LLW輸送容器用ガスケットの開発

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研究開発部 シール開発グループ
永野 晃広

1. はじめに

 原子力発電所の運転や定期点検などの作業時に発生した比較的放射線レベルの低い廃棄物(低レベル放射性廃棄物〔Low-Level-Waste〕)は、200リットルのドラム缶に収納して、原子力発電所から陸上輸送と海上輸送を経て埋設する施設へ輸送されている。1)
 この輸送容器として、ドラム缶8本を収納することの出来るLLW輸送容器がある。[Fig.1]
 今般、このLLW輸送容器の蓋に取り付けるガスケットの開発を行なった。
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2. ガスケットの要求仕様と技術的課題

 開発するガスケットについて、従来品からの改良点を加えた要求仕様と技術的な課題をTable.1に示す。
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3. ガスケット仕様の机上検討

 Table.1の要求仕様に応じた技術的課題を満足させるべく、以下のデザインコンセプトを立案した。

3-1)低圧縮反力及び接触部のズレ対応(要求仕様①②⑧)
 蓋と本体を固定するボルトによる締め付けと、ガスケットの圧縮量や圧縮位置のズレを考慮して、低圧縮反力とするために、形状はリップタイプ又は中空タイプとして、可能な限り多くの圧縮量と接触面圧が得られるものとする。加えて、圧縮量を多くすることから、相反する特性となる低圧縮反力とするために低硬度の材料とする。

3-2)長寿命(要求仕様③④⑤)
 低圧縮永久歪で耐熱性と耐候性に優れ、原子力用途としても使用実績の多いVMQとEPDMを材質の候補とする。

3-3)着脱性(要求仕様⑥)
 ガスケットの着脱(交換)を容易にするため、蓋への装着は接着剤等を使用しない方法とする。加えて、手作業での着脱も容易にするため、ガスケットの幅を蓋の溝幅よりも小さくすること及び、低硬度の材料を選定する。

3-4)耐脱落性(要求仕様⑦)
 蓋へガスケットを接着しなくても蓋開放時に脱落することのないようにするため、ガスケットの幅を溝の幅よりも大きくしてガスケット自体の拡張力で保持をする設定とする。

4. デザイン

4-1)材料検討
 低圧縮反力及び接触部のズレ対応と着脱性を考慮してゴム硬さは低硬度の50度を選定した。また、長寿命とするために低圧縮永久歪で耐熱性と耐候性に優れた材料を候補とした。[Teble.2]
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4-2)断面形状検討
 低圧縮反力及び接触部のズレ対応を考慮して、リップタイプと中空タイプで検討を行なったが、リップタイプではこれらを成立させることが困難であると結論し、中空タイプに絞って断面形状の検討を行なった。
 まず初めにオーソドックスな断面形状の丸形状[Fig.3]と四角形状[Fig.4]から検討を始めた。
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 丸形状は、溝へ装着する際に捻れの発生が懸念され、また、水平方向に範囲のあるガスケット接触部の圧縮位置によっては圧縮量が大きく変わること、更に、装着した溝から脱落する可能性が考えられることから、不適であると判断した。
 四角形状は、着脱性を考慮してガスケットの幅を小さくすると溝から脱落し易くなり、耐脱落性を考慮してガスケットの幅を大きくすると着脱性が悪くなることが考えられた。また、FEM解析では、圧縮量が少なくなると接触面圧が低く成り過ぎる結果となった。
 このことから、中空タイプでもオーソドックスな断面形状では、技術的課題として挙げた低圧縮反力及び接触部のズレ対応を両立させることが困難であると判断した。
 そこで、溝へ装着する際に捻れの起こることもなく、水平方向にズレのあるガスケット接触部の圧縮位置に対しても圧縮量の変わることがない、四角形状をベースとして、以下の面取りタイプ[Fig.5]とRタイプ[Fig.6]を検討した。
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〔面取りタイプ〕
 本体側のガスケット接触部で圧縮されるシール部の両端を面取り形状(a)とした。こうすることで、圧縮時に面取り部を屈折[Fig.7]させて、シール部を反転することにより圧縮反力を生み出す構造とした。しかしながら、この構造の場合は、Fig.8に示すようにガスケット接触部の位置が水平方向の最大ズレ位置で、かつ、圧縮量が最大となると、ガスケットの圧縮反力が過大になり易くなる。そこで、ガスケットの肉厚(c)と高さ(b)を調整する必要が生じた。これらのことを踏まえた上で、低圧縮反力と接触部のズレへの対応を両立させるため、ガスケットの肉厚(c)を薄く設定した。しかし、この肉厚の調整に伴って、ガスケットの高さ(b)設定に制約が生まれたため、その結果、圧縮量は多くすることが出来なかった。
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 手作業による着脱性を容易にするためには、溝幅よりもガスケットの幅を小さくする必要がある。しかしながら、ガスケットの幅を小さくすると、溝から脱落することが考えられる。従って、この相反する着脱性と耐脱落性を両立させる必要があった。その手段として、ガスケットの幅(d、e)を適正な寸法に設定した。着脱性ではガスケットの上部(d)を溝幅よりも小さくしてテーパーを設けた。耐脱落性ではガスケットの下部(e)を溝幅よりも大きくして、ガスケット自体の拡張力で保持する設定とした。
〔Rタイプ〕
 本体側のガスケット接触部で圧縮されるシール部の両端をR形状(f)とした。こうすることで、圧縮時にガスケットの両側部が支え[Fig.9]となり、シール部が伸びることにより圧縮反力を生み出す構造とした。この構造の場合は、Fig.10に示すようにガスケット接触部の位置が水平方向の最大ズレ位置で、且つ、圧縮量が最大となっても、ガスケットの圧縮反力は過大にならない。このことから、ガスケットの肉厚(c)と高さ(g)を調整し易い。従って、面取りタイプよりもガスケットを高く設定して、圧縮量を多くすることが出来た。
 相反する着脱性と耐脱落性を両立させる手段については、面取りタイプと同様とした。
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5. FEM解析による検証

 面取りタイプとRタイプについて、FEM解析を行い、低圧縮反力及び接触部のズレ対応と接触面圧のシミュレーションを実施した。
 FEM解析の項目及び目的をTable.3に示す。
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5-1)FEM解析条件
 FEM解析の条件をTable.4に示す。
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5-2)FEM解析結果
 面取りタイプとRタイプについてFEM解析を行ったところ共に低圧縮反力及び接触部のズレ対応と接触面圧を満足する結果となったことから、試作品による性能確認を実施することとした。
5-2-1)面取りタイプ[ Table.5~6]
 圧縮状態が最大となる圧縮量Max/圧縮位置Max時[Table.6]でも圧縮反力は低く、接触面圧も確保されている。
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5-2-2)Rタイプ[ Table.7~8]
 圧縮状態が最大となる圧縮量Max/圧縮位置Max時[Table.8]は、圧縮反力が面取りタイプに比べると高くなるが、ボルトによる蓋の締め付け(安全率含む)が可能な低圧縮反力であり、接触面圧も確保されている。
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6. 性能確認

 FEM 解析の結果において、低圧縮反力及び接触部のズレ対応と接触面圧が満足した面取りタイプとRタイプについて試作を行ない、寿命と着脱性、耐脱落性の性能確認を実施 した。

6-1)材料試験 【長寿命】
6-1-1)目的
 長寿命とするために低圧縮永久歪で耐熱性に優れた材料である必要があることから、圧縮永久歪試験と空気老化試験を実施する。

6-1-2)方法
 ・硬さ試験 :JIS K 6253
 ・引張強さ試験 :JIS K 6251
 ・伸び試験 :JIS K 6251
 ・引張応力試験 :JIS K 6251
 ・圧縮永久歪試験 :JIS K 6262
 ・空気老化試験 :JIS K 6257

6-1-3)試料
 JIS 規格に準ずる。

6-1-4)試験条件
 ・常態物性  :硬さ、引張強さ、伸び、引張応力
 ・圧縮永久歪 :150℃×336hr
 ・空気老化試験:150℃×336hr
6-1-5)試験結果
 ガスケットの寿命に影響する圧縮永久歪は、EPDMよりもVMQ が低い値であり、VMQの中でも50度は空気老化試験において優れた結果となったことから、材料はVMQ50を選定した。[Table.9]
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6-2)圧縮反力試験 【低圧縮反力、接触部のズレ対応】
6-2-1)目的
 蓋と本体を固定するボルトによる締め付け(安全率含む)が可能であるのかを確認するため、各圧縮量と各圧縮位置時の圧縮反力を測定する。

6-2-2)方法
 ガスケットを装着する蓋側の溝と本体側のガスケット接触部を模擬したフランジにて、供試試料を所定の高さまで圧縮し、その各圧縮時の反力を測定する。

6-2-3)試料 [Fig.5~6]
 ・試験片100mm×n=3pc

6-2-4)試験条件
 ・試験状態:ドライ
 ・試験温度:常温
 ・試験回数:各試料に対して4回繰り返し
6-2-5)試験結果
 各圧縮量と各圧縮位置時の圧縮反力を測定した結果、面取りタイプとRタイプ共に低く、蓋と本体を固定するボルトによる締め付けが可能であることが確認できた。なお、この結果は、5 項のFEM 解析によるシミュレーションと概ね等しい値であった。[Table.10]
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6-3)圧縮永久歪試験 【長寿命】
6-3-1)目的
 圧縮による永久歪を確認するため、面取りタイプとRタイプの試作品で圧縮永久歪試験を実施する。

6-3-2)方法
 ガスケットを装着する蓋側の溝と本体側のガスケット接触部を模擬したフランジにて、供試試料を所定の高さまで圧縮し、下記条件後の圧縮永久歪を求める。

6-3-3)試料 [Fig.5~6]
 ・試験片100mm×n=3pc
6-3-4)試験条件
 ・試験環境 :大気中
 ・試験温度 :常温
 ・試験時間 :168Hr (1週間)
 ・フランジ数:1温度条件×1種時間
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6-3-5)試験結果
 圧縮永久歪を測定した結果、面取りタイプとRタイプは共に低い値であることから、長寿命となることが期待できる。[Table.11]
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6-4)装着試験【着脱性】
6-4-1)目的
 手作業による着脱が容易であるのかを確認するため、装着試験を実施する。

6-4-2)方法
 ガスケットを装着する蓋側の溝を模擬したフランジに供試試料を装着する際の荷重を測定する。

6-4-3)試料 [Fig.5~6]
 ・試験片100mm×n=1pc

6-4-4)試験条件
 ・試験状態:ドライ/ウエット(水塗布)
 ・試験温度:常温
 ・試験回数:各試料に対して3回
6-4-5)試験結果
 装着時の荷重を測定した結果、荷重の高くなるドライ状態でも面取りタイプとRタイプは共に低い値であることから、装着は手作業で実施できることが確認できた。しかしながら、装着を手作業で行なう際の容易さについて比較をすると、面取り
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タイプは傾かないように注意して装着しなければならないのに対して、Rタイプは傾きが起こり難く、容易に装着を行なうことが出来たことから、装着性についてはRタイプに優位性が認められた。[Table.12]
6-5)取り外し試験 【着脱性、耐脱落性】
6-5-1)目的
 手作業による交換が容易であるのかと、蓋開放時に脱落しないことを確認するため、取り外し試験を実施する。

6-5-2)方法
 ガスケットを装着する蓋側の溝を模擬したフランジに装着した供試試料を取り外す際の荷重を測定する。

6-5-3)試料 [Fig.5~6]
 ・試験片100mm×n=1pc

6-5-4)試験条件
 ・試験状態:ドライ/ウエット(水塗布)
 ・試験温度:常温
 ・試験回数:各試料に対して3回
6-5-5)試験結果  取り外し時の荷重を測定した結果、Rタイプは荷重の高くなるドライ状態で、面取りタイプに比べて高い値となったが、手作業による交換が可能な値であることが確認できた。また、Rタイプは蓋開放時の耐脱落性に対しても、ドライ/ウエット状態共に取り外し荷重が高い結果であることから優位性が認められた。[Table.13]
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7. おわりに

 各性能確認において面取りタイプとRタイプの比較を行なった結果、優位性の認められたRタイプをLLW輸送容器用のガスケットとして採用が決定した。
 このRタイプは、要求仕様①②⑧に応じた低圧縮反力及び接触部のズレ対応、要求仕様③④⑤に対応した長寿命、要求仕様⑥に対応した着脱性、要求仕様⑦に対応した耐脱落性を満足するシールである。

謝辞
 この開発を進めるにあたり、ご指導を頂いた原燃輸送株式会社、トランスニュークリア株式会社に厚く感謝致します。

8. 参考資料

1) 原燃輸送株式会社 HP http://www.nft.co.jp
2) バルカーハンドブック 技術編

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