ふっ素系エラストマー材料における高熱伝導化の課題と対策

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シール開発本部 開発グループ
今田 博久

1. はじめに

 近年、急激な温度変化や腐食性の強い化学薬品を使用する化学工業分野では、樹脂材料にとって過酷な環境が強いられている。この産業分野では部材を劣化させないために温度制御に対する関心も高く、熱伝導関連の技術、製品が注目されている。
 しかしながら、現在市場では低荷重で熱伝導特性が発現する有機系の熱伝導材料として、汎用性の高いシリコーンゴムやアクリルゴムといった材料が主流であり、これらは耐熱性がおおむね200℃以下と低く、200℃~300℃で使用可能な材料は少ない。

 この温度域で使用可能な有機系エラストマー材料としてはふっ素ゴムが挙げられるが、熱伝導特性を持たせるためにはフィラーを高充填させる必要があり、ポリマー比重の高いふっ素ゴムではシート硬度の上昇や強度の低下が顕著になる傾向がある。シート硬度の高い熱伝導材料は相手面との追随性が悪くなるため、接触熱抵抗が増大し、結果として熱伝導性能が発現しにくくなる。ゴム材料での高硬度化に対する対策としては、一般的に加硫密度の低い材料や主鎖の短いポリマーを選定する方法や、可塑剤を添加する方法などが存在するが、両手法共にポリマー成分や可塑剤のブリードによる汚染が問題となるケースがあり対策が必要となる。

 これらの課題を踏まえ、多様な特徴のふっ素ポリマーより、ポリマー主鎖が短く、加硫後も硬度増大を示しにくい液状ふっ素ゴムを選定し、熱伝導性フィラーとしては一般的なアルミナフィラーを用いた時のシート強度、及びブリードの課題対策について、ポリマーの構造や加硫系を踏まえて報告する。

2. 高充填手法

2-1)高充填の必要性
 エラストマーの熱伝導率はおおむね0.1W/mKと低く、ポリマー単体では熱伝導材料となり得ないため、熱伝導特性を持った充填剤を添加することとなるが、熱伝導特性を発現させるためには一定量以上の充填剤を添加する必要がある。
 Figure1に充填材をアルミナとしたときのMaxwellの予測式より算出したグラフとシリコーンゴムを基材としたときのアルミナ充填率と熱伝導率の関係を示す。
 Maxwellの予測式1)より算出したグラフは、シリコーンゴム基材の実測値とよく一致している。同様のアルミナ充填材を用いる場合、ふっ素ゴム基材とした場合でも同じ傾向が得られることが推測され、熱伝導率を大きく向上させるためには、体積パーセントで60%以上の充填が必要であると考えられる。
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2-2)熱伝導性充填剤の高充填手法
 Figure2の構造を持った液状ふっ素ゴムに対して、フィラーを充填し、成型性と物性を評価したところ、フィラーの充填率58vol%で加工性が低下し、63vol%では成型が不可となった。また、得られたシートはMaxwell式に相関し熱伝導性能が向上しているが、硬度が非常に高く、強度も低い結果が得られた2)
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 一般的にゴム材料へのフィラー充填においては、ポリマーとのなじみ性により大きく硬度や強度といった特性が左右される。これは、ポリマーとフィラー間での化学結合性やポリマー内でのフィラーの分散性が関与している3)
 そこで、ふっ素ポリマーと添加されるフィラーとのなじみ性を向上させるために、フィラーの表面処理を実施し、ポリマー中での分散性の改善を試みた。表面処理を施したフィラーを用いて、前述と同様の成型を行ったところ、加工性の向上が確認され、また得られたシートについても硬度の低下や強度の改善が確認された。
 Figure3、4、5に表面処理の有無による硬度と引張強度、熱伝導率の評価結果を示す。
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 フィラーの表面処理を実施することによって、硬度や強度に改善が見られるが、シート強度やブリードについては、液状ふっ素ゴムの構造や加硫構造の面からも更なる検討が見込まれるため、次項にて要因と対策について説明する。
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3. 高強度化技術

3-1)強度の低下、ブリードの要因と対策
 Figure2の液状ふっ素ゴムは2液を混合し、加熱することによりAに含まれるビニル基とBに含まれるヒドロシリル基で反応が進行する。ここで着目すべきは、前述の反応系では直鎖状の重合体が得られやすく、ゴムに見られる網目鎖構造(ポリマー分子間に見られる架橋構造)を有しにくいという点である。前述の強度の課題は成型後のシートのポリマー成分が網目鎖構造を有しにくいため、主として高分子鎖の絡まりによって形状を維持しており、また架橋点が少ないために結合を切断する際に必要なエネルギーが小さい点にある。またブリードの課題は、熱負荷時エントロピーが増大した際に見られる分子間のすき間から担持していた成分がシート表面ににじみ出ていることが要因であると考えられる。
 そこでビニル基やヒドロシリル基と反応し得る共架橋剤を用いて、選定した液状ふっ素ゴムが通常形成する直鎖状高分子鎖中に3個以上の架橋部位を持つ共架橋剤を配置させ ることにより、異なる高分子鎖との架橋が成立すると仮定した。その結果 Figure6、7のような網目鎖構造をシートポリマー中に有することが可能であると考えた4)

 網目鎖構造を保有させることにより、架橋点が増加するため、強度が増加し、また、ゴム中の成分についても、網目鎖構造中に担持され、熱負荷時においても高い担持性を維持し、強度とブリードに関する課題を解決できる可能性がある。
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3-2)共架橋剤配合
 共架橋剤としては、立体網目鎖構造を構成させるために、架橋部位を3個以上持つ材料を選定した。
 Figure8の共架橋剤の例では、ヒドロキシル基、もしくはヒドロシリル基が架橋部位となり、シート成型時のポリマー構造が網目鎖構造となると考えた。
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 また、前述の仮説を検証するために、Table1の配合にて試験サンプルを作成し、有効網目鎖濃度の測定を実施した。今回のサンプルについては、フィラーの充填による膨潤度への影響を無視するために、フィラー無充填の配合とした。液状ふっ素ゴムを膨潤させるのに用いた溶媒としては、ふっ素溶媒(住友スリーエム㈱;フロリナートFC-84)を用いた。

 共架橋剤を添加することにより、有効網目鎖濃度が増大し、シート中に網目鎖構造を形成していることが確認された。
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3-3)網目鎖構造の効果
 網目鎖構造を有することによる物性面での効果をTable2の配合により検証した。液状ふっ素ゴムに対して、表面処理を施したフィラーを58vol%、共架橋剤を指定量添加し、コンプレッション成型にてt=2.0mmのシートを成型した。
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 有効網目鎖濃度から共架橋剤の効果を確認したが、物性面からも網目鎖構造が形成されたことによる強度面の向上が確認できる。ただし、伸びに関してはフィラーの高充填が影響し、特性の向上が確認できなかった。
 また、Table2の試験サンプルの内、共架橋剤なしサンプルと共架橋剤7.5%添加サンプルについて、10mm角、t=0.5mmのシートをろ紙で挟み、20%圧縮、150℃、72時間の熱負荷をかけ、試験後のろ紙への染み出し半径にてブリードの状態を評価した。
 共架橋剤を添加していないシートではブリードによる染み出し距離が25mmと大きく、一方、共架橋剤を添加したシートではブリードによる染み出しが抑制され染み出し距離が20mmである結果が得られ、染み出した面積がブリード量であると考えた場合、おおむね60%の抑制効果があることが確認された。
 網目鎖濃度の評価結果とシート強度、及びブリードの評価結果より、シートポリマー中の網目鎖構造が増加し、結果として課題であった強度やブリードが改善されたと考えられる。
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4. まとめ

以上の評価結果より、下記の結論が得られた。

1: 共架橋剤を使用することにより、液状ふっ素ゴムに網目鎖構造を有させることが可能である。
2: 網目鎖構造を有させることにより、高充填時であっても強度の調整や低硬度化させることが可能となる。

5. おわりに

 ふっ素系熱伝導材料の高熱伝導化では、熱伝導特性と硬度や強度といった特性の最適化において、今後もフィラーの選定や共架橋剤の選定による、更なる検討を試みる必要があると考えている。

6. 参考文献

1)資源と素材 Vol.119 p.1-8(2003)
2)ゴム材料化学序論(1995)
3)新版 ゴム技術の基礎(2000)
4)新規液状ふっ素ゴムの特性と用途(1999)

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