粒子担持技術とその応用展開

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研究開発部 研究企画グループ
荒谷 直子
油谷  康

1. はじめに

 ふっ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE)多孔膜は、PTFE が持つ耐熱性、耐薬品性、耐候性、撥水・撥油性、低摩擦などの特性に加え、連続貫通多孔質構造を有することから、液体や気体の透過などPTFE に新たな機能を付加した材料となる。
 PTFEを延伸すると、Figure1のような島状に分布するノードと延伸方向に配向したフィブリルからなる多孔質PTFE(expanded PTFE : ePTFE)が得られ、延伸率や焼成条件などにより孔径の調整ができる1)。 延伸法以外では、PTFEディスパージョンを原料とし、エレクトロスピニング法を用いることで繊維径が1ミクロンを下回るPTFEナノファイバーを得る方法がある。エレクトロスピニング法とは、シリンジに入った高分子溶液とコレクター電極間に高電圧を印加することで、シリンジから押出された溶液が電荷を帯び、コレクターに到達する際には繊維径がナノレベルまで減少することにより、ナノファイバーが得られる極細
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繊維作製方法である。これらの特殊なPTFE 多孔膜では、ミクロン繊維では考えられなかった以下のような特長を有することが知られている2)
 ①空気の抵抗が非常に小さくなる
 ②比表面積が大きくなる
 ③超分子配列効果が得られる

 これらの特長を生かせる用途として、分離・ろ過用途(液体フィルター、エアーフィルター、バグフィルター)、通気・透湿・防水・防液用途(電池用撥水膜、オイル保持カバー)、低誘電率用途(電線・回路基板)などがある。PTFE多孔膜の孔径、空孔率、厚さなどのコントロール、他素材との複合化を組み合わせることで用途に適した性能を発揮することができ、本報では過去に、ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)に用いる気体―液体分離膜3)やMBRなどの水処理膜への適応可能性4)を紹介した。

 近年では、大気汚染を始めとする環境問題の深刻化や、シックハウス症候群、新型インフルエンザの流行など生活環境における新たな問題の発生に伴い、安全、安心意識の向上から環境浄化技術が注目されている。そのため、分離・ろ過用途のみならず、有害物質の分解除去や、抗菌・抗ウイルスの特性を有する高機能膜に対するニーズが高まっている。これらのニーズに応え、窒素酸化物や硫黄酸化物などの有害物質に対して光触媒作用を持つ酸化チタン(以下TiO2)を担持したPTFE 多孔膜の開発も行われている。PTFE 多孔膜の大きな比表面積と複雑な多孔構造、また熱や薬品に対する高い化学安定性は、このような高機能膜の基材として適する。
 TiO2をPTFE 多孔質膜に担持するには、主に二つの方法が知られている。多孔質成型前のPTFE原料に粒子を混ぜ合わせる方法と、多孔質成型後にバインダーを用いる方法があげられる。多孔質成型前のPTFE原料に粒子を混ぜ合わせる方法では、多くの粒子が多孔膜内部に埋没してしまい粒子の表面がPTFEで覆われてしまうため、粒子表面での触媒反応が十分に機能しない。更に、成型されたPTFE多孔膜は粒子が大量に混合されているため強度が十分に得られず、耐久性に課題が残っている。また、バインダーを用いる方法では、PTFEの持つ低い表面エネルギーのため、基材と粒子との十分な接着力を得ることが難しい。またバインダーそのものがTiO2の持つ光触媒作用によって分解されてしまう恐れもあり、長期の使用においては粒子の脱落が懸念される。また、接着性を高くするために、バインダー量を多くした場合には、粒子の表面露出が少なくなり有害物質との接触が不十分なため光触媒性能が低下してしまうという問題がある。

 本報では、PTFE 多孔膜の持つ耐薬品性、多孔性、柔軟性を保持しつつも、バインダーや多孔膜内部に粒子が埋没しないよう、基材表面に粒子が露出するように担持されたPTFE 多孔膜を作成し、その構造評価と光触媒性能評価を行ったので報告する。

2. 光触媒の原理と特徴

 光触媒とは、光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称であり、この反応原理は1972年に発見され「ホンダ・フジシマ効果」5)と呼ばれ、40年以上にわたり、学術的にも実用化のための技術としても、研究開発が進められている。代表的な光触媒活性物質としては、TiO2が最も広く知られている。
 TiO2光触媒は、紫外線を吸収して様々な分野に応用されている。そのメカニズムは、Figure2に示すように、紫外線によって励起した電子と、同時に生成した正孔が、それぞれTiO2表面に移動して、表面の酸素や水、有機物を還元及び酸化すると考えられている6)。特に、ヒドロキシラジカルと正孔の酸化力はきわめて強く、ほとんどの有機物を酸化し、空気や水を浄化することが知られている。しかしながら、活性酸素種の寿命は非常に短いため、実質的には反応効率を決めているのは、正孔による汚染物質の直接酸化であると考えられている。すなわち、光触媒反応は、酸化チタ
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ンの表面及びごく近傍でしか進行しておらず、TiO2とバインダーを組み合わせて使用する際には、バインダーに覆われることなく、材料表面にTiO2が多く露出していることが、高い光触媒性能を得る決め手となる。
 多孔質セラミックにTiO2を焼き付けた光触媒フィルターは古くから開発され、現在では実用化されている。樹脂基材においても研究は盛んに行われているが、紫外光の照射、またTiO2近傍で起こっている活性酸素種による酸化によって、基材やバインダーの劣化、それに伴うTiO2の脱落が懸念され、長期的な使用には適していない。しかしながら、PTFE多孔膜は、優れた耐候性、耐酸化性を持ち合わせているため、TiO2と組み合わせた場合においても、耐久性の向上が期待できる。

3. 実験

3-1)基材の前処理
 孔径の異なる2種のePTFE膜①、②を公知の手法7)で親水化処理を行い、親水化されたePTFE 膜①、②を得た。

3-2)基材の表面処理方法
 反応助剤を加えたTiO2 水溶液を、水とIPAを任意の比率で混合した溶媒に加え、反応溶液を調整した。湯浴中で数 時間攪拌することで、酸化チタン表面処理を行った。この溶液に前処理を行った基材を浸漬し、数分間静置した。その後、純水で余分な反応液を洗い流し乾燥することで、TiO2担持ePTFE(以下TiO2/ePTFE)①、②を得た。

3-3)評価
 作製したTiO2/ePTFE①、②は、走査型プローブ顕微鏡(SPM、(株)日立ハイテクサイエンス製、Nanocute)を用いて表面構造観察を行った。得られたSPMの画像から、TiO2の被覆率を算出した。また、TiO2/ePTFE ①、②に含まれるTiO2 担持量を求めるため誘導結合プラズマ(ICP、(株)理学製、RIGAKU CIROS MARKⅡ)を用い、アルカリ溶融法にてICP 発光分光分析を行った。TiO2担持量は、ICP 発光分光分析の測定結果より得られるTi 元素の質量から、次式を用いて算出した。
 TiO2 質量 = Ti 元素の質量×(TiO2分子量/Ti 分子量)
 平均細孔径は細孔径分布測定器(Perm Porometer、Porous Materials, Inc. 製)、試液はIPA(21dyn/cm)を用いた。

 光触媒性能は、抗菌性評価とガス分解性の評価を行った。抗菌性評価は、JIS R 17028)に記載のガラス密着法に基づいて、綿標準布、ePTFE ①、TiO2/ePTFE ①を用い、それぞれの膜に8時間紫外線(紫外線照度 :0.1mW/cm2)を放射した後、また8時間暗所で保存した後の黄色ブドウ球菌量を測定した。また、ePTFE ①およびTiO2/ePTFE ①の 静菌活性値を算出した。
 ガス分解性評価はePTFE①およびTiO2/ePTFE①を用い、光触媒消臭加工製品認証基準で定める方法(一般社団法人繊維評価技術協議会)9)に基づいて、アンモニア濃度を測定し、アンモニア濃度の減少率を算出した。なお、アンモニアの初発濃度は14ppmとし、スマートバッグPA(ジーエルサイエンス社製)を用いた。

4. 結果と考察

4-1)酸化チタン担持膜の表面構造の評価
 Figure3にSPMでの観察によって得られたTiO2/ePTFE①の表面構造を示す。TiO2は約50nmの微粒子としてePTFEのフィブリルを覆うように均一に存在していることが確認された。また、約0.5μm程度の細孔も観察されたことから、ePTFEのもつ多孔性を損なわないようにTiO2微粒子がePTFEに担持されていると考えられる。

4-2)TiO2/ePTFEの定量評価及び多孔性評価
 ICP 発光分光分析によって算出したTiO2/ePTFE ①、②のTiO2の担持量、SPM 観察によって得られた像から算出した被覆率、パームポロメーターによる多孔性の評価結果をTable1に示す。細孔径維持率はそれぞれ80、90%でTiO2を担持したとして
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も、ePTFEの多孔性が維持されていることが明らかになった。また、TiO2/ePTFE①、②のTiO2担持量は約1重量%であった。SPM写真から算出したTiO2の被覆率はいずれも100%であった。
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4-3)光触媒性能
 抗菌性評価の結果をTable2に示す。

 綿標準不織布とePTFE①では、8時間の光照射後においても、黄色ブドウ球菌接種直後の生菌数とほぼ変わらない値であった。一方、TiO2/ePTFE①
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では8時間光照射後には生菌数が著しく減少した。TiO2/ePTFE①の静菌活性値は3.0と算出され、十分な抗菌活性を有することが確認された。
 TiO2担持膜のガス分解性評価結果をFigure4に示す。紫外線を照射しない条件では、アンモニア濃度は24時間経過後もわずかな減少しかみられなかった。しかし、紫外線を照射すると、24時間後にはアンモニア濃度の著しい減少がみられ、光触媒効果によるガス分解性が確認された。
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5. まとめ

 TiO2表面の機能を失わず高分散を維持できる粒子表面処理と、ePTFE膜の表面処理との組み合わせを最適化することにより、TiO2が強固に担持されたPTFE多孔膜を作製することができた。
 TiO2は約50nmの微粒子として、ePTFEのフィブリルを覆うように、均一に担持されていた。また、TiO2/ePTFEの光触媒性能評価として抗菌性評価、ガス分解評価を行ったところ、ePTFEに含まれるTiO2担持量が1重量%程度で、十分な光触媒性能を示すことが確認された。

6. おわりに

 環境問題の深刻化や生活環境における新たな問題の発生に伴い、環境浄化技術はますます重要になると考えられる。今後も、有害物質の除去や抗菌・抗ウイルスの特性と分離・ろ過特性と併せ持つ材料として、TiO2担持PTFE多孔質の展開を検討していく。また、今回の技術を応用することによって、シリカやアルミナ、またレアメタル材料の微粒子などもTiO2と同様にPTFE多孔膜に担持が可能であると考えられる。市場のニーズに合わせ、TiO2だけでなく、種々の粒子との組み合わせによって、様々な分野への展開を検討していく。この成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。

7. 参考文献

1) 特表平11-511707号公報
2) 辻和明, 瀬戸口善宏, バルカー技術誌, No.23, 13-15(2012)
3) 油谷康, バルカー技術誌, No.14, 8-11(2008)
4) 本居学, 瀬戸口善宏, バルカー技術誌, No.20, 8-11(2011)
5) Fujishima, A.; Honda, K., Nature 1972, 238 (5358, 37-38)
6) 野坂芳雄, 化学工業2007,58(7), 539-544
7) 特開昭53-21270号公報
8) JIS R 1702 ファインセラミックス−光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果
9) 一般社団法人繊維評価技術協議会, 光触媒消臭加工製品認証基準

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