耐熱タイプパーフロロエラストマーFLUORITZ®-HS、D5370(開発品)、D5575(開発品)

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1. はじめに

1-1)パーフロロエラストマーについて
 パーフロロエラストマー(FFKM)はゴム材料(エラストマー)の中でふっ素ゴムに分類され、そのふっ素ゴムの中でも最も耐熱性に優れた材料として位置付けられる。二元系に代表される一般のふっ素ゴムはFKMと表記されるが、パーフロロエラストマーはFFKMと表記され、ふっ素ゴムの中でも区別されている。

 ゴム材料の耐熱性はゴム材料の分子構造に起因する。Table1に各種ゴム材料の分子構造を示す。
 ニトリルゴム(NBR)やエチレンプロピレンゴム(EPDM)などは主に炭素と水素(C-H結合)で構成されているのに対して、FFKMをはじめとするふっ素ゴムは、ふっ素樹脂と類似した構造を有しており、ほとんどが結合エネルギーの大きな炭素とふっ素(C-F結合)で構成され、ふっ素原子が主鎖である炭素と炭素の結合(C-C結合)を覆うような構造を持っている。また、FKMは分子構造に一部C-H結合を有するが、FFKMは、分子構造に全くC-H結合を有さず、主骨格の構成元素は炭素、ふっ素、酸素のみである。そのため、FFKMは化学的に安定しており、NBR、EPDMやFKMと比較して分子構造が強く、外部からの熱に対して構造が破壊されにくい1)
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1-2)FFKMの用途例について
 様々な市場で、小型化、高性能化、高効率化が進む中、ゴム材料の使用環境が低温から高温にシフトし、ゴム材料へも高い耐熱性が求められている。Table2にFFKMの用途例を示す。
 これらの用途では、200℃を超える高温環境が想定されるが、汎用的に使用されるゴム材料では対応が難しく、FFKMが使用される。各用途で求められる特性は異なり、当社では独自の材料配合技術を駆使して、様々なコンセプトでFFKM材料の開発を行っている。当社において、特に耐熱性に優れたFLUORITZ®-HS、耐熱性とクリーン性を備えたD5370(開発品)、耐高温水蒸気性に優れたD5575(開発品)について、以下に述べる。
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2. FLUORITZ®-HS

 FLUORITZ®-HSは当社FFKMの中で最高の耐熱性を有した材料として独自の材料設計技術を駆使して開発した製品である。以下に、FLUORITZ®-HSの耐熱性に関する代表的な特性を示す2)
2-1)圧縮永久歪率
 シール材が高温環境で使用される場合、ゴム材料の耐熱性が低いと、シール材が早期に劣化してゴム弾性を失い、元の形状に戻らなくなり、リークの要因となる。シール材の耐熱性を見極める最も重要な特性の一つとして圧縮永久歪率が挙げられる。圧縮永久歪率が小さいほど、シール材としては優れており、高温での圧縮永久歪率の値が小
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さいほど長期間にわたって使用出来る。圧縮永久歪率の測定方法、及び算出方法をFigure1に示す。
 一般的に圧縮永久歪率80%がシール限界と考えられているが3)、FLUORITZ®-HSの圧縮永久歪率は、従来のFFKMと比べ、300℃の高温においても非常に小さい値であり、より長寿命化が期待出来る。(Figure2)
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2-2)基本特性
 Table3にFLUORITZ®-HSの基本特性を示した。FLUORITZ®-HSは優れた機械的特性を有している。
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2-3)用途事例
 FLUORITZ®-HSは従来のFFKMと比較して、優れた耐熱性を有することから、耐熱性が必要とされる様々な高温環境に適用可能である。以下にFLUORITZ®-HSの用途事例を示した。
・ プラント、化学工業、分析機器などにおいて高温環境で使用される装置、部位のシール材

・ 拡散装置、LPCVD、アニール装置などの高温プロセスが行われる装置のシール材

・ 半導体製造装置や液晶製造装置分野におけるエッチング装置やCVD 装置の高温となる部位のシール材

・ その他、耐熱性が要求される装置、部位のシール材

3. 開発品 D5370

 一般的に、ゴム材料には補強を目的として無機充填材が配合されている。しかし、プラズマCVDやプラズマエッチング装置などの半導体製造装置向けのシール材としてゴム材料を使用する場合には、無機充填材を含まない材料が好まれる。それは、無機充填材を使用していると、ゴム成分がプラズマによりエッチングされることで、無機充填材がシール材表面に露出し飛散した場合、プロセスチャンバー内を汚染する懸念があるためである。しかしながら、ゲート部のような動的部で使用する場合、無機充填材を含まないゴム材料では応力が低くなるため、シール材の変形が大きくなり、弁体同士の接触によるパーティクル発生などのトラブルの懸念がある。そこで無機充填材を含まず、動的部でも使用可能で、かつ耐熱性に優れた材料をコンセプトに開発した。
3-1)基本特性
 Table4に開発品D5370の基本特性を示した。
 100%モジュラス、伸びにおいては、当社従来品と比較し、20%以上向上させた。応力が高くなるほど、変形への耐性が高くなり、伸びが大きくなるほど、変形に対する追随性が良くなるため、開発品D5370は動的な用途にも適した機械特性を有すると考えられる。
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3-2)圧縮永久歪率
 一般的に耐熱性評価として実施される圧縮永久歪試験により耐熱性を評価した。(Figure3)
 評価結果から、260℃の高温においても良好な圧縮永久歪みを有しており、耐熱性に優れた材料であることが確認できる。他社FFKMと比較しても非常に小さな値であり、長寿命化が期待出来る。
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3-3)用途事例
 開発品D5370は無機充填材の使用が好まれないクリーンな環境で、かつ高耐熱が求められる環境において優れた特性を有している。その特性を活かし以下の用途への適用が考えられる。
・ プラズマ環境においてシール材のエッチングの程度が大きく
  パーティクルの発生が問題となっている部位

・ ゲートバルブなどの動的なシール部位

4. 開発品 D5575

4-1)高温蒸気環境への適合
 FFKMは非常に安定した特性を有しているものの、高温蒸気環境においては、顕著に特性を下げることが確認されている。現状、乾熱環境においては300℃を超える環境でも耐え得るFFKMは存在するが、蒸気環境においては、200℃近傍が上限値と言える。つまり、200℃を超える蒸気環境では、使用出来る有機系のシール材は非常に限られてしまう。
 例えば、蒸気性に優れたFFKMであっても、200℃を超える場合は、耐熱性が不足することにより、長寿命は全く期待できない。また、TFE-Pr 系のFKMの場合も同様で、FFKMに比べ圧倒的に安価ではあるものの、耐熱性が不足することで、交換頻度が増加し、材料費を無視出来るほどの費用がかかってしまう場合がある。高温でも使用可能なメタルガスケットの場合、フランジの開閉や、振動による微妙なフランジの動きに対し、対応することは困難である。
 これらから、200℃を超える蒸気環境においては、適切なゴム材料のシール材は存在せず、その結果、ユーザーは現有のシール材を用い、メンテナンスサイクルの増加、シール信頼性の不足によるトラブルなどを慢性的に抱え、本来のシール材のコストを大きく超える費用が必要となっている。
 これらの問題を解決するために、当社開発品のD5575を提案する。
4-2)圧縮永久歪率
 D5575の特性を把握するために、一般的な他社耐熱グレードFFKMと比較評価を行う。評価としては、一般的に耐熱性評価に用いられる圧縮永久歪試験を飽和蒸気環境にて実施する。
   Figure4に175℃飽和蒸気圧縮永久歪率試験結果を示す。
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 乾熱環境では、特に大きな差異は確認されないものの、蒸気環境においては、決して175℃と言うFFKMにとっては高い温度ではないにもかかわらず、他社耐熱グレードは時間経過と共に、明らかに変形が進行し、200時間にも満たない段階でシール限界である80%変形に到達している。対してD5575は、初期こそ多少変形が見られるものの、48時間以降は全く変形しておらず、蒸気175℃近傍では全く劣化していないことが確認出来る。
 なお、FFKMの構造によっては、Figure5のように蒸気200℃では溶解してしまうものも存在する。しかしながら、特にこれは異常なことではなく、FFKMに限らず、ポリマー中の最も弱い部分が使用限界を超えてしまった場合、通常起り得ることであり、決して、FFKMとは言え、万能ではないと理解しておくことが必要である。
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4-3)基本特性
 Table5にD5575の基本特性を示した。FLUORITZ®-HS同様にD5575は優れた機械的特性を有している。
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5. おわりに

 FFKMが様々な市場に浸透し始めて日が浅く、FFKMと合致する未開拓市場は、多数存在すると確信している。今後市場に最適な製品を提供するため、更なる開発を続ける所存であり、皆さま方よりご意見や情報、ご相談を頂ければ幸いである。
 なお、本文中のデータは、当社における一定環境での評価データの一例であり、すべての使用環境に適合するわけではない。そのため、実際の使用に際して、使用環境での評価を実施し、特に高温環境においては、十分に適性を確認した上で使用して頂きたい。

6. 参考文献

1) 岡崎 雅則 バルカー技術誌 № 1 2-4(2001)
2) 岡崎 雅則 バルカー技術誌 № 23 10-12(2012)
3) 川村 敏雄:バルカーレビュー, Vol26, No.6(1982)
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