シート状合成ゼオライト系吸着剤の開発

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研究開発部 メンブレン開発グループ
吉澤  昌一
中出 賢志郎
佐藤   大

1. はじめに

 現在、吸着剤として多用されているものとしては、例えば活性炭、シリカゲル、合成ゼオライト系吸着剤などが挙げられる。活性炭は、脱臭や廃水処理用途、シリカゲルは食品などの吸湿用途、合成ゼオライト系吸着剤は特殊な吸湿用途や洗剤ビルダーなどに使用されていることはよく知られている。
 これらの活性炭やシリカゲルは、その特性上、幅広い物質の吸着が可能であることから、様々な吸着用途で活用されている。しかし、特定の分子だけを選択的に吸着することが難しい上、低濃度下や高温環境下における吸着能力の著しい低下が大きな弱点となっている。
 一方、合成ゼオライト系吸着剤は、均一で分子レベルの細孔径を持つことから、特定の分子の選択吸着や、低濃度下、高温環境下での吸着性能に優れる特徴を有してい る1)2)。ただ、これらの合成ゼオライト系吸着剤は、一般的に粉もしくはペレット状などで供給されるため、使用する上で制限が生じている。
 そのような中、ポリオレフィン系樹脂をバインダーとしたフィルム状のものや、紙状のものが提案されているが、バインダーの熱変形温度などの耐熱性が低く、加熱再生が出来ないばかりか、ゼオライト含有率も低く抑えざるを得ない製法となっており、これらの改善が強く望まれていた。そこで、当社において、200℃以上の加熱再生や、80wt%以上の高含有率、更には後加工などの取り扱いに優れ、ソフトな風合いを有するシート状合成ゼオライト系吸着剤の開発に成功したので詳細を以下に報告する。

2. 合成ゼオライト系吸着剤とは

 合成ゼオライト系吸着剤は、その名の通りゼオライトの一種であり、合成結晶アルミノ・シリケートの含水金属塩で出来ていることが大きな特徴と言える。この金属塩が持つ結晶水を脱離させることで、結晶水が取り除かれた個所に空洞(細孔)が残り、この細孔に分子が吸着される1)2)。また、結晶構造と金属カチオンの大きさによって、細孔径を均一にするこ とが出来るため、分子レベルで選択的な吸着を可能とす る1)2)。例えば、水は吸着するがエタノールは吸着しない、などの用い方が可能となる。この合成ゼオライト系吸着剤の最大の特徴は、細孔サイズを変えられることと、200℃以上の加熱で吸着物質の脱離再生が可能になることである。
 今回開発したシート状合成ゼオライト系吸着剤が、これらの様々な独自の利点を損なうことなく、所望のシートとなっているかどうかを確認するために、各種評価を行った。

3. サンプル種類と各種試験方法

 各種試験は、Table1、Table2に基づき行った。
P7-1
P7-2

4. 吸着特性

4-1)吸着試験(シート状合成ゼオライト系吸着剤と粉末状との比較)
 まず、シート状合成ゼオライト系吸着剤が、原料となる合成ゼオライト粉末と同等の吸着性能を有しているかどうかの確認を行った。
①試験方法
 サンプルA及び合成ゼオライト粉末を用いて吸着試験を行った。
P7-3
②実験結果及び考察
 結果をFigure2に示す。縦軸は,含有されている合成ゼオライト粉末の飽和吸水量に対する吸水比率を表している。この結果から、シート状合成ゼオライト系吸着剤は、原料粉末より飽和吸水量に達する速度が若干遅いものの、最終飽和吸水量は同等であることがわかる。このことから、原料粉末の吸着特性をほぼ維持出来ていることがわかった。
P8-1
 参考までに、現在市販されているポリオレフィン系樹脂をバインダーとしたフィルム状の原料ペレットのSEM 写真をFigure3に示す。これに比べてシート状合成ゼオライト系 吸着剤は、Figure4に示すように、粉と粉をPTFEの繊維(フィブリル)で絡めたシートになっているため、粉の表面を樹脂が被い細孔を塞ぐことなく、微細な空隙を有した構造 を作り出していることから、粉の吸着特性が維持されたままシート化出来ていると考えられる。
P8-2
P8-3
 このように水の吸着に関しては、原料の粉と同等の吸着性 能の結 果 が 得られた。そこで次にVOC(VolatileOrganic Compounds)の代表的な物質であるホルムアルデヒドの吸着特性を見ることにした。
4-2)吸着特性試験━ホルムアルデヒドの吸着特性
①試験方法
 サンプルB及びサンプルCを用いてホルムアルデヒド吸着試験を行った。
②実験結果及び考察
 結果をFigure5に示す。
P8-4
 この結果から、シート状合成ゼオライト系吸着剤の方が活性炭シートに比べてホルムアルデヒドの吸着速度が速いことがわかった。
 これらの吸着試験結果から、いずれも合成ゼオライト系吸着剤自体が有する良好な吸着能を維持出来ているシートであることがわかったため、次にシート状合成ゼオライト 系吸着剤の加熱再生の可能性(耐熱性)、過酷環境下での想定用途として耐薬品性の各試験を行った。

5. その他の特性

5-1)耐熱性 一般的に、吸水飽和した合成ゼオライト系吸着剤の含水率を5%以下に戻すためには、200℃以上の加熱が必要と言われている。そこで、「200℃加熱─吸着」のサイクルを5回行い、その後の飽和吸水量、引張強さ、試験片の寸法変化の確認を行った。

 ①実験方法
  サンプルAを用いて耐熱性試験を行い、
  吸着試験、寸法変化の測定を行った。
  また、引張試験はダンベル片に打ち抜
  いた試験片を用いた。
 ②実験結果及び考察
  結果をFigure6に示す。
P9-1
 これらの結果から、「200℃加熱─吸着」を5サイクル繰り返した後でも試験前の吸着量を維持している上、引張強さや寸法にも変化が無いことがわかった。よって、これらの結果からシート状合成ゼオライト系吸着剤の加熱再生は十分可能と考えられる。
 これは、耐熱性の高い合成ゼオライト系吸着剤とPTFEのみしか含まれていないため、200℃程度の熱履歴には問題無いためと考えられる。
 これまでは、水もしくはガスの吸着を前提とした各種特性を調べてきたが、合成ゼオライト系吸着剤は有機溶剤や酸などの液中における脱水目的などでも利用されている。そこで、シート状合成ゼオライト系吸着剤が、これらの溶剤や薬品にどの程度耐えられるかを調べた。
5-2) 耐薬品性
5-2-1) 耐有機溶剤性
 試験用有機溶剤として、無極性溶媒(ヘキサン)、非プロトン性極性溶媒(アセトン)、プロトン性極性溶媒(エタノール)の3種類を選定し、シート状合成ゼオライト系吸着剤を170時間浸漬させ、その後の各種特性の確認を行った。

①実験方法
 サンプルAを用いて耐有機溶剤性試験を行い、水の吸着試験、寸法変化の測定を行った。
 また、引張試験はマイクロダンベル片に打ち抜いた試験片を用いた。
②実験結果及び考察
 結果をFigure7に示す。この結果から、代表的な有機溶剤に浸漬しても、各種初期特性を損なうことなく、シート状合成ゼオライト系吸着剤としての性能を維持出来ていることがわかった。
 そこで、次に強酸性下における試験を行った。
P9-2
5-2-2)耐強酸性
 現在使用されているペレット状の合成ゼオライト系吸着剤の中には、強酸に弱く、使用に耐えないものが多いと言われている1)
 そこで、シート状合成ゼオライト系吸着剤が強酸に対してどれぐらいの耐性を示すかを調べた。
①実験方法
 サンプルBおよび合成ゼオライトペレットを用いて耐酸性試験を行い、目視による外観観察、
 及び引張試験によって、耐酸性を評価した。
②実験結果及び考察結果をFigure8〜Figure10に示す。
P9-3
P10-1
 これらの結果からわかる通り、ペレットは形状を保てず粉化したのに対し、シート状合成ゼオライト系吸着剤は形状を維持、更に引張り強さも変化がないことがわかった。
 ペレット状の合成ゼオライト系吸着剤が崩壊した理由は、ペレット状に成形する際に使用されているバインダーが、強酸性液体に耐えられなかったためと考えられる。一 方シート状合成ゼオライト系吸着剤のバインダーは、樹脂の中でも特に耐酸性に優れるPTFEを使用しているため、形状及び引張強さに変化がなかったためと考えられる。
 これらの結果から、強酸性溶液に対して、シート状合成ゼオライト系吸着剤は既存のペレット品よりも耐酸性に優れていることから、この特徴を生かし、強酸液中の水分や不純物の除去などに活用出来ると考えられる。

6. 想定される用途展開

①吸水(吸湿)用途
 ・化学プラント、梱包材、光学機器向け除湿用途など
② VOC 吸着用途
 ・精密部品のガス吸着、排ガス処理用途など
③その他特殊用途
 ・強酸液中における脱水用途など

7. おわりに

今回開発したシート状合成ゼオライト系吸着剤は下記の特性を有することが明らかになった。

 ① 原料となる合成ゼオライト粉末単体と同等の吸着性能を有する
 ② 合成ゼオライト系吸着剤80%含有率のシート化が可能
 ③ 200℃以上での再生利用が可能
 ④ 耐有機溶剤特性に優れる
 ⑤ 耐酸特性に優れる
 ⑥ 形状の自由度、サイズ加工が容易
 ⑦ 他の膜との多層化が可能
 ⑧ 合成ゼオライト系吸着剤の種類を変えることで、様々な吸着用途への展開が可能

8. 参考文献

1) 竹内雍 , 望月和博 :吸着剤とその応用─その性質と利用法―, 分離技術会( 2011)
2) 近藤精一, 石川達雄, 安部郁夫 : 吸着の科学, 丸善株式会社(2003)

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