ガスケットひずみを用いた新しいフランジ締結体設計の提案

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日本バルカー工業株式会社 研究部
山中 幸
基幹産業開発部長
西田隆仁

1.はじめに

 従来、フランジの設計基準として、ガスケット係数“m”と“y”が一般的に用いられてきた(*1)
 これに対し、米国では、常温漏洩量評価方法として、ROTT(ROom Temperature Tightness test)を提案し、新ガスケット係数Gb,a,Gsを算出できるとした(*2)。一方、欧州では、2001年に、ガスケットパラメーターがENV1591-2で規定され、フランジ継手の計算規格EN1591-1に適用された。そのガスケットパラメーターを求める試験手順として、prEN13555が提案された。両者ともに、許容漏洩量の概念が取り入れられ、さらにガス流体を用いた試験方法が提案されている。
 国内でも高圧力技術協会内の圧力容器のシーリング技術研究会(Sealing Technology Of Pressure vessel:STOP委員会)が中心となりフランジ締結体に関する研究が進められている。我々は、前報ほかに示したように、これまでにROTT試験や各種ガスケット特性評価を行い、ガスケットひずみと漏洩量に相関関係があることを確認している(*3~*10)。本報では、その相関関係を用い、より簡便にボルト荷重を算出できる方法を提案する(*11)

2.欧米規格法におけるデータ整理の問題点

2.1 ROTT法
 ROTT試験は、圧縮性流体の粘性流を仮定し、圧力と漏洩量の関数として、タイトネスパラメーターを導入した。図1に、うず巻形ガスケットのROTTによる常温シール特性結果を示す(*12)。結果はタイトネスパラメーターTpとガスケット応力により整理され、初期締付け時を想定したPart Aと運転時を想定したPart Bからなる。運転時を想定した係数Gsについては、Tpと応力の両対数軸で表した場合に、Tp=1で収束すると仮定されて
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いるものの、図1に示すように、実験的には収束することが確認できず、実際にはGsの算出は困難である。

2.2 CEN法
 prEN13555に示された試験は、圧縮性流体の粘性流を仮定しておらず、各内圧ごとに漏洩量評価を実施するとしている。このため、各内圧ごとの試験が必要であり、その設計をより複雑としている。さらに各内圧ごとの試験は実用的ではない。

3.ひずみと漏洩量の関係を用いた設計手法の提案

 上述した欧米の設計法に対し、我々は、これまでに、前報ほかに示したように、ジョイントシートガスケット、うず巻形ガスケットについて、ガスケットひずみと漏洩量に相関があることを確認している(*4~*10)。以下は、当社にて測定したうず巻形ガスケットにおけるROTT結果(*12)を、ガスケット変位量およびタイトネスパラメーターで表したものである。同様に相関関係があることが確認できた。実測変位量で表すことでよりわかりやすく、さらにCENの問題点を解消し、より簡便な設計を考慮すべく、漏洩量ではなくタイトネスパラメーターで示している。
 図2 内外輪付非石綿うず巻形ガスケットにおける変位量とタイトネスパラメーター
 図3 基本形非石綿うず巻形ガスケットにおける変位量とタイトネスパラメーター
 図4 内外輪付石綿うず巻形ガスケットにおける変位量とタイトネスパラメーター
 図5 基本形うず巻形ガスケットにおける変位量とタイトネスパラメーター
 図6 変位量とタイトネスパラメーターの概要図
 図7 圧縮復元曲線概要図

 図6に、図2~5で得た結果の概要図を示した。
 ここで、タイトネスクラスの考え方は、ROTTをそのまま流用した。そのほか、ここで使用する記号、単語は、基本的にROTTに従うものとする(*2)
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 運転時に必要な、最低限の締付け状態を表すタイトネスパラメーターTpminおよび図6より、運転時に必要な最低限の変位量εminがわかる。つぎに、このTpminで定義される運転状態を達成するための、初期締付け状態を仮定する必要があり、そのタイトネスパ ラメーターTpaに対し、初期締付け時に必要な変位量εaがわかる。Tpaは、ROTTでは、Tpa=X Tpmin(X=1.5×Sb/Sa:Sa;常温時の許容ボルト応力、Sb;設計温度下での許容ボルト応力)と定義されており、簡単には試験圧力Pt(=1.5×Pd)が負荷された場合を 想定したものである。
 得られたεminおよびεaおよび図7に示す圧縮復元曲線より、ε=εaおよび圧縮曲線との交点を初期締付応力SA、ε=εminと復元曲線との交点より運転時の最小ガスケット応力SGmin(=Sm1)を確認することができる。
 初期締付け力SAおよび最小設計締付応力SGminがわかれば、PVRCの提案するボルト荷重設計に従い、ガスケット締め付け時のボルト荷重Wm1および使用状態でのボルト荷重Wm2を求めることが可能である(*2)

4.ガスケット変位量(ひずみ)による整理の利点

 上述のように、変位量とタイトネスパラメーター(ひずみと漏洩量)において、Part A、Part Bに関係なく、相関関係が得られたことから、以下のような利点が考えられる。
1)試験時間の短縮
 現状のROTTは、一試験体を評価するために、数日以上の時間を要する。一方、本案では、Part AおよびPart Bが同じ線上で近似できるため、圧縮時の所定ひずみにおけるガスケットのシール性能のみを確認すればよく、試験時間の短縮が期待できる。
2)設計の簡略化
 ROTTでは、Part A、Part Bでヒステリシスを描くため、設計係数が、それぞれ必要であるが、本案では、Part A、Part Bに関係なく、ひずみで整理できるため、より簡易な設計が期待される。
3)実機フランジの解析、設計の簡略化
 実機フランジでは、フランジローテーション、曲げ応力などの影響により、ガスケット応力はガスケット径方向でばらつく。現状、欧米、国内ともに圧縮試験機による評価であり平均面圧による評価であるが、ひずみによる設計を行うことで、実機に即したクリープなど考慮することが可能であり、より長期、高温使用を考慮した設計が可能となる。

5.今後の課題

1)ガスケットクリープと変位量
 ROTT試験は、荷重および内圧負荷後、クリープおよび漏洩量が安定するまで放置しており、得られた変位量はクリープを含む。ただし、長期間にわたるクリープおよび高温でのクリープなどについては、現時点では考慮できておらず、今後の課題である。とくにクリープの影響を受けるふっ素樹脂ガスケットなどでは、別途クリープ量を考慮する必要がある。
2)ひずみと漏洩量の相関の高温への運用について
 ユーザーでの使用は常温のみならず、高温まで多岐にわたる。高温でのひずみと漏洩量測定を行うことで、前報で報告した相関関係が得られるかを確認する必要がある(*13~*14)

6.おわりに

 欧米においては、ASME Sec.Ⅷに替わるフランジ設計基準の見直しが進んでいる。しかし、我国では、こうした作業についての関心はあまり高くは無い。こうした規格見直しの背景には、環境問題をはじめとする、技術、社会環境の変化がある。欧米独自の作業によって、規格が改定された場合、機械的にそれを運用することに大きな問題は無いであろうが、現実には、規格改定の背景と技術的検証過程を充分に理解しないと、その運用に問題が生じることは多い。当社は、多年にわたりガスケットの基礎的評価を実施すると共に、欧米の動きについても、初期の段階からその情報の収集を図り、独自にPVRC及びCENの提案を検証してきた。弊社の提案する手法は、現時点ではまだ充分でない部分もあるが、運用面ではより実用性の高い手法を提起し得たと考えている。当社は、顧客の方々に、単にシール製品を提供するにとどまらず、それら製品が使用されている周辺技術についてもサポートできる体制を整え、より高い信頼性を提供すべく、今後も一層努力する所存である。

7.参考文献

1)ASME, 1982, Boiler and Pressure Vessel Code,Section Ⅷ,Division 1,Appendix Ⅱ.
2)西田,PVRCの提案する新ガスケット係数,バルカーレビュー,第39巻第12号(1995)P.5-10.
3)小林・鈴木・西田・山中,ガスケットのひずみ量に基づく漏洩量評価,日本機械学会山梨講演会講演論文集(1999),69.
4)小林・西田・鈴木,ジョイントシートガスケットの漏洩特性の数学モデル,日本機械学会山梨講演会講演論文集(2000),87.
5)Kobayashi T. et all, “Leak Tightness Evaluation of Gaskets Bolted on Compression Strain”, ASME PVP-Vol.405, pp.23-27, 2000.
6)Kobayashi T, Nishida T, Yamanaka Y,“Mathematical Model for Sealing Behavior of Gaskets based on Compressive Strain”,ASME PVP-Vol.406,pp.105-109, 2001.
7)Kobayashi T, Nishida T, Yamanaka Y, “Simplified Sealing Test Procedure of Gaskets based on Compressive Strain”,ASME PVP-Vol.433, pp. 29-34,2002.
8)Kobayashi T, Nishida T, Yamanaka Y, “Effect Creep-Relaxation Characteristics of Gaskets on the Bolt Loads of Gasketed Joints”,PVP-Vol.457, pp.111-118, 2003.
9)Kobayashi T, Nishida T, Yamanaka Y, “Creep-Relaxation characteristics of Gaskets and their effects on sealing behavior”,Proceedings of BHR Group 2003 Fluid Sealing 17 (2003),557-570.
10)辻・藤原,ROTT試験におけるガスケット歪を用いた漏洩量評価,日本機械学会山梨講演会講演論文集(2000),83.
11)Yamanaka Y. et all, “A New Method for Designing Bolted Flanged with ROTT data(Presentation only)”,PVP2000
12)西田・朝比奈・山中,うず巻形ガスケットのROTTによる常温シール特性評価および高温評価,バルカーレビュー,第40巻第12号(1996)P.1-12.
13)辻・小平・藤原,フランジ継手用ガスケットの常温・高温下における漏洩量評価(第二報:試験温度の改善),日本機械学会山梨講演会論文集(2001),99.
14)Tsuji H., Kitagawa H., Kodaira N., “Effect of Aging time on Sealing Performance of Non-Asbestos gasket at elevated temperature”,PVP-Vol.478,pp.209-214, 2004.

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