複合型うず巻形ガスケットの寿命評価技術

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日本バルカー工業株式会社
基幹産業開発部  野々垣 肇
CTO付      朝比奈 稔

1.はじめに

 石綿の有害性は、従来から指摘されてきていたが、近年、石綿による健康被害の深刻さがより注目され、現在は原則全面使用禁止となっている。ただし、化学プラントや鉄鋼プラントなどの既存設備に使用される一部のシール製品については、ポジティブリスト化され、当分の間適用を猶予されている1)
 シール製品には、あらゆる産業のさまざまな流体、温度、圧力に対して長期間にわたりシールすることが要求されるが、ユーザーにとって、シール製品のノンアスベスト化を阻害する最大の要因は、ノンアスベスト製品の長期信頼性を予測できないことである。従来、石綿シール製品が、長年にわたる使用実績から長期信頼性を勝ち得ていたのに対して、ノンアスベスト製品の実績は乏しく、長期間使用の安全性に対する信頼を得るには、ユーザー個々の使用条件における実証試験とともに、長期性能を理論的に評価推定する技術が必要であると考えられる。

2.シールにおける寿命評価技術

 これまで、シール製品の長期性能を評価推定した事例としては、原子力用途の金属製シールにおいて、その応力緩和特性から寿命推定した例2)3)や、うず巻形ガスケットにおいて、熱重量変化からやはり応力緩和を導いて寿命推定した例4)などがあるが、いずれも応力緩和特性からの取り組みであり、材料劣化をシール機能と結びつけた取り組みは見られていない。また、ASME QMEではゴムホースの性能劣化をアレニウス式で整理5)しているがシール製品への適用はできていない。
 ノンアスベスト製品に使用される材料は、ゴム、樹脂、膨張黒鉛など様々であるので、それぞれの材料の長期劣化予測やそれに伴うシール機能低下機構を明らかにしていくことが、ノンアスベスト製品の長期
性能を推定する上で重要である。
 本研究開発では、膨張黒鉛を主たるシール要素とする複合型うず巻形ガスケット(図1)について、膨張黒鉛の酸化消失反応から、高温でのシール寿命を導く手法を開発対象とした。
 内部流体は非酸化性流体と想定し、大気中の酸素によるフランジ締結状態でのガスケット中の膨張黒鉛酸化消失によるシール機能低下を推定した。
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3.寿命推定理論の検討

3-1)膨張黒鉛の消失に関する反応速度論の適用
 膨張黒鉛は、構成する炭素分子が大気中の酸素によって酸化され、一酸化炭素あるいは二酸化炭素となって気化消失する(図2)。
 この化学反応を速度論的に取り扱うことによって、任意の温度における膨張黒鉛の消失減量速度を求めることができ、所定の消失減量に達するために必要な時間が求められる。膨張黒鉛と酸素との反応は、膨張黒鉛が固体であるため、反応速度は、式(1)のように酸素濃度と反応速度定数によって表される。
 反応速度には酸素濃度が影響するが、大気中の酸素濃度が一定であり、また、内部流体に酸素が含まれる場合にも酸素濃度は一定であるので、反応の律速過程が大気中酸素の拡散であった場合には、定常状態においては見かけの反応速度は一定で、反応速度定数kが決まれば、膨張黒鉛の消失
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減量が算出できる。反応速度定数kは、式(2)で表され、いくつかの温度での反応速度定数を求め反応速度定数kと1/Tで整理すれば、活性化エネルギーを導くことができ、これにより、反応の律速過程の推定や任意の温度における反応速度定数を求めることができる。
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3-2)シール限界となる膨張黒鉛消失減量
 複合形うず巻形ガスケットは、金属帯であるフープと膨張黒鉛フィラーやマイカなどの無機質フィラーを重ねて巻き合わせ、金属リングで内径や外径を補強したガスケットである。シールは主として、膨張黒鉛で保持されており、膨張黒鉛が高温で酸化されると消失し、シールが破壊されて漏洩が発生するため、膨張黒鉛の酸化消失を抑制する目的で内径側あるいは外径側にマイカなどの無機質フィラーを配している。
 一般に、高圧流体シールの場合の漏洩量は、式(3)で表される。
 Cはコンダクタンスで、漏洩パスの大きさによって決まる。そのため、シール要素である膨張黒鉛の消失によって、許容漏洩量を超える大きさの漏洩パスが形成された時点でガスケットはシール寿命を迎える。
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3-3)寿命推定手法
 許容漏洩量以上の漏洩が発生する膨張黒鉛の消失量(限界消失量)が求まれば、膨張黒鉛消失の反応速度定数から算出される膨張黒鉛の消失速度によって、シール寿命を推定できると考えられる。すなわち、シール限界の膨張黒鉛消失減量に達するまでの時間をシール寿命と考えることができる。

4.研究開発の成果

4-1)複合型うず巻形ガスケットにおける膨張黒鉛の酸化消失機構
 膨張黒鉛単体の大気中での酸化消失反応に関する活性化エネルギーEsとフランジ締結状態でのガスケット中の膨張黒鉛の消失反応に関する活性化エネルギーEfを比較することで、反応の律速過程を推定し、また、フランジ締結状態での膨張黒鉛の酸化消失速度を求めた。酸化消失試験(熱減量試験)の試料および試験条件を表1に示す。
 膨張黒鉛単体の重量経時変化およびフランジ締
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結状態でのガスケット中膨張黒鉛消失減量の経時変化にアレニウス式を適用して(図3、図4)、それぞれ膨張黒鉛単体、フランジ締結状態でのガスケット中膨張黒鉛の活性化エネルギーを求めた(表2)。
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 膨張黒鉛単体の活性化エネルギーは、49.7kcal/molであり、この値は、Fullerらによって導かれた膨張黒鉛の活性化エネルギー44.2kcal/mol6)やZaghibらによる44.9±0.5kcal/mol7)ともほぼ整合が見られた。
 一方、フランジ締結状態での膨張黒鉛消失の活性化エネルギーは、10.4kcal/molであった。通常、拡散の活性化エネルギーは、反応の活性化エネルギーより小さく、2.9-9.6kcal/mol程度8)とされることから、フランジ締結状態での膨張黒鉛の消失は、拡散律速が支配的であることがわかり、マイカフィラーによる酸素遮蔽の効果がみとめられた。
 フランジ締結状態での膨張黒鉛の反応速度は、3項で述べた通り、膨張黒鉛減量線の傾きから求められ、この温度領域での任意温度での反応速度定数は図4の活性化エネルギーを用いて求めることができる。
 次に、フランジ締結状態で膨張黒鉛の消失が進行したガスケット断面を観察したところ(図5)、外径側1巻き目の膨張黒鉛がほぼ消失しているのに対し、2巻き目は、ほぼ健全であった。これより、複合型うず巻形ガスケット中の膨張黒鉛の酸化消失は、ガスケットとフランジの界面に沿って進むのではなく、大気側から、膨張黒鉛1巻きごとに進んでいることがわかった。
 フランジ締結状態での膨張黒鉛の消失反応が拡散律速支配であること、および図5の膨張黒鉛の消失形態から、複合型うず巻形ガスケットの膨張黒鉛酸化消失モデルを図6のように提案した。すなわち、複合型うず巻形ガスケットの膨張黒鉛フィラーは、マイカフィラーを浸透してきた酸素によって酸化され始めるが、その進行は、フランジとの界面に沿って進むのではなく、フープとの重ね巻きの一層ごとに進行していき、消失速度は、マイカフィラーによる酸素遮蔽能力に影響を受ける。
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4-2)複合型うず巻形ガスケットにおける膨張黒鉛の酸化消失量とシール性能
 膨張黒鉛酸化消失量と漏洩量の関係を求めるにあたり、膨張黒鉛の酸化消失を加速するため、外径側のマイカ層を設けないうず巻形ガスケットを用いて、試験を実施した。試料および試験条件を表3に示す。
 図7にガスケット中の膨張黒鉛の減量率と漏洩量の関係を示す。使用者が設定する許容漏洩量から複合型うず巻形ガスケットで許容される膨張黒鉛の減量限界が、このデータから求められる。図7中の破線は、許容漏洩量が4×10-3Pa・m3/sとした場合の減量率67%を求める例を示す。
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 ガスケット幅と漏洩量の関係は、図8に示したように、漏洩量∝ℓn(外径/内径)の関係として、シール内圧と漏洩量の関係は、図9に示したように、漏洩量∝ Pi2-Po2の関係としてそれぞれ導かれる。これらは、式(4)に示す粘性層流の式が成り立つことを示しており、ガスケットサイズが異なる場合や使用圧力が異なる場合に、式(4)を用いて許容漏洩量を換算することができることがわかる。
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4-3)複合型うず巻形ガスケットにおける寿命推定
 複合型うず巻形ガスケットにおいて提案する寿命推定手順を、内圧0.1MPaの場合の寿命推定の例を交えて以下に示す。
①許容漏洩量を確認する。
 通常、許容漏洩量は、使用者が使用条件に応じて決定するが、ここでは例として、石綿うず巻形ガスケットのシール性能データから、内圧が0.1MPaの場合の漏洩量を許容漏洩量として算出する。
 図10は、従来使用されてきた、石綿うず巻き形ガスケットのシール性能である。このシールデータに、漏洩換算の式(4)を適用すると、各内圧での漏洩量は、表4に示す値となり、内圧0.1MPaの場合には、許容漏洩量は、4.7×10-3Pa・m3/sとなった。
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②膨張黒鉛限界減量率を確認する。
 図7より、ガスケットの漏洩量が、許容漏洩量に達する膨張黒鉛の限界減量率を求める。漏洩量が、①で求めた4.7×10-3Pa・m3/sになる膨張黒鉛減量率は、約67%である。
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③寿命を推定する。
 図4から対象温度での膨張黒鉛消失の速度定数を求め、膨張黒鉛消失速度を算出する。さらに消失速度から、限界減量率となる時間を導出する。
 例の場合は、表5に示したように、600℃では4.5ヶ月、450℃で約16ヶ月といった結果が得られた。
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 以上のように、膨張黒鉛の酸化消失反応に基づいた複合型うず巻形ガスケットのシール寿命推定手法を提案することができた。本手法を用いて、例として求められた値は、特定の使用条件での推定値であり、使用条件によりその寿命は変わってくるが、今回の結果は、実際の実績と大きな違いはないと思われる。
 一方、内部流体に大気成分が混入する場合には、大気中酸素による膨張黒鉛の酸化消失に加えて、内部流体に混入した大気中の酸素によっても、膨張黒鉛の消失が進む。その際の消失速度は、大気の混入率が内部流体の酸素分圧を決めるので、内部流体への大気の混入比率によって消失速度が変わり、(4)式から
酸素の拡散速度(漏洩量)が、圧力の2乗に比例することから、(5)式で表される。すなわち、内部流体への大気混入の比率が大きくない場合は、大気による酸化消失が支配的である。
 このような考察を基に、内部流体に大気が混入する場合についても、(5)式を用いて、補正考慮ができると考えられる。
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5.今後の展開と課題

 今回の取り組みは、膨張黒鉛の劣化に注目して、シール機能の寿命推定を試みたものである。膨張黒鉛を主なシール要素とする複合型うず巻形ガスケットにおいて、膨張黒鉛の酸化消失を速度論的に取り扱うことで、そのシール寿命を推定する手法を提案した。
 しかしながら、本取り組みで対象とした複合型うず巻形ガスケットは、膨張黒鉛が主たる強度要素でなく、シール要素であるために本手法の適用が可能であったのに対し、膨張黒鉛自身が強度要素である場合には、膨張黒鉛の酸化消失に伴い、応力状況が大きく変動するため、むしろ、膨張黒鉛の消失に伴う応力変動がシール劣化の主要因となると考えられる。
 今回、対象とした複合型うず巻形ガスケットにおいては、応力変動がシール劣化の主要因にはなっていないが、より精度の高い寿命推定を行っていくためには、本研究開発の成果のうえに、膨張黒鉛消失に伴う応力変動の解析を実施していくことが有効で、より信頼性の高い寿命評価技術の確立へと結びついていくと考えられる。
 さらに、ノンアスベスト製品においては、今回対象とした膨張黒鉛系のシール製品以外にも、ゴム材料と無機材料の複合体であるノンアスジョイントシート®が多く使われており、100℃を超える温度域での健全性や長期信頼性が明確にすべき技術課題といえる。これについては、本手法の基本的な考え方を応用して、ゴム材料の劣化機構の解明から劣化速度の導出とシール限界となる劣化状況の定義と適切なパラメーターの設定といった課題を乗り越える取り組みが必要と考えられる。
 これらノンアスベスト製品の長期性能評価技術をさらに進化させることにより、長期信頼性を尺度とした新たな製品開発が期待される。

6.おわりに

 従来から使用されてきた石綿シール製品は、使用している各ユーザーでの長年の実績により信頼を得てきたが、ノンアスベストシール製品においては、使用実績が乏しいことが、ノンアスベストシール製品導入の阻害要因となっていると考えられる。
 阻害要因を排除していくには、ユーザーでの実機評価により個々の使用条件での使用実績を積み上げていくことも重要であるが、同時に、ノンアスベストシール製品の劣化機構を解明し、長期的な性能予測の精度を上げていくことが必要であると考えられる。
 本研究開発では、膨張黒鉛に絞って検討を行ったが、ノンアスベストシール製品は、他にゴム、樹脂、有機繊維、など多くの材料が使用されており、これらの材料についてもそれぞれの材料ごとに劣化機構を解明し、同様の取り組みをしていくことが重要である。
 これにより、ユーザーにとっては、自らの確証データに加え、長期信頼性についての根拠を得ることになり、阻害要因が排除できるものと考えられる。

 本稿は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託研究<緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発>の成果を要約したものであり、日本工業出版社「配管技術」誌 第49巻第13号(通巻660号)に掲載された論文に加筆修正したものである。

7.参考文献

1)労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成18年8月2日政令第257号)
2)トライパックの長期性能評価、掘井、7-13バルカーレビュー第35巻3号
3)大断面径トライパックの長期性能評価、野々垣、1-5 バルカーテクノロジーニュースNo.6(2003)
4)Asahina M.,Nishida, T., Yamanaka,Y.,Gasket performance of SWG in ROTT and short term estimation at elevated temperature.,ASME PVP,Vol.326,47-59(1996)
5)原子力用非金属シールの環境劣化と寿命の予測、西田隆仁、pp6-14バルカーレビュー第44巻6号
6)E.L. Fuller, J.M. Okoh Kinetics and mechanisms of the reaction of air with nuclear grade graphite:IG-110, J of nuclear materials 240(1997) 241-250.
7)K.Zaghib,X.Song,K.Kinoshita, Thermal analysis of oxidation of natural graphite: isothermal kinetic studies, Thermochimica Acta 371(2001)57-64.
8)応用物理化学Ⅲ反応速度 原納、鈴木、蒔田 培風館

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