水道機器,食品機械用シールゴム材料【H1770】

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日本バルカー工業株式会社 研究開発部 事業部研究グループ
平野 耕生

1.はじめに

 水道機器および食品機械用のシールゴム材料としては、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加NBR(HNBR)、ブチルゴム(IIR)等が使用されている。
 この中でも、最も汎用的に使用されているのは、EPDMであり、Oリング、ガスケット等形状は様々なものがある。
 EPDMが、汎用的に使用される理由は、図1に示すように比較的安定した化学構造を持ち、耐水性、耐オゾン性、耐薬品性等に優れることや、コストパフォーマンスに優れていることが挙げられる。
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 しかし、EPDMを水道機器や食品機械のシール材として長期間使用していると、黒い異物が飲料水(飲料含む)や食品中に流出する現象(墨汁現象)が発生することがある。
 この原因は、水道水に含有されている次亜塩素酸イオンあるいは食品機械の殺菌洗浄に使用される次亜塩素酸塩などによってゴムが酸化および塩素化されて劣化が引き起こされカーボンやゴムの破片が混入するためと考えられている。1)
 墨汁現象が発生し、この黒濁したものが流体中に混入すると、飲料水や食品の商品価値を著しく低下させてしまう。これを防止するにはシール材を頻繁に交換する必要があるが、メンテナンスコストが増加するため、改善すべき課題となっている。
 そこで、編者では今まで培った独自のゴム配合技術を駆使することによって、新たに耐次亜塩素酸イオン性に優れたEPDM「H1770」を開発した。
 本稿では、この「H1770」について報告する。

2.「H1770」の特徴

2-1 基本特性
 「H1770」は、JIS B 2401 3種に相当するゴムである。「H1770」の基本特性を表1に示す。
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2-2 耐次亜塩素酸イオン性
 耐次亜塩素酸イオン性の評価は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度:250ppm、温度80℃)による浸せき試験を行うことで確認した。
 ここで、注意しなければならないのは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の浸せき試験方法である。
 次亜塩素酸ナトリウムは、強い酸化作用があり、ゴム、金属、油等とすぐに反応して分解してしまう。実際にステンレス鋼のみを浸せきしたところ、浸せき液は黄変し、次亜塩素酸イオンはほとんど消費されていた。
 よって、試験治具も次亜塩素酸イオンに対して反応性が低いものを選定して行う必要がある。また、次亜塩素酸イオンは、ほぼ24時間で消費されてしまうため、液の交換頻度も考慮して行う必要がある。弊社では、試験治具に全てガラス器具を用い、液交換を毎日(休日を除く)しながら試験を行った。図2に本試験方法での次亜塩素酸イオン消費量の推移を示す。2)
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 図3に示す次亜塩素酸ナトリウム水溶液の浸せき試験結果より、「H1770」は、従来のEPDMよりも耐次亜塩素酸イオン性に優れていることが確認できる。
 従来のEPDMは次亜塩素酸ナトリウム水溶液の浸せき試験を開始してから168時間で墨汁現象が発生したのに対し、「H1770」は800時間まで発生しなかった。
 この結果から明らかに墨汁現象の発生が抑制されており、従来のEPDMの2.5~3倍の長寿命が期待できる。
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 H1770の浸せき試験結果を表2に示す。
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2-3 清純な色調
 「H1770」の色調は、クリーミーホワイトである。
 水道機器や食品機械のイメージを考慮すると、最適の色調である。
 また、色調が白色系のため、他のゴムとの判別も容易であり、必要であれば着色も可能である。
2-4 低圧縮永久歪
 「H1770」は150℃×70時間の圧縮永久歪試験において、18%を示していた。弊社の従来のEPDMとほぼ同様の低圧縮永久歪であり、良好なシール性が得られる。また、長期の圧縮永久歪にも優れており長寿命が期待できる。
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 表3に圧縮永久歪の試験結果を示す。
 また、120℃における長期圧縮永久試験の結果を図4に示す。
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2-5 厚生省告示第85号の認定取得
 水道機器および食品機器に使用するシールゴム材料は、流体が飲料や食品であり、当然、クリーンで安全であることが要求される。
 ゴム製品の食品関連の法規については、食品衛生法・食品、添加物等の規格基準、ゴム製の器具または容器包装(ほ乳器具を除く):厚生省告示第85号があり、材質試験および溶出試験について試験方法および規格値が定められている。
 水道機器および食品機械のシール材として使用するには、この基準をクリアーすることは必要条件だといえる。
 「H1770」は、配合材料の安全面について検討を行い、厚生省告示第85号の認定を取得している。
 表4に厚生省告示第85号の認定試験結果を示す。
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3.用途

 「H1770」は、耐次亜塩素酸イオン性、圧縮永久歪性に優れ、色調もクリーンなイメージであり水および食品分野に最適なゴム材料である。
 特に墨汁現象が問題となっている箇所に適している。
 「H1770」は以下の用途に適する。
①水道機器
 水道水止水栓、給水栓、浄水器等の水道機器のシール部に使用できる。
②配管継ぎ手
 水道配管、飲料配管、食品配管等のシール部に使用できる。
③食品加工機械
 食品加工装置、充填装置等のシール部に使用できる。
 製品形状は、Oリング、ガスケットをはじめ各種形状に対応が可能である。

4.おわりに

 最近の動向として、水、食品分野におけるシールゴム材料の使用条件は厳しさを増し、より耐久性に優れ、より長寿命化したものが望まれている。
 弊社においても、その期待に応えるめくより付加価値の高い材料を開発していきたいを考えている。
 材料開発にあたっては、実際に使用されている皆様からの声が重要な情報となる。
 皆様からの貴重なご意見、情報を御教示いただければ幸いである。
<参考文献>
1)武義人・古川睦久:水道水によるEPDM製パッキンの破壊、工業材料、
 Vol.45 No.7 (1997)94/97
2)高牟礼辰雄・平野耕生・辻 和明:水道水圧を利用した水圧駆動システム「WADS」.
 フルードパワーVol.15 No.3 (2001)56/62

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