放射線遮蔽シートの開発

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1. はじめに

 科学技術が進歩するに従い、持続可能な発展を目指していくために、現在では特に環境、健康が人々の注目を浴びてきている。東日本大震災以降は、その中でも特に放射線の危険性がはっきりと認知されつつあり、有効に防ぐ手段について、関心が寄せられている。
 放射線としてはα線、β線、γ線、X 線などがある。その中でも、γ線とX線の透過性が高く、公衆被曝で問題となる。これらの放射線は主に電磁設備(医療用検査設備、工業用特殊処理設備など)の周辺、核原料(燃料)、より発生している。これらの放射線を遮蔽するために、適切な材料を選定し、放射線の影響を最小限に抑えることが必要とされる。

 現在、最も有効かつ汎用的な放射線遮蔽材料とされているのはPbである。ただし、Pbは比重が大きく、厚い場合は折り畳みにくいなどの欠点がある。また、Pbは有害性重金属元素であり、製造中及び製品として使用される過程において、環境や人の健康に悪影響を及ぼすことがある。最近では、このような有害性のない、重金属化合物(BaSO4など)を主原料とした遮蔽シートがPbフリーをPRすることで市場展開を始めている。
 そこで、当社では、ふっ素樹脂をバインダーとしたシート成形技術1)を活かし、BaSO4などの有害性の無い重金属化合物を主原料とする柔軟な放射線遮蔽シートを開発した。この遮蔽シートは以下の特徴を有している。

 a. Pbフリー
 b. 柔軟性
 c. 主原料の高充填化による優れた性能

また、応用可能分野として下記を想定している。

 a. 医療用電磁放射検出設備、研究設備の周辺保護
 b. 放射性廃棄物の保護処理

2. 開発品の特徴

2-1)材料選定
 材料を選定する上で、放射線遮蔽に効果があり、毒性がなく、入手し易い安価なBaSO4原料に着目した。
 Baは大きな原子量を有し、放射線を比較的良く吸収できる。また、その化合物であるBaSO4は安価で入手しやすく、水とエステル類に溶けない。そして毒性も無く、医療分野では広く使われている。
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 本開発品はBaSO4を主原料とし、性能差を比較するためにCe、Biの金属酸化物であるCeO2 、Bi2O3も検討した。それぞれの原料の原子量と密度をTable1に示す。
2-2)開発品の形態
 当社が開発したBaSO4遮蔽シートはふっ素樹脂2)をバインダーとして使用しており、厚みによってロール状と板状の二つの形態がある。具体的な寸法をTable2に、外観をFigure1に示す。
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2-3)遮蔽効果測定結果一覧
 透過性の高いX線とγ線を用いて、開発品、及び他社製のBaSO4 遮蔽シートの遮蔽効果を測定した結果をTable3に示す。
 Table3からX 線及びγ線の遮蔽効果は、他社品と比較して約10%高いことが分かった。
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3. 考察

3-1)遮蔽効果と充填材及び密度との関係
 遮蔽効果は遮蔽材料の選択に大きく依存する。理論上、放射線遮蔽シートの遮蔽効果は遮蔽材料自体の性能と相関関係となっており、原子量が大きい材料の方が遮蔽効果が高い。各材料で作った遮蔽シートの密度と遮蔽率をFigure2,3に示す。
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 Figure2,3から、Bi、Ceなどの密度の高い金属化合物遮蔽シートの遮蔽効果はBaシートより優れており、原因としては材料の比重と充填率(密度)によるものと考えられる。
 一方、Bi2O3とCeO2は価格が高く、原産地の輸出規制などの懸念点があり、現段階では当社は主原料では用いていない。
3-2)遮蔽効果の厚み依存性
 主原料、厚みを変えた開発品のγ線遮蔽率を比較し、想定される遮蔽効果を発揮することができるかどうかを確認した結果をFigure4に示す。
 開発品はBaSO4などの重金属化合物を主原料とし、ふっ素樹脂をバインダーとしてシート状に成形している。このた め、主原料の分散性の影響を受けてγ線遮蔽効果が大きく低下したり、ばらつきが大きくなることが懸念されたが、遮蔽効果は厚みとほぼ線形的関係を示し、予想通りの結果となった。これらの結果から、先に述べた応用分野へも適用可能と考え、現在既にサンプルワークを開始している。
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4. おわりに

 環境というキーワードの中で、特に人々の健康に直結する放射線の取り扱いが注目されている。当社ではこのような市場状況に対応し、既存技術を応用して、放射線遮蔽シートを開発した。このシートは下記の特徴を有している:

 ●BaSO4を主原料としており、Pbなどの有害性重金属成分を一切含んでいない。
 ●バインダーとしてふっ素樹脂を用い、シートは柔軟性と強度を持つ。
 ●高充填化することで他社同類品と比較して遮蔽効果が高い。

 BaSO4遮蔽シートの遮蔽効果を実測し、単位体積あたりのBaSO4充填量との相関が見られた。従って、当社の放射線遮蔽シートは、顧客ニーズに合わせてフレキシブルに適切な形態にすることができる。このため、使用する顧客の設計、施工自由度を向上させた製品を提供することが可能と考える。

5. 参考文献

1) 林 道直、杉谷 徹、浅野 善敬、バルカー技術誌、No.3,1-5(2002)
2) 里川 孝臣、ふっ素樹脂ハンドブック、日刊工業新聞社、3 -12(1990)
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