廃液リン酸からのケイ素除去技術

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日本バルカー工業株式会社
研究部 瀬戸口 善宏
木下 ひろみ

1.はじめに

 半導体製造には、洗浄、成膜、レジストコーティング、露光、現像、エッチング、レジスト剥離などの多くの工程が存在する。中でも、MOS型LSIの生産において用いられているロコス(LOCOS)法では、窒化ケイ素膜のエッチング剤として熱リン酸が用いられている1)
 窒化ケイ素膜のエッチングではケイ素成分が熱リン酸中に溶解し、飽和溶解度を超えるとケイ素成分が系内に析出する。ケイ素成分の析出によりウエハを傷付けたり、不純物を除去するためのフィルターが目詰まりを起こしたりといった問題が生じる。この問題を解決するために、従来、飽和溶解度に達する前にエッチング液の入れ換えが頻繁に行われていた。しかし、この方法はリン酸を大量に廃棄するため環境に負荷をあたえることやエッチング液の入れ換えでは装置を一旦停止させるため経済上好ましくないなどの問題があった。
 こういった背景の中、これまでにリン酸の再生に関する技術が種々提案されてきた2)3)。その技術の1つとしてエッチング廃液にフッ化水素を添加して、ケイ素化合物をフッ化水素と反応させてフッ化物とし、これを加熱して水とともに蒸発させて除去する技術2)がある。また、別の技術として、エッチング廃液に水を添加して希釈することにより、ケイ素化合物を析出させ、このケイ素化合物をフィルター濾過にて除去した後、再度加熱して再利用する技術3)や、エッチング廃液を冷却することによりケイ素化合物を析出させ、このケイ素化合物をフィルター濾過にて除去した後、再度加熱して再利用する技術4)が知られている。
 しかし、現状ではこれらの技術は処理時間が長かったり、ケイ素の除去率が高くないことから、実際の半導体プロセスラインに組み込むには、処理条件などの制約が生じる。
 本研究では、半導体製造プロセスのリン酸廃液の再利用を可能にするために、溶媒抽出法の原理5)6)7)を応用し、短時間で高効率のケイ素除去性能をもったプロセスの検討を行うため各種操作条件を検討する。

2. 抽出剤

 抽出剤の構造式を図1に示した。構造式にP=Oを含む化合物は酸素の電子密度が大きく、塩基性を示すため多くの金属イオンに強く溶媒和することが知られている5)
 構造式中の X、Y、Z は、それぞれ抽出剤によって異なり、アルキル基、アルコキシ基、水酸基などの側鎖を有している。本検討では側鎖の一部に水酸基を含む酸性抽出剤A、Bと中性抽出剤C、D、E について検討を行った。
 抽出剤の希釈剤には一般的に使用されている疎水性有機溶媒を使用した5)
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3.ケイ素成分の除去

 3-1)実験方法
 攪拌槽に廃リン酸及び抽出剤を含んだ有機溶媒を所定量いれてメカニカルスターラーにより攪拌した(図2)。攪拌後、有機相とリン酸相を分離するために、遠心分離機により相分離を行った。相分離後のリン酸について試料調整を行い、各種測定を行った。

 3-2)ケイ素分析方法
 ケイ素濃度の測定は高周波プラズマ発光分析装置(サーモエレクトロン株式会社/IRIS Intrepid Ⅱ XDL/DOU型)を用いて行った(以下ICP-AESと略)。

 3-3)残留有機物 分析方法
 再生処理後のリン酸中及び有機溶媒中の有機物濃度の分析はガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-14B)を用いて測定した(以下GCと略)。
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 3-4)ゼータ電位測定
 粒子のゼータ電位の測定にはZetasizer Nano-Z(ZEN2600,MALVERN INSTRUMENTS)を用い、レーザードップラー速度測定法により測定した。

4.結果と考察 (特許出願中)

 4-1)各抽出剤のケイ素除去率比較
 酸性抽出剤A、Bと中性抽出剤C、D、Eについてケイ素除去率の比較検討を行った。希釈剤には溶媒A を用いた。各試薬(A~E)によるケイ素除去率を図3に示した。図3より酸性抽出剤では約10~70%の除去率であり、中性抽出剤では約20~80%の除去率であった。特に酸性抽出剤Bと中性抽出剤Eは70%以上のケイ素の除去が可能であることがわかった。

 4-2)除去率の時間依存性
 ケイ素除去率が最も高い抽出剤Eを用いて除去率
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の攪拌時間依存性について検討を行った。実験は表1に記載の条件にて行った。
 攪拌時間依存性を調べた結果を図4に示した。5分で約80%のケイ素除去率であった。その後60分間攪拌したが、ケイ素除去率に変化はなかった。
 この処理溶液を遠心分離機にかけ有機相とリン酸相に分離した。このとき2つの相の間に白色のゲルが凝集した。得られた白色ゲルを図5に示す。
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 4-3)リン酸中のケイ素濃度測定
 遠心分離後のリン酸中の微粒子を取り除くためにフィルターろ過を行った。ろ過はPTFE製ろ過フィルター(0.1μm)を用いた。ろ過前後のリン酸中のケイ素濃度をICP-AESで測定し、得られた結果を表2に示した。ろ過操作により約90%のケイ素が除去できた。
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 4-4)リン酸中の含有有機物の測定
 ろ過前後のリン酸中の有機物量の定量を行った。測定はGCにて行った。得られた結果を表3に示す。ろ過操作によりリン酸中の抽出剤E及び溶媒Bの濃度が定量下限(1ppm)以下までに減少した。
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 4-5)ゲル、溶媒中のケイ素濃度
 中間相ゲル及び使用後の溶媒B中のケイ素の分析をICP-AESにより行った。得られた結果を表4に示す。反応後の溶媒B中のケイ素は定量下限以下であった。ゲルにはケイ素が多く含まれており、ケイ素が凝集したものである。
図6にケイ素除去プロセス模式図を示す。
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 4-6)ゲル中の有機物測定
 ゲルを有機溶媒で洗浄し、この洗浄液をフィルターで通液処理してGCにより分析を行った。その結果、高濃度の抽出剤Eが検出された。
 4-3)から4-6)の結果より、ケイ素と抽出剤が凝集体を形成していることが示唆された。
 4-7)ゼータ電位測定
 再生処理後の中間相に凝集したゲルのゼータ電位測定を行った。pH調整剤としてHCl,NaOHを使用した。ゲルを水洗して単離した白色固形物を水に分散させた。pHとゼータ電位の関係を図7に示す。図7より白色固形物の等電点はpH1付近であることが推察できる。SiO2やSiはpH2付近に等電点を持つことが知られている。このことから廃リン酸中ではケイ素のゼータ電荷は正に帯電していると思われる。
 リン系抽出剤が分子構造上高い塩基性を有していることから、正に帯電しているケイ素成分との分子間相互作用により凝集してケイ素を捕捉していると考えられる。
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5.まとめ

① 有機リン系抽出剤は、リン酸中のケイ素を凝集させる働きがあり、廃リン酸からケイ素成分を固形物として析出させることができる。
② 抽出剤によるケイ素成分の凝集及びフィルターろ過の工程を併用することにより約90%以上のSi除去が可能である。
③ ケイ素成分の凝集は攪拌の条件にもよるが、短時間で可能である。

6.おわりに

 今後、環境及び資源枯渇の面より半導体業界に限らず様々な分野において廃棄物のリサイクル技術は重要になると考えられる。今後、高効率、小型化等の課題を克服し、装置化への可能性を検討する。

謝辞 本稿で紹介した研究は芝田隼次 教授(関西大学)にご指導を頂いた成果である。ここに心から謝意
   を表するものである。

7.参考文献

1)出水清史 半導体プロセス教本 SEMIジャパン
2)特許第3072876 公報
3)特許第3788985 公報
4)特許第3609186 公報
5)田中元治 赤岩英夫 溶媒抽出化学 裳華房
6)芝田隼次 液晶製造工程から排出されるリン酸を主成分とする廃酸からの酸の分離回収、化学工学論文集29巻 第4号(2003)
7) 芝田隼次 シリコンウェハー製造工程で排出される廃酸からの酸の分離・回収 化学工学論文集 28巻 第3号(2002)

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