DNAフィルター

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岡山理科大学 理学部
山田 真路
日本バルカー工業株式会社
研究部 駒沢 俊清

1.はじめに

 日本は四方を海で囲まれている。そのため、海から容易に海産資源を得ることが出来る。しかしながら、これら海産資源の中には資源として顧みられないだけでなく、産業廃棄物として処分されている物質も数多く存在している。その一つがサケ (鮭) の白子である。そもそもサケの卵はイクラと呼ばれ美味な食品として珍重されている。しかしながら、精巣である白子においては一部が食用、化粧品原料、飼育に用いられる以外はほとんどが産業廃棄物として処分されている。その量は年間1万トン以上と見積もられている。そのため、これら海産由来の産業廃棄物を新規な素材として利用することが注目されている。中でも、最も注目されているのがサケの白子から取り出したデオキシリボ核酸 (DNA) を機能性材料として利用することである。このような事柄は材料という視点だけでなく、環境、廃棄物の有効利用、エコロジーな素材という観点からも非常に重要である。そのため、近年、日本を中心に世界各国で「DNAの材料化」が行われている。
 本ニュースの中では、DNAを機能性材料、特にダイオキシンやPCB、重金属イオンなどの環境汚染物質を除去する環境浄化材として利用した、いくつかの応用例を紹介する1)3)

2.DNA の機能と材料化

 DNAは言うまでもなく遺伝子であるが、材料という側面から眺めると環境にやさしい天然由来の高分子材料である。特に二重らせんDNAはアデニンとチミン、グアニンとシトシンがそれぞれ塩基対となり、特徴的な二重らせん構造を形成しているため、さまざまな分子と特異的そして選択的に相互作用することができる。そのため、二重らせんDNAは様々な機能を有した高分子材料である。中でも注目されるDNAの機能は「インターカレーション」である。インターカレーションとは平面構造を有した分子がDNAの塩基対間に平行挿入する現象であり、平面構造を有した分子のみをDNA
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によって集積することが可能である。図1に代表的なインターカレーター(DNAにインターカレーションする化学物質)である臭化エチジウムとアクリジンオレンジの構造とインターカレーションの概略図を示した。近年では、このような機能を利用した抗がん剤の開発や遺伝子検出試薬の合成などが行われている。また、もう一つの機能は、DNAがプラスの電荷を持った有機化合物や金属イオンと強く相互作用することである。これは、DNAの基本骨格にはマイナスの電荷を持ったリン酸基が含まれているためアニオン性高分子としての性質を有していることと、4つの核酸塩基部分に金属イオンを配位する部位が多数存在するためである。以上のことから、DNAのようなインターカレーション機能を有したアニオン性高分子を材料として用いることによって、新しい視点に基づいた環境浄化材の開発が可能であると思われる。
 しかしながら、DNAを材料として用いることは困難な事柄である。それはDNAが(1)水溶性の高分子であり、水の中で使うことができないため不溶化させる必要があること(2)環境中にはヌクレアーゼというDNA分解酵素が存在するため、時間と共に分解されてしまうためである。それゆえDNAの材料化はDNAの機能を保持したまま上記2つの欠点を補うという解決方法を用いる必要があった。DNAの不溶化方法は現在までにいくつかが報告されているので、それらの文献を参考にしていただきたいと思う。

3.DNAによるダイオキシンの除去1)2)

 環境中には様々な有害物質が存在している。そこで、環境中に存在する有害な有機化合物について注目すると、図2に示したようなダイオキシン誘導体やPCB誘導体、タバコの煙の中に含まれるベンズピレンのような平面構造を有した有害物質が多数存在していることがわかる。そのため、このような平面構造を有した有害物質はDNAによって除去できることが期待される。そこで、ガラスビーズ表面にDNAを固定化したDNA固定化ビーズを作製し、このビーズをカラムに詰め、有害物質を含んだ溶液を流すことによって、これら有害物質の除去を試みた。図3にDNA固定化ガラスビーズカラムの概略図を示した。含まれている有害物質の検出は紫外吸収スペクトル測定により行った。図4にPCB誘導体であるビフェニルの結果を示した。(a)はカラムを通す前の吸収スペクトル、(b)はカラムを通した後の吸収スペクトルである。この結果、DNAカラムを通すことによってビフェニルの濃度の減少が確認された。図5に様々な有害物質の除去割合を示した。この結果、DNAカラムはダイオキシン誘導体(ジベンゾ-ρ-ジオキシン、ジベンゾフラン)やPCB誘導体(ビフェニル)に対して効果的であり、80%以上を除去することができた。一方、平面構造を有していないビスフェノールAやジエチルスチルベストロール、p-ノニルフェノールなどでも同様の実験を行なったが、このような物質は全く除去されないことが確認された。これは、平面構造を有していない化合物はDNAの塩基対間にインターカレーションすることができないためである。以上の結果、DNA固定化カラムは平面構造を有する分子のみを選択的に除去する機能を有していることが確認された。
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 一般的に、有害物質を除去する物質として活性炭が知られている。しかしながら、活性炭は分子の吸着能は高いが分子の選択性が低いため、すべての物質を吸着してしまうという欠点を有している。すなわち、活性炭を用いた場合、水溶液中に人体に有用な成分が存在してもすべて活性炭により吸着されてしまう。一方、DNAの場合は、人体に有害な平面構造を有した分子に対してのみ高い選択性を示すため、人体に有用な成分を吸着しないという特性を有している。一般的に、DNAと強く相互作用する人工分子の多くはがん(癌)を誘発すると言われている。そのため、有害な化学物質が人間体内のDNAと相互作用する前に、ゴミとして処分されている他のDNAで除去するという環境浄化材はきわめて有効な方法であると思われる。

4.DNA による重金属イオンの除去1)2)

 環境中に存在する有害物質の中にはダイオキシンやPCBのような有機物質だけでなく、水銀やカドミウム、鉛に代表されるような重金属イオンもある。そこで、金属イオン(水銀、カドミウム、鉛、銅、鉄、マグネシウム)を含んだ溶液にDNA固定化ガラスビーズを添加し、ビーズ添加前後の金属イオン濃度を原子吸光(AAS)分析または誘電結合高周波プラズマ(ICP)分析によって求めることにより、DNAと重金属イオンとの相互作用を評価した。図6にDNA1gに対する種々の金属イオンの吸着量を示した。また、対イオン(Cl-、SO42-、NO3-)の異なる金属イオンでも同様の実験を行った。この結果、DNA 固定化ガラスビーズは水銀やカドミウム、鉛などの人体に有害である
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といわれている重金属イオンを効率よく集積することが確認された。一方、マグネシウムイオンに対してはほとんど相互作用を示さなかった。このことから、DNAは重金属イオンに対して高い選択性を有し、相互作用することが確認された。実際、数種類の金属イオンを含む溶液(水銀、銅、カドミウム、亜鉛、マグネシウム)をDNA固定化ガラスビーズカラムに添加したところ、水銀やカドミウムなどの重金属イオンは除去されたが、マグネシウムイオンは除去されなかった。また、紙面の関係で割愛させていただいたが、DNAと強く相互作用しない金属イオンとしてナトリウムイオンやカリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオンなどがある。
 以上のことから、DNAは金属イオンに対しても高いイオン選択性を有していることが確認された。特にDNAと相互作用する重金属イオンの多くが人体に有害であると言われている。これらのことから、DNAは人体に有害な金属イオンのみを選択的に取り除くことができる新しい素材であることが示された。これらのことから、DNAをカラムやフィルム、フィルターなどの形状に加工することによって、様々な用途に対応できる環境浄化材として利用できることが示唆された。

5.DNAフィルターとしての応用

 今までに既述されたように、DNAは、人体に有害な平面構造を有する有機化合物、また選択的ではあるが、人体に有害な重金属イオンを除去する能力がある。この機能を応用して、図7にあるような、水溶系用のDNAフィルターを考案している。このものは、SUSメッシュやガラスビーズに、水不溶化したDNA4)を0.5 ~1.0%コーティングしたもので、水中のダイオキシン類、PCB類および選択的に重金属イオンを吸着、除去する機能を持つものである。この形状は、家庭用の浄水器、および浄水場の最終フィルターや工場排水のフィルターに、応用可能であると考えられる。
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 特に浄水器は、人体に安全な水を供給することが目的であり7)、このDNAフィルターは、正にその人体のDNAを、有害物質から事前に守るものとしては、うってつけのものと言えよう。
 また気体系用のDNAフィルターもあり、既に空気清浄機のフィルターなどに応用されつつある。タバコのフィルター中にもDNAを含有させ、タバコをできるだけ安全な嗜好品としようとする試みもなされている。
 このように、DNAの特性を活かした機能製品は、フィルターに限らず、既にDNAアレイ5)やDNAチップ6)等に応用展開が始まっている。

6.おわりに

 個々の企業の環境に対する姿勢が評価させる今日、産業廃棄物であるDNAから作られた機能性材料はきわめてエコロジーな製品である。その上、この素材はエコロジーな素材というだけでなく、今までにない高い分子選択性やイオン選択性を有している。今後、我々はこのようなDNA素材に更なる改良を加えることによって、浄水器や排水用フィルターなどの製品開発を行っていく予定である。その一方で、これらの材料開発には用途の把握が必要不可欠である。そこで、皆様からの情報提供をお願いする次第である。
参考文献
1)山田真路、西 則雄:放射線と産業、90.13-18(2001)
2)西 則雄、山田真路、劉 向東:高分子、52.134-137(2003)
3)松永政司、西 則雄、井上太一、劉 向東:BIO INDUSTRY 21.28-34(2004)
4)岡畑恵雄、:LANDFALL Vol.54(Apr2005)
5)化学工業日報 2008.9.22.「 中空繊維型DNAアレイ」より
6)國武豊喜:図解「高分子新素材のすべて」工業調査会2005.5
7)JIS S 3201「家庭用浄水器試験方法」

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