内圧作用下での渦巻き型ガスケット付き大口径管フランジ締結体のFEM応力解析と密封性能評価 2

p10-1
山梨大学工学部
澤 俊行,尾方 尚文
Toshiyuki SAWA Naofumi OGATA
日本バルカー工業(株)
西田 隆仁, 山中 幸
Takahito NISHIDA,Yuki YAMANAKA
5-2漏洩量測定実験結果
 図13はPVRCのROTT実験結果と比較のために実際の大口径管フランジ締結体を用いて行った漏洩量測定実験結果を示している。縦軸はガスケット応力Sg,横軸はタイトネスパラメータTpである。なおガスケット応力Sgは初期平均ガスケット接触応力とし内圧作用によるガスケット応力の減少は考慮していない。表1は本実験から得られる大口径管フランジ締結体(Larger flange,LF)および小口径管フランジ締結体(Smaller flange,SF)の新ガスケット係数(Gb,a,Gs)(6)と,PVRC方式のROTT実験から得られる新ガスケット係数の比較を示している。本実験結果におけるガスケット接触応力は初期平均ガスケット接触応力(Initial)である。表1に示されるように内圧の作用によるガスケット接触応力の減少を考慮しない場合,本実験から得られる新ガスケット係数とPVRCの新ガスケット係数との差異は大きい。
 表2は解析から得られる内圧作用時の平均ガスケット接触応力(Actual)を用いて算出した新ガスケット係数を示している。ただし大口径管フランジ締結体に関しては,ガスケット有効接触面積を考慮し,ガスケット接触応力σz=19MPa以上(図8)の平均値を用いた。従ってこれらの係数が実際のガスケット接触応力とタイトネスパラメータTpの関係を表すことになる。またPVRCの値との差異は小さくなることが示されている。
 なお,図13に示す実際の管フランジ締結体を用
p11-1
いた場合は, PVRC(6)-(l3)のPART Bに対応するGsを求めるための測定は意味を持たない。しかしPVRCのROTTにおける新ガスケット係数Gs(6)-(13)の比較のため実際の管フランジ締結体を用いてボルト軸力を減少させて漏洩実験を行っている。PVRCのPART Bにおける実験は,実際の締結体の挙動すなわち図1に示す内圧作用時におけるFcの値,つまり内力係数の値が求められないためである。このため経験的な実験手法となっていると推測される。

5-3ボルト初期締付け力の決定
 表3はある内圧作用時タイトネスパラメータTpを与えた時,本実験および解析結果から得られるボルト初期締付け力FfとPVRC方式の決定方法から得られるボルト初期締付け力Ffを示している。表3 (a) は内圧作用時タイトネスパラメータがTp=100,表3(b)はTp=500,表3(c)はTp=1000の時のボルト初期締付け力Ffを示している。作動内圧はP=5MPa (圧力-温度基準による大口径管フ
p11-2
ランジ締結体の最大許容内圧)を想定している。なおLFおよびSFはそれぞれ大口径および小口径管フランジ締結体を表す。図14および図15はそれぞれのボルト初期締付け力Ffの決定方法を示しており,決定方法は以下の通りである。
p12-1
①ガスケット接触応力分布を用いた決定方法
 図14(a)は管フランジ締結体のガスケット接触応力と内圧Pの関係を示しており,内圧Pが大きくなると平均ガスケット接触応力がFf/Aから(Ff-Fc)/Aに減少する様子を示している。なおガスケット接触面積AはFEM解析より求める。また図14(b)は管フランジ締結体の内圧作用時ガスケット応力Sgと内圧作用時タイトネスパラメータTpの関係を示している。大口径および小口径管フランジ締結体それぞれに対して,ある内圧作用時タイトネスパラメータTp(点C,図14(b))を実現するために必要な内圧作用時ガスケット接触応力は本研究の実際の管フランジによる漏洩量測定実験結果(表2)を用いて図14(b)の点Dとなる。またその内圧作用時ガスケット接触応力(点D,図14(b))は,図14(a)における点Fでの内圧作用時ガス ケット接触応力(Ff-Fc)/Aと同一である。点F(図14(a))に対しての初期締付け時のガスケット接触応力Ff/Aは点G(図14(a))となる。初期締付け時に必要なガスケット接触応力(点G,図14(a))は,有限要素解析により内圧作用時ガスケット接触応力(点F,図14(a))から逆問題として求める。初期締付けカFfは初期締付け時ガスケット接触応力(点G,図14(a)) とガスケット接触面積Aから算出される。
②PVRC方式の決定方法
 図15はPVRC方式(9)-(13)によるボルト初期締付け力Ff,の決定方法を示している。常温において内圧作用時タイトネスパラメータTp(点J,図15)に対して,初期締付け時タイトネスパラメータTpa(点L,図15)はTp(点J,図15)の 1.5倍とされている。
 なおPART B線上のSm1は内圧作用時ガスケット接触応力(点M,図15)を示している。Sm1は新ガスケット係数(Gb,a,Gs)およびタイトネスパラメータを用いて次式で与えられる(9)-(13)
p12-3
 なおTpaは初期締付け時タイトネスパラメータTpa=1.5Tp,Trは初期締付け時タイトネスパラメータと内圧作用時タイトネスパラメータの対数比Tr=log(Tpa)/log(Tp)である。また内圧作用によるガスケット接触面積の減少(内圧のしみ込み)とガスケット接触応力の減少H/Ag(図15)を考慮した内圧作用時ガスケット接触応力Sm2(点M',図15)は次式で与えられる(室温)。なおH(=P・Ai)はしみ込みを考慮した場合の内圧による軸方向引張り荷重(エンドフォース),Aiは内圧のしみ込みを考慮した内圧作用断面積,Agは初期ガスケット接触面積(しみ込みを考慮しない)である(11)。AiとAgは規格中で推定されたガスケット有効幅を用いて得られる値であり,先に述べた解析によるAの値とは異なる。
p12-4
 なおSyaは初期ガスケット接触応力と呼ばれ,ボルトの締付け効率Aeとした場合Sya=Gb(Tpa )a/Aeとなり,Ae=1.0(締付け効率100%)の時,Syaは点N(図15)のガスケット応力と同一であり,PART AとPART Bの交点となる。理想的にはSm1とSm2(点Mと点M')は同ーとなることが望まれる。
 PVRCではSm1とSm2,さらに2P (作動内圧Pの2倍)とガスケット固有の最小ガスケット接触応力SLを加えて計4つの応力値の中で,最も大きい応力値を内圧作用時ガスケット接触応力Sm0とするとしている。ボルト1本当たりのボルト初期締付け力Ffは内圧作用時ガスケット接触応力Sm0と内圧Pによるガスケット接触応力の減少を考慮して次式で表される。なおNはボルト本数である。
p12-5
 本研究で用いた渦巻き型ガスケットの場合,内圧作用時タイトネスパラメータTpがTp=100,500,1000のいずれの場合もSm2の値がSm1,2PおよびSLの値よりも大きい。例えばTp=1000のとき,Sm1の値は小口径および大口径管フランジ締結体いずれの場合も40.3MPaである。Sm2の値は小口径管フランジ締結体が79.1MPa,大口径管フランジ締結体が66.6MPaである。また2P=10MPa,SL=6.2MPaとなり,Sm2>Sm1>2P>SLとなる。したがってSm2の応力値を用いて式(3)からボルト初期締付け力Ffを決定する。さらに念のため初期ガスケット接触応力Sya(締付け効率Ae=1.0)を用いてFfの算出を試みてみる。
 表3において①の方法から得られるボルト初期締付け力Ff(ボルト1本)を示している。また表中のPVRCは②の方法(Sm2)から得られるボルト初期締付け力Ffを示しており,括弧中に示す値は初期ガスケット接触応力Syaを用いて計算されるFfである。Sgは①および②の方法から得られる内圧作用時ガスケット接触応力(図14の点Dと点Fおよび図15の点M'),lnitial contact stressは①の方法から 得られる初期締付け時ガスケット接触応力(図14の点G)を示す。表3より大口径(LF)と小口径(SF)管フランジ締結体いずれの場合も,本解析および実験から得られるボルト初期締付け力FfとPVRC方式により得られるボルト初期締付け力Ffの差異は大きく,PVRC方式により得られるFfの方が小さいことが示されている。大きな差異が生じる根本的原因は推定された内圧作用時ガスケット接触応力Sgの差異にあると考えられる。PVRC方式から得られる内圧作用時ガスケット接触応力Sg(PVRCではSm0と呼ぶ)は,本実験および解析から得られる値よりも極めて小さい。したがってPVRC方式における式(3)(①の方法における図14(a)に相当)が仮に妥当であったとしても,適切なボルト初期締付け力Ffを得ることは極めて困難である。実際には式(3)が妥当であるとは言えず,実際の管フランジ締結体では内圧によるガスケット接触応力の減少だけではなく,ボルト軸力の増減が発生する。すなわち式(3)の左辺は実際はFfではなく,厳密には(Ff+Ft)となる。Ftの増減分が大きいと誤差は大きくなる。基本的に従来の方法およびPVRCの方法では図1に示すFt(内力係数)およびFcを求める不静定問題が解かれず,仮定を重ねているため実験の値と大きい差異が生じることになると考えられる。
 小口径管フランジ締結体(SF)と比較して大口径管フランジ締結体(LF)の方が,①の方法(本実験および解析)と②の方法(PVRC方式)から得られるボルト初期締付け力Ffの差異が大きく,最大で約55%である。この原因はPVRC方式から得られる内圧作用時ガスケット接触応力Sg(Sg0)の推定値が小さいことと大口径管フランジ締結体(LF,20インチ)の内力係数φgが負となり,内圧作用によるガスケット接触応力の減少量が大きいためと考えられるが式(3)にはこのような点が考慮されていない。PVRC方式によりボルト初期締付け力Ffを決定した場合,内圧作用時の密封性能が不足する可能性があり注意が必要である。
 また念のため行ったSyaを用いる場合,内圧がP=5MPa程度までなら小口径管フランジ締結体(SF)に関しては,Syaから必要なボルト初期締付け力Ffをかなりの精度で決定することができることが示されている。しかし大口径管フランジ締結体(LF)に関しては,①の方法(本実験および解析)から得られるボルト初期締付け力FfとSyaから得られるボルト初期締付け力Ffの差異は大きい。大口径管フランジ締結体のボルト初期締付け力を設定する際には以下のことに注意する必要がある。(1)ガスケット有効接触面積が減少する,(2)単位ガスケット接触面積に対する内圧による軸方向引張り荷重Wが大きい,(3)内力係数φgが小さくなり(負となる場合もある),内圧によるガスケット接触面から失われる荷重が大きい。以上のことをふまえた上で設計する必要があり,基本的には内圧作用時のガスケット残留応力をより正確に推定する必要がある。
 内圧作用時タイトネスパラメータをTp=1000とした場合,Sm1におけるタイトネスパラメータTpの値はTp=1000となるべきであるが,実際にはTp=832である。Sm1は式(1)に示すように新ガスケット係数(Gb,a,Gs)を用いて算出されるが,係数“Gs"を実験(ROTT)により得ることは難しく(PART BはTp=1で収束するとされている(9)-(13)が実際には収束しない),係数“Gs"の妥当性については疑問が残る。またPVRC方式のボルト初期締付け力決定法(6)-(13)における初期締付け時タイトネスパラメータTpが内圧作用時タイトネスパラメータTpaの1.5倍であるという理論的根拠は無い。内圧作用時タイトネスパラメータをTP=1000とした場合,大口径管フランジ締結体に関して初期締付け時タイトネスパラメータTpaを内圧作用時タイトネスパラメータTpの1.5倍ではなく約4倍,小口径管フランジ締結体の場合は約3.2倍としたとき,①の方法から得られるボルト初期締付け力Ffとほぼ一致する。実際のボルト初期締付け力Ffの決定においては,PVRC方式の決定方法は簡易であり適切であるが,内圧作用時ガスケット接触応力の推定値が極めて小さい。また応力挙動の異なる2つの管フランジ締結体に関して許容漏洩量からボルト初期締付け力Ffを決定する場合,全く同一のボルト初期締付け力決定方法を使用して正確な許容漏洩量を得ることは困難である。すなわち内圧作用時のガスケット残留応力をより正確に推定することが重要であり,PVRCの方式ではボルト初期締付け力Ffが危険側となる。
 一方,大口径(LF,20'')および小口径管(SF,3'')フランジ締結体の応力挙動に大きな差異が生じるのは,主に両者の形状(寸法)の差異が原因と考えられる。表4は大口径および小口径管フランジ締結体の応力挙動に関して,特に影響を与えると考えられる形状(寸法)の差異を示している。①は渦巻き型ガスケットのフィラ一部面積,②はボルト有効径を用いて算出したボルト総有効面積(大口径;M33×24,小口径M20×8),③は(ガスケットフィラ一面積/ボルト総有効面積,①/②),④はボルト穴中心円直径,⑤は隣接する2つのボルト穴中心距離(=(ボルト中心円直径×π)/ボルト穴数),⑥はフランジ厚さを示す。大口径管フランジ締結体のボルト1本当たりのガスケット接触面積は小口径
p13-1
管フランジ締結体のそれよりも大きいことが分かる。またボルト穴中心開距離の差異(6.35倍)に対してフランジ厚さの差異は2倍であり,大口径管フランジ締結体のフランジ厚さは小口径管フランジ締結体と比べて相対的に小さい。このように大口径管フランジおよび小口径管フランジ締結体の形状(寸法)に比例関係は成り立たず,両者の応力挙動(特にガスケット接触応力分布)に大きな差異が生じる結果となっている。

6. 結論

 本研究では呼び径20インチと3インチの管フランジ締結体に関して,渦巻き型ガスケットの応力一ひずみ関係の負荷時と除荷時におけるヒステリシスと非線形性を考慮した弾塑性有限要素解析により内圧作用時のガスケット接触応力分布を明らかにし,応力分布を用いて与えられたタイトネスパラメータTpに対するボルト初期締付け力を決定した。本研究により得られた主な結果は以下の通りである。
(1)呼び径20インチの比較的大口径の管フランジ締結体の内圧作用時ガスケット接触応力分布を有限要素法により解析し,内圧作用に伴いガスケット接触応力の減少と密封有効面積が減少することを明らかにした。またガスケットの応力一ひずみ関係の除荷時の傾きが小さくなるほど、ガスケット接触応力分布が平均化され、密封性能が向上すると予測された。
(2)呼び径20インチと3インチの管フランジ締結体の内圧作用時ガスケット接触応力分布の差異を明らかにし,大口径管フランジ締結体のガスケット接触応力分布はフランジローテーションにより大きく変化することを示した。また大口径管フランジ締結体は小口径管フランジ締結体と比べて,内圧によるガスケット接触応力の減少量が大きいことを示した。
(3)呼び径20インチと3インチの管フランジ締結体の内カ係数φgを有限要素解析と実験から求め,その差異を明らかにした。大口径管フランジ締結体(20")の内力係数φgは負となることを示した(フランジローテーション)。
(4)実際の管フランジ締結体を用いて漏洩量測定実験を行い,内圧作用時ガスケット接触応力を有限要素法により解析し,管フランジ締結体の内圧作用時ガスケット接触応力とタイトネスパラメータTpの関係を求め新ガスケット係数を算出し,PVRC方式の一様応力下での新ガスケット係数の値と比較し,その差異を示した。
(5)与えられた内圧作用時タイトネスパラメータTpに対し,ガスケット接触応力分布および(4)の結果を用いる方法とPVRC方式の方法により密封に必要なボルト初期締付け力Ffを決定した。大口径と小口径管フランジ締結体いずれの場合も両者のボルト初期締付け力Ffの差異は大きいことを示した。その原因は推定された内圧作用時ガスケット接触応力の差異であると推測され,PVRC方式から推測される内圧作用時ガスケット接触応力は極めて小さいことを指摘した。またSyaを用いた場合,小口径管フランジ締結体に関して内圧がP=5MPa程度であれば両者の差異は小さいことを示した。
(6)PVRC方式に関して大口径管フランジ締結体については,初期タイトネスパラメータTpを内圧作用時タイトネスパラメータTpの約4倍,小口径管フランジ締結体については約3.2倍とした時,ガスケット接触応力分布および(4)の結果を用いて得られるボルト初期締付け力Ffとほぼ一致することを指摘した。すなわち,本論文で指摘するように内圧作用時のガスケット残留応力をより正確に推定することにより,より正確な漏洩評価が可能であることを示した。

 本研究の漏洩量測定実験は日本高圧力技術協会の第2次フランジガスケット委員会(委員長,沢俊行)で行ったものであり,研究の端緒を与えられた同協会事務局田原隆康博士をはじめ関係各位に謝意を表したい。
〈参考文献〉
(1) 澤・熊野・小林・伊藤,機論,49-445,1149,(1983)
(2) 澤・熊野,機論,50-445.1383,(1984)
(3) T.Sawa,N.Higurashi,and H.Akagawa,ASME,Journal of Pressure Vessel Technology.497,113,(1991)
(4) T.Morohoshi,and T.Sawa,ASME,Journal of Pressure Vessel Technology,207.116,(1994)
(5) T.Sawa,T.Hirose,and Y.Na kagomi,ASME,Journal of Pressure Vessel Technology,115,118 ,(1996)
(6) T.Sawa,O.Naofumi,ASME Analysis of Bolted Joint2001.PVP302,102,(2001)
(7) 西田.バル力一レビュー,24-10,1,(1980)
(8) 岩浪・近森,パッキン技術便覧,産業図書,51,(1973)
(9) K.H.Hsu and JamesR,Payne,ASME,Valves,Bolted Joints,Pipe Supports,and Restraints 1992.PVP236,79,(1992)
(10) K.H.Hsu,James R.Payne and J.R.Winter,ASME,Advanced Computer Applications 1994.PVP 274,53,(1994)
(11) John H.Bickford,Gaskets and Gasketed Joints.Marcel Dekker,423,(1997)
(12) 西田,バル力一レビュー,39-12,1,(1995)
(13) 澤,第11回圧力設備の材料,設計,施工,維持管理講習会テキス卜,日本高圧力技術協会,92,(2001)
(14) JPI-7S-15-70,-43-72
(15) F.Ando,T.Sawa,M.lkeda,and T.Furuya,ASME,Component Analysis and Evaluation,A ging and Maintenance,and Pipe Supports 1998,PVP 376,39,(1998)
(16) ASME/ANSI B16,5,PRESSURE-TEMPERATURE RATINGS, (1988)

ページの先頭へ戻る
ページの先頭へ戻る