石綿ジョイントシートガスケットにおける高温寿命評価

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日本バルカー工業株式会社 事業統括部 プロダクトグループ ガスケット・その他シール担当
山中 幸

1 . はじめに

 回転機、弁などの各種機器には、各種ガスケットが使用されている。これらの機器の分解点検は、設定された周期に基づき実施されているものの、経験則によるものが多く、ガスケットの正確な寿命を把握して設定されたものではない。
 そこで、今回は、従来より多用されている石綿ジョイントシートガスケット(以下CAF :Compressed Asbestos Fiber Sheet)について、実際の使用条件の中でも過酷な温度条件200℃を採用し、CAFの寿命をより正確に推定することを試みた。なお、CAFは、300℃程度までの使用実績があるが、その主な使用温度範囲は、R.T.~180℃程度(JIS 10K飽和蒸気)であることから、ここではより過酷な試験温度200℃を採用した。
 なお、近年、石綿の発ガン性が指摘され、米国、欧州での石綿規制をはじめ、国内で、も非石綿(ノンアス®)ガスケットに置き換わりつつある。今回は、まず石綿製品への適用を検討し、今後のノンアス製品の寿命評価適用への一過程とするものである。

2. ガスケットの寿命(シール性低下)におよぼす影響

 ガスケットからの漏洩は、ガスケットとフランジの接触面からの漏れである接面漏洩とガスケット内部を流体が通過する透過漏洩とがある。ガスケット材にメタルを使用した場合、メタルは密な結晶構造を持ち、透過は無視できるレベルであり、接面漏洩のみを考慮すればよいが、一般配管や機器で使用される、ジョイントシートガスケットやうず巻形ガスケットでは、接面漏洩、透過漏洩ともに無視できない。
 接面漏洩は、ガスケットとフランジの接触面間に存在する微小隙間から生じるもので、一般に、ガスケットに負荷する締付力が大きいほど、ガスケットとフランジ面の微小隙間が小さくなり、漏れは少なくなる。
 また、透過漏洩は、ジョイントシートガスケットのように、ガスケット内部に微小な空隙を有する多孔質なシール材では、比較的大きい。締付力が大きいほど、内部の空隙部が小さくなり、漏れは少なくなる。これに対し、樹脂やゴムの透過係数は、一般にはジョイントシートガスケットにおける漏洩よりはるかに小さく、一定である。ただし、その場合にも、ガスケット高さ、幅など体積変化により透過漏洩量は変化する。

 ジョイントシートガスケットには、繊維分や充填剤が配合されており、微視的にみた場合、微小な隙間がガスケット内部に存在する。締付力を負荷することで、内部に存在するゴム分の高密度化および内部の空隙部への材料の流動によりリークパスを小さくし、さらに、フランジとジョイントシートガスケットの接触面応力が高まり、接面の微小隙間が小さくなり、接面漏洩が抑制されると同時に、内部に存在する微小隙間が小さくなり、透過漏洩が抑制され、シールが達成されると考えられる。
 シール性低下に影響する因子としては、応力緩和、熱による材料の劣化、使用流体による腐食、侵食などがある。応力緩和とはひずみを一定に保った状態で、残留応力が時間とともに減少するもので、ガスケットを構成する材料の流動(クリープ)あるいは熱減量(酸化消失)によって生じるものである。
 ゴムや樹脂は、粘弾性材料であり、その粘性要素に応力緩和が生じる。また流動によりジョイントシートガスケットの空隙部に移動することによって、ジョイントシートガスケットの残留応力が低下する。常温でも粘性物質の流動は生じるが、熱によって、さらに流動性は高くなり、残留応力の減少はより顕著に表れる。

 流動による応力緩和以外のシール性低下の要因としては、熱による材料の劣化がある。ここでの材料劣化は主としてゴム材料の分解消失を意昧し、これにより、表面層および内部が多孔質な状態になり、リークパスが形成され、シール性が低下する。またさらにその空隙部分に材料が流動し、応力緩和を生じさせることとなる。内部流体が酸素を含まない流体の場合、酸化消失(熱減量)は、酸素の存在するジョイントシートガスケットの外周側から酸化劣化を生じ、徐々に内部に進行する。
 CAFにおいて、今回の検討対象温度である200℃程度での漏洩の主要因は、内部に含有されるゴムの熱減量に伴うリークパスの形成によるシール性低下および応力緩和と考えられる。そのほか、ゴム分の熱による変化としては、酸素と反応することで、引張り強度や伸びなど材料物性の低下もある。また、特別な条件下においては、オゾン劣化、放射線劣化、そのほか水や油、各種溶剤による環境剤劣化があるが、ここでは無視した。なお、常温では、ゴムの酸化消失はほとんどなく、シール性低下、応力緩和への影響はほとんどないといえる。

3. 試料および試験装置

3.1 試料
 試験試料は、石綿ジョイントシートガスケットとした。これは、石綿繊維を主材とし、これに特殊な耐熱・耐化学薬品性バインダーと少量の無機充填剤を混和して、加熱ロールで圧延加硫したものである。比較的低圧力ラインにおいて、各種産業の配管フランジ、機器用ガスケットとして多用されている。
3.2 試験装置
 図1は応力緩和試験装置概要図であり、荷重計、フランジ、ヒーターからなる。試験荷重は、荷重計により測定し、その精度は±0.5%である。試験フランジはSNB7製で、外径φ100mmとした。
 また図2は、漏洩試験装置概要因であり、フランジ、漏洩量測定装置からなる。フランジは、SUS304製とした。
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3.3 試験方法
3.3.1 応力緩和試験
 図1に示す応力緩和試験装置を用い、200℃加熱時、1000hまでの残留応力の経時変化を確認した。まず、フランジ1が支柱と接触したときに実機にて想定される締付時の歪みと同じとなるように、支柱長さとフランジ厚さを調整した。想定される締付時の歪み量は、あらかじめ圧縮復元曲線を測定し、確認した。次に、試験用フランジ間に試料を装着し、フランジ1と支柱が接触するまでボルト締めにより荷重を負荷した。その後、フランジを断熱材で覆い、バンドヒーターで加熱した。ガスケット周辺部が200℃に達し、安定した後、1000h保持した。荷重計にて測定した荷重を試験の間、モニタリングした。
3.3.2 密封限界応力確認試験
 試料をフランジ締結体に装着し、200℃にて所定時間加熱した後、密封限界応力を確認した。まずフランジに試料を装着し、ボルト締めにて所定トルク34.3N・m (ガスケット応力20MPa相当)まで締付けた。ボルトには二硫化モリブデンをコーティングし、別途確認したトルク係数0.1を採用した。

 締結体を電気炉にて加熱し、200℃で安定した後、1000hまで放置した。所定時間加熱後の締結体を電気炉から取出し、室温にて放冷した後、以下の方法によりシール性能を確認した。まず、窒素ガス内圧P=0.29MPaを負荷した。系内の圧力を制御していない場合、ガスケットから漏れを生じると圧力が低下するが、ここでは、系内の圧力を一定に制御すると、生じた漏れと同量のガスが供給される。供給されるガス量を測定することで、漏洩量を求めた。一旦窒素ガス内圧を解放し、圧縮試験機でガスケット応力20MPalこ相当する荷重(86.7kN)まで締付けた。圧縮試験機による荷重を負荷したまま、ボルトを緩めて取外した。窒素ガス内圧を負荷し、圧縮試験機で荷重を段階的に除荷しながら、シール性能を確認した。所定のシールを満足する最小荷重を密封限界応力とした。一般に現場で実施される漏洩検出方法である石鹸水発泡法で検出される漏れ、すなわち1×10-3 Pa・m3/sを密封限界の基準とした。この基準漏洩量は、段階的に面圧を高め、石鹸水発砲の有無を確認するとともに、漏洩量を実測し確認した。

4. 結果と考察

4.1 応力緩和試験
 図3に応力緩和試験結果を示す。図3に示したように、応力緩和測定開始後、50h程度までは、急激な残留応力低下を生じ、また値にふらつきを生じていた。初期の応力緩和が大きいのは、初期に酸化消失が急激に進行するが、ゴム分の減少に伴い、消失速度が律速になるものと思われる。そこで、残留応力低下が比較的安定した50h以降のデータを用い、最小二乗法を用い、直線近似した。その結果を図4に示す。
 ここで、Maxwel緩和を想定すると、応力緩和曲線は、応力軸を対数、時間軸をリニアとした片対数で整理されるべきであるが、外挿時の利便性を考慮し、弊社では、応力軸をリニアに、時間軸を対数軸に整理し、経験的に、直線関係が得られることがわかっている(1)
 図4より、1年後には、残留応力8MPa程度(応力緩和率40%弱)、10年後には残留応力3MPa程度(応力緩和率15%程度)と推測される。
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4.2 密封限界応力確認試験
 段階的にガスケット応力を低減させた結果、加熱なし品、200℃×100h加熱品ともに、残留応力0.5MPaまで低減させても、漏洩は、検出限界(1×10-4Pa・m3/s)以下であった。また、200℃×1000hまで(200℃×500h、200℃×1000h)加熱した試料については、残留応力1MPaまで低減させても、漏洩は検出されず、0.5MPaまで低減させたとき、漏洩を検出した。同じく、長期使用(7200h)相当品では、残留応力2MPaまで低減させても、漏洩は検出されず、1.0MPaまで低減させたとき、漏洩を検出した。
 なお、長期使用(7200h)相当品とは、密封限界応力予想曲線をより信頼性のあるものとするために、実機にて210℃条件下、断続3年使用したCAFのゴム残量を、熱分析により確認し、加速的に同じゴム残量の試料を製作したものである。
 200℃で加熱することで、加熱なしに比べて、時間の経過とともに、シール性能は若干低減していることが確認された。しかしながら、石鹸水発泡による、漏れレベルにおいては、1000hまでの加熱、さらには長期使用相当品でも、残留応力2MPa以下まで低減させても、漏洩は検出されず、通常の使用期間範囲内では、全くシール性に問題ないことが確認できた。
 なお、石鹸水発泡法によるシールの判定基準値として、1×10-3Pa・m3/s以上をリーク、1×10-3Pa・m3/s未満をシールとした。この基準は、表1に示すように、ガスケットに段階的に応力を負荷し、漏洩量測定を実施するとともに、石鹸水を塗布し、その発泡の有無を確認した結果をもとに設定した。表2に、加熱後段階的にガスケット応力を低減させた時の漏洩量を示した。
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5. 寿命推定方法の検討

 図5に示したように、200℃条件下、CAFの応力緩和および密封限界応力の経時変化を確認し、その交点、つまり寿命を推定した。
 図5に示した結果より、CAFの応力緩和曲線と、密封限界応力の経時変化曲線の交点は、t = 160,000h程度(約18年)であることが確認された。したがって、200℃温度条件下、CAFの寿命は約18年程度であると推測される。ただし、今回の結果は、内圧や温度の変動によるボルト応力、配管応力の影響などを加味しておらず、実際には、
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18年より短くなることが予想される。これらの影響については、今後、3次元有限要素法などを用いたフランジ締結体としてのトータルな検討が必要と考えられる。
 なお、石綿ジョイントシートガスケットでは、使用環境によるが200℃で10年以上の使用実績がある。
 常温では、応力緩和は、加熱時に比べて緩やかであり、また密封限界応力は加熱時に比べて、ほとんど上昇しないと考えられることから、さらに長期の使用が可能であると推定される。

6.まとめ

 CAFの寿命を推定するため、残留応力および密封限界応力の時間的変化を明確にした。これは、ガスケットの残留応力が密封限界応力(漏洩が発生する応力)以下となった場合に、漏洩が発生するとしたものである。
その結果、200℃条件下で、CAFの寿命を推定する有用なデータを得ることができ、この結果からCAFの寿命は、200℃温度条件下で、約18年程度であると推測される。したがって、従来、金属ガスケットに適用してきた応力緩和試験と、密封限界応力の経時変化を確認することで、CAFについても、寿命の推定が可能であることを確認した。今後、同様な方法を用い、非石綿製品の寿命評価が可能といえる。
 ただし、今回の評価は、内圧や温度の変動によるボルト応力、配管応力の影響などを加味しておらず、実際には、18年より短くなることが予想され、これらの影響については、今後、3次元有限要素法などを用いたフランジ締結体としてのトータルな検討が必要と考えられる。
<参考文献>
1) 掘井賢二“トライパックの長期性能評価”バルカーレビュー第35巻第3号(1990)p.7-13
2) 西田隆仁、朝比奈稔、山中幸、“うず巻形ガスケットのROTTによる常温シール特性評価および高温評価”バルカーレビュー第41巻第12号(1996)p.1-12
3) 西田隆仁、“原子力用非金属シールの環境劣化と寿命の予測”バルカーレビュー第44巻6号(1999)p.6-14

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