ガスケットの寿命推定技術の開発

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シールマーケティング開発本部 シール開発グループ
野々垣 肇

1. はじめに

 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成18年政令第257号)により、平成18年(2006年)9月1日から、石綿等の製造、輸入、譲渡、提供または使用が一部を除き禁止された。さらに、平成24年(2012年)3月1日をもって、一部の適用除外事例も廃止され、石綿品の製造などは全面禁止となった。

 非石綿化の過程にあっては、非石綿ガスケットの開発と並行して、その信頼性評価についても様々な検討が加えられてきた。非石綿ジョイントシートにおいては、従来からの規格物性試験で石綿ジョイントシートと同等の性能を持つことが確認されたにもかかわらず、実際のフィールドでは、非石綿ジョイントシートには多くの課題があることが明らかとなった。このことは、従来の規格物性試験が、実績評価に代わる信頼性評価試験としては使えないことを意味し、実績に代わる新たな機能評価方法が必要となった。非石綿製品の実績は乏しく、長期間使用の安全性に対する信頼を得るには、ユーザー個々の使用条件における実証試験とともに、長期性能を理論的に評価推定する技術が必要であると考えられる。
 本報では、当社が他社に先駆けて技術開発を行ってきた各種ガスケットの寿命評価技術について紹介する。

2. 締切型フランジにおけるメタルガスケットの事例

 信頼性評価のための寿命推定方法は、使用済み核燃料輸送貯蔵容器(キャスク)用ガスケットの開発を契機として検討が始められた1)−3)。その方法はFigure1に示すように、使用環境におけるガスケット応力の経時変化を応力緩和線より予測し、ガスケット残留応力が密封限界点に達する時点を寿命とするものである。
 使用済核燃料輸送貯蔵容器用ガスケットには、バネ入りメタルCリング(トライパック®)が採用され、断面径φ10のバネ入りメタルCリングの200℃における寿命評価を実施した3)
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 Figure2に示す応力緩和試験装置を用い、ガスケット溝までの締切を想定したガスケット変位を与え、変位量一定状態での応力経時変化を荷重計で測定した。Figure3に応力緩和試験結果を示す。別途、200℃における密封限界応力を測定し、Figure3の応力緩和線の外挿線が密封限界応力となる経過時間を寿命とした。このとき、200℃における密封限界応力は30kN/mであり、推定寿命は500 年以上という結果となった。

 さらに、ガスケット応力の低下がシール寿命に関係することから、加藤ら4)5)はLMP(Larson-Miller Parameter)を適用し、塑性変形(圧縮永久歪)およびシール性能の温度・時間依存性の相関を求め、所定温度におけるシール寿命を予測する手法を提案した。
 ただ、こうした試みは、締切型フランジにおけ
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るメタルガスケットについての事例であり、非石綿ガスケットに適用するについては、より一般的な締込型フランジにおけるガスケット残留応力について考慮する必要がある。

3. 締込型フランジへの適用

 締込型フランジにおける寿命評価についても、ガスケット残留応力が密封限界応力に達する時点を寿命とするという、基本的な考え方は同じである。ただし、ガスケット残留応力については、ガスケットだけではなく、フランジ締結体の応力変化をも考慮する必要がある。最近では、こうした締込型フランジにおけるガスケット応力の経時変化について、粘弾性模型を用いた有限要素解析(Finite Element Analysis;FEA)による研究6)−9)が進められている。特に、常温で締め付け、高温で使用するという、非定常条件や長期条件を考慮に入れ、ガスケット圧縮特性の温度依存性、非線形性、ヒステリシス特性、粘弾性、熱膨張などを考慮した有限要素解析を行うことによって、より現実的なガスケット応力の経時変化の推定が可能となった。
 Figure4に粘弾性要素モデルの一例を、Figure5にふっ素樹脂系シートガスケットであるNo.GF30010)の200℃におけるシミュレーション結果を示す。なお、ふっ素樹脂系ガスケットでは、推奨使用温度が、材料の耐熱温度を超えることがないため、密封限界応力は熱劣化によって上昇することはなく、むしろ軟化による“なじみ”の向上によって低下する傾向にあるため、寿命予測においては、ガスケットの熱劣化は考慮する必要はなく、応力減少だけを考慮すればよいと考えた。
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 Figure5に示すように、No.GF300は温度サイクルが負荷される使用条件であっても長期使用が可能であるが、ガスケット種によっては温度低下時などの面圧低下時に密封限界を下回るケースも見られた。
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 また、締結ボルトに取り付けた歪みゲージにより、ボルト軸力の経時変化を測定することで、ガスケット応力緩和を実験的に求めることも行っている11)。Figure6にその試験装置概要図を、Figure7に熱サイクル試験結果の一例を示す。
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 この取り組みの中では、ガスケットの寿命評価以外に、増締めの効果[Figure8]や片締めの影響[Figure9]など、非石綿ガスケットを安全に使用するための管理手法についても検討している。
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 一方、ジョイントシートでは、ゴムバインダの耐熱限界を超えての使用が一般的であり、非石綿ジョイントシートのように繊維成分が少ないと、熱劣化による割れといった初期故障が発生する場合があり、そのガスケット応力変化から寿命を推定するには至っていない。また、熱劣化がある場合、石綿ジョイントシートの密封限界応力の経時変化12)はFigure10のように増加傾向を示す。そのため、ゴムなどの有機材料については、高温下での熱劣化をも考慮した密封限界応力の経時変化を確認する必要があり、今後の課題である。
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4. 材料劣化による寿命

 原子力工学分野にあっても非金属材料の健全性評価13)が検討されていた。ASME QME(Qualification of ActiveMechanical Equipment Used in Nuclear PowerPlants)は、電気絶縁用ゴム材料の規格を参考に、非金属材料識別のためにArrhenius式による活性化エネルギーを規定していた。しかし、複合材の劣化反応は複雑であり、劣化の指標となる代用物性の設定にも課題が残るため、Arrhenius式のシール材への適用は限定的なものとなると考えられる。
 そうした中、非石綿化のための緊急プロジェクトである2006 年NEDO開発支援事業において、膨張黒鉛の酸化減量にArrhenius 式の適用を検討した。内外周にマイカフィラーを配した複合型膨張黒鉛系うず巻形ガスケット[Figure11]について、膨張黒鉛フィラー酸化の活性化エネルギーを測定し、その寿命予測が可能であることを確認した14)
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 すなわち、許容漏洩量以上の漏洩が発生する膨張黒鉛の消失量(限界消失量)が求まれば、膨張黒鉛消失の反応速度定数から算出される膨張黒鉛の消失速度によって、シール寿命を推定できると考えるものである。フランジ締結状態での膨張黒鉛の反応速度は、膨張黒鉛熱減量線の傾きから求められ、この温度領域での任意温度での反応速度定数は活性化エネルギーを用いて求めることができる。
 複合型うず巻形ガスケットにおいて提案した寿命推定手順を、内圧0.1MPaの場合について、以下に示す。
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① 許容漏洩量を確認する。
 通常、許容漏洩量は、使用者が使用条件に応じて決定するが、ここでは、石綿うず巻形ガスケットのシール性能データから、内圧が0.1 MPaの場合の漏洩量を換算し、許容漏洩量として4.7×10−3 Pa・m3/sを用いた。

② 膨張黒鉛限界減量率を確認する。
 Figure12に示す膨張黒鉛の熱減量と漏洩量の関係から、ガスケットの漏洩量が、許容漏洩量に達する膨張黒鉛の限界減量率を求める。
 漏洩量が、①で求めた4.7×10−3 Pa・m3/sになる膨張黒鉛減量率は、約67%であった。

③ 寿命を推定する。
 フランジ締結状態での膨張黒鉛消失の活性化エネルギーから対象温度での膨張黒鉛消失の速度定数を求め、膨張黒鉛消失速度を算出する。さらに消失速度から、限界減量率となる時間を導出する。
 NEDOの実証試験では、Table1に示したように、600℃で4.5ヶ月、450℃で約16ヶ月といった寿命予測結果が得られた。
 また膨張黒鉛については、熱減量後の圧縮復元線から、ガスケット残留応力を求める手法15)も開発されている。
 Figure13は、うず巻形ガスケット(SWG)のガスケット応力と歪みの関係に対する熱減量の影響を表している。
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 Figure14は、膨張黒鉛SWGの熱減量とガスケット応力の関係を示している。
 減量の生じたガスケット(エイジングガスケット)の圧縮応力は、その歪みが、フィラー減量を生じていないガスケット(バージンガスケット)の所定応力での歪みに等しいとして、Figure13から求められる。ここで、所定応力として膨張黒鉛SWGの初期締付応力50MPaとすると、Figure13よりバージンガスケットの所定応力による歪みは0.28mmとなる。ガスケット圧縮応力の減少は、フィラーの熱減量による応力低下であるとして、Figure14の縦座標は高温時のガスケット残留応力を意味する。すなわち、Figure14は熱減量と高温時の残留応力の関係を表すものとなる。
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5. おわりに

 石綿ガスケットの長期実績に代わる、非石綿ガスケットの信頼性評価のための寿命評価方法の検討はまだ緒についた段階であり、特に、有機材料を用いた複合材の熱劣化に ついてはまだまだ課題が多く残されている。
 しかしながら、シール寿命については、ガスケット応力の経時変化が最も重要な要素であり、高温でのクリープ緩和特性の優劣が非石綿ガスケットの信頼性を大きく左右するものであることは明白である。
 今後更に、「安全・安心」をキーワードに、信頼性評価のための寿命評価技術を構築していくとともに、信頼性の高い製品の研究開発を進めていく所存である。

参考文献

1) Nishida T., Sealability of Spring-Energized ElasticMetal Gaskets, SAE Technical Paper Series870004, Proc. ’87 SAE International Congress and Exposition Detroit, Michigan, Feb 23-27(1987)
2) 掘井, トライパックの長期性能評価, バルカーレビュー, 35(3), p7(1991)
3) 野々垣, 大断面径トライパックの長期性能評価, バルカー技術誌, No.6, p1(2003)
4) 加藤, 伊藤, 使用済核燃料貯蔵容器用ガスケットの長期密封特性, 電力中央研究所報告, U92009(1992)
5) 加藤, 伊藤, 三枝, 使用済核燃料貯蔵キャスクの長期密封性能評価手法の開発, 日本原子力学会誌, 38(6),p95( 1996)
6) 高木, 名護, 佐藤, 山中, ガスケットの粘弾塑性挙動を考慮したボルト締結体の力学的特性の評価, 日本機械学会論文集C 編, 73(728), p1245(2007)
7) 名護, 高木, 佐藤, ガスケットの粘弾塑性特性とボルト締結体の軸力緩和予測, バルカー技術誌, No.16 p11(2009)
8) 渡辺, 山口, 本田, 辻, フランジ継手用ガスケットの高温粘弾性特性の評価, 日本機械学会山梨講演会講演論文集, p145(2008)
9) 佐藤, 黒河, 高木, ガスケットを用いた締結体の長期漏洩特性の予測手法の検討, 日本機械学会山梨講演会講演論文集, p139(2008)
10) 黒河, 高機能ノンアスベストシートガスケット「ブラックハイパーNo.GF300」, バルカー技術誌, No.9, p5( 2004)
11) 野々垣, 山邊, 森本, ガスケット締結体の応力緩和特性,配管技術, 52(7), p28(2010)
12) 山中, 石綿ジョイントシートガスケットにおける高温寿命評価, バルカー技術誌, No.7, p10(2003)
13) 西田, 原子力用非金属シールの環境劣化と寿命の予測,バルカーレビュー, 44(6), p6(2000)
14) NEDO平成18 年度成果報告書, 緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発プロジェクト, シール材の非石綿代替製品に関する寿命推定実証技術の研究開発, 2007 年3月
15) Asahina, M., Nishida, T. and Yamanaka, Y., Gasket Performance of SWG in ROTT and Short Term Estimation at Elevated Temperature, ASME PVP 326, p28(1996)

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