Low Emission 対応のシール材

LowEmissionタイトル画像
日本バルカー工業株式会社 研究開発部 事業部研究グループ
石田 誠

1.はじめに

 近年、環境問題の高まりなどにより、シール材の周囲を取り巻く環境が激変しつつある。そのため、シール材に対する要求は年々厳しさを増している。そこで、本稿ではグランドパッキン低漏洩化の新技術を紹介し、併せて環境関連の規制動向(規格化動向を含む)を紹介する。

2.Low Emission 対応グランドパッキンの開発の経緯と概要

2-1 開発の経緯
 工業プラントにおける漏洩発生源としてはバルブが全漏洩の約80%を占めると見積もられている。バルブのシール部位では、動的シールとなるグランドパッキンからの漏洩が占める割合は75%とも言われており、グランドパッキンからの漏洩をコントロールすることが重要となる。そこで、各国の漏洩規制をクリアするLow Emission 対応グランドパッキンの開発を行った。
2-2 Low Emission 対応グランドパッキンの概要
 今回開発したLow Emission 対応グランドパッキンは、接面漏れ、背面漏れを少なくすることを主眼においている。

 グランドパッキンにおけるシールのむずかしさは、締付ける方向とシール面が水着な位置関係にあることである。Low Emission 対応グランドパッキンは、締付けと垂直な方向へ容易に変形し、接面への応力(側面圧)が低い締付力から発揮される構造となっている(第1図参照)。
主な特徴
○低漏洩
 Low Emission 対応である。
○低締付
 締付力が大幅に低減される。
○低抵抗
 軸抵抗が相対的に小さくなる。
○低コストに貢献1
 スタッフィングボックスおよびステムに特別な加工(表面処理、表面粗さなど)を要求しない。
○低コストに貢献2
 パッキン、スタッフィングボックスおよびステムに特別な寸法精度(真円度、厳しい寸法公差)を要求しない。
P10-1
 一般的なグランドパッキンで漏洩量を少なくする場合、パッキンとスタッフィングボックスおよびステムのクリアランスを極限まで小さくすることや、寸法が僅かに大きいグランドパッキンを押し込めることで、ある程度までの低漏洩化が可能である。ただし、このような方法を用いた場合、作業性の悪化やスタッフィングボックスとステムの高精度化、ステムトルクの増大などユーザー側に大きな負担をかけることになる。
 パッキンの詳細は後述する。

3.漏洩に関する法規制および規格化動向1,2)

 近年、世界的に環境問題が注目され、各国で有害物質の排出に対する法規制および規格化(漏洩規制量、試験方法、測定方法等)が進みつつある。公的機関であるISOでは、2002年に規格作成完了、2003年に施行予定で進められてきたが、ドラフト(試験方法)の審議(ISO/TC153/SC1 WG10)が継続中であり、規格化のスケジュールは大きく遅れている。
 しかし、既に法規制を実施している国もあり、シール材に対してLow Emission 指定といった要望は確実に増えてきている。
 図2に規格化動向とLow Emission 対応グランドパッキンの動向を示す。
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3-1 米国の動向
 米国では1990年に大気浄化法が改正(Clean Air Act Amendment:CAAA)された。これにより、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound ; VOC)に対する微量漏洩の排出規制は大気濃度500ppmに規制された(カリフォルニア州では1997年から100ppmへ引き上げられている)。
 その他、規格化されたものとして、FCI(Fluid Control Institute)のバルブ格付け評価方法があり、ANSI/FCI911 Standard for Qualification of Control Value Stem Seal to Meet EPA Emission Guidelines For Volatile Organic Compounds として米国標準となっている。また、MSS-SP(DRAFT)VALVE FUGITIVE EMISSION MEASURE-MENT AND CLASSIFICATION という、バルブにおける微小漏洩の測定方法と格付けを行う規格のドラフトが策定中である。
3-2 ヨーロッパの動向
 ドイツでは、TA-LUFT(Tcchnische Anordnung zurreinhaltung der luft)というCAAAに相当する規制が1986年に制定され、指定毒ガスのプロセスに使用するバルブとしてべろーずバルブまたは、これに準ずるシール性能を有するバルブを使用することを義務づけしている。
3-3 日本の動向
 日本では、環境庁が2004年に大気汚染防止法の改正を予定している。JPIでは、「石油工業用バルブのシール性能確認試験指針(JPI-7R-85-1998)」を1998年2月に規格化している。

4.グランドパッキンの低漏洩化

 工業プラントにおける漏洩発生源としてはバルブが全漏洩の約80%を占めるといわれ、バルブのシール部位では、動的シールとなるグランドパッキンからの漏洩が占める割合は約75%とも言われており、グランドパッキンからの漏洩をコントロールすることが重要となる。
4-1 グランドパッキンとは
 グランドパッキンとは、スタフィングボックス(Stuffing Box)の中に装着し、パッキン押え(Gland)で押さえつけることで軸に対する緊迫力を高め、内部流体をシールするパッキンの総称を言う(第3図参照)。  軸シール方法としては、メカニカルシールやベローズシールも使用されているが、取扱の容易性、低価格、極限状態に使用可能(耐熱、耐圧、耐薬品)等の面からグランドパッキンが使用されることも多い。しかし、そのシール性能はベローズシールのような完全なものではなく、接面漏れ、背面漏れ、浸透漏れなどがある(第4図参照)。

4-2 Low Emission 対応グランドパッキンの新技術(特許申請中)
 3種類の漏洩パターンを第4図に示したが、図中の浸透漏れは、グランドパッキンを十分に高密度にすることや、樹脂や金属のスペーサーを用いて防止できることが一般的に知られている。
 したがって、低漏洩化の新技術は、接面漏れ、背面漏れを少なくすることを主眼において開発した。
 グランドパッキンにおけるシールの難しさは、締付ける方向とシール面が垂直な位置関係にあることである(第3、4図参照)。Low Emission 対応グランドパッキンは、締付けと垂直な方向へ容易に変形し、接面への応力(側面圧)が低い締付力から発揮される構造となっている。
 Low Emission 対応品と一般的な矩形パッキンを、FEA(有限要素解析)によって比較すると、同一締付面圧を負荷した場合、側面圧のピーク値は1.5~2.5倍になることが示唆された(第5図参照)。また、確証試験においても、シール開始面圧が半減し、その効果が証明された。
P12-1
P11-1
P11-2

5.Low Emission 対応グランドパッキンの特性

 膨張黒鉛テープモールドグランドパッキンを用いて、従来形状のVF-10T(第3、4図参照)とLow Emission 対応グランドパッキン(第1図参照)を比較した。
5-1 シール性
5-1-1 漏洩量測定方法
 漏洩量測定方法は、CAAAに指定されているEPA Method 21 を採用した。EPA Method 21 は、炭化水素系蒸気やガスを取り扱うポンプやバルブ・ステムおよびガスケットからの漏れの大気濃度測定方法を規定しており、具体的には、測定部より風上側1mにて、バックグラウンド値を測定した後、測定部から1cm以内に測定器の検出端(Sniffer)を近づけて計測し、その差より濃度(ppm)計測値を算出する方法である。流体はヘリウムガスを用いた(第6図参照)。
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5-1-2 Method 21 による試験結果
試料寸法)
 Low Emission 対応グランドパッキンがシール面方向への変形に優れていること、および、装着性に優れていることを確認することも含め、以下の試料寸法で試験を実施した。
ステム径:φ20.00
スタッフィングボックス内径:φ36.00
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締付面圧)
締付面圧:20MPa
漏洩量)
 Method 21 による測定では、Low Emission 対応グランドバッキンは測定限界以下(測定限界は大気中のヘリウム濃度)であった。今回用いたヘリウムリークディテクターのバックグラウンド測定値は1.0~3.0×10-6Pa・m3/sであるので、漏洩量もその数値以下であると言える。これは、バルブ用グランドパッキンの当社シール基準(5.0×10-5Pa・m3/s)より、さらに一桁低い漏洩レベルである。
 第7図に、2.0×10-6Pa・m3/s=5ppm(大気中のHe濃度)とした場合の、負荷Heガス圧と漏洩濃度の関係を示す。
 また、内外径にクリアランスを持たせた寸法設定であるにもかかわらず、一桁低い漏洩量である。したがって、Low Emission 対応グランドパッキンの形状はシール面方向への変形に優れていることを示唆し、スタッフィングボックスやステムの公差にかかわらず高次元のシールが得られることを示している。
P12-3
5-2 Low Emission 対応グランドパッキンのその他特性
5-2-1 歪率
 Low Emission 対応グランドパッキンは、締付けと垂直な方向への変形を容易にするため、装着時に空間を持たせた構造となっている。したがって、歪率は一般に大きくなり、また、各パッキンの面角度(第8図参照)α、βが大きくなるほど歪率も大きくなる。また、α、βはユーザーの要望で設定可能である。
P13-2
 膨張黒鉛製グランドパッキン試料を第1図のように装着した場合の試験結果を第9図に示す。
1:α=0° , β=0°
      (一般的な断面矩形グランドパッキン)
2:α=20° , β=30°
      (Low Emission 対応グランドパッキン)
3:α=10° , β=10°
      (Low Emission 対応グランドパッキン)
P13-3
5-2-2 角度差の効果
 第8図に示したLow Emission 対応グランドパッキンは、αとβの設定に自由度があり、同じ角度である必要はない。したがって、αとβに角度差を設けた場合、第10図に示すような使用方法でも断面矩形のグランドパッキンと比較して、側面圧が効果的に得られる。
 異なった例として、断面矩形のグランドパッキンのうち、数リングをLow Emission 対応グランドパッキンに変更してもシール性の向上が見込まれる(第11図参照)。
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5-2-3 軸抵抗
 Low Emission 対応グランドパッキンは、従来品同等のシール性が、より低い締付け力によって達成される。これに伴い、第12図に示すように軸抵抗は見掛け上減少する。
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6.おわりに

 近年の強まる規制の中、グランドパッキンの低漏洩化技術を開発することができた。今回、紹介したLow Emission 対応グランドパッキンは手動弁(ON-OFF弁)用として、十分な性能を備えている。現在、自動弁(コントロール弁)への適用可否判断のため、動的シール試験を検討している。
 本報およびLow Emission 対応グランドパッキンが、グランドパッキン使用機器からの漏洩低減や、環境負荷を低減することに寄与できれば幸いである。
<参考文献>
1)バルブ技報 第13巻第2号(通巻第41号)(Vol.13, No.2 1998)
2)バルブ技報 第26巻第1号(通巻第46号)(Vol.16, No.1 2001)

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