チタン成形ベローズの機械・真空特性

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バルカーセイキ株式会社
西場 健博
川原 政春
佐藤 央隆

1 .はじめに

 ベローズは真空環境を保持するためのシールや継ぎ手として用いられる重要な構成部品である。半導体や液晶、これからの成長が期待されるマイクロマシン産業のほか、加速器や核融合炉などのビッグサイエンス分野にも欠かせないものとなっている。
 最近、ステンレス鋼にかわり軽量で可とう性に優れ、放射化しにくく磁性が低いベローズ材料が要求されている。
 ステンレス鋼成形ベローズは、フランジを含めると数十kgの重量となり、取り扱いが容易ではない。また、脱着時にベローズを伸縮させる必要があるが、バネ反力が高いため扱いにくい。
 我々はこのような要求を満たす材料として、チタンに着目した。
 表1にチタン(1) とステンレス鋼(2)およびアルミニウム(3)の物理的・機械的性質を示す。チタンはステンレス鋼よりも軽量で可とう性、耐腐食性に優れ、線膨張係数や透磁率が低く加速器や核融合炉用材料として適し ている。また、アルミニウムよりも耐力や硬度が高いため、過負荷時のつぶれに強く傷がつきにくい。さらに放射能化した場合、長寿命の同位体元素が生成されないため、残留放射能が早く減衰する(4)利点がある。
 ここでは、チタン成形べローズ(以下:Tiベローズ)の機械的特性および真空特性について、ステンレス鋼成形ベローズ(以下:SUSベローズ)との比較を交え、紹介する。
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2.Tiベローズの機械的特性

2-1 成形性
 板厚が等しいチタンJIS 1種(以下:Ti 1種)およびステンレス鋼(以下:SUS316L)の冷間圧延材にて、内外径と山数が同一な成形ベローズを製作した。フランジも同一形状で製作した。SUSベローズのフランジは同一材料のSUS316L、Tiベローズのフランジは、シール面の傷付きを防ぐため、硬度がSUS316Lと同等であるTi 2種にて製作した。
 表2に、製作したベローズの重量と寸法を示す。TiとSUSベローズの重量比は、材料の密度比と同じ57%であった。自由長(無負荷時のベローズ全長)の差は5%以内に収まり、内外径も等しく、Tiベローズの成形性はSUSベローズに劣らなかった。
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2-2 バネ特性
TiおよびSUSベローズをそれぞれ引張・圧縮試験機に据え付け、一定の変位速度でベローズの軸方向に荷重を加え、収縮させた。一連の変位量(縮み量)と荷重の関係を記録し、ベローズのバネ定数およびヒステリシスを求めた。
 図1にベローズの変位量と荷重の関係を示す。ベローズの寸法にかかわらず、Tiベローズのほうがグラフの傾きで表されるバネ定数が低い。また、ベローズ寸法が大きくなっても、SUSベローズと異なり、Tiべローズのヒステリシスは大きくならず、良好な線形性を保っている。
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 表3に、図1より得たTiおよびSUSベローズ一山あたりのバネ定数の測定値を示す。有限要素法解析ソフトウェアANSYSにより求めた計算値も合わせて記載した。
 SUSベローズの計算値と測定値の差は30~40%と大きいのに対し、Tiベローズの計算値と測定値はほぼ等しく、設計どおりのバネ定数を有するベローズであることがわかる。
 これはTiベローズは成形による板厚の変化が小さいため5)、設計したバネ定数を有するベローズを安定して量産することが可能である事を示す。
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2-3 疲労寿命特性
 小口径(内径44mm×外径58mm×板厚0.2mm×8山)のTiおよびSUSベローズに繰り返し変位を与え、疲労寿命を測定した。試料を耐久試験機に取り付け、ベローズ内部を真空引きし、内部の圧力を10Pa以下とした。その後、大気圧の影響を考慮した設計上の変位比率、すなわち圧縮方向に60%、引張方向に40%となるような正弦波変位を繰り返し与えた。ベローズが破損し大気が入り込み、内部の圧力が上昇した時点の回数を疲労寿命回数とした。ストロークを6~12mmの範囲で、負荷条件を変え、各ストロークでの疲労寿命回数を測定した。
 図2に測定結果を示す。TiベローズとSUSべローズは、同等の寿命であった。
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2-4 耐圧性
 ベローズ内部を真空に引くと、大気圧による荷重がベローズに加わる。ベローズの機能を保持するため、この荷重に対して耐えうる強度が要求される。
 ベローズ内外の圧力差(差圧)により生じる材料表面の応力は、ベローズの形状と差圧の大きさに依存し、材料によらない6)。よって耐力がSUSの約半分しかないTiベローズは、同一形状のSUSベローズよりも低い差圧(応力)で塑性変形に至るため、設計時に注意を払う必要がある。

 また、ベーキングにともなう材料の強度変化にも配慮しなければならない。温度上昇によるTiベローズ材料の強度変化を把握するため、Ti 1種べローズ材料の0.2%耐力の温度依存性を調べた。板厚0.2mmの材料をJISZ2201 13B号試験片形状に打ち抜き、試験片を加熱しながら引張試験を実施し、0.2%耐力を測定した。図3に測定結果を示す。Ti 1種ベローズ材料の0.2%耐力は、150℃で室温時の半分にまで低下した。

 以上の事実を踏まえ、我々は図4に示すような有限要素法による応力解析を設計に活用することにより、べーキング温度での耐圧性を満足し、かつ可とう性に優れたTiベローズの製作を可能とした。
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3. Tiべローズの真空特性

 Tiベローズの真空特性を評価するため、ベローズ表面からのガス放出速度を測定した。
 Ti 1種およびSUS316Lにて同一寸法の大口径ベローズ(内径255mm×外径290mm×板厚0.2mm×3山)を製作し、脱脂洗浄を施した。化学研磨等の表面処理やべーキングは施さなかった。試験前に室温22℃、相対湿度45%の室内に24時間曝露したのち、図5に示す測定系にベローズを取り付け、スループット法により室温下でのガス放出速度の変化を測定した。なおベローズを除く測定系はあらかじめ200℃べーキングを300時間行った。
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 つづいて製品として出荷されたベローズを使用する状況を再現し、真空特性を調べた。脱ガスのためベーキングを施したベローズを荷姿の状態で保存した。1ヵ月後開封し、24時間大気暴露ののちガス放出速度を室温下で測定した。梱包前のべーキング(プリベーキング)には、10-6Paを保持する超高真空熱処理炉を使用し、ベーキング温度150℃にて24時間実施した。真空中で徐冷させ炉からベローズを取り出したのち、ガスの透過を遮るナイロン袋の中に乾燥窒素と吸湿材とともに入れ、密閉し荷姿とした。大気暴露は室温22℃、相対湿度45%の雰囲気にて実施した。
 図6にべーキングを行わない場合と、プリベーキングを実施した場合のガス放出速度の経時変化を示す。べーキングなしの場合、排気開始後100時間でTiベローズのガス放出速度はSUSベローズの43%となり、良好な真空特性を示した。
 プリベーキングの有無によるガス放出速度の違いを比較すると、Tiベローズにおける差異は僅かであり、プリベーキングなしでも高い真空特性を示していることがわかる。一方、SUSベローズの場合、プリベーキングによりガス放出速度が33%低下し、良好な真空特性を得るためにはプリベーキングが必要であることが明らかになった。
 これはTi材料の製造過程において形成された緻密な酸化膜が材料内部からのガス放出を抑制している7)との報告がある。Tiベローズはこの酸化膜により、べーキングを行うことなく低いガス放出速度が得られたものと考えられる。
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4.まとめ

1 )チタンベローズの重量はステンレス鋼ベローズの約半分となり、大幅な軽量化が可能である。
2 )チタンベローズはステンレス鋼ベローズと同等の成形性を示し、安定した寸法品質を有する。
3 )チタンベローズのバネ定数はステンレス鋼ベローズの70~80%であり、寸法が大きくなってもヒステリシスは小さく、良好なバネ性を示した。
4 )チタンベローズは、ステンレス鋼と同等の疲労寿命を示した。
5 )チタンベローズのガス放出速度は、ステンレス鋼ベローズの43%となり、プリベーキングを行わなくても良好な真空特性を示した。

5.おわりに

 チタンは真空部品の材料として扱われ始めて10年を経ておらず、機械・真空特性に関しては未だ不明な部分が多い。本稿ではチタン成形ベローズの機械・真空特性に注目し、ステンレス鋼成形ベローズに替わるベローズとして期待できることを明らかにした。
 チタン成形ベローズは、半導体・液晶分野においては装置の軽量化によるメンテナンス工数の低減に、また、優れた物理的性質は加速器や医療機器において発揮され、さらに低温下における脆性が低いため、低温環境に用いられるべローズとして期待できる。
 弊社ではこれらの様々な市場に対応するため、表4に示す寸法のチタン成形べローズを用意している。ステンレス鋼成形ベローズに替わる、優れた特性を有するベローズとしてご活用いただければ幸いである。
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<参考文献>
(1) (社)チタニウム協会編:チタンの加工技術, (日刊工業新聞社,1992)
(2)ステンレス協会編:ステンレス鋼データブック,(日刊工業新聞社, 2000)
(3) (社)軽金属協会編:アルミニウム技術便覧, (軽金属出版,1985)
(4) R. Thomasa and G.R. Stevenson: Radiological Safety Aspects of the Operation of Proton Accelerators,(Technical Report Series No.283, IAEA Vienna,1988) p.107
(5)西場健博、原田洋祐、川原政春、能勢正章、齋藤芳男:真空45(2002) 590.
(6) Expansion joint manufacturers association: Standards of the expansion joint manufacturers association,Inc.. (1980)
(7)伊藤好男, 湊道夫:真空40(19 97)248.

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