プラント向け高温用ガスケット

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1. はじめに

 ガスケットは、あらゆる産業でさまざまな流体、温度、圧力に対して長期間にわたりシールすることが要求される。仮に漏洩が発生した場合には、火災や爆発あるいは有害物質漏出による環境汚染といった問題をもたらすこともあるため、使用条件に適したガスケットを選定することが極めて重要となる。
 石油精製、石油化学プラントや火力発電プラントなどでは蒸気やプロセス流体が数百度の高温になり、特に火力発電プラントにおける発電効率の向上に伴い、使用温度は上昇傾向にあるため、より耐熱性の高いシール製品が求められている。
 本報ではこうしたプラントで使用されているシール製品の概要を紹介し、近年の動向についても触れる。

2. ガスケットの使用区分

 プラントで使用されているガスケットは多岐にわたるが、使用温度別でFigure1のように大別される。
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 高温用ガスケットの基本はメタルガスケットである。ただし、メタルガスケットは高圧用途として用いられることが多い。Table1に主なメタルガスケットを示す。
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 中温中圧~高温高圧領域に使用されるセミメタルガスケットはうず巻形ガスケット、メタルジャケットガスケットがある。300℃以下の低温低圧に使用されるソフトガスケットとしては、ジョイントシート、ふっ素樹脂系シートガスケット、膨張黒鉛シート(400℃)などがある。
 プラントの運転条件をTable2に示すが、大半は500℃程度であり、これを超える場合はメタルガスケットが使用される。
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3. 石油精製、石油化学プラント

 450~500℃超までの反応領域ではうず巻形ガスケットが使用される。膨張黒鉛をフィラーにしたうず巻形ガスケットはシール性に優れ、よく利用されている。しかし、450℃を超える酸化性雰囲気(空気を含む)において使用される場合は、膨張黒鉛が酸化反応によって徐々に二酸化炭素になり消失する。そのため、450℃を超える条件の場合は、複合フィラーうず巻形ガスケットが使用される。複合フィラーうず巻形ガスケットは膨張黒鉛フィラーをシール要素とし、酸化雰囲気側に無機質紙やマイカなどの耐熱フィラーを配し、高温時の膨張黒鉛の酸化消失を耐熱フィラーで保護(酸素の供給を遮断)したもので、高温での長期シール性が維持できるガスケットである。
 Figure2に複合フィラーうず巻形ガスケットの構造を示す。
 当社は複合フィラーうず巻形ガスケットとして、耐熱フィラーに無機質紙を用いたNo.8590Lシリーズと、マイカフィラーを用いたNo.M590Lシリーズをラインアップしている。
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 当社マイカフィラーは高温水蒸気雰囲気下での重量減少の原因となる補強用ガラスクロスを用いず、また、有機成分を大幅に低減することにより、優れた高温シール性を実現している。Table3にマイカフィラーの特性を、Figure3に熱サイクルシール試験結果を示す。また、高温での使用実績をTable4に示す。マイカフィラーは最大750℃まで使用可能であり、流動接触分解装置(FCC)やエチレンプラントなどの高温加熱蒸気ラインにも使用されている。

 しかし、複合フィラーうず巻形ガスケットも膨張黒鉛の酸化消失を完全に抑制することは不可能であり、時間経過とともに膨張黒鉛は消失し、いわゆる“寿命”が存在する。複合フィラーうず巻形ガスケットの寿命については、非石綿化のための緊急プロジェクトである2006年NEDO 開発支援事業において、膨張黒鉛の酸化減量にArrhenius式を適用し、膨張黒鉛フィラー酸化の活性化エネルギーを測定し、その寿命予測が可能であることを確認した1)
 すなわち、許容漏洩量以上の漏洩が発生する膨張黒鉛の消失量(限界消失量)が求められれば、膨張黒鉛消失の反応速度定数から算出される膨張黒鉛の消失速度によって、シール寿命を推定できる。
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 膨張黒鉛と酸素との反応は、反応速度は、式(1)のように酸素濃度と反応速度定数によって表される。
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 反応速度定数kは、式(2)で表され、いくつかの温度での反応速度定数を求め反応速度定数kと1/Tで整理すれば、活性化エネルギーを導くことができ、これにより、反応の律速過程の推定や任意の温度における反応速度定数を求めることができる。
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 膨張黒鉛単独での重量経時変化、及びフランジ締結したガスケットの膨張黒鉛消失減量の経時変化にArrhenius式を適用して、それぞれ膨張黒鉛単体、フランジ締結状態でのガスケットの膨張黒鉛の活性化エネルギーを求めた。(Table5)
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 膨張黒鉛単体の活性化エネルギーは、49.7kcal/molであり、この値は、Fullerによって導かれた膨張黒鉛の活性化エネルギー44.2kcal/mol2)やZaghibらによる44.9±0.5kcal/mol3)とも整合するものである。一方、フランジ締結状態での膨張黒鉛消失の活性化エネルギーは、10.4kcal/molであった。通常、拡散の活性化エネルギーは、反応の活性化エネルギーより小さく、2.9~9.6kcal/mol 程度とされる。すなわち、フランジ締結状態での膨張黒鉛の消失は、拡散律速が支配的であり、マイカフィラーによる酸素遮蔽効果がみとめられる。
 次に、フランジ締結状態で膨張黒鉛の消失が進行したガスケット断面を観察したところ(Figure4)、外径側1巻き目の膨張黒鉛がほぼ消失しているのに対し、2巻き目は、ほぼ健全であった。これより、複合フィラーうず巻形ガスケットの膨張黒鉛の酸化消失は、ガスケットとフランジの界面に沿って進むのではなく、大気側から、膨張黒鉛1巻きごとに進んでいることがわかった。
 こうして求めた膨張黒鉛の酸化消失速度と、膨張黒鉛の減量と漏洩量の関係からガスケットの寿命が求められる。すなわち、フランジ締結状態での膨張黒鉛消失の活性化エネルギーから対象温度での膨張黒鉛消失の速度定数を求め、膨張黒鉛消失速度を算出し、更に消失速度から、シール限界減量率となる時間を導いた。
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 NEDOの実証試験では、許容漏洩量を4.7×10−3Pa・m3/sとした場合のシール限界減量率67%としたとき、Table6に示したように、寿命予測結果は600℃で4.5ヶ月、450℃で約16ヶ月であった。
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4. 火力発電プラント他

 火力発電でも現行の600℃級超々臨界(USC)ではうず巻形ガスケットが使用されている。ただし、火力発電は石油、石炭、天然ガスなどの化石資源を燃料としているため、資源の節減と二酸化炭素排出抑制の観点から、より一層の熱効率の向上が求められている。熱効率を向上させるためにはタービン入口条件の高温高圧化が必要で、特に次世代高効率発電システムとして期待される700℃級超々臨界圧発電(A-USC)では、金属材料開発を含めた開発が国家プロジェクトとして進められている。
 その他の高温領域としては、製鉄所のコークス炉や高炉、転炉などが挙げられる。これらは内圧が極めて低いため、高度なシール性は必要なく、織布ガスケットなども多く用いられている。当社ではバルカテックスガスケットとしてNo.N214、No.N314およびNo.N314に無機充填材を含浸し気密性を高めたNo.N314KSをラインアップしている。(Table7)
 Figure5にN314とN314KSのシール性比較を示す。

 ボイラ・タービンの排熱ダクトの継手部分、ダンパ、マンホールなどにグランドパッキンが使用される例も少なくない。No.N340Mは基材に耐熱性の高いセラミックを使用しており、また、シール性向上を目的とした充填材にも無機化合物を使用しているため、耐熱性、耐薬品性に優れている。
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5. おわりに

 今日、高温用ガスケットの主体はうず巻形ガスケットであるが、膨張黒鉛は450℃以上で酸化消失するため、複合フィラーうず巻形ガスケットが使用されてきた。しかし、火力発電プラントをはじめ、高温化が進むことが予想され、より高度な高温仕様が要求されることも考えられる。そのため、マイカフィラーなどの耐熱フィラーの高度化やメタルガスケットの充実など、ニーズに応じた製品開発を行っていく所存である。

6. 参考文献

1) NEDO 平成18 年度成果報告書、緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発プロジェクト、
  シール材の非石綿代替製品に関する寿命推定実証技術の研究開発、2007 年3月
2) E.L. Fuller, J.M. Okoh Kinetics and mechanisms of the reaction of air with nuclear
  grade graphite:IG-110, J of nuclear materials 240(1997),241-250.
3) K.Zaghib,X.Song,K.Kinoshita, Thermal analysis of oxidation of natural graphite:
  isothermal kinetic studies, Thermochimica Acta 371(2001),57-64.
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