代替フロン用材料EPDM材 H0880

代替フロン用材料EPDM材
シールマーケティング開発本部 シール開発グループ
圖師 浩文

1. はじめに

 環境問題が大きく取り上げられるなか、R12(クロロフルオロカーボンCFC)やR22(ハイドロクロロフルオロカーボンHCFC)は、分子中に含まれる塩素原子が、成層圏内で紫外線により分解され、更にその塩素原子が触媒となってオゾン層を破壊する原因となるとされている。この問題を解決するため、モントリオール議定書が採択され、2020年までにR12、R22を全廃することが求められている。
 従来、R12、R22といったフロンは、鉱油を潤滑剤として混合して主にカーエアコン用冷媒として使用されてきた。この混合冷媒に用いるゴム材料には、耐油性、低圧縮永久歪性、耐ブリスタ性(ブリスタとは、高圧ガス雰囲気下でゴム材料を曝露した後に、減圧するとゴムの表面に発生する中空の膨れやクラックのことをいう。Figure1参照1))という観点から、HNBRが使用されてきた。しかし、HNBRにはコストの面で課題が残されていた。 現在では、代替フロンとしてオゾン破壊係数(ODP)が“ゼロ”で、地球温暖化係数(GWP)もR12、R22より低く、分子中に塩素原子を含まないR134a(ハイドロフルオロカーボンHFC)が主流になっている。R134aの基本特性を、R12、R22と併せてTable1に示す。
 冷凍機油としてR12、R22に混合して使用されてきた鉱油は極性を持たず、極性を有するR134aとは相溶性が低く、二層分離するため、潤滑性が不足して使用することができなくなった。また、カーエアコンに用いられる冷凍機は、エンジンルームの近傍や、夏期の路上など高い温度環境での使用や 高い冷凍機能力など、他の冷凍機に比べ高い機能が要求されている。そのため、カーエアコンで使用されるR134a冷凍機油は、より厳しい環境でも使用できるよう、極性を有しR134aと相溶性の高いポリアルキレングリコール(PAG)が広く使用されている。
 冷凍機油がPAGになったことで、HNBRだけでなくEPDMも適応が可能となるという報告3)もあり、今回はEPDMについてR134a、PAGへの耐性評価を行った。その結果、当社EPDM材H0880が従来推奨HNBR材B5680より優れた耐性を持つことが確認されたので本報にて、代替フロン用材料として優れた特性を有するH0880をB5680と比較して紹介する。
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2. フロン用ゴム材料に求められる特性

 R134a、及びR134a-PAG混合冷媒用ゴムに求められる特性を、下記に示す。

2-1)従来品HNBR同等の機械的強度
 高圧下での使用に耐えることができる機械的強度(引張強さ、伸び、100%引張応力など)が必要になる。

2-2)耐R134a、及び耐PAG特性
 R134a、PAG及びR134a-PAG混合冷媒への浸漬試験(JISK6258に準拠)を実施し、H0880及び5680に与える影響を調査した。浸漬液と評価試料の極性が同じであれば、両者の親和性が高く、各評価項目へ大きな影響を及ぼす。それぞれの浸漬液での浸漬前後での物性変化率が大きいということは、極性が同じで親和性が高く、その浸漬液への耐性が小さいということを意味している。
 また、今回の評価では、R134a、R134a-PAG混合冷媒の浸漬試験は、揮発性の高いR134aを使用するため、圧力容器を使用して実施した。
 本報では、冷凍機油PAG単体での浸漬試験を実施しているが、通常はPAG単体で使用されることはなく、R134aと任意の混合比率で混合され使用されている。

2-3)耐ブリスタ特性
 圧力容器中で、R134a-PAG混合冷媒に試料を浸漬させ、熱処理後の試料へのブリスタ現象の有無を確認した。ブリスタ現象は、シール材が圧力変動の大きな環境で流体と接触すると発生し、シール性を失う要因の一つとなる。

2-4)耐熱特性(低圧縮永久歪特性)
 耐熱特性の指標には、圧縮永久歪試験(JISK6262準拠)を用いて評価を実施した。ゴム材料は圧縮された状態では、弾性が失われて歪みが生じる。この歪みを測定することを圧縮永久歪試験という。圧縮永久歪率は数値が小さいほど耐熱性が高い材料と判断され、その数値が80%到達時をシール限界としている。
 これらの評価結果について、次章より述べていく。

3. 評価結果

3-1)機械的特性
 機械的特性の結果をTable2に示す。H0880は、
 B5680とほぼ同等の機械的強度を示した。
p12.3
3-2)耐R134a、及び耐PAG特性
 浸漬による物性変化をTable3に示す。
 浸漬時間とR134a、PAG混合比の物性に与える影響について以下に述べる。
p13.1
 3-2-1)浸漬時間
  R134a及びR134a-PAG混合冷媒への浸漬試験前後の硬さ変化、
  体積変化率の経時変化をFigure2、3に示す。硬さ変化、体積変化率について、
  H0880、B5680ともに浸漬初期での変化率が大きく、以降は大きく変化はしなかった。
  また、変化量については、H0880がB5680より小さく浸漬液の影響が小さいことが確認された。
  PAGへの浸漬はH0880、B5680ともに、物性変化率が小さく、
  経時的な変化もほぼ認められなかった。
p12.3.2
p13.2
3-2-2)R134a混合比率
 R134a 混合比率の違い(R134a 比率:0%、50%、100%)が硬さ変化、体積変化率におよぼす影響をFigure4、5に336 時間浸漬試験後のデータで示した。
 H0880、B5680ともに、硬さ変化は軟化傾向を、体積変化率は膨潤傾向を示した。また、R134a=0% (PAG 単体)では硬さ変化、体積変化率が小さかった。
 H0880は、R134aの混合比率が増加しても、硬さ変化は確認されず、体積の膨潤傾向は小さかった。しかし、B5680は、R134aの混合比率が大きくなるにつれて、膨潤傾向が大 きくなり、軟化が進行していった。よって、硬さ変化、体積変化率はR134a 混合比率にも依存していることが確認できた。
 これらの評価結果より、R134aやPAGといった極性を有する物質には、非極性のEPDM 材H0880が、各種評価項目の変化も小さく、極性を持つHNBR 材B5680よりも優れていることが考えられる。
p13.3
p13.4
3-3)耐ブリスタ特性
 R134a-PAG 混合液に70℃×72 時間浸漬し、150℃×1 時間熱処理後のH0880とB5680の浸漬試料の表面を観察した。耐ブリスタ性の結果をFigure6に示す。H0880、B5680ともに表面状態の変化はなく、Figure1に見られるようなブリスタは確認されなかった。高硬度、高100%引張応力特性が耐ブリスタ性に有効な要因である4)ことから、H0880、B5680ともに浸漬試験後においても、十分な機械的強度を有しており、ブリスタが発生しにくい材料であると考えられる。
p14.1
3-4)耐熱特性(圧縮永久歪特性)
 圧縮永久歪試験の結果をFigure7に示す。H0880、B5680ともに評価時間が長くなるにつれて、圧縮永久歪率が大きくなっていくことが確認された。また、評価時間が長くなっても、H0880はB5680より圧縮永久歪率が小さかった。
 評価結果より圧縮永久歪率が80%に到達する時間を算出した。
  H0880:20,870 時間
  B5680:9,570 時間
 これらの結果より、H0880は、150℃環境下での圧縮永久歪率80%到達持間が2 倍以上になることが推察され、長寿命化やシールの信頼性の向上が期待できる。
p14.2

4. まとめ

 代替フロンR134a、冷凍機油PAG 単体、及びR134a-PAG 混合冷媒のような極性を有する浸漬液への耐性は、従来の極性を有するHNBR材B5680より、非極性のEPDM材H0880がより高いことが確認できた。更に、当社H0880は耐熱性も優れていることから、より厳しい使用環境下での使用も期待できる。
 また、ゴム材質をHNBRからEPDMへ変更することにより、材料コストの低減にも貢献できる。

5. おわりに

 世界気象機関より、南極のオゾンホールに回復の兆しが見られるとの報告がなされている5)。これは、モントリオール議定書や、京都議定書による規制効果によるものと思われる。また、現在では、ODP が“ ゼロ”に加え、GWPも小さなHFO1234yf、HFO1234ze(ハイドロフルオロオレフィンHFO)のようなより環境負荷の小さい冷媒や、CO2のような自然冷媒の実用化への検討も行われている。当社でも、環境負荷の小さい冷媒、自然冷媒へも適用できるようなゴム材料の開発及び評価を実施していく所存である。

6. 参考文献

1) 社団法人日本フルードパワー工業会、シールの用語集、JFPS 1017(2007)
2) 日本フルオロカーボン協会、データベース 環境安全データ一覧(2012)
3) 秋葉光雄監修、ゴム・エラストマーの選定・応用とトラブル対策、504(2009)
4) SHADE W N, LEGG D W, Pap Am Soc Mech Eng,page 7P(1987)
5) 朝日新聞デジタル、2012 年9月16日

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