液晶用大型ゲートバルブの開発

P2-1
日本バルカー工業株式会社 研究開発部 商品化技術研究グループ
能勢 正章、松下 正直、高牟礼辰雄
バルカーセイキ株式会社
佐藤 央隆、戸田 成則、白井 聖士

1.背景

 ITを支える情報表示装置として、最近は様々な動作原理のディスプレイが存在する。中でも液晶ディスプレイ(以降LCDとする)はFPD(フラットパネルディスプレイ)産業の中で最も大きな規模を誇り(約8割)、2002年度のマーケット規模は約2.6兆円であり、今後数年間で年平均20%の成長率を遂げると予想されている。今後のLCDの用途は主に40インチ以上の家庭用大型TVが主役となり、2005年度には約5.5兆円の市場規模と推定される。従って、工場の製造ラインで使用されるLCD基板は益々大型化する傾向にあり、第6世代では1350×1650mm、第7世代では1700×2000mmという指標も示されている。LCD製造装置が大型化すると、装置に組み付けられる周辺のコンポーネントにも、コストを含めた技術的課題が増大する。ゲートバルブに関しても、長期間安定したシール性能、メンテナンススペース、安定作動する機械駆動系、等の仕様が求められる。当社では、今後益々大型化し、市場が見込まれるLCD製造装置に仕様される大型ゲートバルブを積極的に拡販展開していくために、2001年8月にスイスのVAT社とパテントの許諾契約を結んだ。そして、その最も大きな特徴であるシングルアクション動作機構と当社の持つ真空シール技術とを融合させた次世代LCD装置用の大型ゲートバルブの開発に着手した。本稿では、大型ゲートバルブの仕様、およびこれまでの評価結果について報告する。

2.大型ゲートバルブの仕様

 半導体産業とは異なり、FPD産業においては装置やコンポーネントの規格化、標準化はほとんどされていない。LCD製造装置でも、ガラス基板のサイズはエンドユーザー毎に少しずつ異なっている。そして、装置におけるチャンバ間のインターフェイス、周辺機器の配置の違いからくるメンテナンススペースの思想等は多種多様となっている。従って、コンポーネントである大型ゲートバルブにおいては、装置そのものの設計段階からユーザー情報を取り込み、実証試験を重ねて先回りをした開発を行うことが必要となる。我々はこれまでの実績(開口寸法200×1450mm、200×1500mm等)で得られた知見、およびユーザーからの情報を元に仕様を設定し、大型ゲートバルブを設計、製作した。
 仕様内容を表1に、全体像を図1に示す。また、参考として標準開口寸法のラインナップを図2に示す。
 なお、設計する際には後述するFEMの強度解析結果を参考にしている。
P3-1
P3-2
P3-3

3.評価方法

3-1. FEMにより強度解析
 LCD製造ラインでは半導体と同様、真空プロセス中で基板を処理する工程がある。LCD製造装置の容器(以下チャンバ)内部が真空環境になるため、チャンバに組み込まれたコンポーネントも大気圧との差圧を常に受けることになり、装置が大型化するとその力は数Ton以上のレベルに達する。さらにチャンバに組み込まれたゲートバルブのようなコンポーネントは、差圧によって変形しようとするチャンバ側からの影響(変位)も無視できない。このことから、大型のゲートバルブでは、軽量、コンパクト、かつ取り付けるチャンバ本体に発生する変位や応力を最小限に抑えられる設計をする必要がある。
 ここでは、ゲートバルブにおいて強度が最も重要視され、主要パーツでもある弁箱について強度解析を行った結果を報告する。実際にはゲートバルブの構成パーツ(弁箱、弁板(正圧)、弁板(逆圧))別に解析を分けて行っている。図3に示したように、複雑な形状を除いた概略モデルを作成する。そして図4に示したように、4箇所の主要寸法値を最適設計のパラメータとし、プログラムを作成した(使用プログラム:ANSYS5.7/Structural)。
 ここでは差圧が0.12MPaが発生したという解析条件によって最適設計寸法値を決定し、さらに詳細モデルによる解析を行い、大型ゲートバルブの弁箱に発生する変位量と応力値を求めた。また、実際に実機でダイヤルゲージを用いて変位量を測定し、解析で得られた値と実測値との間で比較検証を行い、解析手法と解析値の妥当性を検討した。
P3-4
P3-5
3-2.同圧下耐久評価
 ゲートバルブの使用環境としては大まかに分けると、図5-1に示すように圧力のほぼ等しいチャンバ間で開閉動作を行い、ほとんど差圧を受けない場合(メンテナンス時は除く)、図5-2のようにゲートバルブが開閉動作を行う時は両側のチャンバは同圧だが、ゲートバルブ閉じられた状態での両側のチャンバ間に差圧が発生するような場合、の2つが挙げられる。
P4-1
P4-2
 図6に同圧下耐久評価の概略を、評価条件を表2に示す。
P4-3
 弁箱の両側にフランジを取り付け、弁箱内部をスクロールドライポンプ(IWATA製:ISP-250)によって数10Paまで真空排気した状態で、ゲートバルブを動作させる。この動作は、図5-1に示したようにメンテナンス時を除いて常時真空環境にあるチャンバ間の仕切りとしてゲートバルブが使用された場合に相当する。1万回毎にHeリークディテクタ(INFICON社製:UL-200)によって内部リーク量を測定し、合計10万回までゲートバルブ動作させた。また、10万回終了後にゲートシール材の表面状態を観察した。
P4-4
3-3.差圧発生下耐久評価
 図7に実験の概略図を示す。弁箱の両側にフランジを取り付け、弁箱内部を3-2の実験と同様のポンプで真空排気する。ゲートバルブを閉じた状態で片側を①のリークバルブを開けて大気開放し、約0.1MPaの差圧を発生させる。①のリークバルブを閉じた後、②のバイパスバルブを開けて再び真空排気を行い、ゲートバルブで分断された両空間が同圧(真空)になった段階でゲートバルブを開ける。これらの一連の動作は、図5-2で示したように両側の真空チャンバの間で差圧が発生するような環境でゲートバルブが使用された場合に相当する。ゲートバルブが1~3万回作動するごとに図7のように内部リーク量を測定した。なお、外部リークに関してはプローブガンを用いて大気側からHeガスを吹き付けることで測定している。
P4-5

4.実験結果と考察

4-1.FEMにより強度解析と初期特性
 概略モデルによって求めたゲートバルブの主要寸法値を表3に示す。ANSYSによる最適設計ルーチンを用いたプログラムを作成することにより、ゲートバルブの主要寸法値を決定することができた。
 また、これらの主要寸法から詳細モデルを作成し、ゲートバルブの主要部材である弁箱が差圧を受けたときに発生する変位量、および応力値を求めたところ、共に機械構造物として十分な強度を持っていることが確認できた。
 なお、得られた解析値については、実機での変位量測定、歪みゲージ計測による実測値をフィードバックすることによって、より信頼性のある解析手法と解析値を導き出し、設計寸法値を決定することができるため、今後詳細に計測を行いたい。
 次に、大型ゲートバルブの初期特性を表4に示す。組立後の初期段階では良好なシール性能を発揮している。また、動作についてもスムーズで安定しており、作動速度も仕様を満たしていた。
P5-1
P5-2
4-2.同圧下耐久評価結果
 表5に、内部リーク量を測定した結果を示す。表5から、同圧での真空環境下で本ゲートバルブを使用した場合、10万回の連続作動後も初期と変わらないシール性能を維持していることがわかる。ワンアクション方式の当社のゲートバルブでは駆動機構の原理を考慮すると、図5-1で示したような使用環境の場合は非常に良好な性能を発揮することができる。また、10万回動作終了後のゲートシール材の表面を観察したところ、目立った損傷もほとんどなかった。
P5-3
4-3.差圧発生下耐久評価結果
 評価の当初は差圧を受けたときに弁板が水平移動し、ゲートシール材の耐久性が問題となっていた。しかし、弁板の位置制御機構を新たに開発し、水平移動量を制御することによって飛躍的にゲートシール材の耐久性を向上させることに成功した。内部リーク量を測定した結果を図8に示す。図8の結果から、弁板位置を制御することによって、20万回程度までは徐々にシール性能は低下しているが、その後は約3×10-7Pa・m3/s以下の安定したシール性能を保っていることがわかる。
P5-4

5.まとめ

 次々世代基板対応のLCD製造装置用ゲートバルブの開発を行い、100万回の耐久評価を終了した。FEMにより主要パーツの最適設計値を決定し、弁板のシール溝加工改善と弁板制御機構の開発により、シール性能の長寿命化に成功した。また、O-Ring軸にシールを使用することにより駆動部を小型化し、メンテナンススペースの確保とコストダウン化を実現できた。

ページの先頭へ戻る
ページの先頭へ戻る