FEMによる管フランジのボルト締付けシミュレーション 1

FEMによる管フランジタイトル画像
神戸商船大学 商船学部 機械電子工学講座
助手 高木 知弘
教授 福岡 俊道
日本バルカー工業株式会社 研究開発総括部
山中 幸

1.はじめに

 工業プラントやパイプライン等においては、多数の管フランジ継手が使用されている。これらの組立工程においては、一般に多数のボルトを一本ずつ(または数本ずつ)締付ける作業を、数週繰り返すことにより締結を完了する。これは、1回の締付け作業ではボルトの軸力が所定の値に均一にならないためである。また、対角線上にある2本のボルトを一つのグループとして締付けていく順序が広く用いられている。
 以上のような管フランジ継手の組立作業手順は、これまでの経験に基づき決定されているようである。しかしながら、具体的に何周の締付け作業を行えばよいのか?締付け順番は時計回りではいけないのか?どのように締付けを行えばもっとも効率よく精度が出せるのか?など不明な点は多い。このような疑問に答えるためには、多種多様なフランジ・ガスケット・ボルトの組み合わせに対して、体系的な評価を行う必要がある1)。そのためには、解析的な検討が不可欠であると考えられる。
 数値解析を用いた管フランジ締結体に関する研究はこれまで数多く行われている。しかしながら、その多くが全てのボルトを同時に締付ける、または全てのボルトが均一に締付けられていると仮定したものであり2)~7)、ボルト一本ずつの締付け過程を評価したものはあまりみあたらないようである8)
 そこで著者らは、管フランジのボルト締付け過程を評価することのできる有限要素解析手法を開発したので、ここで紹介する9)

2.なぜボルトの軸力はばらつくのか?

 管フランジ継手の組立時にボルト軸力がばらつく理由として、主に次の二つの原因が考えられる。
 一つは締付け方法によるもので10)、例えばトルク法で締付けた場合11)、接触面の摩擦係数のばらつきに起因して、ボルト軸力がある程度目標値と異なることは避けられない12)、13)
 もう一つは、ボルトを逐次締付けていく場合に発生する締結体各要素の変形に棋院する弾性相互作用である14)。この作用に棋院するボルト軸力のばらつきは、90%以上に達することもあるという報告がある15)。管フランジ継手の場合、隣り合う2本のボルトが比較的近く配置されているため、ボルト軸力のばらつきに対する影響は弾性相互作用が支配的となる。
 以上のように管フランジ締結体に関しては、はじめのボルトを目標とする軸力で締付けることができたとしても、引き続いて他のボルトを締付けていくと、最終的に各ボルトに残留する軸力は目標とする値とは異なることが知られている。
 ここで、各ボルト間の相互作用によるボルト軸力変化のメカニズムを、図1に示す仮想的な3本のボルトで組み立てられるフランジを例に説明する。
P6-1
P6-2
P6-3
P6-4
図1 弾性相互作用によるボルト軸力変化

図中Fmnは、ボルトmを締付けた時にボルトnに残留している軸力値を示している。
 bolt1、bolt2、bolt3を初期軸力Fiで順次締付けていく。まず、bolt1を所定の軸力Fiで締付ける。この時、bolt1の下側のフランジおよびガスケットは局部的に圧縮変形を生じる。次にbolt2を所定の軸力Fiで締付ける。この時、bolt2の下側のフランジおよびガスケットは局部的に圧縮変形を生じる。また、この変形はbolt1の下側にも達し、bolt1の軸力は低下する。最後にbolt3を所定の軸力Fiで締付ける。この時、bolt3の下側のフランジおよびガスケットは局部的に圧縮変形を生じる。この変形はbolt1の下側にも達し、bolt1下部の圧縮変形はさらに大きくなる。この結果、bolt1の軸力はさらに低下しこの場合は零となっている。この時、bolt2下部の圧縮変形もわずかに大きくなり、bolt2の軸力も低下する。
 以上が相互作用によりボルト軸力が変化するメカニズムである。このように、弾性相互作用はボルトの軸力を低下させるように働く。
 しかしながら、例えば図1のbolt3を締付けた場合、フランジが”てこ”のように作用し、bolt2の軸力を増させるような場合もある。この現象は、平面座をもつ比較的呼びの小さいフランジで生じやすい。また各ボルト間の相互作用の影響は、フランジとガスケットの剛性が低くなるほど、またボルトの剛性が高くなるほど大きくなる性格がある14)

3.有限要素シミュレーション

 管フランジ締結体の数値解析を行う場合、強い非線形特性を示すガスケットの取り扱い方法は最も重要かつ困難な問題である。ここでは、ガスケットを非線形ばねとして三次元有限要素解析に組み込む手法を採用する。

3-1ガスケットの取り扱い
 一般に広く用いられているうず巻形ガスケットやシートガスケットの多くは、その応力-ひずみ関係において図2に示すように負荷(loading)経路と除荷(unloading)経路が異なり、通常の金属材料で言われる「弾性域」が存在しない。
P7-1
ガスケットをモデル化する方法として、ボルト初期締付け時のガスケット平均応力σaに対する負荷曲線上の点Aと原点Oを結ぶ直線の傾き、点Aにおける除荷曲線の接線ABの傾き、またはそれらの組み合わせ等を用いる単純な方法が多く採用されている2)~5)。これらのモデル化は、ガスケット座面の面圧が均一分布に近い場合や、内圧の増加に伴うボルト軸力変化の評価など、限定された条件に対しては比較的良い精度を与えると考えられる。
 しかしながら、ボルトの締付け過程におけるガスケット応力レベルは場所により様々であり、さらに負荷・除荷・再負荷(reloading)が繰り返される。そのため、ガスケットをより精度よくモデル化する必要がある16)
 使用するガスケットは、日本バルカー工業(株)製の内外輪付きうず巻形ガスケット(製品番号 No.596:JIS40K 50A、厚さ4.5mm)と石綿ジョイントシートガスケット(製品番号 No.1500:JISK 50A、内径61mm、外径114mm、厚さ3mm)である17)。
 うず巻形ガスケットは、特殊石綿紙フィラーとSUS304材のフープからなる。これらのガスケットのような厚さ方向の剛性の低いガスケットを使用した場合、管フランジ締結体の締付け特性はガスケットの厚さ方向の剛性に大きく影響される。その点を考慮し、さらに工学的な実用性の観点から、簡単のためガスケットを厚さ方向にのみ剛性を有する非線形ばねとしてモデル化する。
 ガスケットの圧縮試験より得られた応力-ひずみ関係を、図3に記号“+”で示している。図3(b)の石綿ジョイントシートガスケットについては、図を見やすくするために除荷曲線のみを示している。いずれのガスケットにおいても除荷時と再負荷時においてヒステリシス特性が確認された。
P7-2
しかしながら、ボルトの締付け過程においてガスケットの応力が非常に低いレベルまで除荷することは少ないという点を考慮し、再負荷時も除荷曲線を通ると仮定している。試験より得られた応力-ひずみ関係は次式により同定する9)、18)
うず巻形ガスケット(SWG)
負荷時:
除荷・再負荷時:
P8-1
P8-2
石綿ジョイントシートガスケット(J/S)
負荷時:
除荷・再負荷時:
P8-3
P8-4
 ここで、εy、σ、はそれぞれ除荷が開始した時点での負荷曲線上のひずみ、応力である。また、この点から完全に除荷したときの残留ひずみεを以下の式で表す。
P8-5
以上の同定結果を図3に実線で示している。同定結果は試験結果とよく一致しており、ここで用いているガスケットの特性をよく表しているといえる。解析においては、このガスケットの非線形性を増分法により線形化して扱っている。つまり、あるガスケット応力まで段階的に荷重を増加させ、そのときの応力値に対する式(1)~(4)の傾きをばね定数として導入する。そのため、増分率の決定が重要となってくる。詳細は文献9)を参照いただきたい。
3-2有限要素モデル
 使用する有限要素モデルの一例を図4に示している。対称性を考慮して半分のみをモデル化している。対象とする管フランジは、JIS B 2238呼び圧力40K、呼び径50の大平面座を有するものである19)。この管フランジを、メートル並目ねじM16を有する8本のボルトで締付ける。ボルトとナットは単一の弾性体として扱っている。ボルト・ナットの等価モデルおよび管フランジのヤング率とポアソン比は、それぞれ200GPaと0.3一定としている。
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3-3シミュレーション手順  図5に示す3本のボルトを用いたフランジを例にシミュレーション手順を説明する。有限要素モデルでは、はめ合いねじ部をボルト頭部と類似の形状にモデル化しているため、図5では図1をより解析モデルに近いように変えて図示している。
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P8-8
P8-9
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図5 シミュレーションの手順
<bolt1の締付け>
 bolt1を所定の初期軸力Fiで締付ける。軸力はbolt1の円筒部対称面に強制変位を与えることにより生じる。そして、bolt1の軸力がFiになったところで強制変位を与える作業を停止する。この時の対称面の軸方向変位量をu1とする。また、bolt2とbolt3の円筒部対称面の変位は軸方向に拘束されている。

<bolt2の締付け>
 bolt2を所定の初期軸力Fiで締付ける。Bolt2の円筒部対称面に強制変位を与え、軸力がFiになったところで強制変位を与える作業を停止する。この時の対称面の軸方向変位量をu2とする。また、bolt1の対称面変位はu1一定とし、bolt3は軸方向変位を拘束されている。

<bolt3の締付け>
 bilt1とbolt2の対称面変位をそれぞれu1とu2に保った状態で、bolt3の円筒部対称面に強制変位を与え、bolt3を初期軸力Fiで締付ける。最終的にbolt3の締付けが完了した時点で、各ボルトの対称面軸方向変位はu1、u2、u3となる。そして、この状態において各ボルトに残留している軸力F31、F32、F33が、各ボルトを等しい初期軸力Fiで逐次締付けた場合の締結完了時のばらつきを示すことになる。
 図6は、ここで用いたボルトの締付け順序に対応したボルト番号を示している。また、ボルトの初期締付け力をFi=10.kN(ボルト軸応力=50MPa)とする。
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