シール製品の本格的ノンアス化について

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日本バルカー工業株式会社
ノンアス切替推進プロジェクト

1.はじめに

 石綿が中皮腫などによる健康障害を引き起こす有害な物質であることは、半世紀前から認識されており、1960年代からは「じん肺法」、「特化則」等の規制により、厳格な管理下でのみ石綿の使用が認められてきた。しかし、欧米においてはすでに1990年代に石綿使用が規制され、日本においても、2004年10月の労働安全衛生法施行令の改正により、原則的に石綿製品の使用を禁止することとなった。ただ、シール製品については、ノンアス品への完全代替が困難であるとされ、規制対象外とされていたが、2006年9月の労働安全衛生法施行令の改正により、国民の安全の確保上、実証試験等が必要とされるものを除いてその使用が禁止された。
 シール製品のノンアス化については、1970年代から検討されており、個別の用途において機能的に石綿製品に問題がある場合には、石綿製品に代わる高級品としてノンアス化が進められてきた。しかしながら、ジョイントシート等においては、石綿と同等の機能をもつ材料が存在しないため、シール製品として石綿製品と同等の機能をもたらすことが極めて困難であり、用途を細分化して多種類の製品を使い分けすることにより対応せざるを得ない状況にあった。
 石綿規制の先行している欧米においても、すでにノンアス化は完了しているが、やはりジョイントシートにおいては、単純にノンアスジョイントシートで代替しているわけではなく、様々な製品を使い分けして代替している。しかし、日本では仕様や使用環境が同一でなく、必ずしも欧米の実績をそのまま採用するわけにはいかない。例えばシールの基準は日本の方がより厳しいし、欧米では熱媒として硝酸塩を使用していない。シール製品メーカーは、欧米の状況は認識しながらも、日本独自の課題をも克服するノンアス品の改良・開発を今もなお継続している状況下にある。
 本報では、ユーザーにおけるシール製品のノンアス化について、これまでの経緯と直近の状況について概説する。

2.シール製品のノンアス化の経緯

 ノンアス化の要求は1970年代より急速に高まり、シール製品メーカーにおいてもこの時期からノンアス品の開発を進めてきた。
 石綿の機能を全て代替できるような新素材はないが、適用分野を限定することによりむしろ石綿の特性を上回るものがあり、それらを応用して開発された製品群は高機能品として石綿製品に置き換えられてきた。
 一方では、石綿製品を構成している石綿部分を、別個の素材に転換し、かつ従来品の持つ機能特性および経済性を追求して開発された製品群がある。
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2.1 高性能品として石綿製品に置き換えた製品群
 高性能シール製品の代表的な素材は四ふっ化エチレン樹脂(以下PTFE)および膨張黒鉛である。PTFEは耐薬品性に、膨張黒鉛は耐熱性に優れ、うず巻形ガスケット、グランドパッキンに応用されている。PTFEを用いたシール製品は幅広い薬品に対して長期間使用可能であり、膨張黒鉛を用いたシール製品は、高温化でも応力緩和を起こしにくく安定したシール性能を維持することができる。
 また、炭素繊維糸やアラミド繊維糸をPTFEで処理したタイプのグランドパッキンは、その優れた耐熱性や強度により、ポンプ用として過酷な摺動条件下で石綿製品より長期間の使用に耐えることができる。

2.2 素材自身の代替をはかった製品群
 素材自身の代替をはかった製品としては、うず巻形ガスケットやノンアスジョイントシートが代表例として挙げられる。
 うず巻形ガスケットにおいては、フィラー材として使用されていた石綿を、無機繊維に代替したものが開発され、1990年代には、石綿製品とほぼ同等の性能・価格のものが上市され、価格面も含めた完全ノンアス化が可能となった。
 ノンアスジョイントシートにおいては、常温物性においては石綿製品と同等のものが1980年代に上市されたが、耐熱性が石綿製品に比べて劣る為、石綿ジョイントシートを完全代替することは現時点でもいくつかの問題を残している。
 石綿ジョイントシートは、主に石綿とゴムで構成されているが、その配合比率は石綿70~90%、ゴム約10%であり、ノンアスジョイントシートは石綿を芳香族ポリアミド繊維(以下アラミド繊維)で置き換えたものである。ただ、その繊維比率は10~20%であり、繊維成分は極めて少なく、高温下で使用された場合、ゴムの熱硬化により割れが生じるという問題がある。石綿ジョイントシートにもゴムは使用されているが、石綿は繊維径が細くかつゴムに濡れやすいため、アラミド繊維より大量に配合することが可能で、またそれ自身で柔軟かつ強固なマトリックスを形成することが可能なため、ゴムが熱硬化しても割れには至らない。
 弊社にあっては、現時点においてもノンアスジョイントシートの改良を継続しており、石綿ジョイントシートと同等なものの開発につとめている。消費者に近接した自動車、家電、食品分野や、海外への寄航を前提とした造船などでは、使用を限定してノンアス化を進めてきたが、石油精製・化学プラントなどでは、新設プラントでの導入にはつとめてきたが、従来設備では、ノンアス製品の技術信頼性に乏しいこともあって、事故があった場合の影響の大きさをおもんぱかり、その代替化はあまり進んでいなかった。

3.ポジティブリスト

 2006年9月の労働安全衛生法施行令の改正では、既存の設備に使用されるシール製品の中で、国民の安全の確保上、実証試験等が必要とされるものについては、当面その使用を認めている。それらの製品はポジティブリスト化され、早急にノンアス品に切り替えるべく実証試験が実施されつつある。ポジティブリストを表3に示す。
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 ジョイントシートガスケットにおいては、化学工業用で100℃以上の温度の流体を取り扱う部分、鉄鋼業用で250℃以上の高炉ガス、コークス炉ガス、450℃以上の硫酸ガス、亜硫酸ガスを取り扱う部分に使用されるもの等がポジティブリストの対象となっている。また、化学工業用で、φ1500mm以上の大きさのものや3MPa以上の圧力の流体を取り扱う部分に使用されるものもその対象となっている。
 うず巻形ガスケットにおいては、化学工業用で400℃以上の温度の流体を取り扱う部分に使用されるものや、300℃以上の温度の腐食性もしくは浸透性の高い流体、または酸化性の流体を取り扱う部分に使用されるものがその対象となっている。
 グランドパッキンにおいては、化学工業用で400℃以上の温度の流体を取り扱う部分に使用されるものや、300℃以上の温度の酸化性の流体を取り扱う部分に使用されるもの、鉄鋼業用で500℃以上の転炉、コークス炉ガスを取り扱う部分に使用されるものが対象となっている。

4.ガスケットのノンアス化事例

4.1 石綿ジョイントシートのノンアス化
 石綿ジョイントシートは取扱性にすぐれ、その汎用性の高さゆえに幅広い用途に使用されている。単一製品で完全代替可能なノンアスシール製品は現時点でも存在しておらず、使用条件によっていくつかのシール製品を使い分けする必要がある。例えば弊社においては図1に示す選定フローによる使い分けを推奨している。ここでは、代表的な代替事例について紹介する。
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(1)ノンアスジョイントシートによる代替
 ノンアスジョイントシートは、上述のように石綿ジョイントシートの繊維を他の繊維に置き換えた素材製品であり、その取扱性や加工性が石綿ジョイントシートに近いものである。
 石綿に代わる繊維としては、一般的にはフィブリル化したアラミド繊維が使用されるケースが多く、その他に無機繊維として、人工鉱物繊維(ロックウール)やカーボン繊維などが使用される。これらの代替繊維は石綿のように繊維径が細くないこと、ゴムとの濡れ性に劣ることなどから、石綿のように多量に配合することは困難である。そのため、上述のようにゴム成分の熱硬化がシート自体の硬化となり、硬化割れを発生させる原因となっており、その耐熱温度は石綿ジョイントシートと完全に同一となるまでには至っていない。そのため弊社でもノンアスジョイントシートの改良開発を継続しており、その耐熱性は、一般的な石綿ジョイントシートの使用領域については、ほぼ対応可能な水準にまで達している。
 現時点においては、使用実績が少ないため、使用温度の低い領域(目安として100℃以下)に限定して使用しているユーザーが多く、エアー、水、温水等のユーティリティーラインにおいては、ノンアスジョイントシートへの代替は比較的スムースに進んだ。100℃を超える蒸気ラインにおいては、耐熱タイプへの代替が可能であるが、長期間使用した場合や、温度・圧力以外の負荷(振動、熱応力、モーメント等)が加わった場合の寿命を確認するための時間が必要であり、ノンアス化が急がれる現時点においては、耐熱性の高い改良型ノンアスシートガスケットや膨張黒鉛系ガスケット等が先ず選定されている。ただ、ノンアスジョイントシートの試行実績が集積された段階では、ノンアスジョイントシートの使用領域は今以上に広がるであろうと予想される。
(2)改良型ノンアスシートガスケットによる代替
 改良型ノンアスシートガスケットは、主に黒鉛などの無機成分と耐熱性樹脂からなり、ノンアスジョイントシートの硬化劣化の主要因であるゴムをまったく含んでいない。そのため、図3に示すように高温でも硬化することがなく柔軟であり、また経時変化もほとんどないため、ノンアスジョイントシートの適用が困難であった高温領域でも、使用可能であり(耐熱300℃max.)、増締めも可能である。かつ優れた耐薬品性を有し、耐熱性、耐薬品性の面において石綿ジョイントシートのほとんどの領域を代替しうるガスケットでプロセスラインへの適用も期待できる。また、フランジ面への固着が少ないというメリットもある。
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 本製品は上市されてから、蒸気配管、排ガス管、熱交換器等ノンアスジョイントシートの使用が困難な高温領域や、高濃度アルカリを除く化学薬品や熱媒に使用されはじめている。新製品であるがため使用実績が乏しく、一部、ジョイントシートと同一視されるような誤解もあるが、実績を積み重ねることで、その耐熱性と耐薬品性、取扱性の良さは充分に理解されるものと考えている。
(3)膨張黒鉛系ガスケットによる代替
 膨張黒鉛系ガスケットはもともと高機能製品として使用されてきたもので、耐熱性、シール性能に優れるシール材である。充分に締付けられた場合には、その応力緩和は非常に小さく、長寿命である。空気中での酸化速度が速まる400℃までは、その性能は非常に安定しており、またゴムバインダーなどを含有しないために、石綿ジョイントシートのほとんどの使用温度領域に対して対応が可能である。ステンレス鋼薄板 (t0.05mm)の両面に、膨張黒鉛シートを貼り合わせた金属薄板入り膨張黒鉛シートが一般的である。
 最近では、欧米の石油精製における使用実績を踏まえ、のこ歯形金属リングの両面に膨張黒鉛シートを貼り付けたものが、蒸気ライン等使用温度の高い領域に採用されはじめている。
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(4)PTFE系ガスケットによる代替
 PTFE系ガスケットもその優れた耐薬品性から高機能製品として早くから使用されてきていたが、使用温度を限定することにより石綿ジョイントシートの代替が可能である。PTFEシートを打抜き加工したガスケットは、コールドフロー(クリープ)を起こしやすいが、クリープ特性を改善するため、無機充填材を配合し、特殊製法により成形した充填材入りPTFEガスケットがある。連続多孔質構造のPTFEシートを加工した延伸PTFEシートガスケットは、非常に高い柔軟性を持つことから、グラスライニング機器など、締付力が十分とれない箇所でも使用が可能である。さらにフランジ面への固着を起こさないため、メンテナンス性にも優れている。
 石綿ジョイントシートの代替としては、化学工業や製紙工業などの腐食性の高い薬液ラインや、黒鉛の混入をきらうプロセス系ラインに適用されはじめている。
(5)うず巻形ガスケットによる代替
 ノンアス化の過程では、石綿ジョイントシートをより信頼性の高いうず巻形ガスケットに置き換えることも行われている。弊社においては、低圧力レーティング(JIS10K)に適用すべく、うず巻形ガスケット本体の外周部に、メタルリングに代えて金属帯のみを巻き回したガスケット(ノナスーパー No.8590TN)を上市している。現時点では一部の使用にとどまっているが、石綿ジョイントシートガスケットに比べて、同等の締付力(荷重)でより良好なシール性を示し、ノンアスジョイントシートの使用できなかった、高温、蒸気ラインでも信頼性が高く、今後の需要拡大が予測される。
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5.うず巻形ガスケットのノンアス化

 うず巻形ガスケットのノンアス化は、既に進んでおり、価格・性能同等の「クリーンタイト」(無機フィラー)もすでに多くの実績を有している。
 課題はポジティブリストに記載されている、膨張黒鉛フィラーの酸化が懸念される400℃以上の温度の流体を取り扱う部分や、PTFEフィラーが使用できない300℃以上の温度領域における、腐食性、酸化性流体を取り扱う部分に使用されるものである。
 こうした用途に対しては、非酸化性のマイカフィラー材を、単独、あるいはシール性を向上させるために図8に示すように膨張黒鉛フィラーと組合せたものが候補材と考えられ、現在検討を進めている。
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6.グランドパッキンのノンアス化

 グランドパッキンにおいては、大部分が膨張黒鉛、PTFEを用いた高機能製品として開発された製品群での代替が可能である。さらに、比較的安価な繊維をPTFEで処理したものや、低グレードの膨張黒鉛を活用した低価格品も上市され、汎用品も含めた大部分のノンアス化が可能である。
 現時点で課題として残っているのは、ポジティブリストに記載されているように、400℃以上の温度の流体を取り扱う部分や、300℃以上の温度の酸化性の流体を取り扱う部分に使用されるも
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の、500℃以上のガスを取り扱う部分に使用されるものであり、うず巻形ガスケットと同様、膨張黒鉛やPTFE単体は使用できない領域である。
 これらに対応するものとしては、非酸化性のセラミック繊維を主材としたグランドパッキンを単独あるいは図9に示すように、シール性を向上させるために膨張黒鉛製グランドパッキンと組合せたものが候補材と考えられ、現在検討を進めている。

7.終わりに

 現時点は、全分野におけるノンアス化が本格的に始まった段階であり、全てにおいて完成したノンアス品が存在するものではない。
 石綿ジョイントシートのように単一製品での代替ができず、用途による使い分けが必要な場合もあり、如何にして最適な製品を選定するかが重要なファクターになる。従来の石綿製品はその使用実績をベースとして使用可否を判断することができたが、ノンアス製品は実績がないため信頼性評価の手段が必要となる。また、ポジティブリスト化された課題の解決は勿論であるが、ノンアス化を進めるだけでなく排出ガス規制への対応やメンテナンス性の向上のために、より価値の高いソリューションをユーザーに提供していくことは社会的要求でもあり、ノンアス製品のブラッシュアップを継続することも同様シールメーカーの重要な責務として強く認識している。

〈参考文献〉
(1)「ノンアス(R)パッキン・ガスケットの現状」機械設計(日刊工業新聞社刊)1988年2月号
(2)「ノンアスベストシール材の現状と将来」PETROTECH(石油学会)第15巻第9号(1992)
(3)「ノンアスベストパッキンの現状と選定」バルカー技術誌2006年夏号

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