FPD装置用新型ゲートシールの開発

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日本バルカー工業株式会社 先端産業開発部
チーフエンジニア 辻 和明

1.FPD産業の動向

 FPD(フラットパネル・ディスプレイ)は、非発光型である液晶(LCD)とプラズマディスプレイ(PDP)、有機EL、発光ダイオード(LED)などの自発光型ディスプレイに大別される。
 現在FPDの中でも最も大きな市場シェアを有するLCDパネルデバイスは、当初PC用パネルが中心であったが、液晶テレビ、携帯電話、デジタル家電などへの搭載が一般的となってきた。取り分け近年では、地上波デジタル放送内容の充実化が進み、鮮明な画像をより大迫力で楽しみたいとの一般ユーザーの要望と相まって、大型液晶テレビ需要が急激に拡大している。
 世界のTFT-LCD産業は2005年に520億USドル(前年比20%増)となり、2006年には600億ドルに達する見込みである。市場が拡大すると同時に、需給状況による価格変動の激しいパネルデバイスにおいては、製造原価低減が大きなテーマとなっている。よって、パネル製造各社では、
①大型パネル製造における量産効果を出すための大型基板化
②製造装置スループットの向上
③歩留の向上
 が大きな課題である。
 今後は、低価格化による製品普及を目指し、製造装置の大型化や更なる製造技術の開発競争がますます激化すると予想される。

2.FPD装置用ゲートシールに求められるもの

 トータルシールメーカーとして、当社はパネルデバイスメーカーやパネル製造装置メーカーへ様々なシールを供給している。顧客の現状に応じたシール材料や形状の開発により、製造ラインのトータルランニングコストを低減することに取り組んでいる。近年の装置の大型化は、ゲートバルブの大口径化につながり、これに使用されるゲートシールについても高機能化が求められている。
 今後のゲートシールにおいては、現場のメンテナンススケジュールに応じたシール寿命の延長が必要不可欠であり、このためには、大型化によるシール面圧への影響に配慮した最適シール設計が必要となる。
 誤ったシール設計を行うと、シール材の転動やパーティクルの異常発生等を招くことになり、著しく寿命を短くする。特に大口径化したゲートバルブは、高い位置精度でシールプレートを駆動させることが難しくなる。装着箇所によって、シールへの面圧が変動し、また装着箇所へのプレート接触タイミングのわずかなずれが発生しやすくなる。このような状態で使用すると溝内でのシールの転動が加速される。これまでゲートシールは、一般にO-ringが使用されていたが、今後ますます大型化する装置への対応は、もはやO-ringの設計最適化では対応できなくなっている。
 当社は、これまで培ってきたシール設計技術を基盤に、ゲート駆動部の大型化に対応した転動防止異型ゲートシールを開発した。異型シールは一般に装着性の悪化を招く危険性があるが、大口径化するゲートバルブへのシール装着時間の短縮を狙い、従来のO-ringと同等以上の装着性を実現している。

3.新FPDゲート用シール

 前述の問題点を克服し、かつ長期間に渡り安定したシール特性を得ることを目的に、異型ゲートシールを開発した。以下にそのデザインコンセプト、シールの特徴を概説する。
3.1 デザインコンセプト
 開発したゲートシール用異型シールの断面図を図1に示す。形状を検討する際のデザインコンセプトは以下の通りである。
(1)転動防止
 溝形状に合わせた特殊デザインとすることで高い転動防止効果を得る。
(2)装着性改善
 形状の検討により脱落抵抗力を増加させることは比較的容易であるが、装着性が一般的に悪化させ、装着治具の使用、装着における熟練度向上が必要である。装着性をO-ring同等程度まで向上させる。
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(3)対称形状
 ゲートシールは、一般的に矩形状であるため、上下、左右では転動方向が異なる。一方向への転動防止効果を高めても転動を完全に防止することはできない。対称断面を有することで、左右双方からの転動に対して耐性を有する。
(4)脱落防止
 脱落は、転動に伴い発生する場合が多く、転動を防止することで脱落の危険性を回避する。
3.2 形状の特徴
(a)上記突出部の直上に溝開口幅に合わせた第2の突起部を設ける。転動に起因するスラスト方向の負荷が与えられた場合、溝開口部に接触し、転動を確実に防止する。また、装着時には、シール材の傾きを防止し、シールの装着性を大幅に向上させる。
(b)溝開口部下部に位置するように、両サイドに開口幅よりも広い突出部を設け、シール材の溝からの脱落、転動を防止させる。
(c)シールトップ部は、製品幅に対して小さなRを有する。これにより、低荷重でも十分なシール面圧を得ることができる。また装着時の押し込み力がシールTOP部のみに作用し、両サイド突出部の変形を妨げることがないため、装着性の向上がはかれる。
(d)シール底部は、溝開口幅よりも狭いシール幅とし、装着の際の位置きめを容易にさせる。また、両サイドの突起部をできるだけ上方に設けることで、前述装着時の位置きめ時のシール材の傾きを防止する。
(e)溝底面との接触部に平坦部を設け、装着時のシールの挙動を安定させる。シール性向上、圧縮反力低減を目的に若干の凹みを設ける場合もある。

4.シール設計

4.1 転動防止
 本シールの最大の特徴である転動防止機能を実現するために、シール設計は、主にFEA(Finite Element analysis、有限要素解析)を用いて実施した。転動解析の一例を図2に示す。所定の圧縮荷重を与えた状態で、スラスト方向(紙面水平方法)に接触プレートを移動させたときの変形状態をシミュレーションした。この結果、本開発シールは、シールトップ部の変形に留まり、溝底面との接触位置に要素の移動は確認されない。プレー
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トの変形を原点位置に戻すことで、初期状態に戻る。一方、O-ringは、シール全体に回転が発生する。この状態では、プレートを原点位置に戻しても、溝との摩擦により初期状態に戻ることはなく、歪みが残留し、結果的にシールの転動の発生につながる。
 なお、本解析は、転動優位性を調査するため過度に変形を与えている。実際には、わずかな変形が動作の繰り返しによって蓄積され、不具合となるまでの転動発生に至る。
4.2 装着性改善
 開発シールの装着は、シール底部を溝内に挿入し、その後垂直方向に押し込むことで完了する。シール形状の持つ転動防止効果によって、装着時の傾きが抑えられることから、O-ringで見られる装着時の転動も発生しない。
 装着手順を図3に示す。垂直に押し込まれる過程で、厳密には、与えられる力の向きやシール左右の摩擦力の違いによって、シール材の傾きは発生する。このときにシールの肩部突起が、溝開口Rに接し、傾きの増大を抑える。これによって未装着部分が挿入されやすくなる。
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5.機能評価

5.1 評価環境
 本開発品の性能を確認するため、ゲートバルブ実機を使用し、表1に示す試験条件にて動作試験を行った。図4に試験状況一例を示す。
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5.2 評価結果
 評価結果一覧を表2に示す。シール性、脱落性能等は、O-ringと同等であるが、転動防止性能、装着性については、O-ringと比較して、大きな優位性を有する。
 特に転動性能については、新型ゲートシールには全く転動は確認されていない。一方、O-ring形状は、比較的短期使用において転動が発生する。具体的な諸性能に関する問い合わせは、ゲートバルブの機種や駆動形態、試験温度等の評価環境に影響するため、当社までご連絡いただきたい。
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6.FPD装置用エラストマー材料の選定

 FPD装置は、今後ますます大型化、微細化が進むと予測され、それに伴う耐プラズマ性の向上、パーティクル低減など、シール材料に対する要求レベルも高くなると考えられる。特にゲートバルブ用シールなど駆動部のシールは、固定部よりもメンテナンスサイクルが短く、また大型化するほどメンテナンス時間を要することから、シール材の長寿命化が必要となる。
 当社では、FPD装置用シール材として、表3に示す材料をラインナップしている。参考として、表4に各材料のロケーション毎の選定基準を示す。本材料は、半導体製造装置でも十分使用可能なパフォーマンスを有し、かつFPD装置の大型化に対応できるよう大口径シールの製作が可能である。
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 DC156は、FKMでありながら、当社独自の配合技術により耐プラズマ性を大きく向上させ、次世代を見越した高いパフォーマンスを有する材料である。また、シール材の固着も抑え、溝からのシールの脱落の危険性を低減させている。FKM代替シール材料として高いコストパフォーマンスを有する。
 DS403は、FFKM系材料であり、一般FKMに比べ卓越した耐プラズマ、耐クラック性を有する一方、配合技術により低コスト化を実現させた材料である。従来のFFKMから大幅にランニングコストを低減できる。

7.おわりに

 FPD装置用ゲートシールとして、転動を確実に防止し、かつ装着性の優れる異型シールの開発を行った。ゲートバルブ実機による作動試験では、その性能効果が実証され、これまでのO-ringでは実現できなかった長寿命化が期待できる。しかしながら、実機プロセス環境によりシールの寿命は大きく左右されるため、シールの最終可否判断は、実機による動作試験が不可欠である。同シールは、一部のデバイスメーカーで既に評価が行われており、良好な結果を得ている。
 今後も当社の有するシール設計技術を基盤に、独創的な技術で高機能シールの開発を行っていきたい。

〈参考文献〉
(1)半導体産業新聞,2005.
(2)三重県生活部勤労室.FPD産業の動向,2005広報.
(2)村松ほか.あり溝用シール,特許公開2003-14126号広報.
(3)辻ほか.動的用途シールのデザイン選定指針,社内報No.0408209,2005.
(4)土岐ほか.Developing product[DS403],社内報HPEPG-MT104-S4-05,2005.
(5)土岐ほか.製品紹介~DC156,社内報HPEPGTM106-005-2,2005.

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