インフラートシール®

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日本バルカー工業株式会社
製品開発部 上田  彰

1. はじめに

 インフラートシール®はスライドドアやゲートなどの可動部分の隙間を有する箇所に多く用いられているシール材で、内圧を供給することにより膨張し、シール相手面に対してコンタクトしてシールする特長を有している。本稿においては、より多くのお客様にご使用いただけるよう、技術的な解説をする。お客様各位には本品を広くご認知して頂くと共に、今後のお客様の機器・装置設計にご活用いただければと考えている。

2. インフラートシール®とは

 インフラートシール®は補強布入りのゴム、又はゴム単体によって構成された中空状で、使用方法、使用条件、使用目的によって円形状、額縁形状のエンドレス、及び直線形状に成形したシール材である。
 一般的なパッキン・ガスケット(Oリング、配管フランジガスケットなど)はシール材自体を圧縮した際に発生する反発力でシール性を付与させるが、インフラートシール®は中空部分に圧力を印加してシール材自体を膨張させ、印加した圧力で接触面圧を発生させ、流体のシールを行う画期的な構造のシール材である。(図1)
 インフラートシール®はその構造上、シール材としてだけではなく、パワーアクチュエータ、ハンドリングシステム、エアーチャックなどにも適用が可能である。(図2)
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3.インフラートシール®の特長

 インフラートシール®はそのユニークな機構により以下のような特長を有しており、従来のシール材とは異なる特性を活かして、機器・装置の設計が可能になる。

① 面圧付加機能
 従来のパッキンのように外力によって締め付ける(圧縮する)必要が無くインフラートシール®自体が膨張しシール面に対して面圧を発生させることが出来る。この機能により、シール材を外力で圧縮する必要が無く、シール面の隙間を保ったままで扉やシャッターを開閉させることができ、大きな駆動力や複雑な機構を不要にする。

② シール面を選ばない
 自らが膨張してシール面に接触する構造で変位量が大きいため、従来のシール材(Oリングなど)ではシール性能に影響が発生するようなシール面(扉やシャッターなど)に多少のうねりや凹凸(滑らかなもの)がある場合でも、良好なシール性能を発揮する。またシール面が圧力や動きによって変動した場合でも許容ストローク範囲内であれば追随が可能である。

③ クリープ耐性
 圧縮タイプのガスケット、パッキンと異なり、インフラートシール®はクリープ現象が発生せず、クリープ(圧縮永久歪み)に起因するシール性能の経時変化が起こらず、増し締めの必要もない。

4.断面構造について

 インフラートシール®は内部の中空部分に圧力を供給して膨張させるシール部品である。標準品(標準断面)には①反転タイプ と ②膨張タイプがあり、各々の断面構造で膨張するメカニズムと特長が異なり、各々にメリットデメリットがある。(表1)概ね反転タイプと膨張タイプの特性は相反することが多い傾向にある。
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5. 各種性能

(1)シール性能
 インフラートシール®のシール性能は、供給圧力によって発生するシール面圧に依存する。通常、標準品では供給圧力とシール流体圧力の差圧が0.05MPa以上でシール可能であり、供給圧力の設定を、シール流体圧力の1.5~2倍を目安とするよう推奨している。
 但しシール可能最低差圧は使用条件(シール流体、シール相手面の状態等)によって異なるのでご注意のこと。本稿ではタイプごとのシール試験結果を紹介する。

(2)供給圧力と膨張量の関係
 インフラートシール®の膨張特性は製品断面(形状・寸法)、膨張方向(シール方向)などによって変化する。特に外径方向への膨張は変化度合いが大きく、平面での使用と比較して70~90%の膨張量になるため、クリアランスを表1に示す最大値
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から差し引いて設定するなどの対応が必要である。
 標準品は表1に示すように予め使用可能なストローク(シール面間隙間)を設定している。この使用可能範囲内において装置の設計を行うこと。標準品ではストローク(クリアランス)を満足しない場合にはニーズに応じてカスタムメイドにて対応が可能である。
 インフラートシール®標準品の供給圧力と膨張量の関係を図3及び図4に示す。
 インフラートシール®は低圧領域で膨張(ストローク)が完了し、それ以降はほぼ膨張量が増加しない。これは内部圧力によって膨張する薄い膜と膜の伸びを抑制する補強布からなる製品構造を有しているためである。(但しゴム単体品、セミチューブタイプではこの限りではない。)
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(3)接触幅と面圧の関係
 インフラートシール®は自らが膨張し、シール相手面に接触することで供給圧力を伝達してシール能力を発揮する。即ち接触している面には供給した圧力がそのまま、若しくは付加される形で伝播し、接触面の両端等(断面での接触面の両端等)には接触面圧の低下が起こる。また、実際の膨張時には形状、内部に挿入する補強布などの影響により、接触面圧が変化する。
 本稿ではFEAにより求めた代表タイプの供給圧力と接触面圧の関係を紹介する。下の図5に示すように、接触面全面に供給圧力と同一の接触面圧が一律に発生すること はない。反転タイプでは、中央及び両肩部分に供給圧力を超えるピーク面圧が発生し、膨張タイプでは接触面両端をピークとして比較的フラットな供給圧力程度の面圧が発生する。
 この結果からシールの構造としては、反転タイプは供給圧力よりも大きな接触面圧が線状に発生し、膨張タイプでは大きな面で接触し、且つ面圧のピークでは供給圧力の約1.6倍の接触面圧が発生してシールさせていることが分かる。
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(4)供給圧力とストロークと推力(発生する力)の関係
 インフラートシール®は自らが膨張し、シールする機構であることは繰り返し述べたが、この特性を利用して、パワーアクチュエータとしても使用することが可能である。使用例としては、シール板を介してOリングなどのシール材を圧縮する方法や、摩擦材をリフトして回転体に摩擦させる減速システム、ダイレクト又は部材を介して行うワークのリフト、エアチャックなどがあり、隙間・パワー・リフト・一定圧、等のキーワードで表される装置や部位に対して、適用が可能である。
 インフラートシール®はその構造により、膨張量の増加に伴って相手面への接触幅が減少し推力が低下する。また当然ではあるが、供給圧力の変化に応じて推力が変化する。リフト又はチャッキングを行う場合にはこの推力の変化に注意が必要である。FEAによって求めた供給圧力による推力変化を図6に、ストロークによる推力の変化を図7に示す。(代表としてタイプFを紹介)
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(5)耐久性
 インフラートシール®標準品は、膨張/収縮の単純な繰り返し耐久性(基礎耐久性)は10万回以上有している。耐久性は、使用環境(温度、圧力、流体、頻度など)によって低下が起こることがあると考える。
この基礎(膨張/収縮繰り返し)耐久性をベースとして、ユーザーにて確認をいただいて寿命設定をするようお願いする。なお、この10万回耐久性は保証値ではない。
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6. 設計指針

(1)ハウジング、クリアランスの設計
 インフラートシール®標準品のハウジング寸法及びクリアランスは7項〔ラインアップ〕の表4に示す寸法にて設計・製作願う。標準品では満足できない仕様の場合には、個別にカスタムメイドにて対応をする。
(2)シール方向
 インフラートシール®は平面、内径、外径、斜面のいずれの方向でも膨張させて使用することが可能である。但し外径方向への膨張での使用は膨張量の変化度合いが大きく、平面での場合の70~90%の膨張量となる。外径方向への膨張の場合は標準クリアランスの70%以下で設計のこと。
(3)ハウジングへの固定方法
 反転タイプでは、接着剤で、溝底面へ固定して使用のこと。
膨張タイプではリテーナ(固定用部品)のボルトアップによって固定のこと。
 溝、ハウジングへの固定が正しくなされない場合には脱落や飛び出しによる隙間への咬み込みなどの発生による損傷の可能性がある。
(4)圧力供給口金
 インフラートシール®には圧力供給口金(バルブ)をシール面(膨張サイド)の反対側に取り付ける。標準外として側面や端部に取り付けることも可能なので相談のこと。口金のサイズなどはカタログをご参照願う。
(5)注意事項
① クリアランス
 標準品は7項〔ラインアップ〕の表4で指定するクリアランスの範囲(上、下限)を超えないように、標準外品は個別に設定する範囲を超えないように設定のこと。設定クリアランスを超えての使用はシール性能、耐久性などの機能の低下を引き起こすことがある。
② ハウジングの面取り・表面仕上げ
 ハウジング、リテーナのインフラートシール®への接触部はR1以上の面取り(フィレット)を行うこと。シール面及びインフラートシール®の接触する表面は原則としてRa=1.6~3.2に仕上げること。
③ 圧縮使用について
 インフラートシール®は原則として圧縮での使用が出来ない。
④ 真空吸着について
 一般的なシール材(パッキン)でも発生する現象ではあるが、インフラートシール®は真空用途で使用した場合に、反転タイプでは吸着現象が発生し、供給 圧力を解放(排気)してもシール面から離脱しない現象が起こる場合がある。この為真空での使用は、膨張タイプの使用、中空内部のバキューム機構、シール対象物の駆動力アップなどで対処のこと。
⑤ 摺動使用について
 インフラートシール®は原則として摺動使用は出来ない。
 摺動での使用を検討する場合は、別の部材を介して摺動させるなどの方法があるので別途相談のこと。

7. ラインアップ

(1)サイズのラインアップ
 インフラートシール®は断面構造で反転タイプと膨張タイプの2タイプ、断面サイズでタイプA~Gまでの合計7サイズをラインアップしている。本稿では断面サイズと適用可能なクリアランスサイズの紹介を行う。インフラートシール®のラインアップはクリアランスサイズを基本としている。ユーザー側で設計する装置のクリアランスに応じた選定ができる。
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(2)材質のラインアップ
 インフラートシール®は標準ゴム材質としてEPDM、CR、NBR、VMQを準備しており、このゴム膜をポリアミド又はアラミドの繊維(織布)で補強する。圧力供給口金材質はSUS304を基本とするが標準外として他の金属材質でも製作可能である。インフラートシール®は、中空を形成するためにエンドレス加工部(継ぎ目)にゴム製の芯を挿入して製造する。このゴム製の芯はNBR、EPDM、FKM で成形された物で、本体材質に応じて当社にて設定する。
 表5にゴム材質と補強布材質のラインアップについて紹介をする。
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8. おわりに

 本稿では当社のインフラートシール®標準品の紹介を行なった。本品は言わば、“ 知る人ぞ知る”メジャーではないシール部品ではあるが、本稿により、広く認知いただき、同時に本品がユーザー各位のお役に立てば幸いである。

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