粘弾性を考慮したOリングの変形解析

P2-1
日本バルカー工業株式会社
製品開発部 カーン・マクスド・ウッディン
製品開発部 村松 晃

1. はじめに

 半導体デバイスの微細化・高集積化に伴い、その製造工程は高温化・高出力化が進められている。半導体製造装置の密封材として使用されるシール製品には、熱および腐食ガスに対する高い耐性が求められるとともに、長期信頼性が求められている。
 これまでに当社は熱や腐食ガスに対して高い耐性を有する材料開発を行うとともに、メンテナンス性やハンドリング性の向上などのユーザーの要望を満足させる形状開発を行っている。
 しかし、実環境下での長期信頼性に対しては、簡易的な基礎評価試験での確認にとどまり、安全性の確認は実機評価に頼らざるを得ない。したがって、シール製品の密封性の長期安全性を確認する方法が確立できれば、顧客のリスクを低減でき、製品の信頼性を向上させることができる。

 シール製品の密封性を議論する際、接触面圧の変化は、代表的な支配要因であり、これは熱負荷によって大きく変化する。シール製品の熱挙動を簡易に、しかも精度よく予測する方法を確立することが、密封性の長期安全に対する信頼を得る出発点となる。
 本研究では、エラストマー材料の熱挙動の一つである応力緩和特性を有限要素解析(FEA)によって推測することを試みる。
 さらに、解析結果の妥当性を確認するため、Oリングの応力緩和試験を行い、解析結果と実験結果の比較を行う。

2. エラストマー材料の緩和特性の数式化

 エラストマー材料の応力挙動は粘性と弾性の特性を有しており、今回の検討では、この粘弾性特性から応力緩和特性を導きその数式化を行う。さらに、エラストマー材料の熱レオロジー特性を用いて、様々な測定温度での緩和弾性率から、任意温度での緩和弾性率への変換を行う方法を提案する。

2-1)エラストマー材料の粘弾性特性
 エラストマーであるシール製品は粘弾性特性を有しており、その歪の挙動は式(1)に示されるような、一般マックスウェルモデルで定義される1)
P3-1
 Er(t):緩和弾性率
 Ee,、Ei,、τi:粘弾性材用の材料定数
 さらに、エラストマー材は非圧縮大変形特性を有しており、今回検討を行うMSC Marc®2007r1 では、式(2)で定義される。
P3-2
 W(Eij):Standard Mooney-Rivlin の歪エネルギー関数
 R(t) :Prony 級数近似された緩和関数
 ここで、非線形弾性材料は以下の歪エネルギー関数で定義される。
P3-3
 C10, C01, C11, C20, C30:物性定数
 I1, I2:第一および第二不変数

 なお、今回はNeo-Hookean 材料モデルで検討を行うため、( C01, C11, C20, C30 = 0 )とした。
 したがって、緩和関数は以下のように定義される。
P3-4
 δn:無次元乗数
 λn:時間定数
2-2)エラストマー材料の熱レオロジー特性
 ポリマー材料は熱レオロジー的に単純な材料2)であり、常温で計測した応力緩和試験と、高低温度場で計測した試験結果が、ある定数(温度の関数)を時間に乗じたものと等しくなる。
 つまり、様々な温度場で得られた緩和弾性率のデータを利用して、ある任意の温度場における広い時間領域の緩和弾性率を推測できる。
 なお、温度定数は次式で定義される。
P3-5
 TR=Tg+50
 C1(=8.86)
 C2(=101.6)
 ここで、T:試験温度、Tg:グラス転移温度、C1, C2:定数、α:時間温度換算因子である。

3. 解析

 図1に解析モデルを示す。また、解析条件は表1に示す。
P3-6
P4-1
 溝と圧縮フランジは剛体壁とし、Oリングの材料物性は一軸引張試験(JIS K6251)データおよび応力緩和試験(JISK6263)データを使用する。
 緩和特性を示す緩和関数の定数δnとλnは式(4)から、また、時間依存性を示す定数を式(5)から求めて、Oリングの圧縮後の応力緩和挙動を計算する。
 解析手順を下記に示す。
 1.Oリングを溝に装着する。
 2.Oリングを解析条件に示す温度まで昇温する。
 3.上部圧縮フランジによりOリングを圧縮する。ここで、上部圧縮フランジの移動速度は0.02㎜/secとする。このとき、Oリングから上部圧縮フランジに作用する力をOリング反力として算出する。

4. 試験

 解析結果の妥当性を確認するため、解析の再現試験を行い、解析結果と比較を行う。
 図2にOリングの応力緩和試験装置概略図を示す。試験条件を表2に示す。
 試験手順は解析手順と同様に行い、Oリングから上部圧縮フランジに作用する力をロードセルにより、Oリング反力として検出する。
 解析、および試験は基本物性の異なる3種のふっ素ゴムで実施した。
P4-2
P4-3

5. 結果

 Oリングが圧縮され急激に反力が上昇した後、応力緩和が発生して反力が低下していく。このとき、反力の低下は時間とともに緩やかになる。今回の検討ではその緩和の傾向が実験結果と解析結果で非常によく一致していた。
 また、1 時間後の応力緩和率は次式として算出し、結果一覧を表3に示す。
 応力緩和(%)=(Oリング圧縮直後の反力― 1 時間後の反力)/ Oリング圧縮直後の反力 (6)
 FKM_A のOリング 25℃で解析結果では20%、実験結果では13%、100℃では解析結果が14%、実験結果が17%であった。
 FKM_B のOリング 25℃で解析結果では25%、実験結果では22%、100℃では解析結果が17%、実験結果が12%であった。
 FKM_C のOリング 25℃で解析結果では34%、実験結果では21%、100℃では解析結果が16%、実験結果が12%であった。
 今回の結果から、25℃の解析結果の応力緩和率と実験結果では約8%の違いがあり、100℃では約4%の違いとなっ た。
 解析結果と実験結果は非常によく一致しており、解析結果の妥当性が確認された。したがって、本検討方法によりOリングの応力緩和特性を予測することが可能と思われる。
P4-4
P5-1

6. まとめ

 今回、エラストマー材料の粘弾性特性を数式化し、さらに緩和弾性率の時間温度依存性を考慮して、Oリングの応力緩和率を有限要素解析により予測する方法を提案した。今後はOリングの圧縮永久歪を含めた熱挙動をFEAにより推測する方法を確立し、シール製品の寿命を予測する技術の獲得を目指す。
 さらに、今回はOリングのみ検討を行ったが、当社には異形シールが数多く上市されており、特に異種材料の組み合せにより耐ラジカル特性を大幅に向上させた製品開発も進めている。今後はこのような異形シールや異種材料の組み合せ製品への適用も行っていきたい。

7. 参考文献

1)John j. Aklonis and William J. Macnight,Introduction to Polymer Visco-Elasticity SecondEdition.
2)Volume C: Program Input, Marc® 2007r1

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