プラズマ重合によるPTFEの表面処理

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日本バルカー工業株式会社
研究部 油谷  康

1.はじめに

 ふっ素原子は電気陰性度が高く、原子半径が小さいという特質を持つことから、これを分子構造中に含むふっ素系樹脂は、ポリエチレンやポリプロピレンと類似の構造でありながら、特異性を示す。ふっ素系樹脂の中で最も単純な構造を有するPTFE(Poly-tetrafluoro-ethylene)は、炭素(C)とふっ素(F)の2原子から成っている直鎖状高分子であり、①C-F結合距離が短く、結合強度は有機結合の中で最も強い。②ふっ素原子が炭素の鎖を緊密に覆っており、C-C結合を保護している。③重合度が高く、分子量は100~1000万であり、非常に分子鎖の長い高分子である。④分子内の原子の配列が緊密かつ対称的であるため電荷の分極が極めて小さい。⑤分子間凝集力は極めて小さく、表面自由エネルギーが著しく低い、などの特徴を有する。このような分子構造上の特徴を有することから、以下に挙げるような諸物性を示し、医療、化学、電子等の様々な分野で用途展開が図られている1)
1)耐薬品性:実質的に全ての工業薬品に対して不活性である。
2)耐熱性:連続使用温度は260℃であり、融点は327℃である。
3)電気特性:誘電率、誘電正接が固体物質中、最低であり広い周波数帯で安定している。
4)非粘着性:表面自由エネルギーが低いため、他物質がくっつき難いという特異な性質をもっている。粘着性の物質でも付着し難く、離型性が優れている。
5)低摩擦係数、難燃性、撥水性、耐候性など多くの特性において優れた機能を発揮する。
 しかし、その分子構造が安定であるがゆえに他の材料との接着が極めて困難であるため、接着の際にはPTFE表面の表面改質が必須である。易接着化の手段として工業的にナフタレンや金属ナトリウムの溶液に浸漬させる湿式エッチングが用いられているものの2)、より環境にやさしいクリーンな表面処理手法が求められている。
 PTFEの表面改質におけるクリーンな改質手法の一つとして、反応系がドライプロセスであるプラズマ処理があり、例えば、O2やArガスを利用して、基材表面に官能基の導入や表面のエッチングを行う手法、有機モノマーをプラズマ下で重合させ、基材表面に薄膜を形成させるプラズマ重合法などが検討されている3)~6)
 プラズマ処理において、基材表面に親水基の導入を行った場合、接着性の向上が期待できるものの、表面分子は常に表面自由エネルギーが最小になるように分子運動するので、分子鎖の反転を伴った表面構造の変化がおこり、時間経過とともに表面が疎水化することが知られている7)。この親水基の内部移行を抑制するには、例えば改質深度を深くする、大きな分子サイズの親水基による立体障害を利用する等が考えられる。改質深度を深くするという観点では、プラズマを利用したスパッタ法の報告がある8)。また、大きな分子サイズの親水基で置換するという観点では、種々有機モノマー由来の親水膜を基材表面へ形成できるプラズマ重合法が簡便である。
 プラズマ重合法は、原料となるモノマーガスがプラズマ空間中で励起され、電子、カチオン、ラジカル等の反応活性種を含んでプラズマ化する。その後、気相から直接、基材上をモノマー由来の重合薄膜で被覆できる手法である。従って、重合条件を制御すれば、基材表面の接着性の向上が期待できるだけでなく、従来にない新しい特性を持つ表面の創製が期待できる。
 本報ではプラズマ処理とプラズマ重合を組み合わせた処理でPTFEの接着性向上を目指し、プラズマ条件と接着力との関係を検討したので報告する。

2.実験

2-1 処理基材
 PTFEシートとしてバルフロン® PTFE V#7000(日本バルカー工業㈱社製)、シート厚1.0mmのものを基材として使用した。

2-2 処理方法
 PTFEシート表面の改質は、13.56MHzの高周波を用いた平行平板型の低温プラズマ処理装置により行った。プラズマ発生用電源には、㈱ノダRFテクノロジーズ製、RF電源とサムコ㈱製、RFG200を用いた。反応系はロータリーポンプにて減圧し、系内の真空度を制御しながら、まず前処理としてO2またはArプラズマ処理を行った。マスフローメーターにてガス流量を制御しながら、系内の圧力を0.2Torrとした。電極間に電圧200V、電流1.5Aを印加、プラズマ密度1.3W/cm2条件下にてPTFEシートを1~30分間処理した。処理後は、大気開放した。次に、系内を排気減圧した後、関東化学㈱製の特級試薬、2-プロピン-1-オール(CHCCH2OH、以下PAと略する)をモノマーとしてプラズマ重合処理を行った。モノマー溶液をガラス容器に入れ容器内を減圧した後、気化速度を一定とするため等温にて保持した。モノマーガスはニードルバルブにて流量調節を行い、系内の真空度を0.3Torrに制御してプラズマ重合処理を行った。PAのプラズマ重合は、電極間に電圧100V、200mAを印加、プラズマ密度0.5W/cm2条件下で、1~30分間重合させた。

2-3 評価
 生成したプラズマ重合膜の表面構造は、X線光電子分光分析装置(XPS、Kratos製、ESCA-3300)、赤外分光スペクトル(FT-IR、PerkinElmer製、SpectrumOne)、環境制御走査型電子顕微鏡(E-SEM、㈱ニコン製、ESEM-2700)を用いて分析した。また、表面の濡れ性は、液滴法による蒸留水に対する接触角にて評価した(自動固体表面エナジー解析装置、協和界面科学㈱製、CA-VE型)。蒸留水10μlを固定したマイクロシリンジから試料表面に滴下し、1秒後の液滴の直径、高さを読み取とった。
 接着試験はJIS K 6854に準じて、90°剥離接着力を測定した。接着剤としてエポキシ系の2液型接着剤を用い、ステンレス板(SUS304)と表面改質PTFEを100℃で30分間接着させた後、室温における接着力を万能材料試験機(インストロン製、TCM500)にて測定した。

3.結果と考察

3-1 プラズマ重合膜の化学構造
 未処理PTFEおよび表面改質PTFE(O2プラズマ処理10分の後、PAを10分間プラズマ重合したサンプル)について、XPSスペクトルのC1sピークを図1に示す。未処理PTFEに対してプラズマ重合後の表面は、285eVの炭化水素のピークが大きく見られ、さらに287eV付近にはカルボニル基炭素やエーテル炭素が、289eV付近にはカルボキシル基炭素に帰属されるピークが顕著に 見られた。C-Fピークが見られないことから、PTFE表面がPA由来の重合物に覆われていると考えられる。 上述のPTFE表面のIRスペクトルを図2に示す。プラズマ重合物の構造中に水酸基を含むことが分かる。これらは、PMMA基板上に同重合膜を形成させた結果9)と 類似の傾向である。
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 未処理PTFEおよび表面改質PTFEについて、室温下での蒸留水に対する接触角は、未処理PTFE が114°表面改質PTFEが50°となった。表面改質PTFEは未処理PTFEに対し、濡れ性が良いといえる。これは、PA由来のプラズマ重合物がPTFEよりも親水性が高いことを示す。
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3-2 前処理の影響
 表1にプラズマ処理(前処理)した後、プラズマ重合した表面改質PTFEの剥離強度を示す。前処理と して、O2およびArガス雰囲気下でプラズマ処理を10分間行い、その後0.3Torrで30分間、PAをプ
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ラズマ重合した。前処理を行うことで接着力が大きくなることが分かる。
 図3にPAプラズマ重合したサンプル表面のSEM写真を示す。前処理(O2プラズマ処理)を施すと、前処理無しに対してPAのプラズマ重合物が粒形状になった。前処理による接着力の向上は、前処理無しに比べて接着剤とのみかけ接触面積が大きいことが一因と考えられる。
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3-3 前処理とプラズマ重合時間の関係
 表2にプラズマ重合時間と接着力の関係を示す。PTFEは前処理(O2プラズマ処理、10分)を行い、その後所定の条件でPAを1~30分間プラズマ重合させた。プラズマ重合時間が30分のサンプル
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は、1.0N/mmの接着力を示したのに対し、30分より短いサンプルは接着力向上効果が少ない。重合時間30分のサンプルは、時間が短いサンプルに比べPA由来の重合物とPTFE基板との見かけの化学結合割合が多いと考えられる。プラズマ重合は、主としてPAのラジカル反応により進行、三重結合が切断され二重結合が生じる9)。PTFE基板と化学結合した重合物と未結合であるフリーの重合物を形成しながら反応が進行し、重合時間の経過とともにフリーの重合物が再反応して見かけの化学結合割合が多くなり、強度向上につながったと考えられる。また、重合時間が30分より短い条件では、フリーの重合物による強度への影響が大きいと推定でき、重合時のPAガス流量、処理出力条件などの最適化が必要と考えられる。
 表2においてプラズマ重合時間が10分のサンプルについて、前処理(O2プラズマ処理)時間を変量したときの接着力を評価した(表3)。前処理時間が短くなるにつれ、接着力が大きくなる傾向を
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示した。前処理条件も接着力を決定付ける要素の一因になると推定でき、前処理条件に応じたプラズマ重合条件を選択することが接着力の向上には必要と考えられる。
3-4 剥離表面分析
 接着試験における表面改質PTFE(O2プラズマ処理10分の後、PAを10分間プラズマ重合したサンプル、接着力0.7N/mm)の剥離前後のSEM写真を図4に、XPSスペクトルに基づく剥離前後のF/C、O/C割合を表4に示す。表面観察(SEM写真:図4)によると剥離後のPTFE表面は、PA由来の重合物とは異なる表面構造を呈している。また、表4によると、剥離後のPTFE表面および相手材(SUS)表面ともに未処理PTFEと類似の元素割合を示すことが分かる。これらの結果より表面改質PTFEは、樹脂内部での凝集破壊により剥離していると推測された。
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4.まとめ

 PTFEの易接着化を目的として、プラズマ処理とプラズマ重合を組み合わせた手法による検討を行い、以下の知見が得られた。
 三重結合を有するアルコールをモノマーとしたプラズマ重合により、PTFE表面の親水化を達成できた。O2プラズマ処理とプラズマ重合を組み合わせることで接着力は向上し、約1.0N/mmの接着力が得られた。
 剥離後の表面改質PTFEおよびSUS(剥離相手材)表面は、未処理PTFEと類似組成を示すことが確認された。従って、剥離は樹脂内部から生じることが分かった。

5.おわりに

 プラズマ重合はその反応メカニズムが複雑であり、詳細を解明することは困難な手法である。しかし、電子材料、センサー、分離膜、表面保護膜、医用材料など、幅広い分野での検討が行われている10)。また、単一モノマーによるプラズマ重合のみならず、複数モノマーの組み合わせによる共重合膜に関する検討もなされており、膜の構造や機能性が多様化している11)~13)。これら機能膜とPTFEを組み合わせることで易接着化のみならず、新たな機能付与が期待できるといえよう。
 最後に、本研究にあたりご助言、ご指導いただきました大阪府立産業技術総合研究所、田原充主任研究員に深く感謝いたします。

6.参考文献

1) テフロン実用ハンドブック,三井・デュポンフロロケミカル㈱(1992).
2) A. A. Benderly, J. Appl. Polym. Sci., 6, 221-225(1962).
3) 浜村尚樹,電学論A,113, 330-336(1993).
4) 井手文雄,繊維工学,38, 173-185(1985).
5) Y. W. Chen-Yang, Macromolecules, 33, 5638-5643(2000).
6) Y. W. Chen-Yang, Surf. Coat. Technol., 176, 148-156(2004).
7) 筏義人,日本化学学会誌,6, 1079-1086(1985).
8) 田畑春夫,日本接着協会誌,20, 316-322(1984).
9) 穂積啓一郎,高分子論文集,42, 881-890(1985).
10) 長田義仁,低温プラズマ材料化学,産業図書(1994).
11) 宮下喜好,日本化学会誌,12,1140-1142(1994).
12) 特開2005-340652
13) 特開2006-037131

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