ばね入りメタルCリングの三次元有限要素解析

ばね入りメタルCタイトル画像
神戸商船大学 商船学部 機械電子工学講座
助手 高木 知弘
神戸商船大学 商船学部 機械電子工学講座
教授 福岡 俊道
日本バルカー工業(株) 研究開発部(現:事業統括部プロダクトグループ)
山中 幸

1.はじめに

 ばね入りメタルCリングは、高い締付け力を必要とするメタルガスケットの短所を改善するために開発された、比較的低い締付け力で良好なシール性を有するメタルガスケットである1)。図1にその基本形状を示す。
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 ステンレスやインコネル材のコイルばねを、アルミ等の軟質金属板Cリングで被覆した構造となっている。場合によってはCリングを二重にしたり、Cリング表面を加工して低締付け力をはかったガスケットも開発さされいる2)。このように、ばね入りメタルCリングは非常に複雑な構造をしているため、圧縮特性やシール特性を評価するためには実際に製品を作成し試験を行う手法が採用されてきた。それらの結果から、外形寸法が同じ場合にも構成部材の寸法や材質を変更することで、締付け力を低減できることが報告されている2)。しかしながら、設計変数が多いばね入りメタルCリングの力学的挙動を把握し、さらに低締付け力化をはかるためには体系的な検討が必要であり、実験的な評価は多大な労力を要する。
 本研究では、ばね入りメタルCリングの各部寸法がガスケットの圧縮特性とシール特性に与える影響を、三次元有限要素解析により評価することを試みる。前に述べたように、ばね入りメタルCリングは非常に複雑な形状を有しているため、まずそのモデル化を検討する。またガスケットはシール特性が重要であるため3)、解析によるシール性評価について考察を行う。解析には汎用有限要素解析コードABAQUSを使用し、材料非線形・幾何学的非線形・接触の各問題を考慮する。
 最後に、統計的な手法を用いた設計支援ソフトDesign Directorを用いることにより4)、ばね入りメタルCリングの低締付け力化を目指した寸法設計を試みる。

2.有限要素解析

 汎用有限要素解析コードABAQUSを用いて、ばね入りメタルCリングの圧縮解析を行う。
2-1 解析対象
 本研究では、JIS B2290呼び径80のフランジに用いられるばね入りメタルCリングを解析対象とする。ばね入りメタルCリングはみぞ形フランジで使用されることが多く、上記フランジの場合みぞの深さは3.0mmである。図2に示すように、対象とするガスケットの断面径は3.8mmであるので、ボルト初期締付け時に0.8mm(約21%)圧縮されることになる。Cリングの材質はアルミニウム(A1050P)、コイルばねはインコネル(Inco.600)である。
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2-2 有限要素モデル
 ばね入りメタル、リングをモデル化する場合、コイルばねの取り扱いが問題となる。ここでは、簡素化のため図3に示すように、ら旋形状を有するコイルばねを「Oリング形状のばねが円周方向にコイルばねの巻き数個並んだ状態」にモデル化する。このような仮定を行うと、ガスケットは圧縮方向と円周方向に対称性を有する形状となる。つまり、圧縮方向は1/2、円周方向は1/(2×ばね巻数)のモデルの使用が可能となる。これらの点を考慮し、図4に示す有限要素モデルを作成する。要素にはC3D8Rを使用している(5)
P2-2
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2-3 境界条件
 図5(a)と図5(b)は、それぞれガスケットの圧縮方向(z方向)と円周方向(θ方向)の境界条件を示している。Cリングとコイルばねの圧縮方向対称面の変位を拘束し、円周方向の対称面を傾斜支持境界としている。図3を示すように、コイルばねはガスケット内側で接するように作成されている。この場合、図5(b)に示すようにモデルの中心角は360/(2×N)degとなる。また、ガスケットを圧縮するフランジは剛体壁としてモデル化している。この剛体壁に負の強制変位を与えることにより、締付け状態を再現する。剛体壁とCリング、Cリングとコイルばねの間は接触を考慮し、摩擦係数は0.2一定と仮定している。
P3-1
2-4 材料定数の同定
 ガスケットの剛性を実際のものと一致させるため、コイルばね単体の圧縮試験を行い、その結果得られた荷重-変位曲線と解析から得られたものが一致するように、コイルばねの材料定数を決定する。この結果、コイルばねのヤング率を75GPa、降伏応力1900MPaの弾完全塑性体と決定した。ここで、アルミニウム製のCリングは文献[6]よりヤング率70GPa、初期降伏応力70MPaとし降 伏語はσ=150ε0.27に従うものとしている・ポアソン比はコイルばね、Cリングとも0.3一定と仮定している。
 図6は、上記のように決定した材料定数を用い、ばね入りメタルCリングの圧縮解析を行って得られた荷重-変位曲線を試験結果とともに示している。解析では圧縮方向に半分のモデルを使用しているため、圧縮変位を2倍にして示している。図6より試験結果と解析結果は比較的よく一致していることが分かる。
P3-2

3.シール開始荷重S0と締切荷重S

 ばね入りメタルCリングの圧縮試験と同時に、ヘリウムリークディテクターを用いた漏洩試験を行っている2)。その結果、図6中に示すS0=23kNのシール開始荷重が得られた。このシール開始荷重S0は、ヘリウムの漏洩量がヘリウムリークディテクターの検出感度(約1×10-11Pa・m3/s)に達した最小の圧縮荷重として定義している。図6中のS=76kNはガスケット厚さがフランジみぞ深さ3.0mmに達した荷重、つまりガスケットを0.8mm圧縮した時の荷重で締切荷重と呼ぶことにする。
 第1章で述べたように、メタルガスケットの欠点は内部流体をシールするために高い締付け力を必要とすることである。そのため、低締付け力化がメタルガスケットの開発・設計における課題となっている1)。シール開始荷重S0を締切荷重Sとする使用が可能であれば、最も低い締付け力でガスケットを使用することができる。しかしながら実際は、ガスケットやフランジの加工誤差等のためS=S0とした使用は危険であり、S>S0の状態で使用されるようにガスケットは設計されている。ここでシール開始荷重S0に対する締切荷重Sの比、S/S0を安全率と呼ぶことにする。図6の結果では安全率S/S0=3.3である。
 図7は締切状態(変位=0.8mm)におけるガスケットの変形を示している。Cリングはコイルばねと接触する部分において薄くなっており、ガスケット内側ではCリングとコイルばねは接触していないことがわかる。
P3-3

4.FEMによるシール開始荷重S0の決定

 ばね入りメタルCリングの各部寸法が、シール開始荷重S0と締切荷重Sに与える影響を把握しておくことはガスケットの低締付け力化設計を行うために重要である。各部寸法を変えて体系的な評価を行うためには有限要素解析が有用であるが、シール開始荷重S0をどのように決定するか問題である。
 ガスケットのシール特性にはガスケット座面の圧力分布が大きく影響していることが考えられる。図8は、ガスケット座面(剛体壁とCリングの接触面)のθ=0.0deg部の半径方向の面圧分布変化を示している。図中の値は圧縮変位量である。圧縮変位の増加にともない接触面積が広くなっていることがわかる。しかしながら、最大面圧値はあまり変化していない。図9は、シール開始荷重S0=23kN(圧縮変位=0.15mm)時のθ=0.0degとθ=360/(2×N)deg部の半径方向のガスケット座面圧分布を示している。2点に面圧のピーク値があらわれており、いずれの面圧値も150MPa程度となっている。図8の圧縮変位量0.1mmの時の最大面圧値が150MPa以上となっているため、適当なシール状態を達成するためには、ある程度の面圧値に加え接触幅が必要になることが考えられる。以上の点を考慮し、ここではシール開始荷重S0を”ガスケット座面圧の半径方向分布のピーク値が2点以上存在し、それらの値がともに150MP以上となる状態に達する最小の圧縮荷重”と仮定する。また、図9よりθ=0.0deg部とθ=360/(2×N)deg部の面圧分布は同様な変化を示しており、円周方向の面圧変化は小さいことがわかる。
P4-1

5.SとS0に対するガスケット各部寸法の影響

 シール開始荷重S0と締切荷重Sに対するばね入りメタルCリングの各部寸法の影響を評価するために、表1に示すモデルを設定し体系的な有限要素解析を試みる。表中の各変数の値は、図2に示す基準寸法に対する比率として示している。Cリング厚さt、ばね線径d、ばね巻径D、ばね巻数Nの各設計変数を考察の対称とし、それぞれModel No.1-5、Model No.6-11、Model No.12-14、Model No.15-17により評価を行う。Model No.2、8、13、17、は図2に示す基準となるモデルである。Cリング厚さtとばね巻径Dの影響を評価するモデルにおいては、ガスケット断面径が異なるため締切状態(みぞ深さ3.0mm)までの圧縮変位量が変化する。また、コイルばねは図3に示すようにガスケット内側で接するようにモデル化しているため、ばね線径dを変えた場合ばね巻数Nが変化する。
 図10は表1に従って解析モデルを作成しガスケットの圧縮解析を行った結果、各設計変数に対してシール開始荷重S0と締切荷重がどのように変化するか示している。
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 締切荷重Sについては、図10(c)のばね巻き径D以外は各変数を増加させるとSも増加しており、その影響は図10(b)のばね線径dの場合最も顕著である。ばね巻径Dについては、各モデル毎に締切状態までの圧縮変位量が大きく異なるため、図10(c)に示すような変化となっている。図11は荷重・変位曲線の一例として、ばね線径dを変化させた場合の結果を示している。圧縮変位0.8mmの時の荷重値が、図10(b)に示す締切荷重Sに対応する。
 シール開始時荷重S0については、図10(a)に示すCリング厚さtの小さい場合と、図10(b)に示すばね線径dの大きい場合に高くなる傾向を示している。図12はばね入りメタルCリングの半径方向中心部の円周方向断面をガスケットの側面から見た図である。Cリングとコイルばねの接触面においては、ばねがはじめからCリングに接触しているばね項面部aと、ある程度圧縮荷重が作用してCリングがばねに食い込まなければ接触しないb部が存在する。Cリング厚さtが小さくなり、ばね線径dが大きくなるとばね間のb部においてCリングとばねが接触し難くなり、その上部の剛体壁とCリングの接触面圧が低い部分が生じ、その結果シール開始荷重が高くなる。しかしながら、Cリング厚さtがt0以上、ばね線径dが1.11d0以下、および図10(c)に示すばね線径Dを変化させた場合はシール開始荷重S0の変化はほとんどみられない。また、図10(d)に示すばねの巻数を増加させた場合、締切荷重Sは増加するがシール開始荷重S0は低下しており、他の設計変数を変化させた場合とは異なった特性を示すことが分かる。
P6-3



P6-4

6.ガスケットの低締付け力化設計

 前章では、基準となる寸法から個々の設計変数のみを変化させた場合のシール開始荷重S0と締切荷重Sを評価した。しかしながら、各部寸法を決定する際には各変数相互の影響を検討する必要がある。ここでは、統計的手法を用いる設計支援ソフトDesign Director4)を使用し、ばね入りメタルCリングの低締付け力化設計を試みる。Design Director を用いた設計手順を簡単に次に示す(詳細は文献[4])。
 (1)設計変数の決定
 (2)水準数・水準値の決定
 (3)直交表割付
 (4)有限要素解析
 (5)推定式の作成
 (6)目的関数・制約条件設定
 (7)最適設計
6-1 設計変数の決定
 前章の結果より、ばね線径d、ばね巻径D、ばね巻数Nを設計変数とする。図10(c)より、S0とSに対するばね巻径Dの影響は小さいが、ばね線径dとばね巻数Nのみではガスケット断面径が変化しないことから、ばね巻径Dも設計変数として導入している。また、ばね巻数Nはばね巻率Rとして導入する。図2に示す寸法のばね入りメタルCリングでは、コイルばねはガスケット内側で接しており、ばね巻数N0が最大巻数となる。この場合はばね巻率R=1とする。表1に示すModel No.15とNo.16の場合、ばね巻率Rはそれぞれ0.67、0.83となる。
6-2 水準数・水準値の決定
 シール開始荷重S0、締切荷重S、安全率S/S0を特性値とし、後で示す有限要素解析の結果より、0、S、S/S0をd、D、Rの多項式として表す。このとき各特性値がd、D、Rに対してどのように変化するのか前もって予測しておく必要がある。ここでは、d、D、RをS0とSが線形的に変化する比較的狭い範囲に設定する。このため、S0、S、S/S0はd、D、Rの1次の多項式で表される、つまり水準数を2としている。表2は使用した水準値を示している。
P6-2
6-3 有限要素解析
 表3は、表2の水準表を基に割付を行った直交表を示している。直交表にはL8(27)を使用している。L8(27)は最大7設計変数まで解析が可能で、各変数の値が2段階に設定されている2水準系の直交表である。組み合わされる入力データは8通りである。ここでは設計変数3(d、D、R)、水準数を2としているため全組合せ数は23=8となり、L8(27)の直交表を用いる場合全ての組合せを解析することになる。しかしながら、設計変数が少ないため全ての交互作用を考慮することが可能となる。ここでは、d、D、R全ての交互作用を考える。
 表3に基づき8個の有限要素モデルを作成し、ばね入りメタルガスケットの圧縮解析を行う。解析結果を表4に示している。
P7-1
P7-2
6-4 最適設計
 表4の結果より以下に示す推定式が得られた。
S=-297.24+445.7d+101.825D+124.75R-146.35dD+330dR-69DR
S0=-56.365+245.1d+8.8D+20.625R-38dD+113.5dR+8.25DR
S/S0=-3.2-7.125d+2.625D+2.975R-1.25dD+23.75dR-3.375DR
 目的とするのはガスケットの低締付け力化であるため、締切荷重Sを目的関数とする最小化計算を行う。制約条件としては、各変数が表2に示す水準値内にあること、安全率S/S0がある値以上であることとする。ここでは、S/S0が2と3以上の条件を設定する。
 最適化計算の結果を図13に示している。図よりS/S0が2と3以上の条件の場合、図2に示す寸法のガスケットに対してそれぞれ53%と89%の低締付け力化が達成された。この場合、ばね線形dが最も大きく変化していることがわかる。
P7-3

7.おわりに

 ばね入りメタルCリングの各部寸法がガスケットの圧縮特性とシール特性に与える影響を、汎用有限要素解析コードABAQUSを用いることにより体系的に評価した。その結果、ガスケットの締切荷重に対してはばね線形の影響が最も大きいことを示した。また、それらのデータを基にガスケットの低締付け力化設計を試み、安全率が2の場合53%、3の場合89%の低締付け力化を達成できることを示した。
 今後は、本研究で示した解析手順の妥当性を確認するために、算出された寸法を基に作成したガスケットの圧縮・漏洩試験を行う必要がある。また、シール開始荷重に対する締切荷重値の割合を安全率としたが、実際この安全率をどの程度の値にすればよいのか検討する必要がある。さらに、ガスケット座面の状態とシール特性の関係をより明確にすることも、今後の重要な研究課題であると考える。
 最後に、幾何学的非線形問題に関して貴重な助言を賜った神戸大学工学部冨田佳宏教授に深甚の謝意を表します。また、実際のモデルの作成と解析を行っていただいた本学学生飛岡竜太郎君(現ヤンマー株式会社)に深く感謝いたします。
<参考文献>
1)山中 幸、メタルガスケットの特長と適用、配管技術、43-12(2001)、57-59.
2)中川慎也、低締付力メタルガスケット-トライパックLS-、バルカーレビュー、43-1(1999)、8-12。
3)山中 幸、シール施術の動向と課題、配管技術、42-4(2000)、31-35.
4)柏村・白鳥・干、実験計画法による非線形問題の最適化-統計的設計支援システム-、(1998)、朝倉書店。
5)ABAQUS/Standard User's Manual (Version 6.2) Volume II.
6)野田直剛・中村 保、木曽塑性力学、(1994)、19、日新出版。

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