高周波アンテナ用の低誘電体開発

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日本バルカー工業株式会社
製品開発部 祝 誠一郎

1. はじめに

 近年の情報通信分野において、情報の多様化に伴う無線機器の増加、または取り扱われる情報量の増加のためにチャンネル数が増加している。それに伴う無線情報通信に使用する電波の高周波化も進行している。そのために情報通信に使用される通信部材も高周波化への対応が要求され、通信時の情報伝達における伝送損失を小さくすることが重要になってきている。
 無線通信において発信された電波が熱変換されることで発生する伝送損失は式1によって表される1)。損失量は誘電率、誘電正接の積として表されるため、低損失通信の実現には低誘電特性を示すアンテナ材料が必要となってくる。特に高周波領域での伝送信号は、より熱に変わりやすい特徴をもっているため、より低誘電特性を示す材料を用いるのが好ましい。
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 図1に各種誘電材料の誘電率と誘電正接の関係を示す。一般的に使用されている誘電体にはフェノール樹脂やエポキシ樹脂をベースとしガラスクロスなどの基材で補強したものに、銅箔を貼付した銅張積層板(FR-4、紙フェノールなど)が使用されている。これらは安価で耐熱性や機械強度に優れているが、誘電特性が高く、高周波帯域での無線機器等への対応は難しくなってきており、現在は様々な低誘電の材料が開発されている状況である1)
 低誘電特性を示す樹脂材料としてはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン) を代表とするフッ素樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオ
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レフィン系の熱可塑系の樹脂材料があげられ、寸法安定性や機械的強度の面よりガラスクロスなどによる補強した銅張積層板がアンテナや回路材料として使 用されている。またポリフェニレンエーテルや液晶ポリマーなどの材料も高周波用途の回路材料として使用されつつある。

2. 低誘電体(開発品)の紹介

 本稿では当社の開発した品である低誘電材料について、誘電率、誘電正接の測定を中心に報告する。
2-1)構成
 誘電体の構成を図2に示す。本開発品は図1に示す低誘電樹脂をベースとしガラスクロスにて補強したシートに、両面に熱融着により張り合わせた銅箔から構成される。ここで使用される低誘電樹脂は耐熱性を有する熱可塑系のものであり、誘電特性は低く、軽量である特徴を有す。
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2-2)一般特性
 一般特性を表1に示す。構成する樹脂の特性により、誘電特性、電気特性に関して非常に良好な数値を示し、吸水率も低く抑えられている。かつ軽量であることが特徴である。また手半田による加工が可能なため、アンテナのようにリフロー工程のない加工には対応可能である。
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3. 誘電特性の周波数依存性

 アンテナ設計には誘電体部の誘電率、誘電正接が重要であることは1項において式1により説明した。しかし樹脂材料には周波数によって誘電特性が変化するものが多い。ここでは高周波域での誘電率、誘電正接を測定した。空洞共振器法により3~60GHz における誘電特性の測定を行った。
3-1)測定方法
・測定周波数  3、6、9、12、24、33、60GHz
・測定方法   JIS R1641 (3、6、9、12、24、33 GHz)
        (空洞共振器法)
        JIS R1660-1 (60GHz のみ)
        (空洞共振器法)
・測定装置   ネットワークアナライザー E8361A
        (アジレントテクノロジー製) [図3]
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3-2)測定結果
 測定した誘電率を図4に、誘電正接を図5に示す。誘電特性は高い周波数においても低く安定していることが確認された。このことより本開発品は広い周波数において誘電特性の変化が少なく、アンテナなどの設計において、広い周波数域で低誘電材料としての使用が可能であると考えられる。
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4. 誘電特性の温度依存性

 誘電体の用いられる環境の温度変化により、誘電特性の変化することは回路、アンテナ性能に大きな影響を与えると考えられ、大きな変化がないことが好ましいため、誘電体の誘電特性の温度依存性を測定した。
4-1)測定方法
 測定条件を下記に示す。測定はサンプルを共振器ごと恒温恒湿内に設置することで行った。測定は-40℃より10℃刻みで行い、80℃まで測定を行った。また80℃より-40℃まで降温させ、同様に10℃刻みで測定した。なお測定温度は誘電体自体の温度を示す。
・測定方法   JIS R1641 (空洞共振器法)
・測定装置   ネットワークアナライザー E8361A (アジレントテクノロジー製)
        恒温恒湿槽 LH43‒13P (ナガノサイエンス製)
・測定周波数      9GHz
・昇温速度、降温速度  15℃/h
・測定温度       -40℃ → 80℃ → -40℃
4-2)測定結果
 測定した誘電率を図6に、誘電正接を図7に示す。120℃の温度範囲の中でも誘電率、誘電正接がほぼ安定しているため、実用上温度変化による影響は少ないことが確認された。
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5. マイクロストリップラインによる誘電体評価

 誘電体の電気特性の評価方法の一つとして、マイクロストリップラインによる伝送損失の特性測定があげられる。マイクロストリップラインは誘電体の誘電特性、形状より設計された導体線路を形成したものであり、評価内容は線路間を流れる信号の減衰(伝送損失)の測定である。
5-1)測定方法
・測定周波数  1~12GHz
・測定方法   マイクロストリップライン法による
・測定装置   ネットワークアナライザー E8361A (アジレントテクノロジー製)
        治具 GK-HL10 (YOKOWO DS製)
5-2)測定サンプル
 マイクロストリップ線路サンプルを、図8、式2に示す計算式に基づき設計した2)。本測定ではインピーダンスを50Ωに調整し、線路長を75mmとする。
 比較対象としてフッ素基板(ε:2.3、tanδ:0.0013)を用いた。
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5-3)測定結果
 1~12GHzにおける伝送利得(S21)の測定チャートを、図9(開発品)、図10(フッ素基板)に示す。当社誘電体は比較対象としたフッ素基板と同様、伝送利得が少ない材料であることが示された。6GHz以上の周波数帯ではフッ素基板に比べても損失が少なく、特に11GHzではフッ素基板が約4dBの損失を示すのに比べ当社誘電体は約3dBと低い数値を示していることがわかる。このことより当社誘電体は伝送特性の良好な材料であることが確認された。
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6. パッチアンテナによる放射特性評価

 誘電体の電気特性の評価方法の一つとして、バッチアン テナによる放射特性測定があげられる3)4)5)。マイクロストリップラインとは異なり、線路幅を広げることで、電波の放射を行い、その放射効率を計測する評価法である。当社誘電体よりパッチアンテナを作成し、放射特性の評価を行った。
6-1)パッチアンテナの設計
 パッチアンテナの設計のため、5GHz近辺におけるVSWR(電圧定在波比) の測定を行ない、共振周波数を求めた。共振周波数は4.775GHzであったため、パッチアンテナ設計式(図11、式3)により、パッチアンテナを設計した(図12)。
 また設計したアンテナの形状に合わせ、フッ素基板を用いて、同様にパッチアンテナサンプルを作成し, 比較対象として測定を行った。
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6-2)放射特性測定条件
 測定は図13、14に示す二方向について行った。また測定は電波暗室を用い、図15に示す環境により行った。
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6-3)測定結果
 当社誘電体及びフッ素基板の測定結果を図16~19に示す。図16と図17の放射パターンを比較すると、当社誘電体の放射パターンはフッ素基板同様、電波放射特性が優れていることが確認された。また当社誘電体の放射利得はフッ素基板に対して約1dB大きく、電波を熱変換しにくい材料であることが言える。またXY方向とXZ方向においてほとんど差異が見られないために、当社誘電体はフッ素系基板同様指向性の少なく、アンテナ用途としては良好な材料であることがわかる。
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7. まとめ

 当社開発品は低誘電特性、低吸水性及び軽量を特徴とする誘電体である。また周波数及び温度による誘電特性への影響が少ないため、高周波特性に優れた材料である。そのため広い帯域でのロスの少ないアンテナ材料としての利用が期待できる。
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8. 参考文献

1)図解 プリント配線板材料最前線 工業調査会
2)市川裕一 青木勝 GHz時代の高周波回路設計 CQ出版社
3)根日屋英之、小川真紀 ユビキタス時代のアンテナ設計 東京電機大学出版局
4)後藤尚久 図説・アンテナ 電子情報通信学会
5)アンテナ・ハンドブック CQ出版社

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