ガスケットひずみに基づくジョイントシートガスケットの漏洩特性評価

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沼津工業高等専門学校 機械工学科
小林 隆志
日本バルカー工業株式会社 研究部
山中 幸
基幹産業開発部長
西田隆仁

1.はじめに

 米国では大気中に放出される汚染物質の規制を目的として1963年に大気浄化法(Clean Air Act:以下CAA)が、また1990年には改正大気浄化法(Clean Air Act Amendment of 1990:以下CAAA)が制定され、工業プラントにおけるフランジ継手からの微少漏洩(Fugitive emission)も規制対象となった1)。これと並行して圧力容器研究委員会(Pressure Vessels Research Council:以下PVRC)を中心として、ガスケットの漏洩特性試験法が検討されてきた。その成果として、漏洩量を考慮に入れてフランジ継手設計を行うためにタイトネスパラメーターの概念を導入し、ガスケット係数(m, y)に代えて設計係数として使用する新ガスケット係数を決定するための常温ガスケット漏洩試験法ROTT(ROom Temperature Tightness test)2)が提案された。
 ヨーロッパではヨーロッパ規格委員会(CEN)においてガスケット試験法prEN135553)が提案され、この試験法に従って得られるガスケットパラメータは、フランジ設計規格であるEN 1591-14)において使用される。EN 1591-1では従来のフランジ継手の強度主体の設計に加えて、ガスケットの漏洩量の概念が導入されており、今後のフランジ継手設計の方向性を示すものであると考えられる。
 以上のように、欧米ではガスケットの漏洩試験法が提案・検討されているが、漏洩試験法については、特に漏洩測定に極めて長い時間が必要で、試験費用も高く実用的でないことが大きな問題点として挙げられる。さらにガスケット寸法と漏洩量の関係の考え方にも問題点を残しており、今後さらに検討の必要がある。
 著者らはこれまでにジョイントシートガスケットの基本的漏洩特性に関して検討してきており、ガスケットの漏洩量はガスケットのひずみと密接に関係していることを明らかにしてきた。さらにこの特性を利用すればより短時間での漏洩試験法が可能であることを示した。ここにこれらの研究結果をまとめて報告する。

2.実験

2.1 実験装置
 図1にガスケットの漏洩試験装置の概略を示す。図中の上部試験円柱と下部試験円柱の間にガスケットをはさみ、歯車式の荷重装置(荷重容量49kN)によりガスケットに圧縮荷重を作用させる構造となっている。実験に用いたガスケットは非石綿ジョイントシートガスケット[No.6500、日本バルカー工業社製]で、寸法は外径67mm、内径48mm、厚さ1.5mmである。なお、ガスケットには100℃で1時間の熱処理を施した。ガスケット
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に対する偏荷重を除くために球面座をはさみ、ロードセルにより荷重を検出する。ガスケットの圧縮量を求めるために3個のダイアルゲージを用いて上部試験円柱と下部試験円柱の間の変位量を測定している。
 ガスケットからの漏洩量を測定するために、下部試験円柱からガスケットの中央に窒素ガスを供給する。上下の試験円柱外周にはOリングでシールした円筒カバーが取付けられていて、ガスケット外周から漏洩した窒素ガスを補集してビューレットにより漏洩量を測定する。

2.2 実験方法
 ガスケットからの漏洩特性はガスケット応力が単調に増加する組立て時と、ガスケット応力が増減する運転時とでは同じガスケット応力であっても漏洩特性が異なることが知られている。そこで、図2に示すようにガスケット応力を段階的に増減させて漏洩特性の測定を行った。試験ガスとして窒素を用い、作用内圧Pは1MPa一定とした。ガスケット応力を変化させた際には約10分の安定時間を取り、その後、漏洩量の測定を行った。図2に示すガスケット応力は実際の測定値であり、この場合安定時間を含めて約360分の測定時間を要した。なお、実験の際にはガスケットに約0.7MPaの面圧に相当する予荷重を与えた。
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3.実験結果

3.1 ガスケット応力による漏洩量評価
 図3にはガスケット応力と漏洩量との関係を示す。図中には2回の実験結果を示してある。締付け時にはガスケット応力の増加とともに漏洩量は減少するが、運転時に相当する除荷-再負荷過程ではガスケット応力が低下しても漏洩量は締付け過程よりも低い漏洩量を示していることがわかる。すなわち、ガスケットは締付力を大きくするほど漏洩量は少なくなり、いったん締付けたガスケットは締付力が低下しても漏洩量はあまり増加しないといえる。
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3.2 ガスケットひずみによる漏洩量評価
 図4に実験時に得られたガスケット応力とひずみの関係を示す。ガスケットのひずみは除荷-再負荷過程ではガスケット応力が低下すると弾性ひずみに比べて塑性ひずみがかなり大きく現れ、ガスケットのひずみの減少は緩やかであることがわかる。ここで図3の漏洩特性と比較してみると、漏洩特性はガスケットのひずみと密接な関係があることがわかる。そこで、漏洩量とガスケットひずみとの関係を調べた。
 図5に漏洩量とガスケットひずみとの関係を示す。図に見られるように、2回の実験結果は負荷過程(Part A)および除荷-再負荷過程(Part B)を
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含めて漏洩量を対数とした片対数グラフ上でほぼ直線となる。これは、ガスケットの漏洩量がガスケットのひずみと直接的に関係していることを示している。この理由は次のように考えられる。図6に示すようにジョイントシートガスケットの内部には微小空隙が多数存在している。この空隙の大きさがガスケットからの漏洩量を支配していると考えられる。この空隙の大きさの変化はガスケットのひずみとほぼ対応しているために図5に示すような結果が得られたものと考えられる。
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3.3 簡易漏洩試験法
 図5に示したように、漏洩特性がガスケットのひずみで負荷過程(Part A)および除荷-再負荷過程(PartB)を含めて評価できることは、図2に示したようなガスケット応力の増減を行わなくてもよく、ガスケット応力を単調に増加させればよいことを意味し、図7に示すような、ガスケット圧縮変形量を変化させるために、ガスケット応力を3段階程度に変化させるというような簡易な試験法が可能である1)。ガスケット応力を10、20、30MPaに順次増加させ、各段階では内圧を0.5、1.0、1.5MPaの3段階に変化させて、合計9種類の内圧とガスケット応力の組合せで試験を行った。
 図8は簡易漏洩試験法により得られた結果をガスケットのひずみを指標として整理した結果である。内圧P=1MPaの結果は図6の結果とほぼ対応するものであり、さらに内圧の影響を検討することができる。実験結果は次の近似式でかなりよく近似できることがわかる。
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 ガスケットの漏洩量がガスケットひずみで一意に評価できることにより、式(1)のような実験式による整理が可能となる。
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3・4 ガスケット寸法を考慮した漏洩量評価
 図5及び図8の結果は試験に用いた特定のガスケット寸法に関するものである。特定の寸法のガスケットの試験によって得られた漏洩量から他の寸法の漏洩量を推定するためにROTT及びPrEN13555では次のような考え方を適用している。
 ROTT:漏洩量はガスケットの外径に比例する
 prEN13555:漏洩量はガスケットの内周長と外周長の平均長に比例する。
 ROTTの方法ではガスケットの幅の影響が全く考慮されないという問題がある。そこで、工学的観察から、漏洩はガスケット内周長(内径a)に比例し、ガスケット幅wに反比例すると考えた。すなわち、(a/w)の値をガスケット寸法の影響を評価する際の指標とするものである。
 この仮定の妥当性を検討するために図9に示す4種類のガスケットを用いてガスケット応力を20MPa一定として漏洩量を測定した。
 図10には実験を行った4種類のガスケットの漏洩量を示してある。内径、外径、幅が異なるガスケットの漏洩量を(a/w)の値を指標として評価している。漏 洩量は(a/w)の値と強い相関を示しており、漏洩量は(a/w)の値でほぼ整理できることがわかる。さらに漏洩量は式(1)を考慮して、次式により近似できる。
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 すなわち、ある特定の寸法のガスケットについて漏洩特性試験を行えば、式(2)により異なる寸法のガスケットの漏洩特性を推定することが可能であるといえる。
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4.まとめ

 ジョイントシートガスケットの漏洩特性に関して検討し、次の結果が得られた。
(1)ジョイントシートガスケットのように内部に空隙が存在し、浸透漏洩が発生するガスケットの漏洩特性は負荷時、除荷時を区別することなくガスケットひずみを指標に取ることにより、一意に評価できる。
(2)ガスケットの漏洩特性がガスケットひずみで一意に評価できる場合には、ガスケットひずみを変化させるためにガスケット応力を単調に増加させる負荷シーケンスを用いることができる。これにより、試験時間の短縮が可能である。
(3)ガスケットの漏洩量はガスケット内周長に比例し、ガスケット幅に反比例すると考えれば、特定の寸法のガスケットの漏洩量から他の寸法のガスケットの漏洩量を推定することが可能である。
(4)これまで、定量化の困難であったガスケットの漏洩特性を実験式で表すことが可能であることを示した。

 これまで十分に検討されていなかったガスケットの漏洩特性に関係する因子を明確にした。今後は他のガスケット材料及び形式のガスケットの漏洩特性を調べることが必要である。

5.おわりに

 環境問題の高まりに伴い、排出規制および排出権取引は、世界的に大きな話題となりつつある。この観点に立った漏洩量の定量化は、各プラントにおいても環境管理の重要な課題と言える。一方、我国の漏洩管理は、世界的に見て決して引けをとるものではなく、むしろ極めて高い水準にあるが、定量化についての認識は乏しい。この背景には、漏洩検査の煩雑さとその応用性の低さが挙げられる。本報文で紹介した試験方法は、欧米の提案に比べて簡便で、かつ寸法の異なるガスケットの漏洩量に換算することが出来る。現在進められている欧米の規格改定には、こうした観点は乏しく、我々の提案が、今後,規格が目指すべき技術的方向性について、一つの考えを示すと同時に、我国の独自性を示す一歩となることを希望する次第である.

6.文献

1)宮本悟;“地球環境問題に対応のバルブベローズバルブ”,バルカーレビュー,43-2,(1999).
2)Standard Test Method for GASKET CONSTANTS FOR BOLTED JOINT DESIGN, Draft10.01, April 2001.
3)prEN13555:2004, Flanges and their joints - Gasket parameters and test procedures relevant to the design rules for gasketed circular flange connections,July 2004.
4)EN1591-1:2001, Flanges and their joints - Design rules for gasketed circular flange connections - Part1:Calculation method, April 2001.
5)小林・鈴木・西田・山中,“ガスケットのひずみ量に基づく漏洩量評価”,日本機械学会山梨講演会講演論文集(1999),69.
6)小林・西田・鈴木,“ジョイントシートガスケットの漏洩特性の数学モデル”,日本機械学会山梨講演会講演論文集(2000),87.
7)Kobayashi T., et al,“Leak Tightness Evaluation of Gaskets Bolted on Compression Strain”,ASME PVPVol.405, pp.23-27, 2000.
8)Kobayashi, T., Nishida, T., and Yamanaka, Y.,“Mathematical Model for Sealing Bshavior of Gaskets based on Compressive Strain”,ASME PVP-Vol.406,pp.105-109, 2001.
9)Kobayashi T, Nishida T, and Yamanaka Y,“Simplified Sealing Test Procedure of Gaskets based on Compressive Strain”,ASME PVP-Vol.433, pp. 29-34, 2002.
10)Kobayashi T, Nishida T, Yamanaka Y,“Consideration on the Representations of Sealing Behavior of Gaskets(Effects of the internal pressureand the gasket width)”,PVP-Vol.457, pp.133-137,2003.

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