有限要素解析を用いたガスケット締結体の長期特性予測手法(特許出願中)の構築

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日本バルカー工業株式会社
製品開発部 佐藤 広嗣
野々垣 肇
黒河 真也
出口 聡美

1. はじめに

 石綿規制により、ガスケットにおいても非石綿製品の使用が急速に拡大した。ガスケット締結体特性においては理論が少ないことから経験則に依存している部分が多く、これまでの石綿ガスケットでは長年の使用実績からガスケットの長期使用に対して信頼性が得られていた。それに対し、非石綿ガスケットにおいては使用実績が少なく、また、石綿ガスケットと故障モードが異なるため、ユーザーでは長期使用に対する安全を考慮して比較的短い期間でのガスケット交換を行っているのが現状であり、経済的な使用を行っているとは言えない。実績に代わるガスケット締結体の長期特性を予測する手法を構築することが急務となっている。
 これまでにガスケットの非線形性、ヒステリシス特性などを考慮した研究は多く行われており、近年では粘弾性や高温を考慮した研究も報告されている1)2)3)。山口らは3次元粘弾性要素を用いてガスケットをモデル化することでクリープ特性を考慮し、高温定常温度状態におけるボルト軸力の低下を評価している4)。しかしながら、常温で締め付け、高温で使用するという非定常条件や長期条件は考慮されていない。数年、数十年の長期条件などの実機に近い条件は大変複雑で多大の労力が必要であり、それらを考慮した研究はない。また、ユーザーにより使用条件が多岐にわたることも実機条件を十分に考慮できていない原因の一つである。
 本研究では、短期的な評価によって、ガスケットを含む締結体の長期的なシール特性の予測手法を構築することを目的としている。除荷過程におけるガスケットシール特性を実験により評価し、シールに必要な最小のガスケット応力を求めた。一方で,ガスケット圧縮特性の温度依存性、非線形性、ヒステリシス特性、粘弾性、熱膨張等を考慮した有限要素解析により、ガスケット応力の経時変化を推定した。これらの結果から図1に示すような関係を導き出し、長期的なガスケット締結体のシール特性の予測を行った。
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 ここではガスケットをGF300(当社製)厚さ3.0mm、流体温度200℃とした場合を例として検討する。GF300は耐薬品性、耐熱性にたいへん優れており、石綿ガスケットの代替品としてすでに広く使用されている。構成材料の耐熱性が高いことから材料劣化がなく、短期的な評価より精度の高い長期的な予測が可能であると考える5)。GF300は材料劣化がないため、図1のシール限界応力は時間に依存しないと考えられる。

2. ガスケットシール性評価

 実使用時の漏洩を想定し、ガスケットの応力除荷過程のシール性評価を行った。図2にシール性評価試験装置概要図を示す。ガスケット寸法をJIS 10K 25A(φ74×φ35)とし、初期ガスケット圧縮応力を19.7、25.5、35.0MPa とした。ガスケットを挟み込んだフランジを圧縮試験機AUTOGRAPH 500KND型(島津製作所製)によって圧縮し、ボンベより供給される窒素ガスの漏洩量を測定した。漏洩量測定にはボンベ-フランジ間に設置したマスフローメーター ハイグレードマスフローメーターMODEL3100(コフロック社製)を用いた。ボンベに付属したレギュレーター
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によって容器内圧を一定とすると、ガスケットから漏洩した同量のガスがボンベから供給されることとなり、この供給量をマスフローメーターによって測定することで、ガスケット漏洩量が測定できる。ここでは、漏洩量検出感度は5×10-5Pa・m3/s となっている。
 温度条件は室温と200℃としている。200℃での測定では、圧縮負荷の前にあらかじめガスケットを挟み込んだフランジをバンドヒーターによって加熱し、フランジに設置した熱電対と加熱制御装置によって温度を制御した。
 初期ガスケット圧縮応力負荷後、段階的にガスケット応力を減少させていき、その際のシール性を評価した。除荷過程において漏洩量が増加し、シール基準を超えない最小応力をシール限界応力とした。ここでは、シール基準を1.7×10-4Pa・m3/s(10分間に1mm3の漏洩量)とする。

3. ガスケットシール性評価試験結果

 図3にシール性評価結果を示す。この結果より、室温に比べて200℃のほうが漏洩量は少なく、シール性が高いことがわかる。これは、高温になることでガスケット表面が軟化し、フランジ面とのなじみが向上したためだと考える。また、室温時では初期ガスケット応力が高いほどシール性は高いのに対し、200℃の場合では初期ガスケット応力による違いはほとんど見られない。これも、ガスケット軟化によるなじみ向上に起因しており、初期ガスケット応力の影響が小さくなったと考えられる。200℃条件でシール基準を1.7×10-4Pa・m3/sとした場合、シール限界応力は約2.5MPaとなる。
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4. ガスケット特性

 締結体において、ガスケットはフランジ、ボルトに比べて極端に剛性が低いため、ガスケット特性が締結体全体に及ぼす影響が大きいことは知られており、精度良くガスケット特性を考慮することが精度良い締結体評価につながる。本章ではガスケット特性について記述する。
 図4は温度が室温、50、100、200℃の場合のガスケットの応力-ひずみ関係を表している。ガスケットは温度が高くなるほど剛性が低下するという温度依存性を有することがわかる。そのため、負荷挙動についてはこの温度依存性を考慮し、除荷挙動はヤング率を1GPaで一定として有限要素解析に入力した。
 図5、6にはガスケットの線膨張係数および比熱の値を示している。両方の挙動とも温度依存性を有しており、解析においても考慮した。
 図7はGF300ガスケット(3.0t)を200℃温度条件下で12.5、25.0、35.0MPaで圧縮した場合のクリープ特性を示している。実験から得られた結果をばねとダッシュポッドを用いた三要素粘弾性モデルにモデリングし、応力依存性を考慮した式(1)で同定した。同図には同定した結果も併記している。同定式は実験結果と比較的よく一致しており、同定式の妥当性が確認できる。有限要素解析にはこの同定式を入力して用いる。同定式は応力依存性を考慮しており、実験で検討していない応力段階も補完することができる。
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ここで、:クリープひずみ速度 [/s]、σ:応力 [MPa]、t:時間[s]、A,n,m:実験から得られる定数であり、最小二乗近似により以下の値を特定した。
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5. 有限要素解析

 汎用有限要素解析コードABAQUSを用い、締結体におけるガスケット応力挙動をシミュレートした。ここでは例としてJIS 10K 600A RF 管フランジ締結体の有限要素モデルを図8に示す。締結体の主な条件は表1に示す。締結体を軸対称体と仮定し、また軸方向の対称性も考慮している。ボルトは周方向に連続的に存在するモデルとなり、実機と異なるため、ボルトモデルのヤング率と密度は実機とモデルの断面積の割合から換算した値を用いている。フランジ、ボルトは軸対称4節点伝熱弾性要素を用い、線形弾性体としてモデル化した。ガスケットは軸対称4節点伝熱弾塑性要素を用い、応力-ひずみ関係の非線形特性と負荷-除荷曲線のヒステリシス特性、温度依存性、粘性を入力している。用いた材料特性を表2に示す。ガスケットの圧縮特性は図4を用い、線膨張係数は図5、比熱は図6に示す特性を用いた。
 図9の境界条件に示すように、締付け時には呼びガスケット応力に相当するボルト応力をボルトモデル下端部に与え、締付け完了時には軸方向に拘束する。ここでは軸対称モデルを用いているため、複数のボルトを同時に締付ける条件となる。運転時の内部流体の影響は、管内径部に内圧と温度を与えることで再現している。締付け時には静的問題として扱い、締付け後の運転時には非定常問題として扱い、運転開始による加熱、時間の影響を考慮した評価を行った。
 締結体の使用条件として、フランジおよびボルト材料はSS400、ガスケットはGF300とする。呼びガスケット応力を35MPaとし、温度200℃、内圧1MPaの流体を作動させる場合を検討する。
 運転条件として以下の4種類を検討した。
・基本条件
・増し締め条件
・運転サイクル条件
・運転サイクル+増し締め条件
運転開始後に外力のないものを基本条件とした。基本条件では締付け後、運転開始による内部流体の加熱と内圧が作用され、温度が一定となった後
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は外力がない条件としている。加えて、外力がある3条件でそれぞれ解析した。運転サイクル条件では1年毎に内部流体による内圧と温度の作用を停止し、1日後に再運転するという作業を想定した。増し締め条件は運転開始1日後に初期ガスケット応力に相当する締付けを行うことを想定した。
 別途、高温用ひずみゲージを貼り付けたボルトを有する実験用締結体装置を200℃まで加熱した際のボルト軸力測定を1500時間行っている。その際の実験結果と解析結果がよく一致していることからガスケット締結体の解析手法妥当性を確認できている。

6. 有限要素解析結果

 図10に有限要素解析から得られたガスケット応力挙動を示す。なお、図は見やすくするためにデータを0.03年ずつ横軸方向にずらして記載している。
 基本条件、増し締め条件ではガスケット応力は十分な大きさを維持するが、運転サイクル条件では運転停止時にガスケット応力は大きく低下することがわかる。しかしながら、運転サイクル条件でも増し締めを行った場合は運転停止時にも大きなガスケット応力を維持する結果となった。
 基本条件の場合、初期に35MPaから約23MPaまで応力は大きく低下し、その後は緩やかに低下していることがわかる。解析結果から考察した結果、初期の大きな応力低下は運転開始直後の温度変化(昇温)時に生じたものとわかった。初期にガスケットクリープが顕著であることに加え、温度変化時には各部材の熱膨張、ガスケットの剛性低下の影響がある。特に剛性低下によって、ガスケット厚さは小さくなり応力は大きく低下する。ガスケットひずみが大きくなることでボルト締結力が低下する現象を図11の締結線図に示す。ガス
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ケットひずみが増加することで、延伸されていたボルトが収縮し、締結力が低下する。ガスケットクリープによる締結力低下も同様の現象である。温度安定後はガスケットクリープによる影響だけとなり、応力低下は緩やかになる。
 増し締め条件の場合、増し締め後の応力低下勾配は基本条件に比べて若干大きいものの、基本条件よりも大きな応力を保持し続ける。増し締め後は温度変化がなく、ガスケットクリープによる影響だけを受けるため、初期締付け時のような大きな応力低下がない。基本条件に比べて低下勾配が大きいのはガスケットクリープに応力依存性があり、応力が大きいほうがクリープは顕著であるためである。
 運転サイクル条件の場合、運転停止-再運転時に応力が大きく低下していることがわかる。運転停止時に温度が低下することで各部材が熱収縮を起こす。ガスケットは高温時の軟化によって大きく圧縮塑性変形している上にさら熱収縮する。その際に、延伸されていたボルトは収縮するため締結力が低下し、ガスケット応力も大きく低下する。再運転時、再び加熱されることで各部材は膨張し、運転停止前よりも小さい値で応力挙動は安定する。また図10より、サイクル毎に応力も低下していることもわかる。
 運転サイクル+増し締め条件の場合、運転停止時でも応力は約10MPaとなっており、増し締めによって ガスケット応力保持が改善できている。
 以上の結果より、運転開始直後や運転サイクル時の温度変化時に締結体におけるガスケット応力の変動が大きいことがわかった。また、増し締めによってガスケット応力を増加させ、漏洩時期を延長できることがわかった。

7. 長期特性予測

 2~6頁において、ガスケットのシール限界応力は2.5MPaであること、締結体におけるガスケット応力挙動の再現が可能であることを示した。これらを用いた長期特性予測手法によって、締結体の漏洩時期の予測が可能となる。
 図10の例に適用すると、基本条件、増し締め条件の場合には漏洩は生じないが、運転サイクル条件の再運転時に漏洩のおそれがある結果となる。一方、運転開始一日後に増し締めを行った運転サイクル条件では大幅な応力低下時にも約10MPa程度を保持しており、漏洩のおそれはなくなることがわかる。
 このように、本長期特性予測手法をもちいることで、ガスケット漏洩時期の予測だけではなく、漏洩時期延長の検討も可能となる。ここでは増し締めの検討を行ったが、締付け力、締結体材料、増し締め時期などの検討も可能である。

8.考察

 本研究では、ガスケットをGF300、使用温度を200℃とした場合の締結体の長期特性予測手法の構築を行った。GF300のようなPTFE 系ガスケットは耐熱性、耐薬品性が高い反面、応力低下が大きいという問題は周知の事実であったがその現象は不明瞭であった。温度、時間の非定常状態を考慮した本研究によって、締結体の挙動を明確にしたと考える。この手法を用いて漏洩時期の予測を行い、ユーザーには漏洩事故の防止や効率的なメンテナンス方法の提案ができると考える。加えて、増し締め、初期締付け力の変更、締結体材料の変更などの改善方法の推奨も行うことができる。
 ここで検討した長期特性予測手法はガスケット特性評価に数ヶ月必要であるが、数年後、数十年後の評価には実際に試験を行うことに比べて簡便であると考える。また、有限要素解析においては締結体寸法、材料、締付け力や内圧などの締結体条件の変更が容易であり、さまざまなユーザー使用条件に対応可能であると考える。
 今後、実機フランジとの比較評価を行い、予測精度の検証を行う予定である。また,他のガスケット、他の温度条件への適用が課題にあげられる。
 なお、この手法は特許出願中である。

9.おわりに

 除荷過程における高温ガスケットシール特性評価試験と温度および時間に依存したガスケットの材料特性を考慮した長期的なボルト締結体の有限要素解析を行うことにより、以下の結論を得た。
・高温条件におけるガスケットシール性評価試験を行い、200℃条件におけるGF300ガスケットのシール限界応力は約2.5MPaであることを確認した。
・温度および時間を考慮した有限要素解析によってガスケット締結体のガスケット応力挙動を評価した。
・実験によるガスケットシール性評価、有限要素解析によるガスケット応力挙動評価によって、ガスケット締結体の長期特性予測手法を構築した。
・ガスケット締結体長期特性予測手法によって、漏洩時期の予測、ガスケット応力保持方法の検討手法を提案した。

謝辞
 本研究を進めるにあたり、ご指導を頂いた高木知弘 准教授(京都工芸繊維大学)に感謝いたします。

10.参考文献

1)高木知弘,福岡俊道;“ 管フランジの三次元有限要素解析(石綿ジョイントシートガスケットを用いた場合)”、日本機械学会論文集A編、第68巻、625号。
2)高木知弘、佐藤広嗣、山中幸、福岡俊道;“ 管フランジ締結体の漏洩特性の評価”、日本機械学会論文集C編、第71巻、702号。
3)名護典弘、高木知弘、佐藤広嗣;“ ガスケットの粘弾性特性とボルト締結体の軸力緩和予測”
Valqua technology news No.16.
4)Atsushi Yamaguchi, Hirokazu Tsuji,;Evaluation of creep properties of non-asbestos joint sheet gaskets at elevated temperature by three-dimensional viscoelasticity model, Proc.
ASME PVP 2008 Conference.
5)日本バルカー工業株式会社、ノンアス製品カタログ

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