフランジを開放すると、ふっ素ゴムとPTFEが分離する可能性がある。 一方、接着タイプはふっ素ゴムとPTFEを接着している為、溝から取り外しても分離することはない。接着剤には、加硫接着剤を使用し、ふっ素ゴムとPTFEを一体成型をすることによって加硫結合をさせている。また、成型ロットごとに剥離試験を実施しており、十分な接着力が得られていることを確認している。

4. 複合シールの性能検討

4-1)真空シール性
 複合シールの真空シール性は、ふっ素ゴムを使用しているため、ふっ素ゴム製シール材と同等の真空シール性を見込んでおり、その確認評価を実施した。複合シールの真空シール時のリーク量をFig.6に示す。評価温度は120℃とした。
 複合シールのリーク量は、ふっ素ゴムのリーク量とほぼ同レベルであり、パーフロロエラストマーよりも少なくなることがわかる。従って、見込み通りの真空シール性が発揮されていることがわかる。
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4-2)耐ラジカル性
 PTFEの耐ラジカル性については前述の通りだが、複合シールとしての耐ラジカル性は、PTFE部が確実にラジカルの浸入を阻止し、ふっ素ゴム部にラジカルを到達させないことが重要である。そのためには、PTFE部がシール面に密接していなければならない。PTFE部を圧縮した際に、ふっ素ゴム部も圧縮され、その反力を利用してPTFEをシール面に密接させている。そのため、PTFE部の圧縮量が不十分であるとシール面への密接が不十分となり、ラジカル浸入のリスクが高まる。そこで、様々な圧縮量でのラジカル暴露評価を実施し、PTFE部の圧縮量と複合シールの重量減少の関係を調べた。その結果をFig.7に示す。
 PTFE部圧縮量0.0mmでは、複合シールに重量
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減少がみられるが、PTFE部圧縮量0.1mm以上では、重量減少は極端に少なくなり、ラジカルの浸入を阻止できていることがわかる。
 これらの結果からラジカル浸入阻止の条件としてPTFE圧縮量0.1mm以上を設計基準の1つとしている。
4-3)寿命予測
 従来のふっ素ゴムやパーフロロエラストマー製シール材は、ラジカルによるエッチングダメージによって真空シールが維持できなくなった時点、または発塵が多くなった時点で寿命と判断してきた。しかし、本複合シールではPTFE部がラジカルの浸入を阻止するので、ふっ素ゴムはエッチングダメージをほぼ受けない。そのため、ラジカルダメージは寿命決定要因とならない場合が多い。
 一方、熱劣化や経年変化によるPTFE及びふっ素ゴムの永久変形からPTFE部のシール面への密着力が低下する懸念がある。そこで、加熱時間とPTFE圧縮量(=溝からのPTFE出っ張り量)の関係を調べた。複合シールの線形は3.5mmとし、つぶし率は16.9%、加熱温度は180℃とした。評価治具をFig.8に示し、評価結果をFig.9に示す。
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4-4)ふっ素ゴムとPTFEの接着力
 ふっ素ゴムとPTFEを複合化するにあたり、嵌め合いタイプはその形状を維持している状態においては嵌め合い力は大きく変化しないものと考える。
 一方、接着タイプは圧縮変形や加熱によって、接着層の破壊や熱分解による接着力の低下が懸念されるため、2種類の耐久評価を実施した。
 まずは、サーボパルサーを用いてシール面を作動させ圧縮開放を繰り返し、任意回数ごとにふっ素ゴムとPTFEの剥離試験を実施した。その結果をFig.10に示す。
 10,000回の圧縮開放を繰り返したところ、剥離強度は0.60N/mmとなり、嵌め合いタイプの嵌め合い力0.05N/mmと比べ十分に大きな値となる。従って、圧縮開放による接着力低下は実使用において、特に問題ないレベルであると考える。
 次に、圧縮した状態で加熱をし、任意時間ごとに剥離試験を実施した。その結果をFig.11に示す。
 1,000時間まで測定を実施したところ、0.64N/mmとなり、嵌め合いタイプの嵌め合い力0.05N/mmと比べ十分に大きな値となる。従って、加熱による接着力低下は実使用においては特に問題ないレベルであると考える。
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5. まとめ

 これらの検討から、耐ラジカル性と真空シール性を両立させた複合シールの開発が出来た。
 その性能および寿命は、従来のふっ素ゴムやパーフロロエラストマー製シール材と比較しても大幅に向上する事が出来た。これは、真空シール性は良いが耐ラジカル性の劣るふっ素ゴムと、耐ラジカル性は良いが真空シール性の劣るPTFEを組み合わせることによって、互いの不足する特性を補い、良い特性のみを付与することが出来たからである。また、形状設計よっても永久変形低減や長寿命化などを実現することが出来た。

6. おわりに

 今後は、今回使用した複合化という技術を応用し、新たな用途に対する新製品の開発を行っていく所存である。
 最後に、複合シールの開発にあたり、様々なご支援・ご協力を頂きましたお客様に感謝を申し上げます。

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