ふっ素樹脂フィルムとその高機能化 2

P6-1
2-1-6)キャスティングフィルム
 PTFEディスパージョンを金属ドラムに塗布し、乾燥後剥離して作るキャストフィルムは、フィルムに物理的な負荷を加えずに製造するため、分子の配向が起こらず、強度や光学特性などに方向性が無いという特徴がある。
 キャスティングフィルムは、1回の塗布では十分な厚さが得られないため、複数回の塗布を行う必要がある。このため、厚いフィルムの製膜には適さないが、平滑でピンホールレス、各層で組成を一部変更(顔料やフィラーの添加)できるなど切削フィルムとは全く異なる特徴を有する。
P9-2
 キャスティングフィルムは精密部品・半導体部品、コンデンサ誘電体、絶縁被覆、各種ベルトラミネート材、医療機器、多層用プリント基板プリプレグ材などに用いられる。
2-1-7)ファブリック(PTFE含浸ガラスクロス)
 PTFEのテープ材やシート材は、切削の他にディスパージョンを多孔質フィルムや織布に含浸させることでも製作される。
 本項では、一般にファブリックと呼称されるPTFE含浸ガラスクロスについて紹介する。
P9-3
 ファブリックはFigure7に示すようにガラスクロスをPTFEディスパージョンに浸漬し、引き上げて乾燥し焼結することにより製造される。ただし、一度のサイクルで塗布できるディスパージョンの量は限られるので、所定の厚さまでこの浸漬-乾燥-焼成を何度も繰り返す。従って、基材となるガラスクロスと含浸量を調整することで、所望の厚さのファブリックを精度良く製造可能である。
 ファブリックは電気絶縁用途の他、離型用途として使用される。特に、機械強度や寸法安定性に優れることから繰り返しの使用が求められる炭素繊維の成形時の離型やラミネート工程の離型、ヒートシーラーなどに良く使用されている。
 また、食品用途としての事例も多く、特にパンやピザ生地の搬送ベルトやファストフードの厨房などで頻繁に使用されている。欧米では家庭用のオーブンシートや、フライパンシートといった用途もある。
P9-4
 さらに、軽量で耐久性・耐候性に優れることから膜材としても有用で、近年、商業施設や駅舎、興業施設などの屋根材として盛んに使用されている。
 前述の通り、ファブリックは基材(ガラスクロス)の厚さやPTFE含浸量の調節が容易であるため、同じ厚さでも樹脂リッチにして平滑性や耐久性を向上させたグレードから、逆に表面をエンボス状としたグレードまで用途に応じた提案が可能である。
 また、原料のディスパージョンにはフィラーや顔料を混合することができるため、着色グレードや帯電防止グレードなどの付加価値を付けたものや、基材となる織布をメッシュ状にすることで通気性を持たせたもの、アラミド織布を使用した強靱なファブリックの製造も可能である。
2-2)表面処理
 非粘着性はふっ素樹脂の代表的な特性の1つである。ふっ素樹脂の表面に接着できるようにするには2つの方法がある。その1つはふっ素樹脂表面を特殊処理により、接着可能な面に改質する方法であり、もう1つはふっ素樹脂同士、または、溶融粘度の低いふっ素樹脂(PFA、FEPなど)を用いて、溶融熱圧着する方法である。
【一般的な表面処理方法】

⑴化学的処理
 処理液の種類
 ① 液体アンモニア+ 金属ナトリウム溶液
 ② (ナフタレン+テトラヒドロフラン)+金属ナトリウム溶液

 金属ナトリウムの液体アンモニア溶液中にPTFE成形品を浸すと表面から反応してふっ素はNaFとなり取り除かれ炭素を生成し表面は接着可能になる。
 いずれも処理時間により表面が淡褐色ないし黒褐色に変わる。表面処理層の深さは約0.001mm 以下である。
 表面処理面を紫外線にさらすと処理効果が徐々に低下するため遮光し、処理面を保護する必要がある。

⑵電気的処理
 電気的処理の種類
 ① スパッタエッチング処理
 ② プラズマ処理

 スパッタエッチング処理は放電などによりイオンを発生させ、これをふっ素樹脂表面に当ててエッチングする方法である。
 表面は微細な針状、または尖塔状の突起が形成され、アンカー効果により接着性が向上する。処理面の変色はない。
 この他、PTFEフィルムに真空下金属蒸着したり、不活性ガスのプラズマ放電処理によって接着性を高めることも可能である。

3. 複合化

 ふっ素樹脂は純粋性や非粘着性、滑り性が評価され各分野で使用されているが、一方で寸法安定性や機械強度の問題から十分な性能が発揮できず単体で使用できない分野が散見される。このような場合は、金属やゴムといった異材質との複合化をすることで解決がされるが、ふっ素樹脂の非粘着性のため従来はこれらの材質と、ふっ素樹脂を直接結合させるのは困難とされてきた。
 最近、特殊な条件で処理することでふっ素樹脂を金属やゴム、その他樹脂と直接結合させることが可能となりつつあり、新たな展開が期待できるようになってきている。
3-1)金属-ふっ素樹脂ラミネート
 従来、ふっ素樹脂(特にPTFE)を金属に一体化するためには、①粘着剤による貼付け、② PTFE・PFAなどの吹き付け(コーティング)、といった方法が採用されてきた。しかし、粘着剤を使用した場合は純粋性が失われることや、ふっ素樹脂本来の耐熱温度まで使用できないこと、一方、コーティングは厚い樹脂層が得られない、摩耗や脱落が多い、ピンホールが存在するといった問題がある。
 金属板にふっ素樹脂をラミネートした本製品は肉厚(~0.2mm)で充実した構造を有するフィルムを強固に結合させており、従来のコーティング品の弱点を大幅に改良することが可能となっている。例えば、フライパンを例にすると従来の5~10 倍以上の耐摩耗性を有することが判明している。
 現状では食品関連、とりわけパンやケーキの焼型用途においてはコーティングの劣化が恒常的な問題になっているが、この手法により交換頻度の
P10-1
延長が可能となり、大幅なコスト低減を提案できる。
 本製品は、打ち抜きや絞り加工も可能であるため、OA用途や軸受材料などへの展開も期待できる。
3-2)ゴム-ふっ素樹脂ラミネート
 未加硫ゴムに対してふっ素樹脂をラミネートすることより、樹脂とゴムを一体化させることができる。通常、PTFEを熱プレスの離型に使用する場合、PTFEのみではクッション性が足りず、シリコンゴムを併用することが多いが、一体化させる事で取扱の簡略化が期待できる。
 他にも、一体成形時の金型を設計することでPTFEを被覆させたゴム栓やパッキンなどへの応用も可能である。
P10-2
3-3)粘着材-ふっ素樹脂(Sa-PTFE膜)
 複合化の応用として、2-1-4 項に記載の多孔質PTFE 膜と高い粘着力を持つ粘着層を一体化したSa-PTFEベントフィルター製品を開発した。
 Sa-PTFEベントフィルターは高度にコントロールされた微細孔とPTFEの持つ低表面エネルギー性により、外界からの水滴やパーティクルの通過を防ぎつつ、その通気性による内圧調整を両立したフィルターとして、センサー、アンテナ、その他電子機器の防水・防塵・内圧調整に高い信頼性を発揮する。
P10-3
P10-4
3-4)その他
 ふっ素樹脂と異材質との複合化は様々な用途が期待できる。以下に一例を挙げる。

 ◆ PTFE-PIフィルム
   ポリイミドヒーター材料、PTFEフレキシブルケーブル材料
 ◆ PTFE-銅箔
   銅張積層板(高周波基板材料)
 ◆ PTFE-アラミドフィルム
   絶縁材料(高電圧材料)

4. 参考文献

1)プラスチック加工技術便覧編集委員会編、プラスチック加工技術便覧 日刊工業新聞社 (1987)
2)黒川孝臣編、ふっ素樹脂ハンドブック、日刊工業新聞社(1990)
3)ふっ素樹脂デュポンテフロン実用ハンドブック 三井・デュポンフロロケミカル株式会社(2011)
4)ダイキンふっ素樹脂ハンドブック、ダイキン工業株式会社(2009)
5)バルカーハンドブック、日本バルカー工業株式会社(2010)
6)荒木義男、バルカーレビュー Vol5, No.8(1961)
7)膜( MEMBRANE)、26( 3)、141-147(2001)
8)辻和明、瀬戸口善宏 バルカー技術誌、No.23 13-15(2012)
P11-1
back

ページの先頭へ戻る
ページの先頭へ戻る