大きい管フランジは何故漏れやすいか?1

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山梨大学大学院工学研究科 助教授
澤 俊行
日本バルカー工業株式会社CTO担当部長
西田 隆仁
日本バルカー工業株式会社事業統括部ガスケット/その他シール担当
山中 幸

1.はじめに

 日本高圧力技術協会のシーリングテクノロジー委員会(委員長、澤 俊行(山梨大学大学院工学研究科))は平成12年度にガスケット付き大口径管フランジ締結体(呼び径20インチ)の漏洩防止とそのボルト締付け法に関する研究をおこなった。このような大きな管フランジ締結体から漏洩が発生したため、それはこのような研究を行うこととなった。比較的大きな管フランジ締結体は漏洩が発生しやすいのか?そうだとすれば何故なのか、とその対策について考えたい。

 ガスケット付き管フランジ締結体の漏洩を防止する上で重要なガスケット接触応力を取り扱った研究(1)~(6)はいくつかなされており、それらの研究の多くは比較的小口径の管フランジ締結体を対象としている。一方、呼び径の大きな管フランジ締結体も石油プラントなどに多用され、しばしば漏洩事故も発生しているようである。管フランジ締結体の設計はASME、DINおよびJIS規格に示されており、これに従えば漏洩事故など起こるはずがないと信じられるが、実際には事故が発生するようである。例えば1995年1月の阪神淡路大震災でLPGガスターミナルのフランジ締結部が曲げモーメントを受けて、内部流体が漏洩したなどの事故(7)が報告されている。しかし規格での設計法はかなり昔の技術の集積であり、現代的状況に対応できるか?これは別の問題と考えられる。例えば管フランジ締結体がよく設計されたとし、ボルト初期締付け力を適切に推定されても、本当に設計されたボルト初期締付け力でより均一に締付けられている保証は特別の場合を除いてない。さらにボルトには材料により強度区分が定められているが、現行の規格ではそんな規定はないようである。すなわち、仮にガスケット選択と設計は慎重になされたとしても、極端な言い方をすればそのあたりに転がっているボルトで適当に締付けてもよい、ことになるであろう。それで締結体からの漏洩防止が保証されるか、である。

 そもそも漏洩とは何かの定義も日本では曖昧のように思われる。他方、最近になり知られるようになったのであるが、米国のPVRC(Pressure Vessel Research Council、圧力容器研究委員会)が、従来のガスケット係数(m、y)と密封設計法(8)(9)に代わる漏洩量に関するタイトネスパラメータTp(10)と新ガスケット係数(Gb, a, Gs)を用いた新しい漏洩評価法と締結体設計法(10)~(14)を公表している。西田(13)がすでに、この問題について解説*1を行っている。(脚注*1:読者の便を考え、付録にタイトネスパラメータおよび新ガスケット係数について簡単に解説を述べておく。)

 PVRCの管フランジ締結体のガスケットからの漏洩に関する基本的な考え方は、ヘリウムガスを使った実験より、①ガスケットからの微量な漏洩は必ず発生する、②しかし最終的には漏洩が発生しない締結体(leakage-free)の設計を目指す、である。1970年代から北米と欧州のいくつかの国と共にPVRCの研究活動が開始継続された。この背景は水や空気などの作動流体から、放射線同位元素などの危険物体の密封が社会的に大きな問題となってきたことに起因しているようである。さらにアスベストガスケットの使用の禁止から新ノンアスベストガスケットの移行が確かな、しかもこのような新しい材料ガスケットの試験法を見直す契機になったようである。何故ヘリウムガスを使用したか?一番漏れやすいからとの説明である。

 従来からのガスケットを含む締結体設計法およびPVRCの設計方式における基本的問題点は、管フランジ締結体に内圧などの荷重が作用したとき、実際のガスケット接触応力の推定が、理論的根拠を持って行われていないことである。何故なら内圧などの荷重が締結体に作用すると、内圧による軸方向力はボルト軸力の増加分とガスケット接触応力の減少分に分配され、これらを求める問題はいわゆる不静定問題となるため、古くからより正確には解けていないのが現状である。しかし現実には仮定に仮定を重ねて、推測するためうまくいくときには良いが、事故が起こるとその原因がなかなか掴めないのが現状と推測される。

 ところで管フランジ規格(15)では、呼び径の比較的小さな管フランジ寸法と呼び径の比較的大きな管フランジ寸法では、管フランジ寸法、ガスケット接触幅およびガスケット接触面積などが必ずしも比例していない。このため比較的呼び径の大きな管フランジ締結体の密封性能はかならずしもよくはないことがある。実際の大口径管フランジ締結体のガスケット接触応力、新ガスケット係数などを調べた実績がないからであり(勝手に大口径と小口径の寸法比が一定であると信じている)、これらを調べておく必要がある。従来、比較的呼び径の大きな管フランジ締結体の漏洩評価などについて扱った研究はANDOらの研究(16)を除いて見当たらない。
 そこで本稿(17)では、比較的呼び径の大きな管フランジ締結体(呼び径20インチ、大口径管フランジ締結体と呼ぶ)に関して、内圧作用時のガスケット接触応力分布をガスケットの非線形性とヒステリシスを考慮して有限要素法を用いて解析し、3インチ管フランジの場合(6)との比較を行い管フランジ呼び径がガスケット接触応力分布に与える影響を明らかにするとともに密封性能に及ぼす影響も調べてみる。さらに内力係数φg(ボルト軸力の増減分と内圧による軸方向荷重との比)を解析し、内力係数を用いて内圧作用時のガスケット残留応力を推定する。内力係数は先に述べた不静定問題を解いた結果として、ボルト軸力の変動が分かり、同時に実際のガスケット接触応力が分かることになる。実際の20インチ管フランジ締結体を用いてボルト軸力変動(内力係数)および漏洩量測定事件も行い、漏洩量からタイトネスパラメータTpを求め新ガスケット係数(Gb, a, Gs(10)~(14)を算出し、管フランジ呼び径が新ガスケット係数に与える影響を明らかにすると共に、PVRC方式のROTT(10)~(14)(Room temperature Operational Tightness Test、室温での漏洩試験)によリ算出される新ガスケット係数および3インチ管フランジ締結体(6)のそれらと比較検討する。またボルト軸力変動(内力係数φg)に関する実験値と計算値を比較する。

 最後に与えられた内圧作用時タイトネスパラメータTpに対して、ガスケット接触応力分布を用いる方法とPVRC方式により得られるボルト初期締付け力Ffの値を比較検討し、Tpに対するより正確なボルト初期締付け力Ffの求め方を検討する。すなわちPVRCのボルト初期締付け力の決定も先に述べた締結体の力学的関係における不静定問題を解決した後に作成されたものではなく、経験的に仮定されているのみである。
 このため、大口径管フランジに対しても適切にボルト初期締付け力が決定されるかは不明である。以上により、大口径管フランジ締結体は小口径に比べて何故漏洩しやすいか、が判明する。

2.解析方法

2-1 ガスケット接触応力分布の解析
 図1は一般的にN本のボルト・ナットにより初期締付け力Ffで締結され、内圧Pが作用するガスケット付き管フランジ締結体を示している。締結体に内圧Pが作用するとき各ボルトには軸力の増減分Ftが発生し、ガスケット接触面からは圧縮力Fc(ボルト1本当たり)が失われ、ボルト1本当たりの平均ガスケット接触応力はFf/Aから(Ff-Fc)/Aへ変化する。ただしAはボルト1本当たりのガスケット接触面積を表す。

 なお軸方向外荷重をW'とするとき、ボルト1本当たりのボルト軸力の増減分FtとW'の比は内力係数φgと呼ばれている(1)~(4)
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すなわちφgはφg=Ft/(W'/N)であり、内力係数φgが求められるとガスケット接触面から失われる力FcはFc=(1-φg)W'/Nで与えられる。ただし外荷重W'はW'=πa32P(a3はガスケット内半径)で与えられる。実際の問題として、内圧作用時のガスケット接触応力(Ff-Fc)/Aが必要である。

 しかしガスケット接触面から失われる力Fcが一般的には求められていないため、ASME、DINなどの規格では仮定に基づき、計算しようとしている。しかし例えばガスケット面のどこまでガスケットとフランジ面が接触しているかを表す、ガスケット有効幅などは、規格による値と実際の値とはかなり異なる。さらに内圧作用時(変動して)のガスケット接触面(有効幅)の推定は、当然不可能である。

 本稿では管フランジ呼び径がガスケット接触応力分布におよぼす影響を明らかにするため、比較的呼び径の大きいJPI Class300呼び径20インチ管フランジ(フランジ外径775mm、ボルト数N=24、ボルト呼び径M33)と比較的呼び径の小さいJPI Class600呼び径3インチ管フランジ(6)(フランジ外径210mm、ボルト数N=8、ボルト呼び径M20)を用いた管フランジ締結体に関して、有限要素法を用いてガスケットの応力-ひずみ関係における非線形性とヒステリシスを考慮した三次元弾塑性応力解析を行い、主にガスケット接触応力を調べる。
 図2はFEM解析モデルを示し、原点をOとする円筒座標系(r、θ、z)を用いる。管フランジ、ボルトおよびガスケットの縦弾性係数、ポアソン比をそれぞれ(E1, ν1)、(E2, ν2)および(E3, ν3)とする。
 また管フランジのフランジ厚さを2h1、ガスケット厚さおよび内径をそれぞれ2h3および2a3とする。大口径管フランジおよびそれのボルトの縦弾性係数、ポアソン比をそれぞれE1=E2=206GPa、ν1=ν2=0.3とし、小口径管フランジ(6)およびそれのボルトの縦弾性係数、ポアソン比をそれぞれE1=E2=193GPa(SUS304)、ν1=ν2=0.3とする。
 ガスケットのポアソン比はν3=0.34とし、応力-ひずみ関係については非線形性およびヒステリシスを考慮する。
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 図3は大口径管フランジ締結体の1/96の要素分割を示しており、対称性を考慮し1本のボルト周辺を計算対象としている。
 有限要素コードはMARCを使用し、総要素数および節点数はそれぞれ8444、10230である。要素には6面体8接点ソリッド要素を使用し、管フランジとガスケットの接触面には接触条件を用いた。
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2.2 ガスケットの応力-ひずみ関係
 本稿ではアスベストフィラーを用いたうず巻形ガスケット(日本バルカー工業製、No.591:外輪付き)を使用し、ガスケットの応力-ひずみ関係の負荷時(初期締付け時)と除荷時(内圧作用時)におけるヒステリシスおよび非線形を考慮している。
 図4はFEM応力解析で用いたアスベストうず巻形ガスケットの応力-ひずみ関係を示している。実線は実験で得られた応力-ひずみ曲線、破線は解析で用いた近似直線である。
 ガスケット負荷時(初期締付け時)の応力-ひずみ関係は断片線形近似して非線形性を与え、それぞれの断片線形直線の傾きを図中に示している。ガスケット除荷時(内圧作用時)における応力-ひずみ近似直線の傾きは5.07GPaとし、負荷時と除荷時それぞれ異なる傾きを用いることによりガスケットの応力-ひずみ関係のヒステリシスを考慮する。
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3.実験方法

 実際の管フランジ締結体を用いてROTT(10)~(14)に対応する漏洩量測定実験を行い、初期ガスケット接触応力とタイトネスパラメータTpの関係を求める。
 図5は実験に用いた大口径管フランジとうず巻形ガスケットの寸法を示している。管フランジはJPI Class300呼び径20インチ、ガスケットはASME/ANSI Class300呼び径20インチである。なお、ボルトの呼び径はM33で、軸部には180°の位相差で2枚のひずみゲージを貼り付け、予め校正した。管フランジ、ボルトの材質はSFVC2A(JIS)、うず巻形ガスケットはフィラー部がアスベスト(石綿)、外輪はステンレス鋼SUS304(JIS)である。
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 図6は大口径管フランジ締結体の実験装置の概略を示している。ガスケットをはさんだ1対の管フランジをN=24本(小口径管フランジ締結体はN=8本)のボルトにより所定の初期ガスケット接触応力を得るために初期締付け力Ffで締結する。なおボルト軸力はボルト軸部に貼られた校正済みのひずみゲージにより検出する。
 内圧はガスボンベ(ヘリウムガス)により作用させ、その時の作動内圧は圧力変換器を用いて電圧に変換し記録する。本実験では実験開始時と終了時における内圧変化量および締結体内部容積(大口径9.8m3、小口径0.583m3)から単位時間当たりの質量漏洩量を換算{(内圧変化量)×(容積)/(測定時間)}した。大口径管フランジ締結体の内部容積を減らし測定時間を大幅に短縮するために、図6に示されるように円筒を締結体内部に挿入している。また、内圧作用時におけるボルト軸力変動(内力係数φg)もひずみゲージにより測定した。
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4.有限要素法による解析結果

 図7は大口径管フランジ締結体の周(θ)方向におけるガスケット接触応力分布を示している。縦軸はガスケット接触応力σz、横軸は図2に示すように周方向の角度θ(=0°~7.5°)である。
 初期締付け力はFf=200kN、内圧はP=5MPaとした。なおガスケットは管フランジとの接触面(フィラー部)のみをモデル化しており、初期締付け時におけるガスケット外周部r=288.9mmの応力分布、内圧作用時におけるガスケット内周部r=262.75mm、中間部r=275.9mmおよび外周部r=288.9mmの周(θ)方向応力分布を示している。
 周方向の応力分布の差異は極めて小さいことが分かる。このため半径方向のガスケット接触応力分布に関しては図2に示すθ=0°(ボルト中心軸線上)の応力分布を用いる。
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 図8は大口径管フランジ締結体の半径(r)方向におけるガスケット接触応力分布を示している。初期締付け力はFf=200kN、内圧はP=3、4および5MPa(圧力-温度基準(17)における許容最大内圧)とした。内圧が作用すると平均ガスケット接触応力は減少することが分かる。特にガスケット内周(r=262.75mm)付近ではガスケット接触応力がゼロ、すなわち管フランジとガスケット接触面が分離することが示されている。
 また図中のガスケット接触応力σz=19MPaを示す破線は、本実験により得られた新ガスケット係数“Gb”の値である(表3参照)。新ガスケット係数の定義(10)~(13)から新ガスケット係数“Gb”は、タイトネスパラメータTp=1の時のガスケット接触応力である。
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 Tp=1は極めて小さい値であり密封性能は低い。従ってσ=19MPa以下の部分はほとんど密封に寄与していないと仮定した。大口径管フランジ締結体の場合、内圧が作用するとガスケットの接触応力の減少だけではなくガスケット有効幅、すなわちガスケットの密封に対して有効な接触面積も減少すると言える。
 従来の規格では初期締付け時のガスケット接触幅を規定しているのみで、内圧作用時は規定していない。さらに初期締付け時のガスケット接触幅も経験的仮定にのみ依存し、筆者らの計算結果とはかなり異なる。
 図9(a)は大口径管フランジ締結体の内圧作用時(ガスケット除荷時)におけるガスケットの縦弾性係数E3が、ガスケット接触応力分布におよぼす影響を示している。初期締付け力はFf=200kN、内圧はP=5MPaとした。また、図9(b)はこのとき用いた除荷時におけるガスケットの応力-ひずみ関係における傾き、すなわち縦弾性係数を示しており、④E3=5.07GPa(標準、図2参照)⑤E3=2.54GPa(1/2倍)および⑥E3=10.1GPa(2倍)とした。
 なお負荷時におけるガスケットの応力-ひずみ関係は一定とし、図4に示す断片線形力線である。図9よりガスケット除荷時(内圧作用時)におけるガスケットの縦弾性係数E3が小さくなると、内圧作用時におけるガスケットの密封に対して有効な接触面積が増加することが分かる。従って除荷時の縦弾性係数E3が小さいガスケットを開発使用することにより密封性能が向上する可能性があると言える。
 同様に負荷時の応力-ひずみ関係における縦弾性係数E3を変化させて計算を行ったところ、やはり負荷時の縦弾性係数E3の値が小さい方が、密封性能が向上することが予想された。すなわち、主に鋼製管フランジに対して、ガスケットの縦弾性係数は小さい方が密封性は良くなることを示唆している。そのようなガスケットの使用が推奨される。
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 図10は初期締付け時における平均ガスケット接触応力をσzm=50MPaとし、内圧P=5MPaを作用させたときの大口径管フランジ締結体との小口径管フランジ締結体のガスケット接触応力分布の比較に示している。大口径管フランジ締結体(実線)のガスケット接触応力分布は小口径管フランジ締結体(破線)と比較して大きく変化していることが示されている。特にガスケット内周(r/a3=1)付近ではガスケット接触応力がゼロとなり、ガスケット接触面が分離している。
 平面座ガスケットを用いた管フランジ締結体は、ガスケットがボルト中心円直径よりも内周側に位置するため、ボルト初期締付け力Ffによりフランジ部には曲げモーメントが発生しフランジが曲がる(傾く)。
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 この現象は一般にフランジローテーションと呼ばれている。大口径管フランジ締結体のガスケット接触応力分布がガスケット内周から外周に向かって大きく傾く原因は、フランジローテーションの発生量が大きいためと考えられる。これに対し小口径管フランジ締結体に関しては、フランジローテーションがほとんど発生していないことが分かる。
 以上のガスケット接触応力分布から大口径管フランジの方が漏洩し易いことがお分かりいただけるであろう。また初期締付け時における平均ガスケット接触応力は大口径管フランジ締結体、小口径管フランジ締結体共にσzm=50MPaであるが、内圧(P=5MPa)が作用したときの平均ガスケット接触応力は大口径管フランジ締結体の方が小さい。この原因は大口径管フランジ締結体の方が小口径管フランジ締結体と比べて単位ガスケット接触面積当たりの内圧による軸方向引張り荷重W'が大きいこと(大口径管フランジ締結体:W'/A'=23.9MPa、小口径管フランジ締結体:W'/A'=12.2MPa、ただしA'は全ガスケット接触面積)、および両者の内力係数φgにおける値の差異によるものと考えられる(6)
 すなわち、5.1で述べる小口径フランジ締結体の内力係数の値は正であるのに対して、大口径フランジ締結体の内力係数の値は負となる。内力係数の値が負になることは、逆に言えばフランジローテーションが発生すると言える。
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