大断面径トライバック®の長期性能評価

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研究開発部 事業部研究グループ
野々垣 肇

1.はじめに

 トライパック®は、メタルガスケットの中でも比較的低い締付力と、その優れたシール性能によって、真空、航空宇宙、原子力関連分野等において、厳しい要求性能を満足し、実績を残している。例えば原子力関係において、使用済燃料貯蔵キャスクのシール材として採用された実績を持つ。
 ところが近年、貯蔵キャスクにおいて、より長期間の貯蔵や長期貯蔵後の輸送を念頭において、より長寿命かつ信頼性の向上を目的に、より断面径の大きいガスケットが検討されている。
 こうした状況を踏まえ、本稿では断面径10mmのトライパック®について応力緩和特性および気密特性の評価結果をもとに、長期気密性能の検討結果を概説する。
 また、コイルスプリング材質において従来のインコネルと同様、高ニッケル基合金であり、さらに耐熱性の優れるナイモニックについての検討結果も紹介する。

2.トライパック®の長期性能評価

 ガスケットの長期性能評価、特に高温下における長期性能評価方法は未だ確立されたものはなく、非常に難しい課題を残している。しかしながら、トライパック®のようなメタルガスケットを溝締切型で使用する場合、文献(1)にて示された手法がガスケットの寿命を推定する方法として有効なようである。すなわち高温下における応力緩和特性をもとに、締付力が気密限界応力まで低下する時間を算出し、その時間までは気密性能に問題が生じないとする方法である。
 本稿でも同じ手法を用いて長期性能評価を実施した。ただし気密限界応力については、高温下ではガスケットとフランジとの密着性が向上し、かえって気密性が向上することが分かつており、本稿ではあえて常温下における初期密封性能にて評価した。

3.試験方法

3-1 試験試料
 トライパック®二重被製品(単列)を評価した。図1 にその構造図を示す。
 試料寸法は、内径176mm、断面径10mmとした。また、構成材料は外被がアルミニウム(A1050P)、内被がインコネル(Inconel600)、コイルスプリングはインコネル(Inconel X-750) およびナイモニック(Nimonic90)の2種類を比較評価した。コイルスプリング材料であるInconel X-750およびNimonic90の諸特性を表1に示す。
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3-2 圧縮復元/気密試験(常温)
 常温において、トライパック®の圧縮復元試験、および気密試験を実施し、気密開始点、S0(荷重負荷時においてガスケットが気密を開始する最小締付力)および気密限界点S1(荷重除荷時においてガスケットが気密を保持しうる最小締付力)を確認した。試験装置図を図2に示す。
 フランジ間にガスケットおよびリテーナーを設置し、圧縮試験機により荷重を段階的に負荷し、締切状態(上側フランジとリテーナー間の隙聞がなくなった状態)に達した後、今度は荷重を段階的に除荷した。
 各荷重段階における歪量をダイヤルゲージにて読み取り圧縮復元曲線を確認した。
 また、同時に各荷重段階ごとの漏洩量をヘリウムリークディテクターにて測定し、気密開始点S0および気密限界点S1を確認した。
 なお、気密の基準は漏洩量がヘリウムリークディテクターの感度限界である1X 10-11Pa・m3/s以下で、あることとした。
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3-3 応力緩和/気密試験(200℃)
 200℃において、トライパック®の応力緩和試験を1000時間にわたり実施した。またその聞の気密性能を確認した。試験装置図を図3に示す。
 試験フランジ間にガスケットを装着し、締付フランジを締付ボルトにより支柱に締切った。このときガスケットの歪量と締付けによる荷重計自体の歪量の合計を締め付けられるよう、支柱長さおよび試験フランジ厚さをあらかじめ調整しておいた。
 次に装置全体(動歪計やヘリウムリークディテクター等の測定系は除く)を断熱材で覆い、ヒーターにより200℃に加熱した。温度は試験フランジに取り付けた熱電対にてモニターした。
 200℃にて安定した時聞を0時間として、1000時間までの締付荷重の経時変化を荷重計にてモニターし、1000hにわたる応力緩和を測定した。
 また、その聞の漏洩量をヘリウムリークディテクターにて測定した。なお、気密の基準は漏洩量がヘリウムリークディテクターの感度限界である1×10-11Pa・m3/s以下であることとした。
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4.試験結果および考察

4-1 圧縮復元/機密試験結果
 圧縮復元/気密試験結果を図4に示す。比較として断面径5.6mmのトライパック®(インコネルパネ)もあわせて記載した。
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 圧縮復元曲線については断面径についての差が現れている。圧縮時において、断面径5.6mmのものは塑性変形が開始される締付力が小さく、溝締切り状態で十分な塑性変形がなされているものと思われるが、断面径10mmのものは塑性変形領域には入っているものの、完全に変形しきっていないようである。
 実機においてはガスケット断面径の寸法公差、およびフランジ溝の寸法公差により圧縮量に幅がある。断面径5.6mmの場合は圧縮量の差が締付力にはほとんど影響しないが、断面径10mmの場合は締付力にも幅が出るものと考えられる。
 なお、溝締切に要した締付力は、断面径10mmのもので約400kN/m、断面径5.6mmのもので約350kN/mであった。
 一方、復元時において、溝締切状態から気密限界点、S1までの有効復元量溝締切状態から気密限界点S1までの復元量)は、断面径5.6mmのものが約0.1mm程度であるのに対し、断面径10mmのものが0.2~0.25mm程度と大きく、これは落下などの衝撃などでフランジ面間が開いた場合の追随性に優れるものと考えられる。
 気密特性を比較すると、気密開始点S0および気密限界点S1に多少のばらつきはあるものの、ほぼ有意差なしと判断しても差し支えないものと考えられる。常温気密試験結果を表2に示す。
 また、コイルスプリング材質について、インコネルバネおよびナイモニックバネを比較しても、圧縮復元特性、および気密性能に有意差は見られず、常温においてはほぼ同等の特性を有しているものと考えられる。
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4-2 応力緩和/気密試験結果
 応力緩和試験結果を図5に、気密試験結果を表3に示す。なお、図5においてグラフ横軸の経過時間はガスケットが200℃で安定した時点を0時間としている。
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 図5に示すようにコイルスプリング材質について有意差は見られない。また両者とも200℃×1000hの熱履歴を与えた後でも漏洩は発生しなかった。
 確かにインコネルとナイモニックを比較すると、ナイモニックの方が耐熱性に優れる材料であるが、インコネルも約700℃までの耐熱性を有した材質であり、200℃程度では両者に有意差が生じなかったものと考えられる。
 むしろ外被材料であるアルミニウムのクリープがトライパックとしての応力緩和の主たる原因であると考えられる。
 すなわち、コイルスプリング材質は十分な耐熱性を有した高ニッケル基合金であれば問題はなく、コストや入手のしやすさなどから選定すればよいと考える。
4-3 長期性能の推定
 応力緩和を検討する場合、本来ならマックスウェル緩和理論の観点から、横軸に時間、縦軸に締付力の対数をとったグラフにて整理されるべきであるが、横軸に時間の対数、縦軸に締付力として整理し、経験的に直線関係が得られることが分かっている。本稿でもその手法により長期密封性能の推定を行った。
 時間軸を対数としたグラフを図6に示す。緩和の安定した100時間以降は直線関係が成立しているものと判断し、さらに1000時間以降もこの直線関係が成立するという予測のもと、1000時間以降の締付力を推測するために、図6のプロットから最小二乗法により関数式を、インコネルバネおよびナイモニックバネそれぞれについて求めた。
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 さらに、気密限界点S1まで締付力が低下する時聞を求め、ガスケットの寿命を推定した。表4に寿命推定結果を示す。
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インコネルバネの場合
応力緩和特性からの推定式
σ=-17.07 Ln(t) + 325.8・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
気密限界点
S1 = 30 [k N/m] (表2参照)
σ= S1 (30) として時間t[h]を求めると、
t = 3.35 X 107 [h]
= 3820 [years]

ナイモニックバネの場合
応力緩和特性からの推定式
σ=-21.03 Ln(t) + 352.1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
気密限界点
S1= 30 [kN/m] (表2参照)
σ=S1(30)として時間t[h]を求めると、
t = 4.48 X 106 [h]
= 512 [years]
 この結果を見ると、一見インコネルバネの方が長寿命のように感じるが、これは時間軸を対数として外挿にて評価しているため、わずかなデータのバラツキが大きな差異として現れたものと考えられる。
 また、文献(1)にて示された断面径5.6mmのトライパック®の200℃における寿命は82年と推定されている。これは、この評価に用いられたトライパック®のコイルスプリングおよび内被がステンレス材(SUS304)であり、インコネルやナイモニックといった高ニッケル基合金に比べて耐熱性に劣る材料であるため横並びの比較はできないが、いずれにしても、冒頭に述べた貯蔵キャスクへの適用については、十分な寿命を有しているものと考えられる。

5.おわりに

 本稿では使用済燃料貯蔵キャスクへの適用を念頭に、断面径10mmのトライパック®の長期性能評価を検討した。
 その結果、従来の小断面径のものより優れた長期気密特性を有していることが確認された。しかしながら、大断面径化に伴い締付力の増加が生じ、またそれによる貯蔵キャスク側の設計変更、コストアップなどの問題が生じることが予想される。トータルバランスによる選定が必要で、あろう。
 また、コイルスプリング材としてインコネルとナイモニックとの比較評価を実施したが、両者に有意差はなく、ともに十分な性能を有しているものと判断されるため、これもコストや入手性等で選定されることが望ましい。
 最後に、本稿では推定の域を超えない部分を多く有し、また考察不足である部分も多々あったことをお詫びするとともに、今後の更なる検討を進める所存である。各位のご指導、ご鞭撻を賜れば幸いである。
<参考文献>
(1) 掘井賢二、トライパック®の長期性能評価、バル力一レビュー、35-3(1991)、7-13

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