ふっ素系有機圧電材料の開発と応用

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1. はじめに

 近年、フレキシブル性を特徴とする有機圧電材料の開発が盛んに行われている。薄膜大面積化が可能という特徴を生かし、ウェアラブルエレクトロニクスを始めとする、種々の用途への展開が想定されている。しかし、圧電特性、耐熱性の点では、既存のセラミックス系圧電材料に及ばない点があることも事実である。
 本報では、当社が開発した従来にない高い圧電特性を示し、かつ、耐熱性に優れたふっ素系有機圧電材料の特徴を紹介する。当社は、多孔性ふっ素材料を用い、構成材料、多孔構造、気孔率などの因子を制御することによって、以下に示すような優れた特性を有する有機圧電材料を開発することができた。
 (1)高い圧電特性d33>100pC/N(優れた応答性)

 (2)優れた高温・高湿耐久性

 (3)軽量・フレキシブル、良好な形状追従性
 圧電材料は、Figure1に示すように、セラミックス系とポリマー系に大別され、主な材料としては、前者はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が、後者はポリふっ化ビニリデン(PVDF)が知られている。
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 ポリマー系では、PVDFと圧電メカニズムが異なる各種構成の材料があり、高圧電率化などの特性向上が検討されてきたが、未だセラミックス系材料の圧電特性や耐熱性に及ばないのが実情である。
 以下に各材料について現状とその課題を述べる。

 1880年にキュリーらが石英やロッシェル塩などへの応力負荷により、電気分極が生じるという圧電効果を検証したことから圧電材料の実用的な利用が始まった。主に、PZTをベースとしたセラミックス系材料が知られており、各種圧力センサーや超音波振動子などとして広く用いられ、長い使用実績もあり信頼性の高い材料であるといえる。
 一般的にセラミックス系材料は脆いために加工性が悪く、大面積かつ薄膜材料として、成形・加工するのが困難である。また、PZTには環境負荷の大きい鉛が含まれているが、代替材料がないためにEUにおいてもRoHS指令に対して適用免除の対象となり継続して使用されているのが実情である。このような背景から、近年では鉛フリー材料の研究も多数報告されている。
 これに対し、大面積かつフレキシブル性を有する圧電材料として、PVDFに代表される有機圧電材料がある。これら有機圧電材料は、基本的に鉛を含まないことから環境に配慮した材料といえる。

 永久双極子型圧電材料は、1969年に河合がPVDFを一軸延伸することによって得られるβ型結晶が自発分極を示す結晶構造を有し、さらに、コロナ分極処理を施すことによって圧電特性を示すことを明らかにして以来、種々の研究開発がなされてきた1)。この方法は、以下に述べる圧電性セラミックス粒子複合型とは異なり、圧電特性の発現を圧電性セラミックス粒子に頼らないために、ポリマー材料が本来有する柔軟性を損なうことなく大面積の材料を比較的容易に作製できるという点でメリットがある。更に、圧電性を示すβ型結晶の割合を高め、熱的な安定性の向上と未延伸で圧電性を発現するものとして、ふっ化ビニリデン(VDF)と三ふっ化エチレン(TrFE)の共重合体に関する検討がなされてきた2-3)。これらPVDF系材料は、圧電特性ではセラミックス系には及ばないものの、既に圧力センサーや超音波振動子として活用されている。しかしながら、これらPVDF系材料はPZTと比較すると圧電特性が小さく、また焦電性を有するという問題から用途が限定されていた。
 近年では、ポリ乳酸の延伸膜もその分子構造から圧電性を示すことが明らかにされ実用研究が進み3-4)、各社からその成果が相次いでリリースされている5-6)。ポリ乳酸を利用した圧電材料は分極処理を必要とせず、また、ずりの圧電特性および高い透明性を有していることが特徴であり、主に電子デバイスへの応用が検討されているホットな材料である。

 一方、柔軟なゴム材料に圧電性セラミックス粒子を配合して圧電材料として利用する検討がなされている。ゴムの柔軟性を活かすためには、配合する圧電性セラミックス粒子をより少量にする必要があるが、高い圧電特性を発現させるためには、逆により多量のセラミックス粒子を配合する必要があるものの、柔軟性が失われる。間々田らは、このトレードオフの関係を両立させるために、圧電性セラミックス粒子をゴム中で配向させる方法を検討し、圧電特性d33が85pC/Nまで向上することを報告している7)。しかしながら、圧電性の発現にはPZTなどのセラミックス材料を用いていることから鉛フリーではない。
 更に、多孔構造を有するポリマー材料がエレクトレット性の圧電特性を示すことがS. Baureらによって示された8-9)。その後、フィンランド国立技術開発センター(VTT)が、多孔性を有するポリマー材料が非常に大きな圧電特性を示す事を 見出し、その値がPVDF系材料の特性を凌駕し、PZTに迫ることを見出した。これは、多孔部分に電荷をトラップすることによって、多孔部分が巨大な双極子として振る舞うエレクトレット型圧電材料として機能するものである。近年ではEMFIT社がこの技術を利用して、多孔性ポリプロピレンをベースとした材料を開発し、主に医療・介護の分野で感圧センサーとして製品化している10)。ポリプロピレンがベースであるために耐熱性が50℃程度と低く、使用用途が限定されるものの、近年では、耐熱性を改善する取り組みも進められている11)
 Table1に上述の代表的な圧電材料について主な特徴を示した。
 有機圧電材料は、セラミックス系にはない柔軟性や大面積化の点でメリットがあるが、圧電特性や耐熱性に関してはセラミックス系材料に及ばず、広く普及するには至っていない。
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 有機圧電材料に関する上記の実情を鑑み、当社は耐熱性に優れたふっ素系材料を用いた有機圧電材料の開発を行い、既存の有機圧電材料にはない高い圧電特性と耐熱性の向上を達成できた。これにより既存のセラミックス系圧電材料からの代替およびフレキシブルなデバイスへの応用など、新たな用途開拓が可能となったと考えている。

2. 開発品の特長

 今回開発したふっ素系有機圧電材料の主な特長は以下の通りであり、それぞれの特長について詳細を述べる。

 (1)圧電特性d33が100pC/N 以上(応答性に優れる)
 (2)優れた高温・高湿耐久性
 (3)軽量・フレキシブル、良好な形状追従性
2-1)圧電特性
 今回開発したふっ素系有機圧電材料は、多孔性エレクトレット型圧電材料である。多孔性エレクトレット型としては、既に多孔性PPや延伸PTFEを利用した検討12)がなされているが、Table1に示すように、セラミックス系なみの特性を持つものがなかった。
 当社は、種々検討を進める中で、多孔性ふっ素材料を用い、材料構成、多孔構造、気孔率などの種々の因子を制御することによって、セラミックス系なみの特性を発現させることが可能であることを見出した。
 Figure2に開発品と既存品の特性を比較した。
 ふっ素系材料の代表的な材料であるPVDFは80℃程度の耐熱性があるが、圧電特性d33が約40pC/Nと低い。一方、多孔性PPは圧電特性d33が100pC/N 以上であるのに対し、耐熱性が50℃以下と低い。多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、耐熱温度は高いものの、圧電特性d33が約50pC/Nである。当社の開発品は、低温(−30℃)常温および200℃暴露後に圧電特性d33が100pC/N 以上あることを確認している。
 高い圧電特性d33を持つということは、厚さ方向への微小な変形量に対して、良好な応答性が期待でき、非常に小さな隙間への挟み込みによる高感度センシング用素子などとしての活用が可能となる。
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2-2)高温特性
 Figure3に高温条件に暴露後の圧電特性の測定結果の一例を示す。

 当社開発品と、当社の延伸PTFE 膜を利用したサンプルに対してコロナ分極処理した後、100℃、200℃の恒温槽に所定時間保管し、その後、常温に戻して圧電特性を測定した。
 開発品は、200℃暴露後も圧電特性d33が100pC/N 以上の値を示したが、延伸PTFE 膜を利用したサンプルは約60pC/Nまで低下した。
 この結果から、ふっ素系多孔性材料では、多孔構造の各種因子を制御することによって、特に高温条件下でも高い圧電特性を保持することが可能であることが分かった。
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2-3)高温高湿特性
 エレクトロニクス分野や自動車分野での用途を想定した場合、高温高湿条件に対する耐久性が求められる。一般的に、多孔構造のエレクトレット型圧電材料の場合は、内部に保持した電荷は環境中の水分の影響によって容易に減衰すると考えられている。これに対し当社開発品は、撥水性を有するふっ素系材料のみで構成しており、湿度に対して一定の耐久性を確保できた。
 Table2に85℃ /85% RH/200hの耐久性試験を実施した結果を示す。
 常温の乾燥条件で保管したサンプルは、200h 後に圧電特性d33が170~200pC/Nであった。
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 一方、85℃ /85%RH/200hの高温高湿暴露後であっても圧電特性d33 が130~180pC/Nの値を保持しており、常温乾燥条件と遜色ない良好な値を示した。このことから、当社開発品は、長時間の高温高湿暴露後でも、高い圧電特性を保持可能であることが示唆された。

3. 使用例

3-1)応答性制御の例
 開発品を用いて、シート厚みが異なる2種類の圧電シート(サンプルA,サンプルB)を作製し、外部応力に対する応答性挙動を観察した。その結果をFigure4 及びFigure5に示す。3センチ角の圧電シートの厚み方向にロードセルによって荷重を負荷し、生じる電荷量の変化を計測して評価した。
 Figure4に示したように、圧電シート厚みを制御することによって、応答性が大きく変化することが分かった。サンプルAは応力に対する電荷量変化の立ち上がりが急峻であり、高感度のセンシングが可能であると想定される。一方、サンプルB は約0.1N/cm2 付近に屈曲点があり、0.1N/cm2 以下の応力域では、サンプルAと同様に電荷の変化量が大きいた めに、微小応力に対応したセンシング材料として適用可能と想定される。0.1N/cm2 以上では広い応力域に対応したセンサーとして利用可能と想定され、例えば、大きな衝撃力を検知するセンサー用途、トラッフィクセンサーのような重量検知センサーなどに利用できるものと考えられる。
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 更に、Figure5に示すように0.1N/cm2までの微量応力域について詳細に確認すると、サンプルAはサンプルBよりも、特に微小応力域においてリニアに近い挙動でより大きな電荷量変化を検出可能である事がわかった。従って、サンプルAは微小応力下の高感度センシングに特に有効に活用可能であると想定される。例えば、バイタルデータなどの微小振動のモニタリングや装置の異常振動感知センサーとしての利用が想定される。
 今回は、シート厚みの異なるサンプルAおよびサンプルBの2種類のみの挙動を示したが、多孔構造、気孔率、厚さなどの因子を制御することによって、種々の応答性を有する圧電シートの設計・ラインナップが可能である。
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3-2)測定事例
 Figure6~Figure8に実使用で想定される種々の応力や振動に対する応答性を観察した結果を示す。
 まず、衝撃力検知などを想定し、直径17mm、重量180gの金属製棒を圧電シートの上方20cmの所から自由落下させた際の衝撃力に対する応答性をFigure6に示した。
 この実験から、開発品は大きな衝撃力に対して±数十ボルト程度の良好な応答性を示すことが分かった。
 次に、手首の脈動部分に圧電シートを密着させて巻き付けその応答性を計測した。計測結果をFigure7に示す。
 当社開発品は、脈動を鮮明に再現することが可能であることが分かった。このような微小な振動に対しても優れた応答性を示すのは、開発品の圧電特性d33が大きく高感度であることに加え、フレキシビリティが高く形状追従性に富むことが要因であると考えている。
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 また、携帯電話のバイブレーション振動を計測した結果をFigure8に示した。
 バイブレーションのような比較的周波数の高い振動に関しても、振動パターンを含め再現性よく検出できることが分かった。
 以上の結果から、当社開発品は、前述したように高温高湿に対する耐久性を有し、かつ、従来のエレクトレット型圧電材料なみの高いセンシング性能を示すことが分かった。
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4. まとめ

 従来にはない、高い圧電特性と耐熱性および耐湿性、フレキシブル性に優れたふっ素系有機圧電材料の開発を行った。多孔性ふっ素樹脂をベースとした材料において種々の構成に関して検討した結果、以下の特徴を示す有機圧電材料を開発することができた。
 (1)圧電特性d33が100pC/N 以上である。
 (2)200℃に対する高温耐久性を有する。
 (3)85℃ /85% RH/ 200h 高温高湿に対する耐久性を有する。
 (4)多孔構造、気孔率、厚さなどの因子を制御することによって、
    応力に対する応答性を制御することが可能である。
 (5)衝撃力のようなより大きな応力から、脈動のような微細な振動挙動まで、
    幅広い応力に対する応答性を有する。

5. おわりに

 今回開発したふっ素系有機圧電材料は、高い圧電特性、耐熱性、耐湿性を持つことが明らかとなった。このような特長を活かし、今後は、プラント分野、輸送機器分野、ヘルスケア分野、電子機器分野など幅広い用途への展開を視野に検討する予定である。
 これまでは、主にセンシング用途での利用を想定した評価を行ってきた。これは、変形を電気に変換する機能(正圧電現象)を利用していることから、今後は振動を利用したエネルギーハーベスト(環境発電)への展開も考えられる。また、圧電材料は、逆圧電現象として電気によって変形を生じさせることも可能であるため、アクチュエーターとしての展開も考えられる。


 本報で紹介した測定データは開発品の一例を示したものである。なお、本開発品は特許出願中である。

6. 参考文献

1) H. Kawai, Jpn J. Appl. Phys., vol. 8 pp. 975-976(1969)
2) T. Furukawa, Phase Transitions: A Multinational Journal, vol. 18, 3-4, pp. 143-211(1989)
3) E. Fukada, Jpn. J. Appl. Phys., 37, pp.2775-2780(1998)
4) T. Yoshida, K. Imoto, T. Nakai, R. Uwami, T. Kataoka, M. Inoue, T. Fukumoto, Y. Kamiura, A.Kato, Y. Tajitsu, Jpn. J. Appl. Phys., 50, (2011)09ND13.
5) 村田製作所技術広報誌metamorphosis 16号(2012)
6) 帝人、関西大学、プレスリリース資料(2012 年9月6日付)
7) S. Mamada, D. Sato, N. Yaguchi, M. Suzuki, M. Hansaka, RTRI REPORT, vol. 25, No. 10, pp. 39-44(2011)
8) G. S. Neugschwandtner, R. Schwodiauer, S. Bauer-Gogonea, S. Bauer, Appl. Phys., A 70, pp. 1-4(2000)
9) S. Bauer, Piezo, Pyro,and Ferroelectrets, IEEE Trans.Diel.Elec.Insl., 13( 5), pp. 953-962,(2006)
10) EMFIT 社ホームページ, www.emfit.com
11) P. Mika, et. al., Key Eng. Mater., vol. 538, pp. 65-68(2012)
12) S. Kaimori, J. Sugawara, Y. Tajitsu, Polymer Preprints, Japan Vol. 61, No. 1, p.1296(2012)
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