ガスケット締結体の応力緩和特性

P2-1
日本バルカー工業株式会社
研究開発部シール開発グループ
野々垣 肇
山邊 雅之
三菱化学株式会社
水島事業所設備技術部機械2グループ
森本 吏一

1. はじめに

 石綿規制によるガスケットの非石綿化もほぼ完了し、非石綿ガスケットをより安全に、効率よく使いこなすステップに移行しつつある。しかしながら、従来石綿ガスケット製品が、長年にわたる使用実績により長期使用に対する信頼性を得ていたのに対して、非石綿ガスケットの使用実績は未だ乏しく、また、石綿ガスケットとは異なる挙動を示すことがあり、これまでと違った管理方法が必要とされる。非石綿ガスケットの長期使用における安全性に対する信頼を得るには、実績に代わるガスケット締結体の長期性能を評価、推定する技術を構築するとともに、非石綿ガスケットを安全に使用するための管理手法が必要である。

 本報では石綿ジョイントシートガスケットの代替品として、広く使用され始めているPTFE 系シートガスケットにおいて、フランジ締結体の応力緩和試験によって、長期的なガスケット締結体の面圧変動の予測を行うとともに、増締めや片締めの模擬実験を行い、それぞれの効果、影響について確認、考察した。
 供試ガスケットとしては、当社の特殊充填材入りPTFE ガスケットであるバルカー№GF300(以下、GF300)と、二軸延伸PTFE ガスケット(以下、延伸PTFE)とした。

2. 気密開始面圧と常温応力緩和試験

 ガスケット締結体は高温での使用や長期使用において、応力緩和およびクリープ現象による面圧低下が生じ、初期締付力を維持することができない。面圧がシールを保持し得る最低面圧(気密限界面圧)を下回れば漏洩を生じることになり、そこがガスケットの寿命であると考えることができる。初期締付力が高いほど、残留面圧は高く長寿命となるが、フランジやボルト強度をいたずらに高めることは経済的な負担も大きくなり、またガスケットの耐圧壊荷重にも限界があるため、最適な締付力の見極めが必要となる。
 ここではシールを確保する最小限の面圧(気密開始面圧)を初期締付面圧とし、面圧とシール特性の経時変化の確認を行った。
P3-1
P3-2
 Fig.1に試験概要図を、Table.1に試験条件を示す。締結ボルトに取り付けたひずみゲージにより、ボルト軸力を測定し、ガスケット面圧とした。これにより、初期締付力の測定、および面圧変動を測定した。まず、ガスケット面圧20MPaとなるようにJIS B 2251-(2008)1)に従いボルト締結を行った(以下、ボルト締結は同規格準拠とする)。次に、窒素ガス内圧1.0MPa を負荷し、石鹸水発泡法にてシール試験を行った。発泡が見られた場合は2.5MPaごとの増締めを行った。発泡が見られなくなった面圧を気密開始面圧とし、面圧(ボルト軸力)の経時変化を確認する応力緩和試験に移行した。また24時間、96時間、200時間経過後にシール試験を行い、シール特性の経時変化も確認した。
P3-3
P3-4
 Table.2に気密開始面圧測定結果を、Fig.2に常温応力緩和試験結果を示す。気密開始面圧はGF300が25.0MPa、延伸PTFEは22.5MPa であった。しかしながら、Fig.2に示すようにGF300は200時間経過後も漏洩は生じなかったのに対し、延伸PTFEは面圧低下が大きく、24時間経過後に漏洩が生じたため、応力緩和試験時における延伸PTFEの初期締付面圧は、GF300と同じ25.0MPaとした。

3. 高温応力緩和試験

3-1) 熱サイクルによる影響
 ガスケット締結体の応力緩和およびクリープによる面圧低下は、高温下でより大きくなり、熱サイクルが負荷されることによってさらに加速される。ここでは、200℃条件における面圧挙動、および熱サイクル負荷による挙動の変化を確認すると同時に、シール特性についても確認を行った。
P4-1
 Fig.3に試験概要図を、Table.3に試験条件を示す。まず、気密開始面圧である25.0MPaにてガスケットをフランジにボルト締結した。面圧はボルトに取り付けたひずみゲージにて、ボルト軸力として確認した。次に、N2ガスを1.0MPaの内圧で負荷し、シール試験を行った。シール試験はN2 ガス内圧供給側にマスフローメーターを取り付け、内圧を一定に保つことで、ガス供給流量=漏洩量として測定を行った。シールの基準としては、JIS B 2490-(2008)2)を参考に、1.7×10-4Pa・m3/s(0.1cc/min)以下の漏洩量のときにシールとした。これは石鹸水発泡法による検知感度と同等であるとされている。漏洩のないことを確認し
P4-2
たのち、電気炉にて200℃の加熱を行い、ガスケット面圧の経時変化を測定した。加熱条件として、200℃一定に加熱し続けた場合と、200℃-常温の熱サイクルを負荷した場合とで、熱サイクルによる面圧低下の影響を確認した。また、熱サイクル負荷時に最も面圧の低下したタイミングで、サイクルごとにシール試験を実施した。なお、熱サイクルは24時間で1サイクルとし、昇温が約2時間、降温(冷却)が約3時間とした。
 Fig.4に熱サイクル応力緩和試験結果を示す。常温に比べて面圧低下が大きいことがわかる。また、熱サイクルが負荷されることによって、さらに面圧低下が大きくなっている。
 熱サイクルにおいて、冷却時に大きな面圧低下が確認された。これは、加熱時にフランジ、ボルト、およびガスケットが熱膨張し、熱応力がガスケットに負荷されていた状態から、冷却時の収縮により熱応力が低下するが、ガスケットは100%復元せず、圧縮永久歪が残るため、結果としてガスケット面圧が低下したものと考えられる。再加熱した時に、熱応力によりガスケット面圧は再び
P4-3
上昇したが、冷却前の面圧までは回復しなかった。これはサイクルを繰り返すほど、面圧低下が大きくなっていくことを示しており、頻繁に熱サイクルがかかる条件では注意が必要である。
 また、各サイクルにおいて最も面圧低下の大きい、冷却時(常温)にてシール試験を行ったが、いずれにおいても基準である1.7×10-4Pa・m3/s を上回る漏洩は見られなかった。
3-2) 気密限界面圧の確認
 ガスケット面圧が低下していくと気密を保持できなくなり漏洩する。この気密を保持しうる最低面圧を気密限界面圧とし、気密限界面圧と応力緩和特性を比較検討することで、ガスケットの使用限界時期(寿命)を推定することが可能となると考えられる。ここでは、気密限界面圧を確認する。
 前項で実施した熱サイクル試験後に常温に冷却した締結体において、その残留面圧を100%として、80%、60%、40%、20%、10%となるよう、段階的にボルト締結を緩めていき、面圧段階ごとにマスフローメーターによる気密試験を実施した。気密限界面圧試験結果をTable.4に示す。
 気密限界面圧は、Table.2に示した気密開始面圧に比較してかなり小さな値となった。これは、締結によってガスケットとフランジに“なじみ”が形成され、一旦形成された“なじみ”は低面圧下にて内圧によって破られるまで気密を維持しているためであると考えられる。また、熱履歴によるガスケットの軟化により、さらにフランジとの密着性が向上し、“ なじみ”がよくなっていることが考えられる。
 ここで、気密限界面圧と、Fig.4に示した熱サイクル負荷時の残留面圧を比較検討すると、運転中
P5-1
の残留面圧は気密限界面圧を大きく上回っており、比較的長期の使用、例えばプラントの定修工事期間内に使用限界(寿命)を迎えることはないと考えられる。ただし、運転停止時の面圧低下は大きく、場合によっては気密限界面圧を下回ることも考えられる。実際にも運転停止後の再起動時に漏洩が発生したケースもいくつか報告されており、この場合は増締めなどの対策が必要になる。
3-3) 増締め効果の確認
 前項で示したように、ガスケット締結体は加熱や熱サイクルの付与によりガスケット面圧が低下することは以前から知られており、その対策として増締めが行われてきている。
 増締めには運転初期の加熱状態で行うホットボルティングと、運転停止時、再起動前の常温時に行うコールドボルティングがある。ここではホットボルティングおよびコールドボルティングの面圧低下に対する効果を確認した。なお、ここでの増締めは初期締付面圧まで締め直すことを指す。Table.5に試験条件を、Fig.5、Fig.6に増締め試験結果を示す。
P5-2
P5-3
P5-4
 ホットボルティングおよびコールドボルティングによる増締めを実施した場合、増締めを実施しない場合に比べて残留面圧が高くなり、増締めによる面圧保持の効果が確認された。また、ホットボルティングとコールドボルティングを比較した場合、ホットボルティングによる増締めの場合が、より残留面圧が高い結果となった。これは、コールドボルティングによる増締めは常温で行うため、再加熱時の温度変化によりガスケットの剛性低下が起こり、フローすることによって、ボルト軸力の低下が大きくなったと考える。一方、ホットボルティングは、高温状態にて増締めを行うため、剛性低下したガスケットを締付けることになり、フローさせながら締付けを行うため、増締め後のフローが少なく、応力緩和が小さくなったものと推測する。
 以上のように、ホットボルティングによる増締めが、熱履歴による面圧低下に対して、より効果的であるという結果を得た。しかしながら、ホットボルティングはガスケットが剛性低下(軟化)した状態での増締めであるため、過剰締付によるガスケット破壊に十分注意し、トルク管理にて行うことを推奨する。また、面圧が最も下がるのは冷却時であり、この時点でコールドボルティングによる増締めを実施することで、再起動時の漏洩を防止する効果が高いものと考えられる。
3-4) 初期締付時のボルト軸力分布(片締め)の影響
 多数本ボルトからなる締結体であるフランジ継手の締付けには、トルク法が広く用いられているが、トルクレンチを注意深く使用しても、ネジ部品各部の摩擦係数のばらつきなどにより、締付力のばらつき(片締め)が生じる。JIS B 2251 -(2008)では、少なく見積もっても±15%の締付力のばらつきが生じるとしている。
 本項では、Fig.7に示すように±20%の片締めにて締付けたフランジ締結体のボルト軸力挙動の経時変化を評価し、片締めによる応力緩和挙動への影響を確認した。主な試験条件をTable.6に示す。
P6-1
P6-2
 Fig.8、Fig.9に初期締付時にボルト軸力分布(片締め)を与えた場合の軸力変動経時変化を示す。
P6-3
P7-1
 比較として片締めなしの結果を併記する。締付時に片締めを行ったフランジ締結体のボルト軸力の挙動は、初期軸力が大きいボルトほど、その後の軸力低下が大きくなる傾向となった。ただしボルト軸力大小の順位列は変わることはなく、これは一般的なガスケットの応力緩和挙動と同傾向であった。また、軸力を100%としたボルトは、片締めなしの場合の軸力挙動と一致しており、ボルト軸力分布に影響されないことが確認された。
 すなわち、初期締付において片締めが生じた場合は、その最も小さいボルト軸力がガスケット寿命を左右すると考えられ、初期締付力を十分に与えることが肝要となる。

4. 今後の展開と課題

 ガスケット締結体の諸条件における面圧挙動を、比較的簡便な実験手法において明らかにすることができた。さらに実機で想定されるさまざまな条件、現象を模擬し、実験していくことで、非石綿ガスケットを安全に使用、管理する手法を構築していくことができるものと考える。
 しかしながら、実機にて使用される温度、圧力、流体などの条件は多種多様であり、すべてを網羅することは現実的ではない。また、大口径の実験は困難であるなど、実験手法にも制限がある。これらの問題については、有限要素解析(FEA)によるガスケット締結体の長期特性予測手法の開発が進んでおり3)、これらと組合せることによってより確度の高い有益なデータを示すことができるものと考えられる。

 本稿は日本工業出版社「配管技術誌」第52巻第7号(通巻696号)に掲載された論文を転載したものである。

5. 参考文献

1) JIS B 2251(2008) フランジ継手締付方法
2) JIS B 2490(2008) 管フランジ用ガスケットの密封特性試験方法
3) 佐藤 広嗣, 野々垣 肇, 黒河真也, 出口 聡美, バルカー技術誌, No.17, 2-7,(2009)

ページの先頭へ戻る
ページの先頭へ戻る